1 / 1
ふらふらしないで
しおりを挟む
「ちょっとご飯食べてくる」
「え、待って。なんで外食するの?」
わたしの問いで振り向いた彼の顔には、特大の疑問符が張りついていました。
「なんでって、お腹空いたからだけど」
「わたし作るよ? すこし早いけど夕飯にすればいいから」
「うーん、それでいいのかなあ……」
いいって何。
彼とわたしは同棲しています。
結婚の約束という意味では、婚約だってしているはずです。
そりゃあ、出会いはちょっと特殊だったけど……。
わたしは不安になって、彼に訊きました。
「一応確認するけど、『ご飯食べてくる』って、どこで食べるつもりだったの?」
「え、いや、普通。駅前を歩いて、おごってくれそうな女がいたら頼んで――」
「それナンパって言うんだからね?」
やっぱり、まだやってたんだ。
わたしは頭を抱えました。
わたしとの出会いも、それでした。
ナンパっぽくなくナンパをする天才なんだと思います。
本当に下心がないのだから当然です。
彼は、ご飯を食べるのが目的なのですから。
彼は、例えるなら野良猫。
単発のバイトをやったりはするみたいだけど、ローコスト生活が基本です。
わたしがここに住まわせるまでは、誰も住まないようなボロアパートの一室で暮らしていました。
格安の家賃と水道代だけ払えればそれでOKという感覚なのでしょう。
電気・ガスはとっくに止められていたし、スマホなどの通信機器は一切持ちません。
で、食事はどこかで食べる。
すごくおいしそうに食べる彼は結構評判で、ほぼ確実に誰かはおごってくれます。
イケメンが野良猫みたいに何でも喜んで食べるのだから、逆に彼を見つけると声をかけたりする女性もいるほどです。
彼に下心はないけど――
「えっとさ、その……『お礼』を求められたら、どうするの?」
「だから普通だって。お礼は言われたらする」
「それ浮気!」
もう、最悪……。
わたしという婚約者がありながら、彼は何も変わってくれません。
わたしといれば、寝るにも食べるにも困ることはないというのに。
「あなたにとって女性って何なの?」
真剣に問いかけるわたしに、彼は、
「飯づる」
とひと言だけ答えました。
金づるという言葉の、食事版ということだと思います。
「わたしも飯づるのひとりにすぎないわけ?」
「あ、部屋づる。今はちょっと特別だな」
「特別……」
何を喜んでいるんでしょうか、わたしは。
野良猫のような彼――ノラ彼氏の特別になれたのなら、それはそれで嬉しいことだとは思います。
でも、いくらイケメンでも、『お礼』が最高でも、婚約相手には適さなかったと後悔しました。
「飯づるが減ると不安なんだよね。婚約破棄されたら新しい部屋づるも必要だし。だからやっぱ行ってくる」
「……」
わたしは黙って見送りました。
婚約破棄しないとは言い切れないし……。
ああ、でも、特別って言われたのはやっぱり嬉しいかも。
だって彼は、ノラ彼氏なのですから。
「え、待って。なんで外食するの?」
わたしの問いで振り向いた彼の顔には、特大の疑問符が張りついていました。
「なんでって、お腹空いたからだけど」
「わたし作るよ? すこし早いけど夕飯にすればいいから」
「うーん、それでいいのかなあ……」
いいって何。
彼とわたしは同棲しています。
結婚の約束という意味では、婚約だってしているはずです。
そりゃあ、出会いはちょっと特殊だったけど……。
わたしは不安になって、彼に訊きました。
「一応確認するけど、『ご飯食べてくる』って、どこで食べるつもりだったの?」
「え、いや、普通。駅前を歩いて、おごってくれそうな女がいたら頼んで――」
「それナンパって言うんだからね?」
やっぱり、まだやってたんだ。
わたしは頭を抱えました。
わたしとの出会いも、それでした。
ナンパっぽくなくナンパをする天才なんだと思います。
本当に下心がないのだから当然です。
彼は、ご飯を食べるのが目的なのですから。
彼は、例えるなら野良猫。
単発のバイトをやったりはするみたいだけど、ローコスト生活が基本です。
わたしがここに住まわせるまでは、誰も住まないようなボロアパートの一室で暮らしていました。
格安の家賃と水道代だけ払えればそれでOKという感覚なのでしょう。
電気・ガスはとっくに止められていたし、スマホなどの通信機器は一切持ちません。
で、食事はどこかで食べる。
すごくおいしそうに食べる彼は結構評判で、ほぼ確実に誰かはおごってくれます。
イケメンが野良猫みたいに何でも喜んで食べるのだから、逆に彼を見つけると声をかけたりする女性もいるほどです。
彼に下心はないけど――
「えっとさ、その……『お礼』を求められたら、どうするの?」
「だから普通だって。お礼は言われたらする」
「それ浮気!」
もう、最悪……。
わたしという婚約者がありながら、彼は何も変わってくれません。
わたしといれば、寝るにも食べるにも困ることはないというのに。
「あなたにとって女性って何なの?」
真剣に問いかけるわたしに、彼は、
「飯づる」
とひと言だけ答えました。
金づるという言葉の、食事版ということだと思います。
「わたしも飯づるのひとりにすぎないわけ?」
「あ、部屋づる。今はちょっと特別だな」
「特別……」
何を喜んでいるんでしょうか、わたしは。
野良猫のような彼――ノラ彼氏の特別になれたのなら、それはそれで嬉しいことだとは思います。
でも、いくらイケメンでも、『お礼』が最高でも、婚約相手には適さなかったと後悔しました。
「飯づるが減ると不安なんだよね。婚約破棄されたら新しい部屋づるも必要だし。だからやっぱ行ってくる」
「……」
わたしは黙って見送りました。
婚約破棄しないとは言い切れないし……。
ああ、でも、特別って言われたのはやっぱり嬉しいかも。
だって彼は、ノラ彼氏なのですから。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~
銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。
自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。
そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。
テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。
その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!?
はたして、物語の結末は――?
貴方の幸せの為ならば
缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。
いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。
後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】「別れようって言っただけなのに。」そう言われましてももう遅いですよ。
まりぃべる
恋愛
「俺たちもう終わりだ。別れよう。」
そう言われたので、その通りにしたまでですが何か?
自分の言葉には、責任を持たなければいけませんわよ。
☆★
感想を下さった方ありがとうございますm(__)m
とても、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる