パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

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第一章

第6話 最強の美少女勇者、友達ができて喜ぶ

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 オデットが書き写してくれた紙には驚くべき数値が踊っていた。


  リリス・ロードレアス

   STR 5720
   VIT 5345
   MAG 5478
   AGI 5881
             』


「うお!? 何だこれ!?」

 俺は思わず驚嘆の声を上げてしまった。
 それに応えるように、でしょ? という視線をオデットが送ってくる。

 確か、戦闘訓練や魔法訓練を全く受けていない人間の平均値が50くらいだったはず。
 B級冒険者が平均150、A級となると平均500は必要なのだが、冒険者としては一つの数値が300もあれば充分エリートと呼ばれる。
 S級以上は規格外で特に数値の目安などはないのだが、S級冒険者のジョーキットでさえ平均1500くらいだった記憶がある。

 正直、器具がイカれているとしか思えない数値である。

 しかも今のリリスの肉体は死霊術により実体化しただけの魔力体だ。
 魔力体とはいえ、生前のリリスの肉体をできるだけ忠実に再現しているはずではあるが、それでも本来のリリスの肉体には遠く及ばないはずだ。
 それでもこの数字が出るのだから、生前のリリスの凄さは想像もできない。

「クラウスさん? わたし、数字は読めるんですけど……これそんなに凄いんですか?」

 一人、この数値の異常さがわからずにきょとんとしているリリス。

「凄いなんてもんじゃないだろ、これは……」

 そんな俺たちのやりとりを不可解そうに見ているオデット。
 そりゃそうだ。この数値の見方がわからないのはおかしいもんな。
 そもそも冴えないC級冒険者の俺と、強くて美人のリリスが連れ立っていること自体が彼女から見れば大いに不自然だ。

 何と説明したものか……。
 さすがに「この子は死霊です。五百年前の最強の勇者です」と言ってもふざけていると思われるだけだろうしなぁ。

 俺が答えに窮していることを察したのか、リリスが口を開いた。

「あの、オデットさん。わたし、実は記憶喪失なんです……。落石か何かで頭を打ったのか、デスマウンテンで倒れていたところをクラウスさんに助けられて……」

 正直あまり上手い作り話とは言えないが、満更嘘とも言えない話だ。
 俺が死霊である彼女を助けたと言えなくもないし、五百年という長い歳月を経て現代の知識がないのは記憶喪失みたいなものと言えなくもない。

「そうそう。だから色々忘れちゃってるみたいなんだ。これも何かの縁だし、彼女が記憶を取り戻すまで、俺が面倒みようかなって」

「デスマウンテン……あんなところで女の子が一人で……? この強さならおかしくないのかしら……? でもこれだけ強いのに冒険者登録はしていない……?」

 あまりの突飛な話にオデットはパニックになったのか、ブツブツとひとりごちている。

「ま、まぁまぁ。これだけの人材が入るのはギルドにとっても良いことだろ? 細かいことは良いじゃないか」

「そ、そうですよ。きっとお役に立ちますから! 魔王だって倒しちゃうんですからね!」

 さらっととんでもないことを言うリリス。
 これが冗談でなくリリス自身は本気で言っているのも凄いし、冗談抜きでも本当に魔王を倒せてしまいそうなのも凄い。

「確かに……これなら本当に魔王を倒せるかもしれないわね」

「だろう?」

「……そうね。確かに、イチ職員のあたしが細かいことをあれこれ言うべきじゃないかもしれない。リリスちゃんは何も言わずに受け入れるべき人材だわ。うん。これ以上は何も訊かないことにする」

 オデットは真剣な顔でそう言って頷いた。
 俺は彼女のことを、職員のくせに随分といい加減な奴だ――とは思わなかった。俺にはそんな彼女の心境が理解できたからだ。
 魔物の脅威は凄まじい。この大陸に暮らす民全員が、魔王が滅ぶことを願っている。
 だから――魔王を滅ぼすことができるのなら、魔物の脅威に怯えずに毎日を過ごすことができるのなら――方法なんて何でもいいのだ。
 リリスがどこの誰であり、何者だろうとどうでもいい。魔王を滅ぼせる可能性があるのなら――。
 それは民の総意だろう。そして俺の気持ちでもある。他力本願な考えかもしれないが。

 オデットにも、きっと魔物に関して思うところがあるのだろう。なんとなくだけど。俺もそうだからわかる。
 ましてここはデスマウンテンの手前よりも魔王の領地に近い場所だ。魔物の被害は俺の住んでいた地域よりも酷いはずだ。

「でも、さすがにこの数値をそのまま上に提出することはできないわね」

「どうしてですか?」

「こんなのを上に出したら、どうなるかわからないでしょ? ギルドとして最大限の支援を……って言いたいところだけど、そう考えない人間もいるわ。場合によってはリリスちゃんは拘束されて本部に送られちゃうかもしれない。無理矢理貴族の私兵にされちゃうかもしれないし、魔法研究所で検体にされてしまうかもしれない」

「……確かに。権力者は黙っていないだろうな」

 貴族や権力者の中には、魔王討伐よりも私腹を肥やし私利私欲を満たすことに全力を出す連中がいる。

 今のところ、魔王は人類を滅ぼすほどのことはしてこないし、自分が死ぬまでにそういうことが起きることも恐らくないだろう。
 魔物の被害なんてものは自分にとってはどうということはない。それは末端の人間が困ることであり、自分たちには関係がない。
 魔物の対策よりも、他の有力者との交渉や競争、自分が死ぬまでにどれだけの贅沢をしていかなる名声を上げられるかのほうが重要だ。

 きっと、こんなふうに考える連中が現れたから、五百年前と今とでは魔王討伐に対する意識が違うのだろう。 

「そ、それは困ります! わたしは魔王を倒したいんです」

 そう力強く言うリリスを俺は尊敬した。
 リリスの魔王討伐への想いは並大抵のものではないのだろう。
 五百年もの間待ち続けていたくらいだ。魔王を倒したい気持ちは誰よりも強いはずだ。

「そうよね。だから、今のところはこの数値はちょっぴり誤魔化しておくわ。もっとも、面倒なクエスト制限があるのは困るでしょうし、A級からのスタートにはしておくけど」

「あ、ありがとうございます、オデットさん!」

「それに、友達がそんな目に遭ったら、あたしもイヤだしね」

「え? 友達って……」

 オデットの発言に、目を見開いて驚くリリス。

「あたしたち、もう友達でしょ? そうよね、クラウス?」

「ああ、そうだな。俺たちはもう友達だ」

「お友達……は、はい! わたしたち、お友達なんですね!」

「ふふ。変な子ね」

 オデットの表情からは、先ほどの困惑の色や険しさはすっかり抜けていた。
 これはリリスの為せる業なのだろう。彼女は出会った人間をすぐに和ませてしまう。

 リリスは満面の笑みをたたえて俺とオデットを交互に見ては、気恥ずかしそうにうつむいた。

 五百年の間、父親と二人きりで霊魂として過ごしたリリスにとって、オデットの言葉は何よりも嬉しかったのだろう。

 そこには最強の死霊ではなく――友達ができて喜ぶ、至って普通の女の子の姿があった。

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