どこぞのドアと澄香とすみか 〜妹と同じくらい好きな彼女が出来たら神と喧嘩する羽目になったのは一体どういう了見だ〜

板坂佑顕

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#5 Only a memory 〜翻弄されるような思い出ならブチ壊してしまえと思った(2)

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「お前、昨日はゲートを正しく使えたね」

「見てやがったのか。一体どうやってだよ?」

「ふふ、内緒。ちなみにお前だけでなく、私は面倒見なきゃいけない患者、いやエクスペリエンストが何人かいるの。忙しいのよ」


 相変わらず尊大な態度だが、ドアのことで頼れるのは梨杏しかいない。貴明はすみかについて聞いてみた。

「昨日会ったすみかちゃん。最後によくわからんことを言って帰ったんだ」

「ほう、よっぽど“スミカ“に縁があるのね。席が遠くて細かいとこは聞こえなかったわ」

「俺を追いかけると、良くないことが起きるってさ」

「そりゃあアレだわ。すみかってのが実は人妻で、お前と付き合うと不倫になるからでしょ?簡単じゃない」

「てんめえ…見た目が幼女であるというコンプライアンス上の問題さえなければ、俺はお前を今すぐ折檻したいわ」

「いやいや、仮に熟女でも折檻はダメよ。まあ嗜好によるか?ただ、ね…。貴明が会ったのはアザーサイドのすみかだよね」

「確かに」


「ということは、むしろ貴明の方が本懐を遂げられなかったのが理由で、ドアから出された可能性もあるよね」

「言われてみれば…」

「それに紗英のように、オーディナリー・ワールドのすみかは態度が違ってお前を避けるかもしれないよ」

 その言葉に、一目で丸わかりなほど貴明のテンションがダダ下がりになる。もしライブで会っても、紗英のようによそよそしく冷たい可能性が高いってことか。

「まあまあ、まだ何もわからないんだからさ、そう気を落とすなって」

 
 落胆しながら貴明は言う。

「じゃあ、せめて今後どうなるかわからないの?予知みたいなさ。釈然としなくてさ」

「うーん、SFでは未来の自分に出会うストーリーもあるよね。でも現実問題、自分の未来なんて見たい?良くても悪くても、その未来に向かって頑張ろうと思える?」

 貴明はしばし妄想したあと、

「よし無理だ。俺は良い未来を見ればこれ以上何もしないし、悪い未来なら絶望でさらに堕ちる。あの巨乳…佳奈達みたいになるかもな」

「くはあ、思った以上のクズ野郎だネ。までも、大なり小なりそんなもんだよ。だから神は人間に未来を見せるのをやめたんだ」

「昔は見せていたのかよ⁉︎でも懸命な判断かもな」

「当たり前よ、神なんだから」


 確かに未来を見たところで、今の自分に良い影響があるとは思えない。なら過去はどうだ。過去の失敗をチャラにすることで、結果的に未来を変えることはできないのか。

「じゃあさ、ドアを使って過去にタイムスリップはできるの?」

「過ちをやり直したいという欲求は多いね。人間らしい狭量な思考だが」

「過去を帳消しにすることもできるわけだ」

「だからそれは無理だって。万一過去に行けても未来は変わらないよ。ステンレスの車みたいに年鑑で大儲けとか無理だから。あるとすれば、過ちを犯した場に身を置いて、今の自分がどう感じるかを追体験するくらいね」。


「自分の人生の映画か」

「初めて的確なことを言ったわね。で、『お前が今日を無益に生きている』という不幸な事実以外に、何か大きな過ちを犯したことがあったの?」

「相変わらずサクッと喧嘩売りますね。でも修正したいほど酷い過去はないな。一つなおしたら全部直さなきゃって気がするし、そこまでするなら今のままでいい」

「稀に深いこと言うね。賢いのかバカなのか…確実にバカ寄りだが」

「へいへい。ところでお前、風呂に入ってたってことはまさか…」

「ああ、今夜の宿なら心配するな。お前のベッドで我慢してやるから」

「やはりか…頼むから目立つことはするなよな」



 過去の話をしたせいか、貴明は幼い頃を思い出していた。

 彼は小学4~5年生の頃、北海道の阿寒町にいた。父は転勤族で全国を転々としたこともあり、貴明自身は地域的なアイデンティティ…つまり「故郷」に関して無頓着である。だがその中でも阿寒は特別だ。東京から見れば地の果てで、マリモなど得体の知れないものが棲んでいる神秘的なイメージが、貴明は深く印象に残っていた。

 当時、毎日のように遊んでいた友達がいた。窪田景護と本間響子。景護は地元の教師の息子、響子は阿寒湖温泉随一の老舗旅館の跡取り娘だ。2人とは阿寒湖で日が暮れるまで、虫取りや隠れんぼ、雪遊びに明け暮れていた。

 なのに、2人とはあまり良い別れ方ができなかった気がする。貴明はあまり思い出したくない、苦い場面を思い出してしまっていた。そんなふわっとした思いを、梨杏の声が破壊する。


「おーい貴明、早く来いよー、一緒に寝ようよー。しっぽりしっぽりー」

「ふざけろ!はいお休み!」

 悪ノリする梨杏を寝かしつけ、自分も寝ようかと寝室のドアを閉めようとした瞬間、そろそろお馴染みになってきた白い光と違和感を感じた。
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