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#4 Listen to the music 〜音楽のおかげでかけがえのない人に出逢えたかもしれなかった(4)
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翌日の日曜日。澄香は用事があるとかで午前のうちに部屋を出て行った。1人になり、改めてマスクの娘を思い出して妄想する貴明。
年はいくつかな。声を聞いてみたいな、あれはきっと天使の声だなどと妄想は膨らんでいく。ちなみに貴明は声フェチをこじらせた音楽性変態であり、声さえ刺されば顔などオマケだと常に豪語している。
妄想しながら記憶をたどる。ピンクのキャスケットに変装感丸出しの大きなダサメガネ。マスク1枚で2/3が隠れる小さな顔。髪型は貴明の好みど真ん中の、少し長めでふわりとしたショートカット。白いセーターの袖口から甲だけが覗く華奢な手で、懸命に拍手する姿…
100%好みだ。いかん。会いたい。落ち着くために3杯目のコーヒーを淹れようとした瞬間、ピンクに染まった玄関のドアから閃光が漏れる。うわ始まった大丈夫か?これ不純なのでは?と案ずる間もなく、貴明は光の中に吸い込まれていった。
気がつくとまたも池袋。今度は東急ハンズの前である。なぜ飛ばされたのかを確かめるべく周囲を見渡す貴明。だが知る顔はない。またも不純な動機で飛ばされたのかと、死にかけたホテルでの恐怖が蘇る。
それを考えると人がいる場所の方がいいし、ちょうどカフェインが足りてなかったので、目に入った森永ラブでコーヒーを飲むことにする。だが自動ドアを踏む直前、両手を体の前で組み、ガチガチに固まりながら自分を見つめる少女の姿に気がついた。
「あ、あ、あの…た、貴明さんですか…?」
「??えっと、誰、かな?」
「あ、あの…あのあの…あのですね…」
ショートカットに、女の子らしい赤いフレームのメガネ。大人しさを誇示するような青いロングワンピ。頭のてっぺんが貴明のアゴにさえ届かない小柄な体。地味な文学少女的ルックスに見覚えはなかったが、か細い指や小さめで上品な口元を見て、貴明はハッとする。脳内で無理矢理ピンクのキャスケットと冗談みたいに大きなメガネに換装し、マスクをかけると…
「君は、ライブの…」
「そうです。まさかここで会えるなんて…」
白い頬を真っ赤に染めてうつむきながら、人混みにかき消されそうな頼りない声で話す少女。貴明はこれ以上ないほどに胸が高鳴る。とりあえずラブの店内に入ることにした。
注文したコーヒーに全く手をつけられないまま、貴明はやっとの思いで切り出した。
「あ、あのさ。いつもライブを見てくれてありがとね」
「え、いつも行ってるってどうしてわかったんですか?」
「いつも顔を隠していたから逆に、ね」
自分が見ていたような話をするが、これがわかったのは透矢のおかげだ。
「うわうわあ、バレないようにしてたのに逆効果…私のバカバカ…」
凹む様子さえ可愛い。紗英や理恵に比べれば地味で、さらにメガネが地味な印象を増幅させるが、改めてよく見ると清潔感あふれる超絶美少女だ。ついでにワンピースのラインから察するに、小柄ながら胸は大きめか。顔、スタイル、声、髪型までも完璧に貴明のタイプ。理想の女性といっても間違いない。
周囲には紗英や理恵のような派手なタイプが多く、こうした清楚系は珍しいというのもポイントが高い。貴明は一緒にいる10分の間、いい知れぬ高揚感を感じていた。
「うん、バレてたよ。でも嬉しいよ、堂々と見てくれていいのに。大事なお金を出してくれるお客さんなんだしさ」
「私ああいうとこが苦手で…」
「その割にはよく来てくれるよね。そうだ、遅れたけど俺は剣崎貴明。専門の2年生って、ひょっとして知ってるのかな。君は?」
「す…み…すみか、です。高嶺すみか。18歳です」
「そう。いい名前だね…って、す、すみかー⁉︎」
「どうしたんですか?何かおかしいでしょうか?」
「いや違う違う違う!とても素敵な名前ですよ。ただ…」
「ただ?」
「俺の妹と同じだから、ビックリしちゃってさ」
「あ…そうなんですね。あはは、そうですか。偶然ってあるんですねー」
「本当だね。はは、はは」
ひらがななんだ、などと名前で話がはずみ、いい感じに打ち解けてくる。
「ではすみかちゃん、いつもご覧いただきありがとうございます。今後ともよろしく」
貴明は嬉しさのあまり、普段しないようなおどけた態度を見せた。
「うふふ、笑うと可愛いんですね。くすくすっ」
「そりゃ俺だって人並に笑うよ。って、普段の俺も知ってるの?」
「音楽をやってる姿しか知りませんよ」
「だよね。で、ウチのバンドを聴いてくれるのはどうして?やっぱ透矢かい?」
こんな可愛い娘が俺のファンとかありえない。どうせまた…と卑屈になりつつ、貴明はあえて面倒な質問をした。
「あ、はい…。いいえ、違います」
すみかは、何かを決意したように続ける。
「やっとお話できたんだからちゃんと言いますね。私は、貴明さんに会いたいからライブに行くんです。貴明さんは私の特別なんです」
ハンナ・バーベラのアニメのように、アゴが伸びてテーブルを破壊するほど驚愕する貴明。小さな白い花のような可憐さに満ちたすみかが…信じられない。信じる道理がない。
「ごめんなさい勝手なこと言って。でも、ダメなんです。私が貴明さんのことを想うほどに、きっと良くないことが起きるから…」
急に深刻な表情で絞り出すようにそう言い、すみかはいきなり出口に走った。突然のことに貴明は驚き、すぐには後を追えない。どうにか外に出るが彼女は日曜日の60階通りの人混みに紛れ、姿は見えなくなっていた。
「どうして…でもきっと、またライブで会えるよね」
最後のすみかの言葉の謎。それは彼の意識の中でグルグルと回り続けていた。
年はいくつかな。声を聞いてみたいな、あれはきっと天使の声だなどと妄想は膨らんでいく。ちなみに貴明は声フェチをこじらせた音楽性変態であり、声さえ刺されば顔などオマケだと常に豪語している。
妄想しながら記憶をたどる。ピンクのキャスケットに変装感丸出しの大きなダサメガネ。マスク1枚で2/3が隠れる小さな顔。髪型は貴明の好みど真ん中の、少し長めでふわりとしたショートカット。白いセーターの袖口から甲だけが覗く華奢な手で、懸命に拍手する姿…
100%好みだ。いかん。会いたい。落ち着くために3杯目のコーヒーを淹れようとした瞬間、ピンクに染まった玄関のドアから閃光が漏れる。うわ始まった大丈夫か?これ不純なのでは?と案ずる間もなく、貴明は光の中に吸い込まれていった。
気がつくとまたも池袋。今度は東急ハンズの前である。なぜ飛ばされたのかを確かめるべく周囲を見渡す貴明。だが知る顔はない。またも不純な動機で飛ばされたのかと、死にかけたホテルでの恐怖が蘇る。
それを考えると人がいる場所の方がいいし、ちょうどカフェインが足りてなかったので、目に入った森永ラブでコーヒーを飲むことにする。だが自動ドアを踏む直前、両手を体の前で組み、ガチガチに固まりながら自分を見つめる少女の姿に気がついた。
「あ、あ、あの…た、貴明さんですか…?」
「??えっと、誰、かな?」
「あ、あの…あのあの…あのですね…」
ショートカットに、女の子らしい赤いフレームのメガネ。大人しさを誇示するような青いロングワンピ。頭のてっぺんが貴明のアゴにさえ届かない小柄な体。地味な文学少女的ルックスに見覚えはなかったが、か細い指や小さめで上品な口元を見て、貴明はハッとする。脳内で無理矢理ピンクのキャスケットと冗談みたいに大きなメガネに換装し、マスクをかけると…
「君は、ライブの…」
「そうです。まさかここで会えるなんて…」
白い頬を真っ赤に染めてうつむきながら、人混みにかき消されそうな頼りない声で話す少女。貴明はこれ以上ないほどに胸が高鳴る。とりあえずラブの店内に入ることにした。
注文したコーヒーに全く手をつけられないまま、貴明はやっとの思いで切り出した。
「あ、あのさ。いつもライブを見てくれてありがとね」
「え、いつも行ってるってどうしてわかったんですか?」
「いつも顔を隠していたから逆に、ね」
自分が見ていたような話をするが、これがわかったのは透矢のおかげだ。
「うわうわあ、バレないようにしてたのに逆効果…私のバカバカ…」
凹む様子さえ可愛い。紗英や理恵に比べれば地味で、さらにメガネが地味な印象を増幅させるが、改めてよく見ると清潔感あふれる超絶美少女だ。ついでにワンピースのラインから察するに、小柄ながら胸は大きめか。顔、スタイル、声、髪型までも完璧に貴明のタイプ。理想の女性といっても間違いない。
周囲には紗英や理恵のような派手なタイプが多く、こうした清楚系は珍しいというのもポイントが高い。貴明は一緒にいる10分の間、いい知れぬ高揚感を感じていた。
「うん、バレてたよ。でも嬉しいよ、堂々と見てくれていいのに。大事なお金を出してくれるお客さんなんだしさ」
「私ああいうとこが苦手で…」
「その割にはよく来てくれるよね。そうだ、遅れたけど俺は剣崎貴明。専門の2年生って、ひょっとして知ってるのかな。君は?」
「す…み…すみか、です。高嶺すみか。18歳です」
「そう。いい名前だね…って、す、すみかー⁉︎」
「どうしたんですか?何かおかしいでしょうか?」
「いや違う違う違う!とても素敵な名前ですよ。ただ…」
「ただ?」
「俺の妹と同じだから、ビックリしちゃってさ」
「あ…そうなんですね。あはは、そうですか。偶然ってあるんですねー」
「本当だね。はは、はは」
ひらがななんだ、などと名前で話がはずみ、いい感じに打ち解けてくる。
「ではすみかちゃん、いつもご覧いただきありがとうございます。今後ともよろしく」
貴明は嬉しさのあまり、普段しないようなおどけた態度を見せた。
「うふふ、笑うと可愛いんですね。くすくすっ」
「そりゃ俺だって人並に笑うよ。って、普段の俺も知ってるの?」
「音楽をやってる姿しか知りませんよ」
「だよね。で、ウチのバンドを聴いてくれるのはどうして?やっぱ透矢かい?」
こんな可愛い娘が俺のファンとかありえない。どうせまた…と卑屈になりつつ、貴明はあえて面倒な質問をした。
「あ、はい…。いいえ、違います」
すみかは、何かを決意したように続ける。
「やっとお話できたんだからちゃんと言いますね。私は、貴明さんに会いたいからライブに行くんです。貴明さんは私の特別なんです」
ハンナ・バーベラのアニメのように、アゴが伸びてテーブルを破壊するほど驚愕する貴明。小さな白い花のような可憐さに満ちたすみかが…信じられない。信じる道理がない。
「ごめんなさい勝手なこと言って。でも、ダメなんです。私が貴明さんのことを想うほどに、きっと良くないことが起きるから…」
急に深刻な表情で絞り出すようにそう言い、すみかはいきなり出口に走った。突然のことに貴明は驚き、すぐには後を追えない。どうにか外に出るが彼女は日曜日の60階通りの人混みに紛れ、姿は見えなくなっていた。
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