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欲と業
第十一章第10話 狩猟祭り、再び
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「只今より、第四十回狩猟祭りを開幕をいたします!」
久しぶりにやってきたクラウブレッツの町では今年も狩猟祭りを開催すると聞き、せっかくなので私も来賓として出席することになった。
それにホテル代だって出してもらっているのだから、このくらいはしておいたほうがいいだろう。
会場も以前と同じで町を囲む壁の外に建てられた半円形のコロッセオのような場所で、司会のおじさんも前に訪れたときと同じ人だ。もちろん、マイクなしで千人規模の会場全体に声を響かせている。
前も思ったが、彼の喉は一体どうなっているのだろうか?
「今回は、なんと! 三年ぶりに聖女フィーネ・アルジェンタータ様のご臨席を賜っております!」
すると大きな歓声が鳴り響いた。その歓声に私は厳重に守られた貴賓席から手を振って応える。
こういったことにもすっかり慣れてしまったので、もう特段の感想はない。
「選手の皆さんはぜひとも、三年間鍛えに鍛えたその腕を聖女様に見せてください!」
司会の人がそう言うと、会場のボルテージはまた一団と上がった。
「それでは早速競技に入ります。ルールは簡単、これから参加者の皆さんは森へ入って狩りをしてもらい、もっとも高価な獲物を狩ってきた人が優勝となります」
うん、このルールは前と同じだね。
「とはいえ、今年は魔物が多く出現しております! そんな危険な森から、選手の皆さんは果たして無事に獲物を持ち帰ることができるのでしょうか!」
ううん、やっぱりこの辺りも魔物がたくさん出るのか。この町の教会の中庭にリーチェの種を植えておいたから今後は大丈夫だろうけれど、今いる魔物が減るわけではないだろうしなぁ。
あ、でも前に参加したときはゴブリンから逃げ回って結局会場まで連れてきちゃったような?
「気になる優勝者への商品ですが、今年はクラウブレッツ特産の最高級牛肉十キログラムに加え、記念のクリスタルトロフィーが聖女様より授与されます!」
うん。前回も同じだったね。事前に言われていないことも含めて全く同じだ。
まあ、前回もやったしね。聖女様ならこのくらいやって当然といったような暗黙の了解がきっとあるのだろう。
「それでは、競技開始の鐘を聖女様に鳴らしていただきましょう」
前回同様、貴賓席の最前列に置かれた鐘をハンマーで叩いた。するとカーンという乾いた音が鳴り響く。
「競技、スタートです!」
大歓声に見送られ、選手たちが続々と森へと入っていった。ちなみにルーちゃんは参加していない。
あの美味しい鳥を捕まえたのに優勝じゃなかったことを根に持っているらしく、絶対に出ないと言っていた。
なので今回のルーちゃんの役目は屋台で美味しい食事を買ってくる係だ。
本当は私も一緒に行って屋台ごはんを楽しみたいのだが、このご時世だ。私が出ていくとたぶんアイロールのときのように事故が起きるだけだと思うため、残念ながら今回は我慢することにした。
でもルーちゃんであれば聖女様本人じゃないし、係の人と一緒に行動しているのできっとおかしなことにはならないだろう。
そうして選手たちが全員出発すると、楽器を持った人と民族衣装でドレスアップした若い女性がやってきた。
おお、今年もぶどう踏みをするようだ。
「さあ、今年もぶどう踏みの季節がやってきました。選手の皆さんが狩りをしている間、しっかりとワインの仕込みをしておきましょう! 我こそはと乙女の皆さん、どうぞ奮ってご参加ください!」
そのアナウンスに、少女たちが次々と会場の中へと入ってきた。そして裸足になるとスカートのすそをつまみ、音楽に合わせてまるで踊っているかのうようなステップで楽しそうにぶどうを踏んでいる。
うん。いいね。魔物の被害で大変な中、こうして明るい気持ちでお祭りができるのは素晴らしいことだと思う。
俯いているだけじゃ気持ちも落ち込んでしまうし、悪いことだって考えてしまうかもしれない。
そうしたら、もしかするとそれが回りまわって瘴気を生み出す原因になるかもしれないのだ。
あとは森に入った選手たちが無事に帰ってきてくれればいいのだけれど……。
でもまあ会場の魔物を追い払うくらいはちゃんとやっているんだろうし、きっと大丈夫だろう。
◆◇◆
「姉さまっ! 買ってきました!」
ルーちゃんが戻ってきた。その後ろからは係の人たちが大量の屋台料理を運んできている。
「これが、クラウブレッツ名物の牛串ですっ! それからこっちは牛テールのワイン煮込みで、こっちはあらびきソーセージのホットドッグです。こっちはひき肉とチーズのグラタンで、あと野菜の串焼きもありますっ!」
「ルーちゃん、ありがとうございます」
ルーちゃんにしては珍しく肉だらけだ。いつもはもう少しバランスのいいメニューを選んでくれるのだが、きっといいものがなかったのだろう。
まあ、屋台で出すものだとバランスのいいメニューは難しいかもしれないね。
「姉さま、この牛串が一番のおススメですっ!」
「はい」
私は勧められた牛串にかぶりついた。
一口大にカットされた牛肉を口に入れると、すぐさま質のいい脂の甘みと強めに振られた塩のしょっぱさが絶妙なバランスで広がっていく。そして肉を噛めばうま味がじゅわっとあふれだし、さらなる幸せへと導いてくれる。上質な肉なのでほとんど臭みはないが、わずかに振りかけられた乾燥バジルの香りがそのわずかな臭みすらも完璧に打ち消してくれており、まるで高級店でステーキでも食べているかのような錯覚を覚える。
うん、美味しい!
続いて牛テールのワイン煮込みに手をつけようとしたそのときだった。
ドォォォォン!
ビリビリとした衝撃と共に森のほうからすさまじい爆発音が聞こえた。森を見ると、巨大な土煙が上がっているのが見える。
え? あれは一体……?
久しぶりにやってきたクラウブレッツの町では今年も狩猟祭りを開催すると聞き、せっかくなので私も来賓として出席することになった。
それにホテル代だって出してもらっているのだから、このくらいはしておいたほうがいいだろう。
会場も以前と同じで町を囲む壁の外に建てられた半円形のコロッセオのような場所で、司会のおじさんも前に訪れたときと同じ人だ。もちろん、マイクなしで千人規模の会場全体に声を響かせている。
前も思ったが、彼の喉は一体どうなっているのだろうか?
「今回は、なんと! 三年ぶりに聖女フィーネ・アルジェンタータ様のご臨席を賜っております!」
すると大きな歓声が鳴り響いた。その歓声に私は厳重に守られた貴賓席から手を振って応える。
こういったことにもすっかり慣れてしまったので、もう特段の感想はない。
「選手の皆さんはぜひとも、三年間鍛えに鍛えたその腕を聖女様に見せてください!」
司会の人がそう言うと、会場のボルテージはまた一団と上がった。
「それでは早速競技に入ります。ルールは簡単、これから参加者の皆さんは森へ入って狩りをしてもらい、もっとも高価な獲物を狩ってきた人が優勝となります」
うん、このルールは前と同じだね。
「とはいえ、今年は魔物が多く出現しております! そんな危険な森から、選手の皆さんは果たして無事に獲物を持ち帰ることができるのでしょうか!」
ううん、やっぱりこの辺りも魔物がたくさん出るのか。この町の教会の中庭にリーチェの種を植えておいたから今後は大丈夫だろうけれど、今いる魔物が減るわけではないだろうしなぁ。
あ、でも前に参加したときはゴブリンから逃げ回って結局会場まで連れてきちゃったような?
「気になる優勝者への商品ですが、今年はクラウブレッツ特産の最高級牛肉十キログラムに加え、記念のクリスタルトロフィーが聖女様より授与されます!」
うん。前回も同じだったね。事前に言われていないことも含めて全く同じだ。
まあ、前回もやったしね。聖女様ならこのくらいやって当然といったような暗黙の了解がきっとあるのだろう。
「それでは、競技開始の鐘を聖女様に鳴らしていただきましょう」
前回同様、貴賓席の最前列に置かれた鐘をハンマーで叩いた。するとカーンという乾いた音が鳴り響く。
「競技、スタートです!」
大歓声に見送られ、選手たちが続々と森へと入っていった。ちなみにルーちゃんは参加していない。
あの美味しい鳥を捕まえたのに優勝じゃなかったことを根に持っているらしく、絶対に出ないと言っていた。
なので今回のルーちゃんの役目は屋台で美味しい食事を買ってくる係だ。
本当は私も一緒に行って屋台ごはんを楽しみたいのだが、このご時世だ。私が出ていくとたぶんアイロールのときのように事故が起きるだけだと思うため、残念ながら今回は我慢することにした。
でもルーちゃんであれば聖女様本人じゃないし、係の人と一緒に行動しているのできっとおかしなことにはならないだろう。
そうして選手たちが全員出発すると、楽器を持った人と民族衣装でドレスアップした若い女性がやってきた。
おお、今年もぶどう踏みをするようだ。
「さあ、今年もぶどう踏みの季節がやってきました。選手の皆さんが狩りをしている間、しっかりとワインの仕込みをしておきましょう! 我こそはと乙女の皆さん、どうぞ奮ってご参加ください!」
そのアナウンスに、少女たちが次々と会場の中へと入ってきた。そして裸足になるとスカートのすそをつまみ、音楽に合わせてまるで踊っているかのうようなステップで楽しそうにぶどうを踏んでいる。
うん。いいね。魔物の被害で大変な中、こうして明るい気持ちでお祭りができるのは素晴らしいことだと思う。
俯いているだけじゃ気持ちも落ち込んでしまうし、悪いことだって考えてしまうかもしれない。
そうしたら、もしかするとそれが回りまわって瘴気を生み出す原因になるかもしれないのだ。
あとは森に入った選手たちが無事に帰ってきてくれればいいのだけれど……。
でもまあ会場の魔物を追い払うくらいはちゃんとやっているんだろうし、きっと大丈夫だろう。
◆◇◆
「姉さまっ! 買ってきました!」
ルーちゃんが戻ってきた。その後ろからは係の人たちが大量の屋台料理を運んできている。
「これが、クラウブレッツ名物の牛串ですっ! それからこっちは牛テールのワイン煮込みで、こっちはあらびきソーセージのホットドッグです。こっちはひき肉とチーズのグラタンで、あと野菜の串焼きもありますっ!」
「ルーちゃん、ありがとうございます」
ルーちゃんにしては珍しく肉だらけだ。いつもはもう少しバランスのいいメニューを選んでくれるのだが、きっといいものがなかったのだろう。
まあ、屋台で出すものだとバランスのいいメニューは難しいかもしれないね。
「姉さま、この牛串が一番のおススメですっ!」
「はい」
私は勧められた牛串にかぶりついた。
一口大にカットされた牛肉を口に入れると、すぐさま質のいい脂の甘みと強めに振られた塩のしょっぱさが絶妙なバランスで広がっていく。そして肉を噛めばうま味がじゅわっとあふれだし、さらなる幸せへと導いてくれる。上質な肉なのでほとんど臭みはないが、わずかに振りかけられた乾燥バジルの香りがそのわずかな臭みすらも完璧に打ち消してくれており、まるで高級店でステーキでも食べているかのような錯覚を覚える。
うん、美味しい!
続いて牛テールのワイン煮込みに手をつけようとしたそのときだった。
ドォォォォン!
ビリビリとした衝撃と共に森のほうからすさまじい爆発音が聞こえた。森を見ると、巨大な土煙が上がっているのが見える。
え? あれは一体……?
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