勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
308 / 625
砂漠の国

第七章第21話 ダルハ観光

しおりを挟む
それから三日かけて私は付与のお仕事をした。シャリクラの町と同じように付与した数は500 本だ。

なんと言うか、この国に来てすごい儲かった。お金を払い渋るようなこともなく、一括でポンと支払ってくれるので余計なストレスが無いのはありがたい。

というわけで、一仕事終えた私たちは折角なのでダルハの町を観光させてもらうことになった。どうせなら胡椒もたくさん買っておきたいしね。

ただ、当然私たちだけで気軽にふらっと出掛けることはできず、ハーリドさんにヒラールさんがつけてくれた数十人の護衛の人が一緒にくっついてきている。ちょっと不自由ではあるが、アイロールの時のように将棋倒しの事故が起こってからでは遅いしこれは仕方がないことだろう。

だが、連れていかれそうになるお店がどこも高級店ばかりなのはちょっと頂けない。そこで別に高級品を買いたいわけじゃないので普通の市場に連れて行って欲しいとお願いしたところ、ようやくバザールなる場所へと連れてきてもらえた。

この町の市場はどうやら私たちが想像するような野外の露店ではなくてちゃんとした建物の中に入っている。タイルで装飾された立派な建物の中に入ると、ずらりと左右にお店が並んでいる。上を見上げるとアーチ状の屋根が何ともオシャレでランプの照明がバザールの内部を温かく照らしている。

「あれ? 意外と人が少ないですね」
「本当ですね。こういった場所はもっとごった返しているとものですが……」

私の疑問にクリスさんも同意してくれるが、その疑問の答えはあたりを見まわすとすぐにわかった。お客さんが全員隅の方でビタンとなっているのだ。

ええと、うん。もういいや。見なかったことにしよう。

諦めてバザールの中を歩いて行くとまず目に留まったのは絨毯を売っているお店だ。

「見事な絨毯ですね」
「ああ、あれはきっと噂に聞くプラネタ絨毯でござるな。特にダルハのものは有名で、レッドスカイ帝国を旅していた時もよく噂に聞いていたでござるよ」
「ホワイトムーン王国でも高級品として重宝されていました。確か国王陛下も私室で愛用していると聞いております」
「私の国でもプラネタ絨毯は高級品として重宝されていましたよ」

シズクさん、クリスさん、それにサラさんまでそう言うならきっとすごいのだろう。

「じゃあ、ちょっと見てみましょう」

私が適当にお店の中に入ると店員がビタンとなった。

いや、もういいから。ホントに。

そしていつものセリフで再起動してもらい話を聞いてみた。

「聖女様にご来店いただけるとは光栄の極みでございます! 当店の歴史は古く 300 年前からずっとここで営業を続けております。当店は絨毯工房の直営店でございまして、契約している羊牧場より最高品質の羊毛を仕入れております。それを――」

と、このまま五分くらい話をひたすら聞くことになった。

とりあえず、歴史があってこだわりの製品を作っているという事は理解した。

「聖女様。こちらの商品などいかがでしょうか? こちらの商品は先ほどお話しました意匠師が神への感謝を込めて書き上げた渾身のデザインを当工房でも最高の技術を持つ職人たちが染色から製織まで丁寧に作り上げた当店でも最高級の逸品でございます」

うーん。そう言われても私にはさっぱり分からない。

困った私はシズクさんをちらりと見る。

「そうでござるな。ものは良さそうに見えるでござるよ?」

なるほど。商品鑑定を持っているシズクさんがそう言うなら買っていくか。さすがにこれだけ大騒ぎになっているのに何も買わないというのもアレだしね。

「じゃあ、折角なのでそちらを頂きますね」
「ありがとうございます! ではセットでこちらとこちらとこちらの商品もいかがでしょうか?」
「え? あ、いや、そこまでは……」
「セットでお買い上げ頂きましたらお代は勉強させていただきますよ」
「え? ええと……」
「店主。フィーネ様は一つで良いと仰っている」

クリスさんがすっと間に入って店主さんを止めてくれた。

ふぅ。助かった。

「ではシズク殿。値段の交渉は頼んだぞ」
「任せるでござるよ」

そう言ってシズクさんは店主さんと値段の交渉を始めた。最初は金貨 500 枚と提示されていたのだがあれよあれよと値段が下がっていき、最終的に金貨 50 枚で決着した。

【商品鑑定】のスキルを持っていてある程度商品の値段が分かるシズクさんがそこを落としどころにしたという事はそのぐらいで適正価格ということなのだろう。

「ありがとうございました!」

店主さんの元気の良い声と共にお店を出た私たちはそのままぶらぶらとバザールを見て歩く。

そして途中のスパイス屋さんで胡椒を 10 kg ほど買い込んだ。ターメリックやクミンなんかも売っていたのでカレーも作れそうな気もしたが、残念ながら私はこれをどうすればカレーになるのかがさっぱりわからない。

仕方がないのでとりあえず各種スパイスは 1 kg ずつ買って後でじっくり使い方を考えることにした。

え? どうして経年劣化しないのにもっとたくさん買わないのかって?

だって、そのうちグリーンクラウドに行けばもっと安く買えるような気がするでしょ?

それに使い方が分からなければきっとそのまま収納の肥やしになるだろうしね。

================
どうぞよいお年をお迎えください。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界でも馬とともに

ひろうま
ファンタジー
乗馬クラブ勤務の悠馬(ユウマ)とそのパートナーである牝馬のルナは、ある日勇者転移に巻き込まれて死亡した。 新しい身体をもらい異世界に転移できることになったユウマとルナが、そのときに依頼されたのは神獣たちの封印を解くことだった。 ユウマは、彼をサポートするルナとともに、その依頼を達成すべく異世界での活動を開始する。 ※本作品においては、ヒロインは馬であり、人化もしませんので、ご注意ください。 ※本作品は、某サイトで公開していた作品をリメイクしたものです。 ※本作品の解説などを、ブログ(Webサイト欄参照)に記載していこうと思っています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...