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第98話 常識の違い
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翌朝、疲れた体を引きずりながら俺は大聖堂から直接警備隊の本部に出勤することになった。
「おはようございます」
「あ! おはようリリスちゃん……って、あれ? なんだかお疲れ?」
う……。大聖堂まで迎えに来てくれたレオニーさんに、会った瞬間に指摘されてしまった。
「その、ちょっと昨日は夜更かししちゃいまして……」
「え? 大聖堂で? なんだかよくわからないけど大丈夫?」
「はい。大丈夫だと思います」
「そう。無理してない?」
「だ、大丈夫です」
するとレオニーさんはじっと俺の顔を見てきた。そして突然小さく笑みを浮かべる。
「え?」
「なんでもないよ。さ、行こ?」
意味深な表情を見せたレオニーさんだったが、すぐにくるりと背を向けて歩きだした。俺は慌ててその後を追いかけるのだった。
◆◇◆
警備隊の本部に到着したが、パトリスさんとヴィヴィアーヌさんが繁華街での捜査に出掛けてまだ戻ってきていないとのことなので、俺はウスターシュさんに状況を確認してみることにした。
「ウスターシュさん」
「なんでしょう?」
「あの、捕まえた犯人たちって今どうなってます?」
「はい? どう、とはどういうことでしょう?」
「ええと、この前捕まえた犯人がいるじゃないですか」
「ああ、はい。連中ならまだ地下牢に繋いでありますよ」
「取り調べはいつごろですか?」
「取り調べ? ああ、尋問のことですね。今日明日にでも始めようと思っております。ただ、女神の使徒であるリリス様にお見せするのはさすがに……」
ウスターシュさんはそう言葉を濁した。
「ええと?」
「その、なんと言いますか……」
「ほら、リリスちゃん。尋問は色々と血が出るし、ね?」
……血が出るということは、つまり拷問的なことをするということだろうか?
ちょっとモヤっとするが、この国は簡単に処刑してしまうくらいなのだ。そのくらいはやっても不思議ではないし、そもそも聞きたいのはそういうことではない。
「ええと、そういうことではなくてですね」
「はい」
「取り調べが終わった犯人ってどうなってるんですか?」
「え? 取り調べが終わった犯人ですか? そりゃあもちろん、処刑するに決まっていますよ」
ウスターシュさんは何を当然のことを聞いているんだとでも言わんばかりの表情でそう答えた。ちらりとレオニーさんとダルコさんの表情を窺うと、二人とも俺に対してウスターシュさんと同じ怪訝そうな目を向けている。
「ええと、どのくらいしたら処刑するんですか?」
「そうですね。何も吐……喋らくなったら割とすぐですね」
「割とすぐですか? どのくらいですか?」
「はあ。そうですね。大体三日くらいが多いです。長くても一週間くらいではないかと思います」
「え? そんなに早くですか?」
「え? 何か問題が?」
ウスターシュさんは心底俺の言っていることが理解できないようで、驚いた様子で聞き返してきた。
「え? でも処刑したら、もしその人が嘘を言っていたら分からないじゃないですか。もしかしたら冤罪かもしれないですし……」
「ああ、そういうことですか。それでしたら尋問で嘘をつくこともまた処刑の対象ですので問題ありません」
「えっ?」
まったく想定していなかった答えに俺は思わず絶句してしまった。
「神に誓って真実を述べると誓っているのです。にもかかわらず嘘をついたのですから当然でしょう」
おっと、そうだった。この世界では神様がものすごい力を持っているんだった。だから日本の常識とはだいぶ違うのだろう。
まあ、それでも本当に事実をきちんと話すとは思えないが……。
「それに早く処刑してやったほうが罪人も早く神の身許に向かうことができます。そうすればより早く罪を償えるようになりますので、罪人たちにとってもありがたいのではないでしょうか?」
「ええと……」
なんだかちょっとウスターシュさんがよく分からない人に見えてきてしまった。
「アルテナ様はそうはお考えではないのですか?」
「え? そ、そうですね。やはりきちんと証拠を使って、こう、生きて罪を償うというのも必要なんじゃないかなって……」
「なるほど。アルテナ様は生きる者の魂の救済を考えていらっしゃる女神さまなのですね。それで記録を司っておられる、と」
ど、どうなんだろう。個人的にはあの駄女神がそんなことを考えているとは思えないが、とりあえず曖昧に笑ってごまかしておこう。
「あ、まあ、そんなわけで、事件が解決するまではできるだけ、処刑は止めておいて欲しいなって……」
「わかりました。アルテナ様の教えとあらば、隊長も副長もご納得いただけると思いますので、掛け合ってみましょう」
「え? ウスターシュさんだけでは決められないんですか?」
「はい。厳密な処刑の適用は副長がお決めになられたことです」
「そうなんですか?」
「はい。お恥ずかしい限りなのですが、それまではかなり汚職が横行しておりまして、賄賂を受け取った看守が罪人を逃がすということが多発していたのです。そこで副長が主導して改革を行い、協力者が賄賂を渡す前に処刑できるように改革を行ったのです」
な、なるほど。そんな問題があったのか。なんだかそういう話を聞くと、やっぱり副長は白な気がする。
となるとあと視聴者さんから教えてもらったのは……。
「あ、そうだ。あと、司法取引ってどうですか?」
口に出してみてすぐに気づいたが、これはダメそうな気がする。
「司法取引? それはなんでしょう?」
「ええと、自白したら罪を軽くするっていうのなんですけど……」
「そのようなことはあり得ません。神に誓わせたうえで話させるのですから」
ああ、やはりそうなるよな。
「そ、そうですね。あとは……証拠です。押収した書類とかの証拠を、アルテナ様の力で記録しておいたほうがいいとおもうんです。その、ほら、そうすれば字の書き方のくせとかで同じ人が書いたかが分かるじゃないですか」
「おお! なるほど! それはそうですね。では早速お願いします。それと押収した麻薬についてもお願いします。そうすれば早く処分できるようになります」
「処分ってどうやっているんですか?」
「町の外で燃やすことになっています。何せ麻薬ですからね。昔からこういったことを請け負ってくれる処分業者がありまして、そこに依頼して処分させています」
「なるほど」
たしかに町中で麻薬を燃やすのは問題になりそうだ。
「では早速、証拠の記録をお願いできますか?」
「はい」
こうして俺は証拠の撮影を始めるのだった。
「おはようございます」
「あ! おはようリリスちゃん……って、あれ? なんだかお疲れ?」
う……。大聖堂まで迎えに来てくれたレオニーさんに、会った瞬間に指摘されてしまった。
「その、ちょっと昨日は夜更かししちゃいまして……」
「え? 大聖堂で? なんだかよくわからないけど大丈夫?」
「はい。大丈夫だと思います」
「そう。無理してない?」
「だ、大丈夫です」
するとレオニーさんはじっと俺の顔を見てきた。そして突然小さく笑みを浮かべる。
「え?」
「なんでもないよ。さ、行こ?」
意味深な表情を見せたレオニーさんだったが、すぐにくるりと背を向けて歩きだした。俺は慌ててその後を追いかけるのだった。
◆◇◆
警備隊の本部に到着したが、パトリスさんとヴィヴィアーヌさんが繁華街での捜査に出掛けてまだ戻ってきていないとのことなので、俺はウスターシュさんに状況を確認してみることにした。
「ウスターシュさん」
「なんでしょう?」
「あの、捕まえた犯人たちって今どうなってます?」
「はい? どう、とはどういうことでしょう?」
「ええと、この前捕まえた犯人がいるじゃないですか」
「ああ、はい。連中ならまだ地下牢に繋いでありますよ」
「取り調べはいつごろですか?」
「取り調べ? ああ、尋問のことですね。今日明日にでも始めようと思っております。ただ、女神の使徒であるリリス様にお見せするのはさすがに……」
ウスターシュさんはそう言葉を濁した。
「ええと?」
「その、なんと言いますか……」
「ほら、リリスちゃん。尋問は色々と血が出るし、ね?」
……血が出るということは、つまり拷問的なことをするということだろうか?
ちょっとモヤっとするが、この国は簡単に処刑してしまうくらいなのだ。そのくらいはやっても不思議ではないし、そもそも聞きたいのはそういうことではない。
「ええと、そういうことではなくてですね」
「はい」
「取り調べが終わった犯人ってどうなってるんですか?」
「え? 取り調べが終わった犯人ですか? そりゃあもちろん、処刑するに決まっていますよ」
ウスターシュさんは何を当然のことを聞いているんだとでも言わんばかりの表情でそう答えた。ちらりとレオニーさんとダルコさんの表情を窺うと、二人とも俺に対してウスターシュさんと同じ怪訝そうな目を向けている。
「ええと、どのくらいしたら処刑するんですか?」
「そうですね。何も吐……喋らくなったら割とすぐですね」
「割とすぐですか? どのくらいですか?」
「はあ。そうですね。大体三日くらいが多いです。長くても一週間くらいではないかと思います」
「え? そんなに早くですか?」
「え? 何か問題が?」
ウスターシュさんは心底俺の言っていることが理解できないようで、驚いた様子で聞き返してきた。
「え? でも処刑したら、もしその人が嘘を言っていたら分からないじゃないですか。もしかしたら冤罪かもしれないですし……」
「ああ、そういうことですか。それでしたら尋問で嘘をつくこともまた処刑の対象ですので問題ありません」
「えっ?」
まったく想定していなかった答えに俺は思わず絶句してしまった。
「神に誓って真実を述べると誓っているのです。にもかかわらず嘘をついたのですから当然でしょう」
おっと、そうだった。この世界では神様がものすごい力を持っているんだった。だから日本の常識とはだいぶ違うのだろう。
まあ、それでも本当に事実をきちんと話すとは思えないが……。
「それに早く処刑してやったほうが罪人も早く神の身許に向かうことができます。そうすればより早く罪を償えるようになりますので、罪人たちにとってもありがたいのではないでしょうか?」
「ええと……」
なんだかちょっとウスターシュさんがよく分からない人に見えてきてしまった。
「アルテナ様はそうはお考えではないのですか?」
「え? そ、そうですね。やはりきちんと証拠を使って、こう、生きて罪を償うというのも必要なんじゃないかなって……」
「なるほど。アルテナ様は生きる者の魂の救済を考えていらっしゃる女神さまなのですね。それで記録を司っておられる、と」
ど、どうなんだろう。個人的にはあの駄女神がそんなことを考えているとは思えないが、とりあえず曖昧に笑ってごまかしておこう。
「あ、まあ、そんなわけで、事件が解決するまではできるだけ、処刑は止めておいて欲しいなって……」
「わかりました。アルテナ様の教えとあらば、隊長も副長もご納得いただけると思いますので、掛け合ってみましょう」
「え? ウスターシュさんだけでは決められないんですか?」
「はい。厳密な処刑の適用は副長がお決めになられたことです」
「そうなんですか?」
「はい。お恥ずかしい限りなのですが、それまではかなり汚職が横行しておりまして、賄賂を受け取った看守が罪人を逃がすということが多発していたのです。そこで副長が主導して改革を行い、協力者が賄賂を渡す前に処刑できるように改革を行ったのです」
な、なるほど。そんな問題があったのか。なんだかそういう話を聞くと、やっぱり副長は白な気がする。
となるとあと視聴者さんから教えてもらったのは……。
「あ、そうだ。あと、司法取引ってどうですか?」
口に出してみてすぐに気づいたが、これはダメそうな気がする。
「司法取引? それはなんでしょう?」
「ええと、自白したら罪を軽くするっていうのなんですけど……」
「そのようなことはあり得ません。神に誓わせたうえで話させるのですから」
ああ、やはりそうなるよな。
「そ、そうですね。あとは……証拠です。押収した書類とかの証拠を、アルテナ様の力で記録しておいたほうがいいとおもうんです。その、ほら、そうすれば字の書き方のくせとかで同じ人が書いたかが分かるじゃないですか」
「おお! なるほど! それはそうですね。では早速お願いします。それと押収した麻薬についてもお願いします。そうすれば早く処分できるようになります」
「処分ってどうやっているんですか?」
「町の外で燃やすことになっています。何せ麻薬ですからね。昔からこういったことを請け負ってくれる処分業者がありまして、そこに依頼して処分させています」
「なるほど」
たしかに町中で麻薬を燃やすのは問題になりそうだ。
「では早速、証拠の記録をお願いできますか?」
「はい」
こうして俺は証拠の撮影を始めるのだった。
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