どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

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#3 Beat it 〜この場合殴るのはいいとしてもできれば別の物を使いたかった(2)

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 そんな緊迫感をよそに、喫茶店でコーヒーを飲む貴明。そういやこっちに透矢や紗英はいるのかな?連絡したらどうなるんだ?公衆電話、いやその前にテレホンカードは…などと、アザーサイドの過ごし方についてぼんやりと考えていた。

 憧れの斉藤由貴は、財布から取り出した50度数のテレカで微笑んではいるが、この辺にはいないようだ。帰るか…と喫茶店を出たところで、貴明は重要なことに気づく。


「あれ?どうやって帰るんだっけ?」

 こいつはイカン。考えを整理しつつ、彼はとりあえず自分の部屋に帰ることにした。


だいたい、こっちの世界に自分はいるのか?いないのか?梨杏は俺は1人だけと言っていたが、自宅でその真贋を確かめることが、帰りのヒントになるかもしれないと思った。

 とぼとぼと駅へ歩く貴明。そのうち、後方から漂うただならぬ気配に気づいた。

「おう兄ちゃん、ちょっと話があるんだけどよ」

 ダボダボで汚いが派手な色の服装にドレッドヘア、鼻ピアス。うわあ…チーマーさんがなぜ俺にと、貴明は面倒くさそうに答える。

「ええと、俺にはないけど、何?」

 言い終わらないうちに、女がいることに気づいた。あのボディコン巨乳だ。帰りのことで途方に暮れて、後で会うことも忘れていた。

「あ、さっきの巨乳!」

「ハーイ。お兄さんさあ、さっき私が渡したもの、まだ持ってるよね」

「え?俺何かもらったっけ?」

「まだ気づいてないみたいね。はい身体検査」

 男どもがわらわらと貴明に近づいてくる。これはアレだな、ヤバイやつだな。


 貴明は本能的に、駅方面の人が多い方へダッシュした。

「あ!待てこらてめえコノヤロー!」

 何だかわからん。俺は何か受け取ったか?と体をまさぐるが何もない。それでも走りながら必死で調べると、上着の右内ポケットに違和感があった。

「ビニール袋…粉?これって…」

「絶対逃がすなよ!」

 たった1日で児童略取誘拐に運び屋か。ドアのせいで俺は犯罪ルートまっしぐらだと絶望しつつも、生きる本能でとにかく走った。


 ヒラヒラと人混みをかわして走る貴明に対し、チーマーは残念なことに4人が一列になって追いかける形になっており、効率が悪い。奴らの頭の悪さに幸運を感じつつ、目に止まったホテル…「森村ホテル」に逃げ込む。

 フロントの目を盗んで上階に上がるも、毛足の長いカーペットに足を取られ、何回転もするほど派手に転んでしまった。したたかに脇腹を打ち、悶絶している間に奴らに追いつかれてしまう。


「返せよ。おとなしく返せば何もしねえ」

「嘘だね。返してもどうせ俺は東京湾に沈められるんだろ」

「返さなかったら確実にそうなるんだぞ。つまり、どっちにしろてめえはおしまい」

 ホテルは、チェックアウト後の掃除の時間だ。人影は見えず、ところどころにギャッベの詰まったカートが置かれている。貴明はカートを盾に奴らと正対する。

「いやだね。どうせ死ぬなら俺は正義を貫く」

「何が正義だこのタコ…っておい!」

 貴明は袋を取り出し、それを破くそぶりを見せた。彼は極限状態に陥ると無駄にテンションが上がる類の、とことん面倒くさく迷惑な性格であった。

「うはははー!こいつをシーツの山にぶちまけちゃおうかな?濡れたタオルも入ってるし、いい具合に溶けてなくなりそうだなあ」

「おいやめろ、いいからそれを渡せ」

「待てよ、このふかふかのじゅうたんにまくだけでも回収不能だな。そりゃ手軽でいいや


 貴明が袋を切りかけた瞬間、1人の男が飛びかかってきた。貴明はとっさにキーボードRK-100を突き出す。重いボディが見事に男の脳天に当たり、相手はもんどり打って倒れたまま動けない。

「あ“あ”あ“!大切なキーボード…壊れてないかおい?」

「貴様…もういい、こいつは殺そう」

 残った2人の男が貴明を取り押さえにかかる。乱闘の中、1人にRK-100のネックの先が眉間にヒットする。

「痛え!それやたら硬いな、ふざけんな」

「ったりめえよ、コルグなめんなよ。本物の高級感漂う堅牢な作りには、昔から定評がございます。オラオラオラ!K・オーギ・ケーン!」


 貴明は謎の技?を慇懃に言い放つと、今度は脳天を狙ってRK-100の重いボディ側を振り下ろす。これがいい勢いでジャスト・ビート・イット。RK-100はショルダーキーボードの歴史に残るスタイリッシュな名機だが、相当に重く、ステージでは非常に疲れるという難点があった。だがここではその重さが確実にいい方向に作用した。


「こう・きゅう・かん…」


 無意識のコルグへの賞賛?とともに奴は崩れ落ち、戦闘不能に。残りは1人だ。


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