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#14 Sometimes it snows in April 〜4月の雪なんて何かの前兆なのが見え見えだった(1)
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すみかは自分たちを守って消滅した。残酷な結果でありながらも満ち足りた最期の様子を聞かされ、貴明は慟哭する。
「すみかちゃん‼︎守れなかった…」
「違うの。お姉ちゃんは、お兄ちゃんがそう思うことを心配してたよ」
「どういうことだよ…」
澄香は貴明の手を取り自らの胸に当てた。すみかの声が貴明の頭に流れ込む。
(貴明さん。私は元どおりになれたの。だから悲しまないで)
愛しい声を聞き、よろよろとすがるように澄香の胸にしがみつく。澄香が貴明の頬を撫でる。その感覚は確かにすみかの、あのか細く頼りない指と同じだった。
「今わかった。勝ったつもりでいたけどさ、きっと全部神の思い通りなんだ」
「澄香とお姉ちゃんは、どうやっても一緒にはいられないんだね。なぜ、異常な存在の澄香が残ったの」
「それがすみかちゃんの意志だよ。神への反逆かもな。本体のすみかちゃんが残る方が自然なのに、いつも自分を殺してばかりで」
「お姉ちゃん…教えてよう」
突如、澄香の目つきが変わった。少しキリッとした、いつも貴明の心を射抜く…すみかの視線であった。
「貴明さん、私は自分を殺してなんてないですよ。澄香も!わかってないんだから…私たちは、こうやって3人でいるじゃないですか」
「すみかちゃんなのか…」
その声は、すみかの声と全く同じ響きだった。
「はい。私はここにいます。でもいずれ、意識は澄香の心の深い部分に沈むでしょう」
「そんな…俺はどうすれば…」
「心配しないで。私たちは同一人物です。澄香の天真爛漫さは私にもあったはずなのに、私は殻に閉じこもって、人を恐れて、生に向き合わなかった。きっと澄香は、私が本来ありたいと願った姿だと思うの。だから今は、なりたかった自分に戻ったんです」
「わかる気がする。でも…」
「4年前に澄香が生まれなければ、間違いなく私はもっとダメになっていました。私は澄香に救われて、今日からは澄香と一緒に、目を背けていた風景を見られるんです」
「そのために消えないといけないなんて」
「だから消えてないの!戻っただけ。澄香は今後少しずつ変わっていくけど、今までどおりに愛してあげてね。それが、私を想ってくれることにもなるんだから」
頭では理解できる気がする。だがすみかの憂いを帯びた表情や上品な物腰、柔らかな肌や唇、キツめの冗談…貴明にとっての宝。それに会えない悲痛な寂寥感が襲う。
「考えたら、会ってからたった1ヶ月なんだね」
「私には初めての、宝石のような時間でした。あなたといると、過ぎゆく1秒さえ愛おしかった」
「俺もこんな気持ちは初めてだよ。だから融合したとはいっても、澄香を好きになれる自信がないんだ」
「あら、それは一番簡単だと思いますよ、今までどおりでいいんだから。あ、そっか。でももう妹ではないから逆に難しいですかねえ…くすっ」
「すみかちゃん…ひょっとして面白がってる?」
「くすくすっ、どうかしら。そうだ貴明さん、一つお願いがあるの」
澄香の姿を借りたすみかは貴明の肩に手を置き、優しい笑顔で正面から貴明を見つめる。融合の影響か、以前に比べすみかの面影が強い。よく見ると瞳は澄香の黒でなく、すみかの碧に変わっている。感じていた違和感はこれか。
「もう一度キス…」
言い終わるのを待たず2人は唇を重ねる。甘い匂いと柔らかさは、確かにすみかのそれと寸分の違いもない。貴明は同じ時を過ごした1ヶ月の幸福感や昂りを思い出していた。
「私の貴明さん…」
すみかはうっとりしていたが、不意に体の力が抜ける。唇を重ねたまま、今度は逆にビクッ!と体がこわばった。
「ん…わわっ!おおお兄ちゃん⁉︎一体ななな何を?」
「何言って…ん?す、澄香か?ふうおおっ⁉︎」
瞬間、いやああああ!という叫びとともに、澄香のキラーカンばりのモンゴリアンチョップが10連発で貴明に炸裂した。
「へへ変態っ!」
「だまされた…思いっきり妹と、いや妹的な者とキスしてしまった…」
(えへへ、あなたたちキスはまだなんでしょ?くすくすっ)
すみかの楽しげな笑い声が聞こえた。彼女の可愛い悪戯心は好きだが、これは…
「は、話を聞け!すみかちゃんがしたいって言うから…」
「嘘だ!澄香には聞こえなかったもん」
「いや落ち着け、前提がおかしいぞ。お前は実は妹ではなくて、かつ俺を…俺を好きでいてくれるんだろ?」
「そだね…」
「ならば何か問題でも?」
少し余裕ができると、貴明は途端に意地悪心が湧いてくる。
「…でも心の準備というか…もー!ちゃんとしてほしいの!こういうのは」
「そうか。だが俺は悟りました」
「え…」
「呼び方が悪い。俺は兄ではないのだから、呼び方を変えるべきなのだと」
「そんな…」
澄香は悩む。
「貴明さんだとお姉ちゃんとカブるし、いきなり貴明は…」
「すみかちゃんとカブるのは確かに危険だ。ハメられる」
「タ、タカくんならどうかな…」
「よし、それで行ってみよう」
「タ…タ…」
「どうした澄香!たった4文字だぞ!」
2人とも顔が真っ赤だ。兄妹ではなくなったのに以前にも増して馬鹿兄妹である。
「タ、タカく……いやーこれ無理!これダメー!」
高速モンゴリアンチョップがさらに14回炸裂する。もう貴明の首はプラプラだ。
「…すみかちゃんが一緒でもバイオレンスじゃねえか」
「変だね?よし!お兄ちゃんだ!澄香はお兄ちゃんがいい」
「だから、それだと世間的にどうよって話なんだが」
「大丈夫!幼なじみはみんなお兄ちゃんって呼んでるよ。普通だよニッチだけど」
「んな奴いるか!てかサラッとニッチとか言ってるし」
無駄に騒いでいるうち、ようやくスノーモービルの救助隊が駆けつけた。
「無事ですか⁉︎怪我は…あっ、首がプラプラじゃないですか!これはむごい、一体どんな衝撃を受ければ…そういえば凄い落雷がありましたよね」
「いやこれは今妹に…いや別に…」
「うなされている。危険だ、急ぐぞ!」
救出されて治療を終え、警察の求めで形式的な書類を書いて2人は解放される。本来なら進入禁止区域にいたことをコッテリ絞られ、捜索費用の請求もあり得る事案。だが対応した警官や救助隊が全員響子の知り合いらしく、連絡を受けた響子がゴニョゴニョしてくれたようだ。ビバ田舎。
「すみかちゃん‼︎守れなかった…」
「違うの。お姉ちゃんは、お兄ちゃんがそう思うことを心配してたよ」
「どういうことだよ…」
澄香は貴明の手を取り自らの胸に当てた。すみかの声が貴明の頭に流れ込む。
(貴明さん。私は元どおりになれたの。だから悲しまないで)
愛しい声を聞き、よろよろとすがるように澄香の胸にしがみつく。澄香が貴明の頬を撫でる。その感覚は確かにすみかの、あのか細く頼りない指と同じだった。
「今わかった。勝ったつもりでいたけどさ、きっと全部神の思い通りなんだ」
「澄香とお姉ちゃんは、どうやっても一緒にはいられないんだね。なぜ、異常な存在の澄香が残ったの」
「それがすみかちゃんの意志だよ。神への反逆かもな。本体のすみかちゃんが残る方が自然なのに、いつも自分を殺してばかりで」
「お姉ちゃん…教えてよう」
突如、澄香の目つきが変わった。少しキリッとした、いつも貴明の心を射抜く…すみかの視線であった。
「貴明さん、私は自分を殺してなんてないですよ。澄香も!わかってないんだから…私たちは、こうやって3人でいるじゃないですか」
「すみかちゃんなのか…」
その声は、すみかの声と全く同じ響きだった。
「はい。私はここにいます。でもいずれ、意識は澄香の心の深い部分に沈むでしょう」
「そんな…俺はどうすれば…」
「心配しないで。私たちは同一人物です。澄香の天真爛漫さは私にもあったはずなのに、私は殻に閉じこもって、人を恐れて、生に向き合わなかった。きっと澄香は、私が本来ありたいと願った姿だと思うの。だから今は、なりたかった自分に戻ったんです」
「わかる気がする。でも…」
「4年前に澄香が生まれなければ、間違いなく私はもっとダメになっていました。私は澄香に救われて、今日からは澄香と一緒に、目を背けていた風景を見られるんです」
「そのために消えないといけないなんて」
「だから消えてないの!戻っただけ。澄香は今後少しずつ変わっていくけど、今までどおりに愛してあげてね。それが、私を想ってくれることにもなるんだから」
頭では理解できる気がする。だがすみかの憂いを帯びた表情や上品な物腰、柔らかな肌や唇、キツめの冗談…貴明にとっての宝。それに会えない悲痛な寂寥感が襲う。
「考えたら、会ってからたった1ヶ月なんだね」
「私には初めての、宝石のような時間でした。あなたといると、過ぎゆく1秒さえ愛おしかった」
「俺もこんな気持ちは初めてだよ。だから融合したとはいっても、澄香を好きになれる自信がないんだ」
「あら、それは一番簡単だと思いますよ、今までどおりでいいんだから。あ、そっか。でももう妹ではないから逆に難しいですかねえ…くすっ」
「すみかちゃん…ひょっとして面白がってる?」
「くすくすっ、どうかしら。そうだ貴明さん、一つお願いがあるの」
澄香の姿を借りたすみかは貴明の肩に手を置き、優しい笑顔で正面から貴明を見つめる。融合の影響か、以前に比べすみかの面影が強い。よく見ると瞳は澄香の黒でなく、すみかの碧に変わっている。感じていた違和感はこれか。
「もう一度キス…」
言い終わるのを待たず2人は唇を重ねる。甘い匂いと柔らかさは、確かにすみかのそれと寸分の違いもない。貴明は同じ時を過ごした1ヶ月の幸福感や昂りを思い出していた。
「私の貴明さん…」
すみかはうっとりしていたが、不意に体の力が抜ける。唇を重ねたまま、今度は逆にビクッ!と体がこわばった。
「ん…わわっ!おおお兄ちゃん⁉︎一体ななな何を?」
「何言って…ん?す、澄香か?ふうおおっ⁉︎」
瞬間、いやああああ!という叫びとともに、澄香のキラーカンばりのモンゴリアンチョップが10連発で貴明に炸裂した。
「へへ変態っ!」
「だまされた…思いっきり妹と、いや妹的な者とキスしてしまった…」
(えへへ、あなたたちキスはまだなんでしょ?くすくすっ)
すみかの楽しげな笑い声が聞こえた。彼女の可愛い悪戯心は好きだが、これは…
「は、話を聞け!すみかちゃんがしたいって言うから…」
「嘘だ!澄香には聞こえなかったもん」
「いや落ち着け、前提がおかしいぞ。お前は実は妹ではなくて、かつ俺を…俺を好きでいてくれるんだろ?」
「そだね…」
「ならば何か問題でも?」
少し余裕ができると、貴明は途端に意地悪心が湧いてくる。
「…でも心の準備というか…もー!ちゃんとしてほしいの!こういうのは」
「そうか。だが俺は悟りました」
「え…」
「呼び方が悪い。俺は兄ではないのだから、呼び方を変えるべきなのだと」
「そんな…」
澄香は悩む。
「貴明さんだとお姉ちゃんとカブるし、いきなり貴明は…」
「すみかちゃんとカブるのは確かに危険だ。ハメられる」
「タ、タカくんならどうかな…」
「よし、それで行ってみよう」
「タ…タ…」
「どうした澄香!たった4文字だぞ!」
2人とも顔が真っ赤だ。兄妹ではなくなったのに以前にも増して馬鹿兄妹である。
「タ、タカく……いやーこれ無理!これダメー!」
高速モンゴリアンチョップがさらに14回炸裂する。もう貴明の首はプラプラだ。
「…すみかちゃんが一緒でもバイオレンスじゃねえか」
「変だね?よし!お兄ちゃんだ!澄香はお兄ちゃんがいい」
「だから、それだと世間的にどうよって話なんだが」
「大丈夫!幼なじみはみんなお兄ちゃんって呼んでるよ。普通だよニッチだけど」
「んな奴いるか!てかサラッとニッチとか言ってるし」
無駄に騒いでいるうち、ようやくスノーモービルの救助隊が駆けつけた。
「無事ですか⁉︎怪我は…あっ、首がプラプラじゃないですか!これはむごい、一体どんな衝撃を受ければ…そういえば凄い落雷がありましたよね」
「いやこれは今妹に…いや別に…」
「うなされている。危険だ、急ぐぞ!」
救出されて治療を終え、警察の求めで形式的な書類を書いて2人は解放される。本来なら進入禁止区域にいたことをコッテリ絞られ、捜索費用の請求もあり得る事案。だが対応した警官や救助隊が全員響子の知り合いらしく、連絡を受けた響子がゴニョゴニョしてくれたようだ。ビバ田舎。
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