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#12 Try jah love 〜何を試されるかわからないことが試しそのものだった(1)
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翌日。澄香は午後には元気を取り戻し、夕刻に2人で阿寒湖温泉街を散策した。
「わー、お土産屋さんがいっぱい。中で彫刻してるの?」
「本物の手作りだよ。実は札幌で作ってましたなんてガッカリ感はないだろ」
澄香が貴明の腕から離れず、恋人同士にしか見えない2人。澄香は黒いフクロウの彫刻を手に貴明の表情をうかがう。
「わー可愛いなーカバンにもつけられるなーおや意外にお手頃価格ー?」
「買えと言っているのか」
「いやまさか…いいの?やったー」
「わざとらしいな!」
と言って小さなフクロウを1つレジに持っていくが、
「こっちも!お揃いがいいの!」
「いいよ、俺はもう持ってる…」
ま、妹とカムイを共有するのもいいか。2つを会計しながら店のおばさんと話す。
「あらーいいの選んだねえ。これね、エンジュの木なんだよ」
「エンジュ?」
澄香が興味津々だ。
「そうね、延寿って字を当てれば、長寿の縁起物だね」
長寿…今の澄香にこそふさわしいお守りだ。
「それにね、エンジュは幸福や安産の縁起物だからね。美人の彼女さんと持つにはピッタリだべさ」
「いや安産とか違…」
貴明は慌てるが、澄香はすっかりエンジュのフクロウがお気に入りだ。さっそくダッフルコートの紐にくくりつける。
「えへ。幸福に長寿かあ…」
そのまま2人は観光客で賑わう阿寒湖畔に向かった。
「で、湖はどこ?」
「どこって、今立ってるここだよ」
「この南極的な地面が?嘘でしょ」
冬の阿寒湖は完全結氷し、氷上で様々な催しが開催される。
「氷の上とはいえ、実際はすごい量ですごい冷たい水の上に立ってるわけだ」
「そう考えるとちょっと怖いね。ね、あのテントは?」
氷上では大勢がスケートやスノーモービルを楽しんでいる。その中でひときわ目立つカラフルなテント群。
「ワカサギ釣りだ。やる?」
「うん!面白そう」
澄香は体を動かす遊びの方が好きだが、足が心配な今は釣りがちょうどいい。
「くり抜いた氷、厚っ!てかめぢゃぐぢゃ寒いねお兄ぢゃん、これが-20℃…」
「まだ陽があるし-15℃くらいだよ。湖は風を遮るものがないから、気温以上に風がヤバイんだ。強風と氷の冷気で体感温度は-30℃だな。ま、中はストーブがあるし大丈夫だ」
「だ、だまされた…」
澄香は貴明に寄り添い、興味深そうに糸を見つめる。ほどなくしてプラチナのような金属光沢に輝く魚体が次々釣れ出した。釣れたワカサギはその場で天ぷらにして食べる。
「これはうめえー!」
「スーパーで買うのと全然違うね!」
冬の湖の幸を味わいながら、貴明は澄香がしきりに足をさすっているのに気づく。
「具合悪いか?」
「大丈夫。でも足の感覚が…」
「ごめんな、冷えたな。もう帰ろう」
「冷たくはないけど…」
澄香の足はどんどん消滅してきている。爪先だけの時はさほど実感はなかったが、ここに来て、足に力が入らない感覚に襲われ始めていた。
「ほら、おぶっていくから」
貴明が背を向けてしゃがむ。
「いいよ、恥ずかしいよ…子ども扱いしてー」
「何言ってんだよ、いいから乗れって」
澄香は照れながらも貴明の背に乗り、きゅっと腕を首に回した。
「お、案外軽いな」
「どんな骨太のイメージだったのよ。てかもうやだ、最近優しすぎ。大好き…」
「はは、大事な妹だからな」
「違うもん。そういう意味じゃなくて…」
澄香は言葉が出ない。これ以上喋ると号泣しそうだった。
「いつでも支えるよ、澄香なら」
幼い頃、澄香は貴明におんぶされるのが好きだった。もちろん後付けで偽りの記憶だが、2人には温かく大切な思い出だ。
ホテルに入り、澄香は感触を確かめながら地に足をつける。まだ歩けるが、貴明は時々よろける澄香の肩を抱き、部屋に戻った。
夕食後、窓際の椅子に向かい合って座る。賑わう氷の湖面を眺めながら、澄香が切なげな表情で話し始めた。
「お兄ちゃん。すみかちゃんを大事にしてあげてね」
「当然だよ。なんだよ急に」
「うん。お兄ちゃんがすみかちゃんを愛してくれる限り…私も…」
「澄香…」
「2人が会ってると私も温かい気持ちになるんだ。きっとすみかちゃんが嬉しいから」
「そういや、お前がライブに来ないのはすみかちゃんのためだったんだな」
「そう。私たちは同じ場所にいられないみたいなの。すみかちゃんはこっちの世界に来るだけでも負担が大きいはずなんだ」
「でも澄香は1回だけ来たよな。嬉しかったよ」
「一度はこの目で見ておきたくて。楽しかったなあ。お兄ちゃんは楽器さえあれば素敵なんだね。楽器さえあれば」
「2回言うほど重要か⁉︎お前は、どうしていつも自分よりも他人を…」
「何言ってんの、すみかちゃんは私なんだよ」
2人は向かい合ったまま、互いの手を取り合う。
「俺は澄香に会えて本当によかった。妹でもそうでなくても、絶対に離れたくない。そのために試したいことがあるんだ。もうすみかちゃんと梨杏とは決めてる」
「何を…」
「ここで、お前とすみかちゃんを会わせる」
「だめ!そんなことしたら何が起こるか」
「消えてしまう前に可能性を探るんだ。言い出したのはすみかちゃんなんだ」
「すみかちゃんもきっとタダでは済まない」
「覚悟の上だよ。すみかちゃんなりに、澄香への想いは強いんだ」
「私なんかもういいよ!消えればみんな忘れるんだから、2人で幸せになってよ!」
「そうはいくか!」
貴明が澄香の隣に膝立ちになり、ぎゅっと肩を抱く。
「お前1人に寂しい思いはさせない。だからみんなで立ち向かうんだ」
「だめ!絶対だめ!そんな危ないこと…ならすみかちゃんとは会わない!」
「俺の性格は知ってるよな。今さらやめると思うか?」
「だって…だって…」
「俺とすみかちゃんが残れたとしても、お前がいなきゃ無意味なんだよ。だから3人でいられる方法を探す。梨杏も俺たちを助けると戒律に反して、立場がヤバいんだってさ」
「ば…ばか…バカ兄貴…」
澄香は涙が止まらない。
「すみかちゃんは最強のエクストリームだし、梨杏も味方だ。そしてここはカムイの湖だぞ。いける気がしないか?」
「なんでそんなに強気なの…」
「強気ついでに俺は、万が一お前が消えても、絶対に澄香のことを忘れない自信があるからな。安心しろ」
「おにい…ちゃん…」
「わー、お土産屋さんがいっぱい。中で彫刻してるの?」
「本物の手作りだよ。実は札幌で作ってましたなんてガッカリ感はないだろ」
澄香が貴明の腕から離れず、恋人同士にしか見えない2人。澄香は黒いフクロウの彫刻を手に貴明の表情をうかがう。
「わー可愛いなーカバンにもつけられるなーおや意外にお手頃価格ー?」
「買えと言っているのか」
「いやまさか…いいの?やったー」
「わざとらしいな!」
と言って小さなフクロウを1つレジに持っていくが、
「こっちも!お揃いがいいの!」
「いいよ、俺はもう持ってる…」
ま、妹とカムイを共有するのもいいか。2つを会計しながら店のおばさんと話す。
「あらーいいの選んだねえ。これね、エンジュの木なんだよ」
「エンジュ?」
澄香が興味津々だ。
「そうね、延寿って字を当てれば、長寿の縁起物だね」
長寿…今の澄香にこそふさわしいお守りだ。
「それにね、エンジュは幸福や安産の縁起物だからね。美人の彼女さんと持つにはピッタリだべさ」
「いや安産とか違…」
貴明は慌てるが、澄香はすっかりエンジュのフクロウがお気に入りだ。さっそくダッフルコートの紐にくくりつける。
「えへ。幸福に長寿かあ…」
そのまま2人は観光客で賑わう阿寒湖畔に向かった。
「で、湖はどこ?」
「どこって、今立ってるここだよ」
「この南極的な地面が?嘘でしょ」
冬の阿寒湖は完全結氷し、氷上で様々な催しが開催される。
「氷の上とはいえ、実際はすごい量ですごい冷たい水の上に立ってるわけだ」
「そう考えるとちょっと怖いね。ね、あのテントは?」
氷上では大勢がスケートやスノーモービルを楽しんでいる。その中でひときわ目立つカラフルなテント群。
「ワカサギ釣りだ。やる?」
「うん!面白そう」
澄香は体を動かす遊びの方が好きだが、足が心配な今は釣りがちょうどいい。
「くり抜いた氷、厚っ!てかめぢゃぐぢゃ寒いねお兄ぢゃん、これが-20℃…」
「まだ陽があるし-15℃くらいだよ。湖は風を遮るものがないから、気温以上に風がヤバイんだ。強風と氷の冷気で体感温度は-30℃だな。ま、中はストーブがあるし大丈夫だ」
「だ、だまされた…」
澄香は貴明に寄り添い、興味深そうに糸を見つめる。ほどなくしてプラチナのような金属光沢に輝く魚体が次々釣れ出した。釣れたワカサギはその場で天ぷらにして食べる。
「これはうめえー!」
「スーパーで買うのと全然違うね!」
冬の湖の幸を味わいながら、貴明は澄香がしきりに足をさすっているのに気づく。
「具合悪いか?」
「大丈夫。でも足の感覚が…」
「ごめんな、冷えたな。もう帰ろう」
「冷たくはないけど…」
澄香の足はどんどん消滅してきている。爪先だけの時はさほど実感はなかったが、ここに来て、足に力が入らない感覚に襲われ始めていた。
「ほら、おぶっていくから」
貴明が背を向けてしゃがむ。
「いいよ、恥ずかしいよ…子ども扱いしてー」
「何言ってんだよ、いいから乗れって」
澄香は照れながらも貴明の背に乗り、きゅっと腕を首に回した。
「お、案外軽いな」
「どんな骨太のイメージだったのよ。てかもうやだ、最近優しすぎ。大好き…」
「はは、大事な妹だからな」
「違うもん。そういう意味じゃなくて…」
澄香は言葉が出ない。これ以上喋ると号泣しそうだった。
「いつでも支えるよ、澄香なら」
幼い頃、澄香は貴明におんぶされるのが好きだった。もちろん後付けで偽りの記憶だが、2人には温かく大切な思い出だ。
ホテルに入り、澄香は感触を確かめながら地に足をつける。まだ歩けるが、貴明は時々よろける澄香の肩を抱き、部屋に戻った。
夕食後、窓際の椅子に向かい合って座る。賑わう氷の湖面を眺めながら、澄香が切なげな表情で話し始めた。
「お兄ちゃん。すみかちゃんを大事にしてあげてね」
「当然だよ。なんだよ急に」
「うん。お兄ちゃんがすみかちゃんを愛してくれる限り…私も…」
「澄香…」
「2人が会ってると私も温かい気持ちになるんだ。きっとすみかちゃんが嬉しいから」
「そういや、お前がライブに来ないのはすみかちゃんのためだったんだな」
「そう。私たちは同じ場所にいられないみたいなの。すみかちゃんはこっちの世界に来るだけでも負担が大きいはずなんだ」
「でも澄香は1回だけ来たよな。嬉しかったよ」
「一度はこの目で見ておきたくて。楽しかったなあ。お兄ちゃんは楽器さえあれば素敵なんだね。楽器さえあれば」
「2回言うほど重要か⁉︎お前は、どうしていつも自分よりも他人を…」
「何言ってんの、すみかちゃんは私なんだよ」
2人は向かい合ったまま、互いの手を取り合う。
「俺は澄香に会えて本当によかった。妹でもそうでなくても、絶対に離れたくない。そのために試したいことがあるんだ。もうすみかちゃんと梨杏とは決めてる」
「何を…」
「ここで、お前とすみかちゃんを会わせる」
「だめ!そんなことしたら何が起こるか」
「消えてしまう前に可能性を探るんだ。言い出したのはすみかちゃんなんだ」
「すみかちゃんもきっとタダでは済まない」
「覚悟の上だよ。すみかちゃんなりに、澄香への想いは強いんだ」
「私なんかもういいよ!消えればみんな忘れるんだから、2人で幸せになってよ!」
「そうはいくか!」
貴明が澄香の隣に膝立ちになり、ぎゅっと肩を抱く。
「お前1人に寂しい思いはさせない。だからみんなで立ち向かうんだ」
「だめ!絶対だめ!そんな危ないこと…ならすみかちゃんとは会わない!」
「俺の性格は知ってるよな。今さらやめると思うか?」
「だって…だって…」
「俺とすみかちゃんが残れたとしても、お前がいなきゃ無意味なんだよ。だから3人でいられる方法を探す。梨杏も俺たちを助けると戒律に反して、立場がヤバいんだってさ」
「ば…ばか…バカ兄貴…」
澄香は涙が止まらない。
「すみかちゃんは最強のエクストリームだし、梨杏も味方だ。そしてここはカムイの湖だぞ。いける気がしないか?」
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