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#12 Try jah love 〜何を試されるかわからないことが試しそのものだった(2)
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澄香は少し落ち着きを取り戻し、貴明に寄りかかる。
「しょうがないよね。これが澄香のバカ兄貴だもん…」
「偉いぞバカ兄貴の妹よ。そうだ、これ見てくれよ」
貴明は、すみかと撮ったプリクラを澄香に見せる。
「これが…想像より綺麗な人。私と似てるのかなあ?」
「澄香より小柄で雰囲気も落ち着いてるけど、やっぱり似てるよ。この写真の表情もそっくりだろ」
「でも私こんなに大人っぽくないよ。ていうかこれ思いっきり抱きしめてるしカメラ見てないし、普通こんなん撮る?むー!」
「そ、そこはいいだろ。で、今日うまくすみかちゃんと会えたとして…」
真剣な表情に変わる貴明。澄香も重大さを認識する。
「私はどうすれば?」
「たった一つ。存在が消えないように気を強く持て。梨杏によると、消滅の進行はメンタルである程度コントロールできるらしい。澄香とすみかちゃんが出会って、最後に3人一緒が残っていたら、たぶん俺たちの勝ちだ」
「わかった。覚悟する。その前にこれを見て」
澄香は浴衣の裾をめくる。貴明は信じられない光景に目を疑う。
「足が…くるぶしから下がないじゃないか」
「でもまだ歩けるの。これ見ると絶望しか…」
貴明は透明なところを触る。畳は透けて見えるが足の形はあり、体温も感じる。
「いや違うぞ澄香、これは希望だ。逆に考えろ、消滅にはだいぶ時間がかかるってことだよ。梨杏によると自然の力が高まるのは真夜中だから、決行は午前0時。それまで温泉で体を温めておこう」
「うん。お兄ちゃん…」
肩に乗せた顔を上げ、澄香は貴明の頬に軽くキスした。そしてまたしなだれかかる。
「おま…意外に余裕あるな…」
貴明はこの程度で相も変わらず真っ赤である。まあ澄香も同じく真っ赤だが。その後、景気づけとお浄めということで2人は大浴場に向かった。
30分後。先に部屋に戻った貴明は澄香を待ちながら、今朝がたアザーサイドに行き、すみかと梨杏と話し合ったことを思い出していた。
「共存。融合。片方あるいは両方が消し飛ぶ。ま、どれかだろ」
「梨杏、本当はアホなのでは?それが可能性の全部だろ」
澄香は消えゆく運命だからこそ、逆療法的な危険な賭けをする意味がある。だが、すみかは澄香と同じ時空でどこまで耐えられるのか。すみかの負担は免れそうにない。
「いいんです。無傷で済むなんて思ってない。全部私のせいなんだから」
「だめよ、犠牲なんて考えると破綻する。エクスペリエンストの力は心の力だもの」
「でも確かにすみかちゃんも心配だよ」
「いいの、未来のためなんだから。私だって貴明さんといたいもの。澄香ばっかり一緒にいて、あの娘にだけいい思いなんてさせるもんですか!うふっ」
笑いながらペロッと舌を出す。貴明が大好きな可愛らしい表情だ。
「お、いいねえ泥沼の三角関係!これよー!」
「梨杏…少し黙っててくれんか?てかすみかちゃんキャラ変わってきたね…」
和んだのも一瞬、梨杏が深刻な表情をみせる。
「貴明、すみか。私は禁忌に触れてるせいで監視されてるの。たぶんもうすぐあなた達に会えなくなる。とっ捕まったら謹慎300年だわ。あーあ、面倒な子の世話係になったのが運の尽きか」
「謹慎なんて…寂しい。ごめんなさい梨杏さん、私に変な力があるばかりに」
「研究材料としては超一級よ。神は喜んでるでしょ。私は面白くないけどね!」
「梨杏、人の心がわかるようになったな。俺は今たいへん感動している」
「うっさいわ小僧!」
「あは、なんだか貴明さんみたい」
「俺だって寂しいよ!でもその前に教えてくれ。どうやって俺たちのことを見てたんだ?」
「見てた?」
「そうなんだよ。こいつは普段から俺たちを覗いて…空からか?」
あの初詣の逢瀬も見られていたと気づいたすみかの顔が、破裂寸前に赤くなる。
「はっはー!これも禁忌だが、どうせ謹慎一直線だから教えてやるか。天空からじゃ頭しか見えないから、お前たちの濃厚エロシーンを堪能できないだろ。ほれ」
と言うなり姿がどんどん変わっていく梨杏。整った顔自体はそう変わらないが、手足が伸びて大人っぽくなり、メガネまで現れる。貴明とすみかは腰が抜ける。
「おま…美優か⁉︎なんというデタラメな…てかエロって何だ、しかも濃厚ってこのやろう」
「へっへっへー!あとは…」
またも姿が変化する。巫女姿だ。
「向坂さん?うっそー⁉︎」
「誰だ?」
「ほら初詣の時、バイトを仕切ってた大学生の…休憩時間って教えてくれた人」
「そうよ高嶺さん。あの時は絶妙なタイミングで2人きりにしたおかげでいいもんが見られたわ。うひゃあ!」
すみかと貴明は、揃って赤ら顔で下を向いて拳を握り、ワナワナしている。
「な、わかったろ。こいつをうかつに信じると斜め上方向に裏切ってくれんだよ」
「ま、逆に心強いわ。だってここまでバラしたのなら、もう裏切れないものね…」
ふふふふ…と、2人は悪い笑顔で巫女姿の梨杏に詰め寄る。梨杏はさすがに慌てて、
「あれれ?お前ら根っこは同じなのかな?あは、あはは…」
ひとしきり笑った後、3人はそれぞれ覚悟を決めて別れた。
貴明はその覚悟を思い出しながら澄香を待つ。だがさらに1時間を過ぎても澄香は戻らず、嫌な予感に苛まれた貴明は、クローゼットを調べる。
…やられた。貴明は自らの油断を悔いた。澄香の服がない。どこへ行った‼︎…その悲痛な思いに梨杏が感応したようで、意識の中で声が聞こえた。
(貴明!澄香がいないんだね)
「1人で消えてなくなる気かもしれない。吹雪いてきてるぞ…今日は穏やかな予報だったのにこれじゃ本当に-30℃だ。マズイマズイマズイぞ!」
「澄香は死でも消滅でも同じと思ってるんだ。絶望してるんだよ」
「あいつ!俺たちを信じろって…」
「無闇に探しに出ても、夜の森じゃ見つけられない。でも貴明!あんただけは澄香を追えるだろ。ドアを使うんだ」
「どうやって…」
「基本を忘れたかい?相手を想って…」
貴明は強く澄香を想う。笑顔も泣き顔も声も匂いも、愛しい妹の全てを全部全部思い出す。
「しょうがないよね。これが澄香のバカ兄貴だもん…」
「偉いぞバカ兄貴の妹よ。そうだ、これ見てくれよ」
貴明は、すみかと撮ったプリクラを澄香に見せる。
「これが…想像より綺麗な人。私と似てるのかなあ?」
「澄香より小柄で雰囲気も落ち着いてるけど、やっぱり似てるよ。この写真の表情もそっくりだろ」
「でも私こんなに大人っぽくないよ。ていうかこれ思いっきり抱きしめてるしカメラ見てないし、普通こんなん撮る?むー!」
「そ、そこはいいだろ。で、今日うまくすみかちゃんと会えたとして…」
真剣な表情に変わる貴明。澄香も重大さを認識する。
「私はどうすれば?」
「たった一つ。存在が消えないように気を強く持て。梨杏によると、消滅の進行はメンタルである程度コントロールできるらしい。澄香とすみかちゃんが出会って、最後に3人一緒が残っていたら、たぶん俺たちの勝ちだ」
「わかった。覚悟する。その前にこれを見て」
澄香は浴衣の裾をめくる。貴明は信じられない光景に目を疑う。
「足が…くるぶしから下がないじゃないか」
「でもまだ歩けるの。これ見ると絶望しか…」
貴明は透明なところを触る。畳は透けて見えるが足の形はあり、体温も感じる。
「いや違うぞ澄香、これは希望だ。逆に考えろ、消滅にはだいぶ時間がかかるってことだよ。梨杏によると自然の力が高まるのは真夜中だから、決行は午前0時。それまで温泉で体を温めておこう」
「うん。お兄ちゃん…」
肩に乗せた顔を上げ、澄香は貴明の頬に軽くキスした。そしてまたしなだれかかる。
「おま…意外に余裕あるな…」
貴明はこの程度で相も変わらず真っ赤である。まあ澄香も同じく真っ赤だが。その後、景気づけとお浄めということで2人は大浴場に向かった。
30分後。先に部屋に戻った貴明は澄香を待ちながら、今朝がたアザーサイドに行き、すみかと梨杏と話し合ったことを思い出していた。
「共存。融合。片方あるいは両方が消し飛ぶ。ま、どれかだろ」
「梨杏、本当はアホなのでは?それが可能性の全部だろ」
澄香は消えゆく運命だからこそ、逆療法的な危険な賭けをする意味がある。だが、すみかは澄香と同じ時空でどこまで耐えられるのか。すみかの負担は免れそうにない。
「いいんです。無傷で済むなんて思ってない。全部私のせいなんだから」
「だめよ、犠牲なんて考えると破綻する。エクスペリエンストの力は心の力だもの」
「でも確かにすみかちゃんも心配だよ」
「いいの、未来のためなんだから。私だって貴明さんといたいもの。澄香ばっかり一緒にいて、あの娘にだけいい思いなんてさせるもんですか!うふっ」
笑いながらペロッと舌を出す。貴明が大好きな可愛らしい表情だ。
「お、いいねえ泥沼の三角関係!これよー!」
「梨杏…少し黙っててくれんか?てかすみかちゃんキャラ変わってきたね…」
和んだのも一瞬、梨杏が深刻な表情をみせる。
「貴明、すみか。私は禁忌に触れてるせいで監視されてるの。たぶんもうすぐあなた達に会えなくなる。とっ捕まったら謹慎300年だわ。あーあ、面倒な子の世話係になったのが運の尽きか」
「謹慎なんて…寂しい。ごめんなさい梨杏さん、私に変な力があるばかりに」
「研究材料としては超一級よ。神は喜んでるでしょ。私は面白くないけどね!」
「梨杏、人の心がわかるようになったな。俺は今たいへん感動している」
「うっさいわ小僧!」
「あは、なんだか貴明さんみたい」
「俺だって寂しいよ!でもその前に教えてくれ。どうやって俺たちのことを見てたんだ?」
「見てた?」
「そうなんだよ。こいつは普段から俺たちを覗いて…空からか?」
あの初詣の逢瀬も見られていたと気づいたすみかの顔が、破裂寸前に赤くなる。
「はっはー!これも禁忌だが、どうせ謹慎一直線だから教えてやるか。天空からじゃ頭しか見えないから、お前たちの濃厚エロシーンを堪能できないだろ。ほれ」
と言うなり姿がどんどん変わっていく梨杏。整った顔自体はそう変わらないが、手足が伸びて大人っぽくなり、メガネまで現れる。貴明とすみかは腰が抜ける。
「おま…美優か⁉︎なんというデタラメな…てかエロって何だ、しかも濃厚ってこのやろう」
「へっへっへー!あとは…」
またも姿が変化する。巫女姿だ。
「向坂さん?うっそー⁉︎」
「誰だ?」
「ほら初詣の時、バイトを仕切ってた大学生の…休憩時間って教えてくれた人」
「そうよ高嶺さん。あの時は絶妙なタイミングで2人きりにしたおかげでいいもんが見られたわ。うひゃあ!」
すみかと貴明は、揃って赤ら顔で下を向いて拳を握り、ワナワナしている。
「な、わかったろ。こいつをうかつに信じると斜め上方向に裏切ってくれんだよ」
「ま、逆に心強いわ。だってここまでバラしたのなら、もう裏切れないものね…」
ふふふふ…と、2人は悪い笑顔で巫女姿の梨杏に詰め寄る。梨杏はさすがに慌てて、
「あれれ?お前ら根っこは同じなのかな?あは、あはは…」
ひとしきり笑った後、3人はそれぞれ覚悟を決めて別れた。
貴明はその覚悟を思い出しながら澄香を待つ。だがさらに1時間を過ぎても澄香は戻らず、嫌な予感に苛まれた貴明は、クローゼットを調べる。
…やられた。貴明は自らの油断を悔いた。澄香の服がない。どこへ行った‼︎…その悲痛な思いに梨杏が感応したようで、意識の中で声が聞こえた。
(貴明!澄香がいないんだね)
「1人で消えてなくなる気かもしれない。吹雪いてきてるぞ…今日は穏やかな予報だったのにこれじゃ本当に-30℃だ。マズイマズイマズイぞ!」
「澄香は死でも消滅でも同じと思ってるんだ。絶望してるんだよ」
「あいつ!俺たちを信じろって…」
「無闇に探しに出ても、夜の森じゃ見つけられない。でも貴明!あんただけは澄香を追えるだろ。ドアを使うんだ」
「どうやって…」
「基本を忘れたかい?相手を想って…」
貴明は強く澄香を想う。笑顔も泣き顔も声も匂いも、愛しい妹の全てを全部全部思い出す。
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