勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
26 / 625
吸血鬼と聖女と聖騎士と

第一章第24話 新たなる聖女候補

しおりを挟む
2020/08/20 誤字を修正しました
================

「え? 満室? どういうことだ? 聖女であらせられるフィーネ様がお泊りになられるのだぞ?」

いやいや、何言ってんだ。この脳筋くっころお姉さん。それ、ただのクレーマーだから。

「クリスさん、大丈夫ですよ。他の『宿』に行きましょう。うん、私も宿屋というものに泊まってみたかったんですよ」

王都に帰ってきていつもの高級ホテルに向かったところ、満室で一部屋も空いていないらしい。団体さんでも来ているのかな?

「しかし!」
「申し訳ございません。フィーネ様。クリスティーナ様。次回にいらしていただいた際はサービスいたしますので、是非とも当ホテルをよろしくお願いいたします」
「ありがとうございます。ほら、仕方ないですよ。クリスさん。他の『宿』に行きましょう!」

やった! 何たる幸運! 一泊で金貨 10 枚 50 万円相当が飛んでいくという恐ろしい部屋に泊まらずに済む。

「クリスさん、普通の人が泊まる宿で良いですからね? さっきのホテルみたいなところじゃなくて良いですからね?」

なんですか? そのジト目は。私は貴族じゃないんだから見栄を張らなくていいの!

「かしこまりました。ですが、設備や使用人のレベルなども含め、最低限のラインと言うものはございます。その点はどうかご了承ください」
「はい」

とりあえず、多少は妥協してくれそうだ。これ以上無駄な出費は増やしたくないからね。

「それでは、先に神殿へ参りましょう。教皇猊下にお会いして、仕事の達成を報告してしまいましょう。フィーネ様がご歓談されている間に私は宿の手配をして参ります」
「わかりました。お願いします。」


****

「おお、フィーネ嬢。よくぞお戻りになられましたな」

そうして神殿に着いた私たちは、応接に通され教皇様と面会していた。

「はい。教皇様。パーシー村のゾンビ 12 匹を浄化して、墓地だけじゃなくて村も全部まとめて浄化しておきました。これでもう大丈夫だと思います」
「なんと、村全部ですか。それは大変でしたね」

教皇様はいつもと変わらぬ優しい口調で労ってくれる。

「それほど広い村ではありませんでしたからね。半日くらいで終わりました」
「そうですか。それはそれは。大変お疲れ様でした。聖騎士クリスティーナも、フィーネ嬢の護衛、お疲れ様でした」
「恐縮です」

すると、教皇様が突然話題を変えてきた。

「さて、フィーネ嬢。今の状態を見て差し上げましょう」
「見る?」

はて、なんのことだろうか?

「ええ。フィーネ嬢はまだ職を得たばかりですからな。いきなり聖女候補だ、などと言われても実感の乏しいことでしょう。治癒師としての成長でも構いませんし、何か悩んでいることでもあれば相談に乗りますよ」

相変わらず口調は優しく、心配してくれているというのが伝わってくる。

「はい。そうですね……」

とはいえ、一体何を聞こうか。これを機会に根本的なことを質問しても良いかもしれない。

「フィーネ様、猊下、私はフィーネ様の宿の手配をするためにしばし席を外させていただきます。今回の依頼の詳細な報告書は午後 4 時の鐘の鳴る頃に改めてお持ちいたします」
「そうでしたか。ああ、いつもフィーネ嬢がお泊りのホテルはガティルエ公爵家が貸し切っていますからな」
「貸し切り?」
「ええ。ガティルエ公爵家のシャルロット嬢が聖騎士ユーグ・ド・エルネソスに見出され聖女候補となったのです。それで公爵領よりこの王都にやってきまして、陛下に謁見しこの神殿に礼拝にくる予定なのです。フィーネ嬢もいずれはお会いすることになるでしょう」
「ふーん?」

まあ、私には関係ない話かな。吸血鬼が聖女なんかになるわけないしね。

「シャルロット様にユーグですか……」
「ああ、貴女にとっては苦手な相手でしたね」

クリスさんは沈黙をもって答える。

「それでは、フィーネ様、猊下。行って参ります」

そう言い残すと、クリスさんは足早に出ていった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

処理中です...