勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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花乙女の旅路

第三章第10話 砂漠を渡る商隊

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「このお嬢さんたちをレッドスカイ帝国まで運んで欲しい?」
「そうなんだ。マルコの旦那、頼むよ。腕は確かのようだし、どうだい?」
「そうは言われてもな……」

宿のオヤジさんが商隊の団長のマルコさんと交渉してくれているが、マルコさんは渋い顔をしている。この先は山を越えてすぐに不毛な砂漠地帯に突入する。その時に私たちだけ砂漠を越えるよりは商隊に同行させてもらう方が遭難のリスクが少なくて済むのだ。

「お嬢さんがたは、何ができるんだ?」
「護衛ができます。剣士二人に弓士が一人、それに私は【回復魔法】と【聖属性魔法】が使えます」
「うちは女性に護衛を頼むほど人に困ってはいないからなぁ。つまり、聖職者であるお嬢ちゃんの巡礼の旅、といったところかい?」
「そんなところです。お務めを果たすためにツィンシャへ行く必要があります」

聖職者の務めではないが、まあエルフにとっての聖職者と言えなくもないかもしれないし、お務めなのには変わらないから嘘ではないはずだ。

聖女と名乗ると色々と面倒なことになりそうだし、今回はエルフの里が目的地なので聖女のネームバリューに頼って余計な荷物を背負いたくない。

「そりゃまた随分と辺境に行くんだね。天空山脈の近くじゃないか。うーん、力になってあげたいのは山々だけど、他にできることはないのかい? 例えば【水属性魔法】が使えるとかはないかい?」
「スキルレベル 1 であれば使えますよ」
「1 か。 1 じゃなぁ。うーん、 2 あれば良かったんだが」
「それってつまり、この先の砂漠で水が必要ってことですよね。どれくらい出せれば良いですか?」
「一度にそこの水瓶みずがめを満タンにできるくらい出せればいいよ」
「わかりました。あの、そこの水瓶に水をいれても良いですか?」

私は宿のオヤジさんに尋ねると了承してくれたので私は水を入れ始める。

──── 【水属性魔法】水よ出てこい

パシャッ

コップ一杯程度の水が出てくる。

これを MP の許す限り連続で発動し続ける。

パシャパシャパシャパシャ……

そして、続けること約 100 回、ようやく水瓶が満杯になった。

「どうでしょうか?」
「あ、ああ。すごいな。わかったよ。俺はマルコ。マルコキャラバンの隊長だ。お嬢さんたちを仲間として歓迎するよ」
「ありがとうございます。私はフィーネ・アルジェンタータ。こちらから順にクリスティーナ、ルミア、シズク・ミエシロです。よろしくお願いします」

こうして私たちはマルコキャラバンに加わることとなったのであった。

****

私たちはユルギュの町を出発した。ラクダの数十頭大所帯だ。マルコキャラバンはマルコさんを含めて 5 人、ラクダが一列にならんで歩く様は圧巻である。

そして、私はラクダに騎乗している。そう、この世界に来て初めて馬車以外の乗り物に乗ったのだ。ラクダなんて前の世界でも乗ったことがないのでちょっと楽しい。

ちなみに、ラクダに乗っているのは私だけだ。なんでも、私の役割は水筒なので、それまでに余計な体力を使わない様にと歩くのを免除されたのだ。

「しかしフィーネさん、そんなに簡単にラクダを乗りこなすとは思わなかったよ。聖職者はほとんど運動はダメな人が多い印象だが、そうでもない人もいるんだなぁ」

マルコさんが褒めてくれるが、別に乗りこなせているわけではない。ちょっと目と目を合わせてお願いしただけだ。そうしたら優しいこの子は快く引き受けてくれたのだ。

ん? 何か良からぬことをした? 何を言っているんですか。おかしなこと言う人は浄化しますよ?

「この子が優しいから乗せてくれているだけです。私はただ手綱を持っているだけですよ」
「ははは。それだけでそんなに乗れたら人間苦労はないよ」

私は人間じゃなくて吸血鬼だからね。って、そういう意味じゃないか。

「フィーネ様は動物に好かれる体質のようですからね。私が初めてフィーネ様にお会いした時は森の小鳥たちに果物を貰っていましたよね」
「ああ、そういえば。そんなこともありましたね。懐かしい」

そうこうしているうちに私たちは山を越え、砂漠地帯へと突入する。目の前には草一つ生えていない荒涼とした大地が広がる。砂漠と言っても砂浜のような感じではなくごろごろとした小石も落ちている不毛の大地といった感じだ。

この砂漠地帯を抜けるのになんと十日もかかる。途中、ここから六日ほどの場所に一か所だけオアシスがあるそうなのだが、それ以外は全て野宿となるのだという。

「さて、そろそろ野営の準備をしよう」

マルコさんがそう宣言し、私たちは野営の準備に取り掛かる。さあ、私の出番だ。

「それじゃあ、フィーネさん。お水を頼むよ」
「任せてください」

私は受け取った水筒を洗浄魔法できれいにしてからその中に水を詰めていく。

そう、私がやっているのはすぐに使うための飲み水を出すのではなく、使った分の水の補充をしているのだ。これは何らかの事故で私が水を出せなくなるという事態を想定しての事だと説明された。

なるほど、確かに合理的だ。砂漠を横断する商隊というのは逞しいものだ。

こうして私が給水係をしている間にテントがてきぱきと張られて、火が起こされていく。

食事はそれぞれで別に持つという約束になっているのでそれぞれで用意しているが、私たちの分は私の収納の中だ。

「姉さまー、ご飯出してください♪」

食事となるとやたらと元気になるうちの妹分だ。私はシチューの入った鍋を収納から取り出して手渡す。

「姉さまありがとー」

上機嫌に鍋を持って行くと火にかけて温める。ちなみにこの妹分、最近発覚したのだが料理は全くできない。あれだけ食べておいてまさかだ。

「ルーちゃんも少しは料理を覚えてくださいね」
「はーい」

ルーちゃんの上の空の返事を私も軽く聞き流しながら給水係の仕事を終えると、私は腰を下ろして夕食にする。先ほど温めてもらったシチューとパンが今日の夕食だ。

特に豪華なわけではないけれど、4 人、いや食事はしないけれどリーチェも含めて 5 人で囲む砂漠の食卓も楽しいものだ。私たちは今までの旅のことやシズクさんのこれまでのこと、それにシズクさんの故郷のことやクリスさんの騎士団でのことなど、話題が尽きることはない。

ふと見遣ると、私たちが越えてきた西の山々に夕日が沈み、その稜線を赤く染め上げていた。
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