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黒き野望
第八章第4話 再会
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私たちは馬車に揺られて再びアイロールの町へとやってきた。今回はここからさらに西に向かって大森林を突っ切って港町リリエヴォを目指す。そこからブラックレインボー帝国へと向かう船に乗り込むのだ。
それにしても馬車の車窓から見えるアイロールの町は随分と賑わっている。
もしあの時負けていたら人々のこの笑顔も賑わいも無かったことを思うとやはり胸にこみ上げてくるものがある。
「随分と賑やかになりましたね」
「そうですね。私たちも頑張った甲斐がありました」
「拙者たちも危ういところだったでござるしな」
うん。確かに苦戦したもんね。
「ううっ。もうゴキブリとトレントはこりごりですっ」
ああ、うん。その二つはちょっと勘弁してほしいかもしれない。
そんな事を話しながらも私たちを乗せた馬車は領主のマンテーニ子爵の館へと到着する。
「聖女フィーネ様、聖騎士様。このアイロールに再びお越し頂き大変光栄でございます。ガティルエ公爵令嬢シャルロット様も、ようこそいらっしゃいました」
マンテーニ子爵のその言葉にシャルはむっとした表情を浮かべた。
うーん、どうしてシャルの事をちゃんと聖女って呼ばないんだろうか?
ユーグさんが捕虜になったとはいえ、まだこの国では聖女扱いだって王様が言っていたのに。
これは、ひょっとして失礼な態度なんじゃないだろうか?
だがマンテーニ子爵にそんな私たちの様子を気にした素振りは全くない。
「聖女様。もう町の様子はご覧になりましたか? 聖女様のおかげで大変な賑わいを見せております」
マンテーニ子爵は私をじっと見つめながらどこか芝居がかった大仰な感じでそう言った。
うーん。私だけが何かしたわけじゃないし、町を護れたのは一生懸命戦った騎士団やハンターの皆さんがいたおかげでもある。それに、今町を盛り上げてくれているのは町の人たちだと思うけどな。
どう返事をするべきか……。
うん。よく分からない時はこれかな?
「神の御心のままに」
私が適当に営業スマイルでそう言ってやるとマンテーニ子爵は満足そうな表情を浮かべた。
そういえば、この人は魔物暴走の時に何して人だっけ?
隣にいるラザレ隊長は頑張っていた気がするけれど。
うーん? ま、いっか。
「そういえば、アロイスさんはどちらに?」
「アロイスでございますか? ええと」
マンテーニ子爵は私のこの質問は予想外だったらしい。
「はっ。詰め所で訓練中であります」
「そうですか。では、マリーさんにもお会いしたいので連絡をお願いできますか?」
「ははっ。お任せください」
全く分かっていない様子のマンテーニ子爵に代わってラザレ隊長がそう答えた。
「聖女シャルロット様はいかがなさいますか?」
「そうですわね。わたくしもフィーネと共に参りますわ」
「かしこまりました」
ラザレ隊長はそう言って恭しく騎士の礼を取る。
そんなラザレ隊長をマンテーニ子爵が一瞬睨んだように見えたけれど、これは一体どういう事なのだろうか?
****
「聖女フィーネ様、聖女シャルロット様、ようこそおいでくださいました」
駐屯地に着いた私たちをアロイスさんがブーンからのジャンピング土下座で出迎えてくれた。
うん。9 点かな。
指先もしっかり伸びていたしジャンプへの繋ぎも良かった。それに着地だって綺麗に決まっていた。でもなんていうんだろうか、こう優雅さが足りないというか。やっぱり教皇様と比べると一段落ちるというか。何といえば良いのか……。そう、感動が足りないというか。そんな感じだ。
是非とも皆を感動させる演技を目指してほしい。
「神の御心のままに」
私がそんなことを考えているとシャルが儀式を終えてしまったので私はにっこりと微笑んで誤魔化す。
「アロイスさんもお元気そうで何よりです。マリーさんの調子はあれからいかがですか?」
「はい。マリーは今無事にレストランを開いて、そこの女主人をしております」
おお、すごい!
実は出発する前に色々相談を受けていて、その時にレストランをやりたいとは聞いていたけれどもう開店しているなんて!
しかもその時、前の世界の知識で色々と適当なアドバイスをしておいたのだが、上手くできているだろうか?
「それはおめでとうございます。後で食べに行きたいですね」
「ありがとうございます。きっとマリーも喜ぶと思います」
そう言ってアロイスさんは嬉しそうに笑う。
おや? この反応はもしかしてちゃんとくっついたかな?
ふふふ。末永く爆発するが良い。
それにしても馬車の車窓から見えるアイロールの町は随分と賑わっている。
もしあの時負けていたら人々のこの笑顔も賑わいも無かったことを思うとやはり胸にこみ上げてくるものがある。
「随分と賑やかになりましたね」
「そうですね。私たちも頑張った甲斐がありました」
「拙者たちも危ういところだったでござるしな」
うん。確かに苦戦したもんね。
「ううっ。もうゴキブリとトレントはこりごりですっ」
ああ、うん。その二つはちょっと勘弁してほしいかもしれない。
そんな事を話しながらも私たちを乗せた馬車は領主のマンテーニ子爵の館へと到着する。
「聖女フィーネ様、聖騎士様。このアイロールに再びお越し頂き大変光栄でございます。ガティルエ公爵令嬢シャルロット様も、ようこそいらっしゃいました」
マンテーニ子爵のその言葉にシャルはむっとした表情を浮かべた。
うーん、どうしてシャルの事をちゃんと聖女って呼ばないんだろうか?
ユーグさんが捕虜になったとはいえ、まだこの国では聖女扱いだって王様が言っていたのに。
これは、ひょっとして失礼な態度なんじゃないだろうか?
だがマンテーニ子爵にそんな私たちの様子を気にした素振りは全くない。
「聖女様。もう町の様子はご覧になりましたか? 聖女様のおかげで大変な賑わいを見せております」
マンテーニ子爵は私をじっと見つめながらどこか芝居がかった大仰な感じでそう言った。
うーん。私だけが何かしたわけじゃないし、町を護れたのは一生懸命戦った騎士団やハンターの皆さんがいたおかげでもある。それに、今町を盛り上げてくれているのは町の人たちだと思うけどな。
どう返事をするべきか……。
うん。よく分からない時はこれかな?
「神の御心のままに」
私が適当に営業スマイルでそう言ってやるとマンテーニ子爵は満足そうな表情を浮かべた。
そういえば、この人は魔物暴走の時に何して人だっけ?
隣にいるラザレ隊長は頑張っていた気がするけれど。
うーん? ま、いっか。
「そういえば、アロイスさんはどちらに?」
「アロイスでございますか? ええと」
マンテーニ子爵は私のこの質問は予想外だったらしい。
「はっ。詰め所で訓練中であります」
「そうですか。では、マリーさんにもお会いしたいので連絡をお願いできますか?」
「ははっ。お任せください」
全く分かっていない様子のマンテーニ子爵に代わってラザレ隊長がそう答えた。
「聖女シャルロット様はいかがなさいますか?」
「そうですわね。わたくしもフィーネと共に参りますわ」
「かしこまりました」
ラザレ隊長はそう言って恭しく騎士の礼を取る。
そんなラザレ隊長をマンテーニ子爵が一瞬睨んだように見えたけれど、これは一体どういう事なのだろうか?
****
「聖女フィーネ様、聖女シャルロット様、ようこそおいでくださいました」
駐屯地に着いた私たちをアロイスさんがブーンからのジャンピング土下座で出迎えてくれた。
うん。9 点かな。
指先もしっかり伸びていたしジャンプへの繋ぎも良かった。それに着地だって綺麗に決まっていた。でもなんていうんだろうか、こう優雅さが足りないというか。やっぱり教皇様と比べると一段落ちるというか。何といえば良いのか……。そう、感動が足りないというか。そんな感じだ。
是非とも皆を感動させる演技を目指してほしい。
「神の御心のままに」
私がそんなことを考えているとシャルが儀式を終えてしまったので私はにっこりと微笑んで誤魔化す。
「アロイスさんもお元気そうで何よりです。マリーさんの調子はあれからいかがですか?」
「はい。マリーは今無事にレストランを開いて、そこの女主人をしております」
おお、すごい!
実は出発する前に色々相談を受けていて、その時にレストランをやりたいとは聞いていたけれどもう開店しているなんて!
しかもその時、前の世界の知識で色々と適当なアドバイスをしておいたのだが、上手くできているだろうか?
「それはおめでとうございます。後で食べに行きたいですね」
「ありがとうございます。きっとマリーも喜ぶと思います」
そう言ってアロイスさんは嬉しそうに笑う。
おや? この反応はもしかしてちゃんとくっついたかな?
ふふふ。末永く爆発するが良い。
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