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大事なこと
しおりを挟む「もう、女として見れなくなったんだよね。」
よく『鈍器のような物で頭を殴られたような衝撃が走った。』
とかって小説で表現されてるような衝撃を
まさか、自分が体現することになるなんて
夢にも思わなかった。
少し前から
彼の態度がよそよそしいことには気付いてた。
でも、まさか
そんなことを言われるなんて思いもしなかった。
「あんなに『可愛い、可愛い』って言ってたじゃないか。」
そう言いながら
鏡の中の自分をまじまじと見る。
数年前より丸みを帯びた頬。
後ろでひっつめただけの黒い髪。
化粧はマスカラと眉毛のみ。
冬から春への季節の変わり目で
唇に潤いはなかった。
太ったのは、好き嫌いが多い彼が残したものを
勿体ないからと胃に詰め込んだり、
マヨラーの彼に合わせた食生活を送っていたからだし、
化粧品とか髪にお金をかけないようにしてたのは、
結婚資金を貯めるために節約してたから…
なんて、言い訳を考えてはみるけれど
何てことはない、
ただの怠慢だ。
彼女という肩書に
ただただあぐらをかいていた
私の怠慢に他ならないことは
頭ではキッチリ理解していた。
していたが、納得は出来るはずもなかった。
「なんで、そんな酷いこと言われなきゃいけないんだ。」
でも、きっと大丈夫。
彼はまた私を女として愛してくれる。
8年もの長い間
付き合ってきたんだから
今更別れるなんて言い出さない…
はずだと思っていた。
「もう、無理だと思うんだよね。」
心臓の音がうるさい。
呼吸が出来なくて
肩を大きく動かした。
「別れよう。」
まさかがやってきてしまった。
信じられなかった。
信じたくなかった。
モウ、アイシテモラエナイ。
月のない真っ暗な夜に
明日明後日、生活出来る物だけスーツケースに詰めて
彼の部屋を飛び出した。
実家に数日帰ったけれど
なんだか居心地が悪くて
すぐに賃貸マンションの一室を借りた。
カシャン…
床に置いた鍵が音を鳴らしたのと同時に
バッグの中のスマホが震える。
彼からのLINEを知らせて光っていた。
『残ってる荷物、いつ取りに来る?』
私は大きめのため息をひとつ、大げさに吐いて
まだ、カーテンもかかっていない窓の外を眺めた。
オレンジ色の夕日が
ビルの間に沈んでいく。
これから夜が来る。
ひとりぼっちの夜が。
アイシテモラエナイ、ヒトリノヨルガ。
顎からポトンと冷たいものが
腕に落ちた。
悲しい。
その気持ちが溢れ出した。
夕日はあんなに綺麗なのに
私はなんて惨めで哀れなんだろう。
あんなに好きだと、愛してると言った
同じ口で、私をこんなに惨めにさせる言葉を吐くんだ。
「お前の、泣き虫でわがままで怒りん坊なとこが好きだよ。」
なんで、こんな時に
そんなことを思い出すんだ。
惨めったらしく、
未練タラタラな自分に反吐が出る。
あれは冗談だと思っていたのに…
私にとって『泣き虫』も『わがまま』も『怒りん坊』も
短所だと思って、一生懸命押し込めて来たのに…
結婚して夫婦になる。
私はいい奥さんに
いいお母さんにならなければいけない。
だから、それらは不要のものだと
捨て去ろうとして
頑張ってきたのに…
アナタガアイシタワタシヲ
ワタシガコロシタンダネ。
「もう、女として見れなくなったんだよね。」
そんな酷い言葉がよく言えたもんだと
そう思っていたけれど、
この言葉が浮き彫りにしたのは
誰よりも女でいたかったのは私だったってことだ。
大人になるために私が導き出した正解が
私自身を殺していたなんて
これっぽっちも気付かなかった。
「こんなに泣き虫なのに…」
ガランとした部屋に震える声がコダマする。
その振動が耳を通って
心を揺さぶった。
「悲劇のヒロインかよ。」
斜め上から私を見下ろしている
もうひとりの私が鼻で笑っている。
夕日が完全に姿を消し
街灯の明かりが灯る頃、
最後の一筋が頬を滑り落ちた。
ワタシハワタシヲイキヨウ。
大事なことに気付かせてもらえたから…
なんて感謝なんか絶対にしないし
出来るはずもない。
ありがとうなんて言わない。
デモ、アイシテタ
シ、
アイサレテタ。
それだけは本当。
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