勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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欲と業

第十一章第33話 セブニッツへの旅路(後編)

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 食事を終えるころあたりはすっかり暗くなっていた。私たちはそんな夜の森でたき火を囲み、食後のティータイムを楽しんでいる。

 薪がパチパチと音を立て、私たちを柔らかく照らしだす。

 うん。やっぱり夜の森っていいよね。ふかふかのベッドで眠るのも気持ちがいいけれど、こうして大自然の中でたき火を囲んでお茶を飲むのもそれに負けないくらい素晴らしい体験だ。

 すると突然ルーちゃんがすっと立ち上がった。

「姉さま、魔物ですっ!」
「え? ああ、本当ですね」

 ルーちゃんの指さしたほうを確認してみると、かなり遠くの茂みの中をフォレストウルフが歩いていた。

「ひっ? フォレストウルフ!? せ、聖女様! お守ります!」

 一瞬怯えた様子のレジスさんだが、すぐに真剣な表情でそう言うと剣を持って立ち上がった。

「ああ、大丈夫ですよ。こちらに気付くことはありませんから」
「え?」
「そういう風に結界を張りましたから大丈夫です」

 レジスさんはポカンとした様子で私のほうを見ている。

「ですから、外からは中の様子が見えないように結界を張りました。それにフォレストウルフ程度に私の結界が破られることはありませんから大丈夫ですよ」

 そのまましばらく呆けたような表情で私を見ていたが、突如ブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 ええと、点数は相変わらずの6点だね。まずは演技をするという心構えから始めるといいんじゃないかな。

「神の御心のままに」

 いつもの言葉で起こしつつ、フォレストウルフのいた茂みを確認してみる。するとそこにはもうフォレストウルフの姿はない。

「あ、いなくなりましたね」
「はいっ! 森の奥に歩いていきました」

 森の中でルーちゃんがそう言うなら間違いないだろう。

「かなり暗くなりましたし、そろそろ寝ましょうか」
「そうですね」
「わ、私が見張りをします!」

 私の提案にレジスさんが気負った様子で見張りを申し出てきた。

「はは、大丈夫でござるよ」
「え?」
「レジス殿には道案内という大役があるでござるから、ゆっくり休むでござるよ」
「で、ですが……」
「フィーネ殿の結界は頑丈でござるからな。並大抵の者には破れないでござるよ」
「それでは聖女様がお休みになれないではありませんか!」
「え? ああ、大丈夫ですよ。私の結界、寝ていても解けませんから」
「へ?」
「そういうわけで、安心して眠ってくださいね」

 するとレジスさんが再びブーンからのジャンピング土下座を決めてきた。

 ……6点だ。何度やっても同じ演技では高得点はあげられない。しっかりと演技の質を上げてから再チャレンジしてもらいたいものだ。

「神の御心のままに」

◆◇◆

 翌朝目を覚ますと、結界の外にフォレストウルフの死体が四つ転がっていた。

「あれ? 寝ている間に襲ってきたんですか?」
「ルミア殿が試しにと射ったでござるよ」
「え? 試しに? なんのことですか?」
「【精霊弓士】となったルミア殿の実戦デビューというやつでござるな」
「ああ、そういえばそうですね。あれ? でも随分死体がきれいですね。あのときは岩を砕いていましたけど」
「色々と種類があるようでござるよ。今回の矢は、なんと矢が木を避けて命中したでござるよ」
「え? 木を避ける?」
「そうでござる。放った矢が木を避けてくねくねと曲がったのでござる。あんな攻撃があるとは驚きでござるな」

 シズクさんは随分と感心した様子だ。

 ええと、つまり放った矢が後から曲がって命中したってことかな?

 それはすごい。もしかすると、避けても追いかけてくる矢とかもできるんだろうか?

「そんなわけで、フォレストウルフは全てルミア殿が退治したでござる。それではフィーネ殿に浄化をお願いしようと死体を集めておいたでござるよ」
「ありがとうございます」

 私はすぐにフォレストウルフを浄化した。

「そろそろ朝食にしましょうか」
「そうでござるな」

 私が朝食のパンを収納から取り出していると、ちょうどいいタイミングでルーちゃんが起きてきた。

「姉さま、おはようございますっ!」
「あ、ルーちゃん。おはようございます」
「ルーちゃん、昨晩はすごかったみたいですね。曲がって当たる矢を射たそうじゃないですか」
「えへへ。あたし、【精霊弓士】ですからねっ! 今度姉さまに見せてあげますねっ!」

 ルーちゃんは自慢気な様子でそう答える。

「はい。楽しみにしていますね」

 私がそう答えると、ルーちゃんはとても嬉しそうに笑った。

 そういえば【精霊弓士】になってからは一度もないけれど、誤射フレンドリー・ファイアはもうしなくなったのだろうか?

 そうだと嬉しいのだけれど……。

 私はルーちゃんを見て、そんなことを思ったのだった。
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