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はじまりの温度
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ーーコップを差し出したとき、彼の手がふと触れた。
ーー私の指先よりも、わずかに冷たかった。
「ありがとう」
彼の声はいつものようにまっすぐで、でも、どこか寝起きみたいにぼんやりしていた。
温かいはずのお茶を受け取るその指が、ひどく冷えていたのが気になった。
「…ぬるくなっちゃったかも」
「大丈夫。熱いより好き」
それだけで終わる会話だった。
でも私は、テーブルに置かれたもうひとつの湯のみを見た。
私の湯のみからは、まだ湯気がのぼっている。少しずつ、天井のほうへ。
どちらの温度が正しいのか。
いや、正しいとかじゃなくて、ただ——合っていないだけなのだと思った。
言うほどのことじゃない。
でも、言わなかったことで、何かが確かに残った。
ソファの背にもたれた彼は、あくびをひとつ。
私はカーテンの隙間から差し込む光を見て、まばたきをした。
そのまばたきのあいだに、彼は湯のみを手に取り、またテーブルに戻した。
私も、まばたきを返すように目を閉じ、同じように湯のみを持ち上げた。
どちらの温度も、まちがってはいない。
ただ、同じでなかったというだけ。
ーー私の指先よりも、わずかに冷たかった。
「ありがとう」
彼の声はいつものようにまっすぐで、でも、どこか寝起きみたいにぼんやりしていた。
温かいはずのお茶を受け取るその指が、ひどく冷えていたのが気になった。
「…ぬるくなっちゃったかも」
「大丈夫。熱いより好き」
それだけで終わる会話だった。
でも私は、テーブルに置かれたもうひとつの湯のみを見た。
私の湯のみからは、まだ湯気がのぼっている。少しずつ、天井のほうへ。
どちらの温度が正しいのか。
いや、正しいとかじゃなくて、ただ——合っていないだけなのだと思った。
言うほどのことじゃない。
でも、言わなかったことで、何かが確かに残った。
ソファの背にもたれた彼は、あくびをひとつ。
私はカーテンの隙間から差し込む光を見て、まばたきをした。
そのまばたきのあいだに、彼は湯のみを手に取り、またテーブルに戻した。
私も、まばたきを返すように目を閉じ、同じように湯のみを持ち上げた。
どちらの温度も、まちがってはいない。
ただ、同じでなかったというだけ。
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