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愛のために
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「この賃金格差はどこから来ているのですか?」
「推薦者のお家柄です」
「つまりコネね? そういうものは不要です。すぐに是正しましょう。能力の査定方法を一時間で考えます。耳は空いているので次の案件をお願い」
「はい。町のごみ問題ですが――」
わたくしは侍従長の話を聞きながら、頭の片隅で考えていました。
――時間が足りなさすぎる。
わたくしが婚約破棄されるお披露目パーティまで、あと数時間しか残されていません。
婚約してから二週間という時間があったのに、あまりにこの国には問題が多すぎました。
「おい、もうそのくらいにしたらどうだ? 婚約者風情が出しゃばるにもほどがあるだろう」
「ごめんなさいね、今、仕事のお話をしている最中なの。侍従長、続けてちょうだい」
「ちっ……」
婚約者風情。
わたくしにそう言った彼こそが、わたくしを婚約者として選んだ若き国王です。
彼に、わたくしと結婚するつもりがないことは最初からわかっていました。
狙いはわたくしの家にある財産です。
彼は、いわゆる放蕩息子でした。
あちこちに女を作って、借金を作って、やりたい放題。
そんな彼が前国王の死去にともない、若くして国王となったのです。
国は荒れ、国庫のお金はあっという間に底を尽きました。
そこで目をつけられたのが、わたくしというわけ。
誰にも断ることができない一国の王としての権力を行使し、彼はわたくしと婚約しました。
そのまま結婚すればわたくしの家からの援助もある程度は期待できることでしょう。
でも彼は、それでよしとはせず、根こそぎ奪うことを考えているはずです。
わたくしに何らかの罪を着せ、一族すべてを追放する算段に違いありません。
実際、わたくしに好意的な使用人が、城内の不穏な動きをこっそり教えてくれたことがあります。
お気をつけくださいと言われましたが、わたくしに身を守るすべはもはやないと言わざるをえません。
なぜなら、罪状は何でもいいのですから。
彼が主張すればそれは通るし、反論する者は一緒に追放されるだけ。
終わりゆく国に、正義や秩序なんてものはありはしないのです。
だからわたしは――
「侍従長、国のために働く者すべての評価査定方法を考えました。これに沿って賃金を改めてください。反対する者があれば、ここに呼んで。この国の法律では、婚約した時点で社会的地位が約束されます。つまりわたくしは、国王の妻と同じなのです。そのことを忘れないで」
「はは――」
わたくしは、精いっぱい、この国をよくすることを選びました。
わたくしはこの国を愛しています。
前国王の治世は隅々まで行きとどき、平和の礎を築いていました。
それを失うのは追放されるよりつらい。
そう思ったので、婚約破棄されるまでの二週間のあいだ、国王の婚約者としての権力を最大限に活用することに決めました。
睡眠時間はほとんどありませんでしたが、それももう、あとすこし。
追放されたら独房なり何なりで嫌というほど眠ればいいのです。
今はとにかく、国を立てなおさなければ。
法を整備し――
荒れた地を整え――
人が希望を持てる国にする。
悪いサイクルから脱することだけはできたように思います。
最低限かもしれません。
でも、わたくしはこの二週間、公務と並行して、多くの貴族たちと面会をしてきました。
この姿を見せることで、みなが危機感を持ってくれると信じて。
あとは、託します……。
「おい、そろそろ行くぞ。お待ちかねのお披露目パーティの時間だ」
「はい」
不敵に笑う国王のあとに続き、断頭台へ上がる気持ちでわたくしは部屋を出ました。
***
「……あれ? おばあちゃん、この本はここで終わりなの? 続きは?」
「これは前の王家の歴史書だからね、ここでおしまい」
「え~? パーティのところ気になるよ」
不満がる少年のまえに、新しい本を置きました。
「これは?」
「ここから先は、新しい王家の歴史書。国民から愛され、初代女王となったすてきな女の子の話よ? 婚約破棄されるはずだったパーティで、彼女を支持する諸侯たちがクーデターを起こして――」
「おばあちゃん、先の話しないでちゃんと読んで!」
「はいはい」
わたくしは、この平和な国と、かわいい孫を愛しています。
「推薦者のお家柄です」
「つまりコネね? そういうものは不要です。すぐに是正しましょう。能力の査定方法を一時間で考えます。耳は空いているので次の案件をお願い」
「はい。町のごみ問題ですが――」
わたくしは侍従長の話を聞きながら、頭の片隅で考えていました。
――時間が足りなさすぎる。
わたくしが婚約破棄されるお披露目パーティまで、あと数時間しか残されていません。
婚約してから二週間という時間があったのに、あまりにこの国には問題が多すぎました。
「おい、もうそのくらいにしたらどうだ? 婚約者風情が出しゃばるにもほどがあるだろう」
「ごめんなさいね、今、仕事のお話をしている最中なの。侍従長、続けてちょうだい」
「ちっ……」
婚約者風情。
わたくしにそう言った彼こそが、わたくしを婚約者として選んだ若き国王です。
彼に、わたくしと結婚するつもりがないことは最初からわかっていました。
狙いはわたくしの家にある財産です。
彼は、いわゆる放蕩息子でした。
あちこちに女を作って、借金を作って、やりたい放題。
そんな彼が前国王の死去にともない、若くして国王となったのです。
国は荒れ、国庫のお金はあっという間に底を尽きました。
そこで目をつけられたのが、わたくしというわけ。
誰にも断ることができない一国の王としての権力を行使し、彼はわたくしと婚約しました。
そのまま結婚すればわたくしの家からの援助もある程度は期待できることでしょう。
でも彼は、それでよしとはせず、根こそぎ奪うことを考えているはずです。
わたくしに何らかの罪を着せ、一族すべてを追放する算段に違いありません。
実際、わたくしに好意的な使用人が、城内の不穏な動きをこっそり教えてくれたことがあります。
お気をつけくださいと言われましたが、わたくしに身を守るすべはもはやないと言わざるをえません。
なぜなら、罪状は何でもいいのですから。
彼が主張すればそれは通るし、反論する者は一緒に追放されるだけ。
終わりゆく国に、正義や秩序なんてものはありはしないのです。
だからわたしは――
「侍従長、国のために働く者すべての評価査定方法を考えました。これに沿って賃金を改めてください。反対する者があれば、ここに呼んで。この国の法律では、婚約した時点で社会的地位が約束されます。つまりわたくしは、国王の妻と同じなのです。そのことを忘れないで」
「はは――」
わたくしは、精いっぱい、この国をよくすることを選びました。
わたくしはこの国を愛しています。
前国王の治世は隅々まで行きとどき、平和の礎を築いていました。
それを失うのは追放されるよりつらい。
そう思ったので、婚約破棄されるまでの二週間のあいだ、国王の婚約者としての権力を最大限に活用することに決めました。
睡眠時間はほとんどありませんでしたが、それももう、あとすこし。
追放されたら独房なり何なりで嫌というほど眠ればいいのです。
今はとにかく、国を立てなおさなければ。
法を整備し――
荒れた地を整え――
人が希望を持てる国にする。
悪いサイクルから脱することだけはできたように思います。
最低限かもしれません。
でも、わたくしはこの二週間、公務と並行して、多くの貴族たちと面会をしてきました。
この姿を見せることで、みなが危機感を持ってくれると信じて。
あとは、託します……。
「おい、そろそろ行くぞ。お待ちかねのお披露目パーティの時間だ」
「はい」
不敵に笑う国王のあとに続き、断頭台へ上がる気持ちでわたくしは部屋を出ました。
***
「……あれ? おばあちゃん、この本はここで終わりなの? 続きは?」
「これは前の王家の歴史書だからね、ここでおしまい」
「え~? パーティのところ気になるよ」
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「これは?」
「ここから先は、新しい王家の歴史書。国民から愛され、初代女王となったすてきな女の子の話よ? 婚約破棄されるはずだったパーティで、彼女を支持する諸侯たちがクーデターを起こして――」
「おばあちゃん、先の話しないでちゃんと読んで!」
「はいはい」
わたくしは、この平和な国と、かわいい孫を愛しています。
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