どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

文字の大きさ
16 / 59

#4 Listen to the music 〜音楽のおかげでかけがえのない人に出逢えたかもしれなかった(4)

しおりを挟む
 翌日の日曜日。澄香は用事があるとかで午前のうちに部屋を出て行った。1人になり、改めてマスクの娘を思い出して妄想する貴明。

 年はいくつかな。声を聞いてみたいな、あれはきっと天使の声だなどと妄想は膨らんでいく。ちなみに貴明は声フェチをこじらせた音楽性変態であり、声さえ刺されば顔などオマケだと常に豪語している。

 妄想しながら記憶をたどる。ピンクのキャスケットに変装感丸出しの大きなダサメガネ。マスク1枚で2/3が隠れる小さな顔。髪型は貴明の好みど真ん中の、少し長めでふわりとしたショートカット。白いセーターの袖口から甲だけが覗く華奢な手で、懸命に拍手する姿…

 100%好みだ。いかん。会いたい。落ち着くために3杯目のコーヒーを淹れようとした瞬間、ピンクに染まった玄関のドアから閃光が漏れる。うわ始まった大丈夫か?これ不純なのでは?と案ずる間もなく、貴明は光の中に吸い込まれていった。


 気がつくとまたも池袋。今度は東急ハンズの前である。なぜ飛ばされたのかを確かめるべく周囲を見渡す貴明。だが知る顔はない。またも不純な動機で飛ばされたのかと、死にかけたホテルでの恐怖が蘇る。

 それを考えると人がいる場所の方がいいし、ちょうどカフェインが足りてなかったので、目に入った森永ラブでコーヒーを飲むことにする。だが自動ドアを踏む直前、両手を体の前で組み、ガチガチに固まりながら自分を見つめる少女の姿に気がついた。


「あ、あ、あの…た、貴明さんですか…?」

「??えっと、誰、かな?」

「あ、あの…あのあの…あのですね…」


 ショートカットに、女の子らしい赤いフレームのメガネ。大人しさを誇示するような青いロングワンピ。頭のてっぺんが貴明のアゴにさえ届かない小柄な体。地味な文学少女的ルックスに見覚えはなかったが、か細い指や小さめで上品な口元を見て、貴明はハッとする。脳内で無理矢理ピンクのキャスケットと冗談みたいに大きなメガネに換装し、マスクをかけると…


「君は、ライブの…」

「そうです。まさかここで会えるなんて…」

 白い頬を真っ赤に染めてうつむきながら、人混みにかき消されそうな頼りない声で話す少女。貴明はこれ以上ないほどに胸が高鳴る。とりあえずラブの店内に入ることにした。


 注文したコーヒーに全く手をつけられないまま、貴明はやっとの思いで切り出した。

「あ、あのさ。いつもライブを見てくれてありがとね」

「え、いつも行ってるってどうしてわかったんですか?」

「いつも顔を隠していたから逆に、ね」


 自分が見ていたような話をするが、これがわかったのは透矢のおかげだ。

「うわうわあ、バレないようにしてたのに逆効果…私のバカバカ…」

 凹む様子さえ可愛い。紗英や理恵に比べれば地味で、さらにメガネが地味な印象を増幅させるが、改めてよく見ると清潔感あふれる超絶美少女だ。ついでにワンピースのラインから察するに、小柄ながら胸は大きめか。顔、スタイル、声、髪型までも完璧に貴明のタイプ。理想の女性といっても間違いない。

 周囲には紗英や理恵のような派手なタイプが多く、こうした清楚系は珍しいというのもポイントが高い。貴明は一緒にいる10分の間、いい知れぬ高揚感を感じていた。


「うん、バレてたよ。でも嬉しいよ、堂々と見てくれていいのに。大事なお金を出してくれるお客さんなんだしさ」

「私ああいうとこが苦手で…」

「その割にはよく来てくれるよね。そうだ、遅れたけど俺は剣崎貴明。専門の2年生って、ひょっとして知ってるのかな。君は?」


「す…み…すみか、です。高嶺すみか。18歳です」


「そう。いい名前だね…って、す、すみかー⁉︎」

「どうしたんですか?何かおかしいでしょうか?」

「いや違う違う違う!とても素敵な名前ですよ。ただ…」

「ただ?」

「俺の妹と同じだから、ビックリしちゃってさ」

「あ…そうなんですね。あはは、そうですか。偶然ってあるんですねー」

「本当だね。はは、はは」


 ひらがななんだ、などと名前で話がはずみ、いい感じに打ち解けてくる。

「ではすみかちゃん、いつもご覧いただきありがとうございます。今後ともよろしく」
 貴明は嬉しさのあまり、普段しないようなおどけた態度を見せた。


「うふふ、笑うと可愛いんですね。くすくすっ」

「そりゃ俺だって人並に笑うよ。って、普段の俺も知ってるの?」

「音楽をやってる姿しか知りませんよ」

「だよね。で、ウチのバンドを聴いてくれるのはどうして?やっぱ透矢かい?」
 こんな可愛い娘が俺のファンとかありえない。どうせまた…と卑屈になりつつ、貴明はあえて面倒な質問をした。


「あ、はい…。いいえ、違います」


 すみかは、何かを決意したように続ける。

「やっとお話できたんだからちゃんと言いますね。私は、貴明さんに会いたいからライブに行くんです。貴明さんは私の特別なんです」


 ハンナ・バーベラのアニメのように、アゴが伸びてテーブルを破壊するほど驚愕する貴明。小さな白い花のような可憐さに満ちたすみかが…信じられない。信じる道理がない。

「ごめんなさい勝手なこと言って。でも、ダメなんです。私が貴明さんのことを想うほどに、きっと良くないことが起きるから…」


 急に深刻な表情で絞り出すようにそう言い、すみかはいきなり出口に走った。突然のことに貴明は驚き、すぐには後を追えない。どうにか外に出るが彼女は日曜日の60階通りの人混みに紛れ、姿は見えなくなっていた。


「どうして…でもきっと、またライブで会えるよね」


 最後のすみかの言葉の謎。それは彼の意識の中でグルグルと回り続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...