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新生活!
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「いつまで段ボールに囲まれてるの? 早く荷解きしちゃってね」
「ああ……」
今日は、引っ越し先の新しい部屋に荷物が届きました。
婚約者の彼との、念願のふたり暮らし。
憧れの同棲生活です。
わたしは実家住まいだったこともあり、たいした荷物もありません。
話しあって決めたわたしの部屋で、すでにほとんどの荷物を解き終えています。
でも、彼はーー
「これ、このままでもいいかなあ……」
まだ大量の段ボール箱に囲まれています。
ひとつだけ開けた箱から雑誌を取りだして、ぱらぱら。
完全に手が止まっています。
「このままって、このまま箱に囲まれて暮らすわけ?」
「うーん、だってほら、箱に入れておくのも本棚に並べるのも変わらないっていうか」
「面倒くさがってるだけじゃない」
彼は本ーーというか漫画本を大量に持っています。
聞いたことのある作品から、まったく知らないものまで、何百冊……下手したら千冊を超えているかもしれません。
読み終わった本をすぐに手放すわたしからすれば信じられないことですが、趣味は人それぞれです。
彼と付き合う以上、この本の山とも付き合っていく覚悟を決めています。
「ほら、やらないならわたしが並べちゃうからね?」
「待って待って」
わたしが開けようとすると慌てて立ち上がってきました。
「並べるならちゃんと並べたい。作者の五十音順だと買うたびにいちいち大変だから、レーベルごとかなあ」
「よくわからないけど、とにかくさっさとやってね」
「うーん……」
また黙考を始めました。
呆れて見ていると、そのうちに彼は、
「これ、箱に入れるのも大変だったんだよ。次に引っ越すときのこと想像するともう出したくない」
「は? 次って、いつよ?」
今日から新生活というときに、次の話は早すぎるでしょう。
何年も箱に入れたままでは、カビが生えるかもしれません。
わたしはすこし腹を立てて続けます。
「結婚して子どもができたらもっと広いところに引っ越すかもしれないけど、それって何年後? そんなに何年も読まないなら売るなり捨てるなり考えてもいいんじゃない?」
「いや、ほら、別れるかもしれないし」
「え?」
わたしは耳を疑いました。
別れる?
今まで、喧嘩はたまにありましたが、そこまでの話になったことは一度もありません。
このまますんなり結婚するものだと思っていました。
「この本を出してすぐに喧嘩して、それで婚約破棄ってことになったら本気で面倒だと思う。想像しただけでうんざりするよ」
「……婚約破棄したいの?」
「いや今は全然だけど。人の心はどうなるかわからないし」
「あ、そう」
わたしは彼の部屋を出て、キッチンなど、自分の部屋以外の荷物を開けることにしました。
たしかに人の心はどうなるかわかりません。
さっきまでわたしにあった新生活へのときめきも、すっかりしぼんでいます。
これから彼の部屋の段ボール箱を毎日眺めるたびに、結婚への気持ちは小さくなってゆくことでしょう。
「そうなっても、わたしは大丈夫」
だってもともと荷物が少ないから。
準備の整いぐあいなら、こっちのほうが上です。
「ああ……」
今日は、引っ越し先の新しい部屋に荷物が届きました。
婚約者の彼との、念願のふたり暮らし。
憧れの同棲生活です。
わたしは実家住まいだったこともあり、たいした荷物もありません。
話しあって決めたわたしの部屋で、すでにほとんどの荷物を解き終えています。
でも、彼はーー
「これ、このままでもいいかなあ……」
まだ大量の段ボール箱に囲まれています。
ひとつだけ開けた箱から雑誌を取りだして、ぱらぱら。
完全に手が止まっています。
「このままって、このまま箱に囲まれて暮らすわけ?」
「うーん、だってほら、箱に入れておくのも本棚に並べるのも変わらないっていうか」
「面倒くさがってるだけじゃない」
彼は本ーーというか漫画本を大量に持っています。
聞いたことのある作品から、まったく知らないものまで、何百冊……下手したら千冊を超えているかもしれません。
読み終わった本をすぐに手放すわたしからすれば信じられないことですが、趣味は人それぞれです。
彼と付き合う以上、この本の山とも付き合っていく覚悟を決めています。
「ほら、やらないならわたしが並べちゃうからね?」
「待って待って」
わたしが開けようとすると慌てて立ち上がってきました。
「並べるならちゃんと並べたい。作者の五十音順だと買うたびにいちいち大変だから、レーベルごとかなあ」
「よくわからないけど、とにかくさっさとやってね」
「うーん……」
また黙考を始めました。
呆れて見ていると、そのうちに彼は、
「これ、箱に入れるのも大変だったんだよ。次に引っ越すときのこと想像するともう出したくない」
「は? 次って、いつよ?」
今日から新生活というときに、次の話は早すぎるでしょう。
何年も箱に入れたままでは、カビが生えるかもしれません。
わたしはすこし腹を立てて続けます。
「結婚して子どもができたらもっと広いところに引っ越すかもしれないけど、それって何年後? そんなに何年も読まないなら売るなり捨てるなり考えてもいいんじゃない?」
「いや、ほら、別れるかもしれないし」
「え?」
わたしは耳を疑いました。
別れる?
今まで、喧嘩はたまにありましたが、そこまでの話になったことは一度もありません。
このまますんなり結婚するものだと思っていました。
「この本を出してすぐに喧嘩して、それで婚約破棄ってことになったら本気で面倒だと思う。想像しただけでうんざりするよ」
「……婚約破棄したいの?」
「いや今は全然だけど。人の心はどうなるかわからないし」
「あ、そう」
わたしは彼の部屋を出て、キッチンなど、自分の部屋以外の荷物を開けることにしました。
たしかに人の心はどうなるかわかりません。
さっきまでわたしにあった新生活へのときめきも、すっかりしぼんでいます。
これから彼の部屋の段ボール箱を毎日眺めるたびに、結婚への気持ちは小さくなってゆくことでしょう。
「そうなっても、わたしは大丈夫」
だってもともと荷物が少ないから。
準備の整いぐあいなら、こっちのほうが上です。
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