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砂漠の国
第七章第21話 ダルハ観光
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それから三日かけて私は付与のお仕事をした。シャリクラの町と同じように付与した数は500 本だ。
なんと言うか、この国に来てすごい儲かった。お金を払い渋るようなこともなく、一括でポンと支払ってくれるので余計なストレスが無いのはありがたい。
というわけで、一仕事終えた私たちは折角なのでダルハの町を観光させてもらうことになった。どうせなら胡椒もたくさん買っておきたいしね。
ただ、当然私たちだけで気軽にふらっと出掛けることはできず、ハーリドさんにヒラールさんがつけてくれた数十人の護衛の人が一緒にくっついてきている。ちょっと不自由ではあるが、アイロールの時のように将棋倒しの事故が起こってからでは遅いしこれは仕方がないことだろう。
だが、連れていかれそうになるお店がどこも高級店ばかりなのはちょっと頂けない。そこで別に高級品を買いたいわけじゃないので普通の市場に連れて行って欲しいとお願いしたところ、ようやくバザールなる場所へと連れてきてもらえた。
この町の市場はどうやら私たちが想像するような野外の露店ではなくてちゃんとした建物の中に入っている。タイルで装飾された立派な建物の中に入ると、ずらりと左右にお店が並んでいる。上を見上げるとアーチ状の屋根が何ともオシャレでランプの照明がバザールの内部を温かく照らしている。
「あれ? 意外と人が少ないですね」
「本当ですね。こういった場所はもっとごった返しているとものですが……」
私の疑問にクリスさんも同意してくれるが、その疑問の答えはあたりを見まわすとすぐにわかった。お客さんが全員隅の方でビタンとなっているのだ。
ええと、うん。もういいや。見なかったことにしよう。
諦めてバザールの中を歩いて行くとまず目に留まったのは絨毯を売っているお店だ。
「見事な絨毯ですね」
「ああ、あれはきっと噂に聞くプラネタ絨毯でござるな。特にダルハのものは有名で、レッドスカイ帝国を旅していた時もよく噂に聞いていたでござるよ」
「ホワイトムーン王国でも高級品として重宝されていました。確か国王陛下も私室で愛用していると聞いております」
「私の国でもプラネタ絨毯は高級品として重宝されていましたよ」
シズクさん、クリスさん、それにサラさんまでそう言うならきっとすごいのだろう。
「じゃあ、ちょっと見てみましょう」
私が適当にお店の中に入ると店員がビタンとなった。
いや、もういいから。ホントに。
そしていつものセリフで再起動してもらい話を聞いてみた。
「聖女様にご来店いただけるとは光栄の極みでございます! 当店の歴史は古く 300 年前からずっとここで営業を続けております。当店は絨毯工房の直営店でございまして、契約している羊牧場より最高品質の羊毛を仕入れております。それを――」
と、このまま五分くらい話をひたすら聞くことになった。
とりあえず、歴史があってこだわりの製品を作っているという事は理解した。
「聖女様。こちらの商品などいかがでしょうか? こちらの商品は先ほどお話しました意匠師が神への感謝を込めて書き上げた渾身のデザインを当工房でも最高の技術を持つ職人たちが染色から製織まで丁寧に作り上げた当店でも最高級の逸品でございます」
うーん。そう言われても私にはさっぱり分からない。
困った私はシズクさんをちらりと見る。
「そうでござるな。ものは良さそうに見えるでござるよ?」
なるほど。商品鑑定を持っているシズクさんがそう言うなら買っていくか。さすがにこれだけ大騒ぎになっているのに何も買わないというのもアレだしね。
「じゃあ、折角なのでそちらを頂きますね」
「ありがとうございます! ではセットでこちらとこちらとこちらの商品もいかがでしょうか?」
「え? あ、いや、そこまでは……」
「セットでお買い上げ頂きましたらお代は勉強させていただきますよ」
「え? ええと……」
「店主。フィーネ様は一つで良いと仰っている」
クリスさんがすっと間に入って店主さんを止めてくれた。
ふぅ。助かった。
「ではシズク殿。値段の交渉は頼んだぞ」
「任せるでござるよ」
そう言ってシズクさんは店主さんと値段の交渉を始めた。最初は金貨 500 枚と提示されていたのだがあれよあれよと値段が下がっていき、最終的に金貨 50 枚で決着した。
【商品鑑定】のスキルを持っていてある程度商品の値段が分かるシズクさんがそこを落としどころにしたという事はそのぐらいで適正価格ということなのだろう。
「ありがとうございました!」
店主さんの元気の良い声と共にお店を出た私たちはそのままぶらぶらとバザールを見て歩く。
そして途中のスパイス屋さんで胡椒を 10 kg ほど買い込んだ。ターメリックやクミンなんかも売っていたのでカレーも作れそうな気もしたが、残念ながら私はこれをどうすればカレーになるのかがさっぱりわからない。
仕方がないのでとりあえず各種スパイスは 1 kg ずつ買って後でじっくり使い方を考えることにした。
え? どうして経年劣化しないのにもっとたくさん買わないのかって?
だって、そのうちグリーンクラウドに行けばもっと安く買えるような気がするでしょ?
それに使い方が分からなければきっとそのまま収納の肥やしになるだろうしね。
================
どうぞよいお年をお迎えください。
なんと言うか、この国に来てすごい儲かった。お金を払い渋るようなこともなく、一括でポンと支払ってくれるので余計なストレスが無いのはありがたい。
というわけで、一仕事終えた私たちは折角なのでダルハの町を観光させてもらうことになった。どうせなら胡椒もたくさん買っておきたいしね。
ただ、当然私たちだけで気軽にふらっと出掛けることはできず、ハーリドさんにヒラールさんがつけてくれた数十人の護衛の人が一緒にくっついてきている。ちょっと不自由ではあるが、アイロールの時のように将棋倒しの事故が起こってからでは遅いしこれは仕方がないことだろう。
だが、連れていかれそうになるお店がどこも高級店ばかりなのはちょっと頂けない。そこで別に高級品を買いたいわけじゃないので普通の市場に連れて行って欲しいとお願いしたところ、ようやくバザールなる場所へと連れてきてもらえた。
この町の市場はどうやら私たちが想像するような野外の露店ではなくてちゃんとした建物の中に入っている。タイルで装飾された立派な建物の中に入ると、ずらりと左右にお店が並んでいる。上を見上げるとアーチ状の屋根が何ともオシャレでランプの照明がバザールの内部を温かく照らしている。
「あれ? 意外と人が少ないですね」
「本当ですね。こういった場所はもっとごった返しているとものですが……」
私の疑問にクリスさんも同意してくれるが、その疑問の答えはあたりを見まわすとすぐにわかった。お客さんが全員隅の方でビタンとなっているのだ。
ええと、うん。もういいや。見なかったことにしよう。
諦めてバザールの中を歩いて行くとまず目に留まったのは絨毯を売っているお店だ。
「見事な絨毯ですね」
「ああ、あれはきっと噂に聞くプラネタ絨毯でござるな。特にダルハのものは有名で、レッドスカイ帝国を旅していた時もよく噂に聞いていたでござるよ」
「ホワイトムーン王国でも高級品として重宝されていました。確か国王陛下も私室で愛用していると聞いております」
「私の国でもプラネタ絨毯は高級品として重宝されていましたよ」
シズクさん、クリスさん、それにサラさんまでそう言うならきっとすごいのだろう。
「じゃあ、ちょっと見てみましょう」
私が適当にお店の中に入ると店員がビタンとなった。
いや、もういいから。ホントに。
そしていつものセリフで再起動してもらい話を聞いてみた。
「聖女様にご来店いただけるとは光栄の極みでございます! 当店の歴史は古く 300 年前からずっとここで営業を続けております。当店は絨毯工房の直営店でございまして、契約している羊牧場より最高品質の羊毛を仕入れております。それを――」
と、このまま五分くらい話をひたすら聞くことになった。
とりあえず、歴史があってこだわりの製品を作っているという事は理解した。
「聖女様。こちらの商品などいかがでしょうか? こちらの商品は先ほどお話しました意匠師が神への感謝を込めて書き上げた渾身のデザインを当工房でも最高の技術を持つ職人たちが染色から製織まで丁寧に作り上げた当店でも最高級の逸品でございます」
うーん。そう言われても私にはさっぱり分からない。
困った私はシズクさんをちらりと見る。
「そうでござるな。ものは良さそうに見えるでござるよ?」
なるほど。商品鑑定を持っているシズクさんがそう言うなら買っていくか。さすがにこれだけ大騒ぎになっているのに何も買わないというのもアレだしね。
「じゃあ、折角なのでそちらを頂きますね」
「ありがとうございます! ではセットでこちらとこちらとこちらの商品もいかがでしょうか?」
「え? あ、いや、そこまでは……」
「セットでお買い上げ頂きましたらお代は勉強させていただきますよ」
「え? ええと……」
「店主。フィーネ様は一つで良いと仰っている」
クリスさんがすっと間に入って店主さんを止めてくれた。
ふぅ。助かった。
「ではシズク殿。値段の交渉は頼んだぞ」
「任せるでござるよ」
そう言ってシズクさんは店主さんと値段の交渉を始めた。最初は金貨 500 枚と提示されていたのだがあれよあれよと値段が下がっていき、最終的に金貨 50 枚で決着した。
【商品鑑定】のスキルを持っていてある程度商品の値段が分かるシズクさんがそこを落としどころにしたという事はそのぐらいで適正価格ということなのだろう。
「ありがとうございました!」
店主さんの元気の良い声と共にお店を出た私たちはそのままぶらぶらとバザールを見て歩く。
そして途中のスパイス屋さんで胡椒を 10 kg ほど買い込んだ。ターメリックやクミンなんかも売っていたのでカレーも作れそうな気もしたが、残念ながら私はこれをどうすればカレーになるのかがさっぱりわからない。
仕方がないのでとりあえず各種スパイスは 1 kg ずつ買って後でじっくり使い方を考えることにした。
え? どうして経年劣化しないのにもっとたくさん買わないのかって?
だって、そのうちグリーンクラウドに行けばもっと安く買えるような気がするでしょ?
それに使い方が分からなければきっとそのまま収納の肥やしになるだろうしね。
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どうぞよいお年をお迎えください。
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