パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ

文字の大きさ
18 / 57
第一章

第18話 死霊術士、強制連行される

しおりを挟む
 誰だ、この男?

 見たこともない男が俺の名を口にした。
 それも――何やら穏やかではない口調で、だ。

 男は豪華に金があしらわれた仕立ての良い背広を着ており、見るからに庶民ではないといった風貌である。
 それは、フロアの冒険者たちやオデットの目の色からも伺えた。

 オールバックに撫でつけられた黒髪と額に入った皺、広い肩幅と大柄な体格、そして中年特有のドスの効いた声はとても威圧的だ。

「聞こえなかったか? もう一度言う。君がクラウス・アイゼンシュタインだな?」

 有無を言わさぬ、といった口調で男は言った。

「はい、そうですけど……」

「悪いが、顔を貸してもらえるか? 私は君に用事があって来た」

 なんだこの男。
 名乗りもせずに、随分と居丈高な奴だ。

「あの、失礼ですけど、どちら様ですか?」

 俺が名を訊ねると、男はふんと大袈裟に鼻息を漏らした。

「私はグラッドレイ・ユリルドローム侯爵だ。ユリルドローム家といえばこの町の人間は知っていて当然の名だと思うが?」

 ユリルドローム――それは確か、エレナの家名だ。
 一度だけ聞いた名だが、珍しい名だったので覚えている。

「もしかしてエレナのお父さんですか?」

「その通りだ。娘が世話になったな」

 なんだ、エレナの父親か。
 ってことは、エレナを助けた俺たちにお礼でも言いに来た――わけではなさそうだな、どう見ても。
 さっきよりも眉間の皺は深くなっているし、これはもう見るからにご立腹である。
 しかし、俺たちは特に怒られるようなことはしていないと思うが……。

「とにかく、私の屋敷に来てもらおうか。話はそれからだ」

「え、ちょっと待ってくださいよ。用件も何もお聞きしてませんけど」

 俺がおずおずと反論すると、グラッドレイ卿は顔色を変えて怒鳴った。

「私が来いと言っているんだ! 私を誰だと思っているんだ? この町の領主だぞ!」

 領主だと?
 にわかには信じがたい話だけど、周りの冒険者やオデットの様子を見る限り本当なのだろう。

 ということは、昨日のクエストで人質となっていた貴族関係者ってエレナのことだったのか。

「来ないというのなら、我が配下の精鋭騎士たちに連行させることになるが」

 おそらく外には精鋭騎士とやらが控えているのだろう。
 どうしてこの男がここまで俺に憤っているのかはわからないが、きっと何か勘違いをしているのだ。
 説明すればわかってもらえるはずだ。

「……わかりました。行きます」

「クラウスさん、わたしはどうすれば?」

 隣のリリスが小声で言った。

「悪いが、クラウス君。来るのは君一人で、だ」

 グラッドレイ卿は鋭い目をこちらに向けた。
 問答無用、といった倨傲な態度だ。

「……リリスはここで待っていてくれ。大丈夫、すぐに誤解は解けるさ」

 リリスに心配そうな視線で見送られながら、俺はグラッドレイ卿の後をついて行った。


 ◇◇◇◇◇


 グラッドレイ卿の屋敷は町の北のはずれにあった。
 平原へ繋がる町の入口からは最も遠く、町を覆って高くそびえる外壁のすぐ脇に建てられた堂々たる建物だ。
 屋敷の東側……すぐ隣には霊園が広がっており、そこではかつての大戦の英霊を祀っているようだ。ずらっと並んだ三角形に削られた墓石が陽を浴びて影を作っている。

 門の脇に詰めている衛兵の身体検査を受け、俺は侯爵の後に続いて屋敷内部へ足を踏み入れた。

 やはり領主の屋敷というだけあって内装は立派の一言。俺の身ぐるみ全て剥がされてもここの絨毯一枚さえ買えないだろう。

 玄関ホールから、天井の煌びやかなシャンデリアを眺めながら正面の階段を上る。

 迷路のような屋敷内をしばらく歩いてゆくと、やがて奥まった部屋の前に辿り着いた。
 扉ひとつとっても金のかかった造りであり、このドアノブひとつ売るだけでも安宿で一か月は過ごせるんじゃないか――なんて貧乏性の俺は考えていた。

 グラッドレイ卿が扉を開けて中に入る。
 中にはアーマーに身を包んだ兵士たちが壁際にズラッと並んでおり、侯爵が入った瞬間にザっと背筋を伸ばし姿勢を正した。
 何とも厳めしい光景に俺はすっかり萎縮しつつ続いて部屋の中に入った。

 どうやらそこはグラッドレイ卿の領主室とでも言うべき部屋で、昔本で見た王様の玉座がある部屋の絵にそっくりだった。
 侯爵は部屋の奥の真ん中にある豪華な椅子に腰かけ、俺と相対した。
 もちろん俺は立ったままだし、両脇と背後の壁一面には鎧を着た兵士たちがぎっしり整列している。完全にアウェイだ。

「ようこそ、我がユリルドローム邸へ」

「あ、どうも……」

 俺がぺこりと頭を下げると、侯爵は眉を寄せてふんと鼻で笑った。

「貴様、自分が何故ここに呼ばれたのかわかっておるのだろうな?」

 はい。何一つわかりません。

「ええと、わたくしめが何か領主様のお気に召さないことをしてしまったでしょうか?」

 俺はあくまで下手に出る。相手は領主であり貴族だし、俺はいち冒険者でしかない。
 そして武装した兵士に取り囲まれているこの状況はどう考えても一触即発だ。リリスならともかく、最悪の事態が起きれば俺など紙屑のようにこの世から消えてしまうだろう。

 あとはまぁ、昨日酔っているときに俺が何かをやらかしたか、という可能性がないわけでもないが……記憶を洗う限りはそれはないだろう。そもそも砦にいた時点でエレナとは別れているしそれから彼女とは会っていないのだ。侯爵本人がギルドの酒場なんかに来るわけもないだろうし。
 どう考えてもこの領主サマの勘違いだろう。

「あくまでしらを切るつもりか……まぁいい。では私から問いただしてやろう」

 グラッドレイ卿はあくまでも俺が悪者だという姿勢を崩さないようだ。
 そもそも彼が何をどう勘違いしているのかを知らない限り俺も反論のしようがないからな。向こうから話してもらうしかない。

「貴様、昨日の緊急クエストで大層な活躍をしたそうだな?」

「え? いえ、活躍というほどではありませんが……」

「ギルドの受付嬢も、周りの冒険者たちも、娘のエレナも――皆、口々にそう言っておったよ。昨日のクエストはクラウスという冒険者のお陰で無事に終わったのだ、とな」

「それが、何か……?」

「ふん。私の目が節穴だと思っておるのか? 昨日の出来事はすべて貴様の狂言だ。そうなのだろう? この悪党めが!」

 侯爵は怒りが頂点に達したのか、立ち上がり俺を睨んで怒鳴った。

 は、はぁ?
 何を言っているんだこの男は。
 昨日のクエストが俺の狂言? つまり俺が仕組んだことだと言いたいのか!?

 じょ、冗談だろ……!?

 この状況自体が何かの狂言――そう願って領主サマの顔を仰ぎ見た俺だったが、そのオーガのような形相に、いよいよヤバい事態になってしまったと認識するのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...