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悪い男
後、悪縁
しおりを挟む今日も遠くに綺麗な海を眺めながら、呑気に思えるほどゆったりした時間の中で庸介はサンドイッチに具を詰めている。店主である譽は出来上がったサンドイッチをせっせとラッピングしていた。
「庸介は、動物とか飼った事ある?」
譽が唐突に話を持ち込んできた。記憶を思い返してみる。
「俺は、飼ったことがない。アイツは犬を飼っていた」
アイツ、とは譽との間で通称している「兄」の事だった。庸介の「兄」は譽の「父親」でもある。
「あー、それっぽい。俺、犬が一番嫌だ。まとわりついてきてあざとくて無理」
亡くなった父自身をディスるようにして譽は言う。そして悪戯な笑みを浮かべて、庸介と示し合わせのアイコンタクトをはかってくる。これも慣れたもので、庸介は、苦笑してあしらう。
「俺も犬は嫌いだった」
賛同する庸介に満足したのか、譽は手を止めて休憩の合図に冷蔵庫から珈琲を出してくる。
「俺ね、結構早くから自分が変かもしれないって気付いてた」
ワゴンを降りてすぐ傍らの折り畳みのベンチに並んで腰掛ける。観光客が海辺ではしゃぐのを目で追いながら、庸介は日除けのパラソルを引き寄せた。
「小学校の飼育小屋でウサギ飼ってて、それが死んだ時皆アホみたいに号泣しててさ…そん時俺は全然何も感じなくて、何でコイツら泣いてんだろって本気で分かんなかった」
冷えたコーヒーは甘ったるくて、庸介は冷たさで流し込んでいく。譽の言う時代や幼い譽を想像するのに容易いことに少し噴き出してしまった。
「ウサギなんて普段遊び半分に扱って大して世話なんかしてなかったんだから、そのうち死ぬのなんか分かりきってんのに何が悲しいんだろうなって。そう言ったら先生に怒られてさ、マジ理解不能だった」
庸介は妙に納得できた。その場に自分が居たのなら、同じような思考で冷めていたかもしれない。実際兄の犬が死んだ時、庸介は泣けなかった。確かに家族として庸介にも懐いていたように思う。いくらか世話も手伝った。犬が老いて患い力尽きた時、庸介は無事に魂が解放された事に安堵したに過ぎなかった。悲しいという感情は沸かなかった。泣いて落ち込む兄を見て、不思議に思っていた。
「確かに、理解不能だな。死んで楽になっただけだ」
「だよな」
空になったボトルを譽も庸介も握り潰す。
「十分可愛がってれば死んでも泣く事もなかったんじゃない?」
ベンチから立ち上がりながら譽は呟いた。ワゴンのすぐ上に浮かぶウミネコが鳴く。
「そんでも泣くから意味不明なんだろ」
後に続いた庸介が応えた。
After
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