勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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動乱の故郷

第六章第55話 急報

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2021/12/12 誤字を修正しました
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その後、アイロールの町の孤児院で慈善活動をしたりマリーさんの相談に乗ったり、それにマリーさんとアロイスさんの様子をニヤニ……じゃなかった、微笑ましく見守ったりしながら数日を過ごしたのち、私たちは王都へと旅立ったのだった。

別れ際に、アロイスさんにマリーさんは絶対逃がしちゃダメだと念を押してたら随分と動揺していたけれど、これはゴールインを期待していいのかな?

まあ、アロイスさんの胃袋はマリーさんに完全に掴まれていそうな感じだったし、ここは一つ末永く爆発するように祈っておこう。

あと、一応アロイスさんには彼女の特殊な職業である補助調理師についても職業大全に書かれていたことを伝えておいた。毎日料理を作って旦那さんや家族の健康を守る奥さんにはすごく良い職業だと思う。料理で健康の補助ができるとか、内助の功にぴったりなんじゃないかな?

マリーさんは料理の腕もいいしね。

ただ、一応珍しい職業なので時期を見てアロイスさんからマリーさんに話すことになっている。

その頃にはもうゴールインしてるかもしれないけどね。

そういえば、マリーさんは応援の騎士たちが引き揚げてこの駐屯地が閉鎖になったらレストランを開くらしい。機会があるかどうかは分からないが、またこの町に立ち寄ることがあったら是非食べに行こうと思う。

さて、そうして騎士団に護送されること 10 日、王都へと戻ってきた私たちを待っていたのは想像だにしなかった悲報だった。

私たちは最初に王都へと戻ってきた時と同じお城の会議室に通される。そこには前と同じように王様、教皇様、そして各騎士団の代表、そして沈んだ様子で俯くシャルがいた。

しかし、そこにユーグさんの姿がない。

「これは一体どういう状況ですか? それにユーグさんは?」

私の質問に答えようとしたシャルを片手で制すると王様が口を開いた。

「聖騎士ユーグは民を、そしてシャルロット嬢をその身を挺して守り、行方不明となった」
「え?」
「聖騎士ユーグはまだ生きている。状況から考えるに、おそらくは捕虜となっているのだろう」
「どうしてそんなことがわかるんですか? どこかで姿を見かけたんですか?」
「いや。そうではない。シャルロット嬢のロザリオが輝きを失っていないからだ。神より聖女の職を授かる前に聖騎士を失った聖女候補のロザリオは大抵の場合、その輝きを失うのだ」

なるほど? そんなルールがあるのか。

私はちらりとシャルの首元のロザリオを見ると、たしかに金に緑の宝石の埋め込まれた私とお揃いの形をしたロザリオは聖なる光をぼんやりと放っている。

「そうですわ。ユーグ様はまだ生きていますわ。ですから早くお助けしなければ!」

シャルはやはりユーグさんが心配なのだろう。王様に食って掛からんばかりの勢いだ。

「だが、再び軍を向けたところで倒せないのでは二の舞だ」
「それでも!」

ええと? 全く状況が把握できないんだけど?

「あの、戻ってきたばかりで何が起きているのかがまるで分らないんですが、その、説明してもらえませんか?」

ヒートアップするシャルを宥める意味も含めて私は質問をする。

「あ」

身を乗り出さんばかりの勢いだったシャルはそう言うとストンと椅子に腰かける。

「そうであったな。まずはフィーネ嬢、アイロールの町を襲った魔物暴走スタンピードより救ってくれたこと、感謝する。四人で突撃し、上位種を討ち取ったと聞くがあまり無茶はしないように頼むぞ」
「あ、はい」
「さて、それで南の戦線についてだが、壊滅した」
「は?」
「だから、南の戦線は壊滅したと言ったのだ。南部の要衝クリエッリは陥落し、第四騎士団も主力を失い壊滅状態だ。我が国南部のマドゥーラ地方は魔物を味方につけたブラックレインボー帝国の支配下となった。これにより、この王都は喉元にナイフを突きつけられた状態にある」

ええと? マジですか?

「ええと、相手の数はどれくらいなんですか?」
「敵兵の数はおよそ 5,000、そこに数万の魔物とアンデッドが加わる」
「陛下。たったそれだけの敵兵を相手に第四騎士団の主力が壊滅したとはどういうことでしょうか? アンデッドはシャルロット様と神殿の聖職者がいたなら脅威ではないはずです。とすれば、よほど強力な魔物が敵にいたということでしょうか?」

クリスさんが思わず、といった感じで口を挟んできた。

確かにクリスさんの言う通り不自然だ。アンデッドなんて浄化魔法でサクッと倒せるはずで、アンジェリカさんの件で苦戦したのだって本体がどこにいるか分かっていなかったのが原因だ。

「ええ、アンデッドはわたくしや聖職者の皆さんが浄化しましたし、魔物も所詮は魔物。大した問題ではありませんでしたわ」

冷静になったのか、落ち着いた様子でシャルがそう言った。

「では、たった 5,000 の兵に第四騎士団の主力が壊滅したというのですか? 一体どのような計略を仕掛けられたのですか?」
「正面から戦い、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。おそらく、敵兵の損害はゼロだ」
「は?」

クリスさんに答えた王様の言葉に私は思わず聞き返してしまった。

「敵の兵をいくら倒してもすぐによみがえって来るのですわ。胸を刺しても、それこそ首を落としても立ち上がってきましたわ」

うえぇ。それってどうやっても勝てないんじゃ?

「シャルロット殿、もう少し詳しく教えてもらえるでござるか? まず、その死なない兵はアンデッドではないのは間違いないでござるか?」
「それくらい試しましたわ。浄化魔法もまるで効き目がなかったんですの」

なるほど。それは厳しい。

「では、原型を残さぬほどに切り刻んでもダメでござるか?」
「ダメでしたわ。唯一無力化できたのは崩れ落ちた建物の下敷きになった時くらいですわね。それでもそいつは生きていて、瓦礫を退けられたらすぐに復活しましたわ」
「なるほど……」

そう言ってシズクさんは少し考えるような素振りをみせ、そしておもむろに口を開いた。

「では、その兵は黒い靄のようなものを纏ってはいなかったでござるか?」
「「!」」

私とシャルは同時に息を飲んだ。そしてシャルがまるで問い詰めるかのような口調でシズクさんに詰め寄る。

「な、なんでそれをあなたが知っているんですの!?」
「落ち着くでござるよ。拙者たちは、シャルロット殿の言う特徴を持った獣とレッドスカイ帝国の深い山の中で戦った経験があるでござる」
「え? じゃあレッドスカイ帝国とブラックレインボー帝国は協力しているということですの?」
「いや、そんなはずはないでござるよ。拙者たちは、レッドスカイ帝国皇帝の依頼で『正体不明の魔物退治』としてその死なない獣と戦ったでござる。そしてその獣のことは皇帝も最強の将軍も最寄りの都市の太守も知らなかったでござるゆえ、レッドスカイ帝国は被害国であると考えているでござるよ」
「一体誰がそんなことを……。いえ、それよりもその死なない獣とやらはどうすれば倒せるんですの? それが分かればあいつらを!」
「倒す方法は二つあるでござる。一つは浄化魔法の付与された武器で倒すこと、そしてもう一つは普通の武器で倒した後再生している最中に浄化魔法を撃ち込むこと、これで死なない獣は殺せたでござるよ」

そう言った瞬間、教皇様が驚いたように目を見開いた。

「付与! そういうことですか! おお、神よ! 神はこの事をご存じだったのですね! フィーネ嬢、もしやご神託を?」
「そういうことなのか? フィーネ嬢!」

何だか教皇様が変な勘違いをしてそれにつられて王様まで変なことを言い出した。

「え? いえ、神託とかそう言ったことはなく、その、ええと……」

というか、そもそも薬師からの魔法薬師を勧めてくれたのは教皇様でしょ? 神託を受け取っていたならそれは私じゃなくて教皇様なのでは?

「ええと、そんなわけですので必要なら浄化を付与しますよ。レッドスカイ帝国でも一日 1,000 回くらいはやりましたから」
「「1,000 回!?」」

シャルと教皇様が 1,000 回に反応した。

「あ、 MP 回復薬ないと無理ですよ?」
「それでもすごいですわ。わたくしにはあの不味い液体を何本も飲むなんてとても……」

シャルが眉間に皺を寄せている。あの顔はきっとあの味を思い出しているのだろう。

うん、分かるよ。その気持ち。私は慣れて無心で飲み干せるようになったけど、最初のころとかホントに苦痛だったもの。

そんなことを思い出していると、突如会議室の扉を開けて一人の騎士が入ってきた。

「何事だ! 会議中だぞ!」

騎士団長の一人が鋭い声でその騎士を叱責する。

「申し訳ございません。ですが、緊急の伝令です! ブラックレインボー帝国軍がクリエッリを発ち、王都へと迫っております! その数およそ 3,000! さらに数万の魔物を従えております!」
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