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否定は死を意味する
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「できない言い訳をしている暇があるのなら、やる方法を考えなさい。いいですか?」
わたくしは百年の隆盛を誇る大国の女王。
年端もいかぬ女でありながら、最高権力者です。
しょうもない言いぶんで出兵をしぶる将軍を、遥か頭上の玉座から見下ろしています。
「しかし、女王様――」
「わたくしに対して否定の言葉は許しません」
わたくしは流行り病で父母を亡くし、13歳という若さで女王となりました。
誰もが、大国の滅亡を予感したことでしょう。
でもわたくしは、この知性と権力を存分に活かし、ほんの数年で国土をさらに倍近くまで拡大することに成功しました。
誰ひとり、逆らうことはかないません。
「承知しました。コウテイ陛下」
「……それはエンペラーの皇帝ですか? それとも、ポジティブの肯定?」
「もちろんエンペラーです。女王様のことを称え、みながそう呼んでおりますので」
へらへらと揉み手をする将軍に、わたくしは言い放ちます。
「ではお前は、耳を削いだのち、首を落とします」
「そ、そんな!」
肯定陛下。
そのようなふざけた呼び名が、しもじものあいだで使われていることは聞きおよんでいます。
肯定しか許さないことを揶揄した呼び名です。
「わたくしでも知っている陰口に気づいていないのであれば、そのような耳は来世でも不要でしょう」
「……もし、ポジティブの肯定だと答えていれば?」
「そのときは、無礼な舌を削いでから、首を落としたまでです」
だらりとこうべを垂れた将軍を、兵士たちが処刑場へと引っ張っていきました。
と、そこへ――
「何やら愉快なことをなさってますね? 女王よ」
「おお、わたくしの愛しい婚約者様ではないか」
入れ替わりで入ってきたのは、隣国の王子。
彼は先月、わたくしと婚約したばかりです。
もちろん婚約は、政略的なもの。
わたくしが考える周辺国の統治には、隣国との同盟が必要不可欠なのです。
同盟と言うと対等に聞こえますが、実際は国境に軍隊を配備し、脅して結ばせました。
わたくしからの書簡には、
「国ごと愛しています。あなたが手に入らないなら国だけでも欲しいくらい」
とつづりました。
逆プロポーズとでも言うのでしょうか。
なんともロマンチックな外交文書ではありませんこと?
そんな、奴隷にも等しい婚約者様が、わたくしを突然訪ねてきました。
いったい何ごとでしょう。
玉座のわたくしを見上げ、彼が言います。
「今日はあなたに、婚約破棄を告げにまいりました」
「……今、なんと?」
「婚約破棄。婚約を、取りやめるのです」
わたくしは、あまりのことに怒りすら忘れていました。
何を言いだしたのか、その真意を問います。
「国を滅ぼしてほしいのですか?」
「いえいえ、それは困ります」
「しかし、わたくしは――」
不意に、自分の背後に気配を感じました。
ガシャガシャと、複数の鎧が鳴る音。
20人以上の兵士が、わたくしをぐるりと包囲しました。
「抵抗しないでいただきたい」
奥から現れたのは、先ほどの将軍。
処刑場に行ったはずでは……?
「あなた、何をしているのですか?」
「いえ、どうも女王様はプライドが高すぎるようですので、お手伝いしたいと思いましてな」
「……何です?」
さらに問おうとするわたくしは、兵士たちに剣を突きつけられ、なすすべもなく捕縛されました。
隣国の王子もいつのまにかそばに立っています。
「女王、あなたはすこし高慢にすぎました。いかに国土を広げようが、反乱分子がこれほど多いと手に負えるはずもないでしょう」
「くっ……どう、するの?」
「将軍どのが教えてくださいますよ」
わたくしが兵士のあいだから将軍を見ると、彼はにやにやと笑みを浮かべて、
「そのプライドは来世には不要でしょうな。衣服を剥ぎとり、血気盛んな連中に身体を預けてプライドを削いでから、首を落として差し上げましょう」
わたくしは婚約破棄されました。
婚約者を失うと同時に、プライドと命をも失うことになるようです。
わたくしは百年の隆盛を誇る大国の女王。
年端もいかぬ女でありながら、最高権力者です。
しょうもない言いぶんで出兵をしぶる将軍を、遥か頭上の玉座から見下ろしています。
「しかし、女王様――」
「わたくしに対して否定の言葉は許しません」
わたくしは流行り病で父母を亡くし、13歳という若さで女王となりました。
誰もが、大国の滅亡を予感したことでしょう。
でもわたくしは、この知性と権力を存分に活かし、ほんの数年で国土をさらに倍近くまで拡大することに成功しました。
誰ひとり、逆らうことはかないません。
「承知しました。コウテイ陛下」
「……それはエンペラーの皇帝ですか? それとも、ポジティブの肯定?」
「もちろんエンペラーです。女王様のことを称え、みながそう呼んでおりますので」
へらへらと揉み手をする将軍に、わたくしは言い放ちます。
「ではお前は、耳を削いだのち、首を落とします」
「そ、そんな!」
肯定陛下。
そのようなふざけた呼び名が、しもじものあいだで使われていることは聞きおよんでいます。
肯定しか許さないことを揶揄した呼び名です。
「わたくしでも知っている陰口に気づいていないのであれば、そのような耳は来世でも不要でしょう」
「……もし、ポジティブの肯定だと答えていれば?」
「そのときは、無礼な舌を削いでから、首を落としたまでです」
だらりとこうべを垂れた将軍を、兵士たちが処刑場へと引っ張っていきました。
と、そこへ――
「何やら愉快なことをなさってますね? 女王よ」
「おお、わたくしの愛しい婚約者様ではないか」
入れ替わりで入ってきたのは、隣国の王子。
彼は先月、わたくしと婚約したばかりです。
もちろん婚約は、政略的なもの。
わたくしが考える周辺国の統治には、隣国との同盟が必要不可欠なのです。
同盟と言うと対等に聞こえますが、実際は国境に軍隊を配備し、脅して結ばせました。
わたくしからの書簡には、
「国ごと愛しています。あなたが手に入らないなら国だけでも欲しいくらい」
とつづりました。
逆プロポーズとでも言うのでしょうか。
なんともロマンチックな外交文書ではありませんこと?
そんな、奴隷にも等しい婚約者様が、わたくしを突然訪ねてきました。
いったい何ごとでしょう。
玉座のわたくしを見上げ、彼が言います。
「今日はあなたに、婚約破棄を告げにまいりました」
「……今、なんと?」
「婚約破棄。婚約を、取りやめるのです」
わたくしは、あまりのことに怒りすら忘れていました。
何を言いだしたのか、その真意を問います。
「国を滅ぼしてほしいのですか?」
「いえいえ、それは困ります」
「しかし、わたくしは――」
不意に、自分の背後に気配を感じました。
ガシャガシャと、複数の鎧が鳴る音。
20人以上の兵士が、わたくしをぐるりと包囲しました。
「抵抗しないでいただきたい」
奥から現れたのは、先ほどの将軍。
処刑場に行ったはずでは……?
「あなた、何をしているのですか?」
「いえ、どうも女王様はプライドが高すぎるようですので、お手伝いしたいと思いましてな」
「……何です?」
さらに問おうとするわたくしは、兵士たちに剣を突きつけられ、なすすべもなく捕縛されました。
隣国の王子もいつのまにかそばに立っています。
「女王、あなたはすこし高慢にすぎました。いかに国土を広げようが、反乱分子がこれほど多いと手に負えるはずもないでしょう」
「くっ……どう、するの?」
「将軍どのが教えてくださいますよ」
わたくしが兵士のあいだから将軍を見ると、彼はにやにやと笑みを浮かべて、
「そのプライドは来世には不要でしょうな。衣服を剥ぎとり、血気盛んな連中に身体を預けてプライドを削いでから、首を落として差し上げましょう」
わたくしは婚約破棄されました。
婚約者を失うと同時に、プライドと命をも失うことになるようです。
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