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第22話 魔族の王子様
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2022/08/03 誤字を修正しました
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それから少し経ったある日、私は町長に呼び出されてお屋敷へとやってきた。
応接室に通されるとそこには町長とヘクターさんだけでなく、見知らぬ男性がソファーに腰かけていた。
その男性は私のほうを見て温和な笑みを浮かべた。
あ……ものすごくかっこいい。
まるで彫像のように整った顔とルビーのように赤い瞳と相まって一見すると怖そうな印象も受けるが、清潔感を感じさせる短い髪とその温和な笑みがそういった印象を打ち消している。
その男性は立ち上がると、笑みを浮かべたまま私のほうへと歩いてきた。
すらりとしていて背も高い。確実にニール兄さんよりも高そうだ。もしかするとヘクターさんくらいあるかもしれない。
近づいてきた男性はニッコリと微笑みかけてきた。
「あ、えっと……」
「はじめまして、あなたがホリーさんですね? 私はキエルナから参りましたエルドレッドと申します。ホリーさん、貴女のような美しいレディにお会いできて大変光栄です。どうぞお見知りおきを」
「は、はい。ホリーです。はじめまして」
あまりに紳士的な挨拶と突然外見を褒められたことに驚いて反応に困っていると、町長が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ホリー、このお方は魔王陛下のご子息様、つまり王子殿下だ。事情を聞き、魔王陛下がエルドレッド殿下に解決をお命じになられたのだぞ」
「えっ!?」
「アリスター殿、そのような言い方をしてはホリーさんが緊張してしまうではありませんか。ホリーさん、たしかに私の父は魔王です。だからといって、私自身が偉いわけではありません。どうか普通に接していただけると助かります」
「は、はい。エルドレッド様……」
そんなことを言われても、知ってしまったのだから失礼な態度を取るなんて私にはできない。
「……仕方ありませんね。ホリーさん、よろしくお願いいたします」
エルドレッド様はそう言って私の手を取り、私の手の甲に軽くキスをする真似をした。その流れがあまりにも自然すぎて、エルドレッド様が本当に王子様なのだと実感させられる。
しかも顔があまりに美しすぎるため、恥ずかしくて顔を直視できない。
それを隠すため、私は本題を切り出す。
「あ、えっと、はい。それで、どうして私が呼ばれたんでしょうか?」
するとエルドレッド様はまた穏やかな笑みを浮かべる。
「そうでしたね。まずはこちらにおかけください」
そういってエルドレッド様は紳士的にソファーを勧めてくれる。
「ありがとうございます」
私はお礼を言ってからソファーに座り、エルドレッド様たちも着席する。
「アリスター殿からの報せをお聞きし、すぐさま私たちも過去の文献を調査しました。するとどうやら、人族の国で似たような事例が発生したという記録が発見されました」
「人族の国で、ですか?」
「はい。一番最近ですと、リリヤマールというちょうど中央山脈を挟んで南側の国で十五年前に発生したようです」
十五年前ということは、私の生まれた年だ。
「彼らはどうにかゾンビを撃退することには成功したのですが、そのときの混乱が原因で結局国は滅びてしまったようです」
「そうだったんですか……」
「ですが、似たような事例が発生しているにも関わらず町や国が崩壊しなかった事例もありました」
「ということは、解決方法が見つかったんですか?」
「いえ、ですがゾンビによって滅びなかった場合ですと、必ず聖女が関わっていました」
「聖女、ですか?」
「はい。ホリーさんはホワイトホルンに住む唯一の人族で、奇跡を使うことができるのですよね?」
「それはそうですけど、私は……」
「もちろんホリーさんは人族の町で聖女としての訓練を受けたわけではありません。ご不安な気持ちはよくわかります。ですが、今回の事件の解決のカギは聖女と同じ奇跡の力を使えるホリーさんであると私は確信しております。ホリーさん、どうかゾンビを生み出す宝玉の無力化をするのに協力していただけませんか?」
エルドレッド様は穏やかながらも強い意志を持った瞳でそう私に訴えかけてきた。
ここは私の故郷なのに、エルドレッド様はまるで自分の故郷であるかのように真剣に考えてくれているようだ。
「わかりました。ぜひ、私に協力させてください」
「ああ、良かった。ホリーさんに断られたらどうしようかと、実は少し不安だったんですよ」
エルドレッド様はそう言うと、本当にホッとしたような表情を浮かべる。
「ホリーさん、これから短い間ですがよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いします!」
私がそう答えると、エルドレッド様は嬉しそうに優しく微笑んだのだった。
◆◇◆
私たちは早速あの赤い宝玉が見つかったゾンビ発生地帯にやってきた。
今日は小雪がちらついており、しっかりと毛皮のコートを着込んでいるというのに体の芯から凍りついてしまいそうなくらい冷え込んでいる。
そんなあいにくの天気の中、私たちはゾンビ発生地帯をぐるりと取り囲むようにして建てられた壁の上に登ってきた。
壁の中には前には十匹ほどのゾンビが唸り声を上げてこちらを見上げている。
いつの間に壁を建設したのかと疑問に思うかもしれないが、魔王様に手紙を送ってすぐにザックスさんたち町の大工さんが大急ぎで建築してくれたものだ。
というのも、町長はこんなにすぐにエルドレッド様が来てくれると思っていなかったのだそうだ。
そのためゾンビが発生地帯から逃げ出さないようにし、雪に閉ざされる冬の間も定期的にゾンビ退治をしに来るつもりでこの壁を建設したのだ。
ちなみに私がヘクターさんに依頼されたお仕事というのは、この工事中のゾンビ退治への協力だ。
「なるほど、これほどの範囲にゾンビが……」
エルドレッド様はその壁の中を見回すと、ぼそりとそう呟いた。
「はい。少々余裕を見て建設してありますので、実際はもう十メートルくらいは狭いはずです」
エルドレッド様の呟きにヘクターさんがそう返事をする。
「わかりました。それではヘクターさん、ゾンビを生み出すという宝玉のところまで案内してください」
「かしこまりました」
こうして私たちはゾンビ発生地帯へと足を踏み入れるのだった。
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それから少し経ったある日、私は町長に呼び出されてお屋敷へとやってきた。
応接室に通されるとそこには町長とヘクターさんだけでなく、見知らぬ男性がソファーに腰かけていた。
その男性は私のほうを見て温和な笑みを浮かべた。
あ……ものすごくかっこいい。
まるで彫像のように整った顔とルビーのように赤い瞳と相まって一見すると怖そうな印象も受けるが、清潔感を感じさせる短い髪とその温和な笑みがそういった印象を打ち消している。
その男性は立ち上がると、笑みを浮かべたまま私のほうへと歩いてきた。
すらりとしていて背も高い。確実にニール兄さんよりも高そうだ。もしかするとヘクターさんくらいあるかもしれない。
近づいてきた男性はニッコリと微笑みかけてきた。
「あ、えっと……」
「はじめまして、あなたがホリーさんですね? 私はキエルナから参りましたエルドレッドと申します。ホリーさん、貴女のような美しいレディにお会いできて大変光栄です。どうぞお見知りおきを」
「は、はい。ホリーです。はじめまして」
あまりに紳士的な挨拶と突然外見を褒められたことに驚いて反応に困っていると、町長が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ホリー、このお方は魔王陛下のご子息様、つまり王子殿下だ。事情を聞き、魔王陛下がエルドレッド殿下に解決をお命じになられたのだぞ」
「えっ!?」
「アリスター殿、そのような言い方をしてはホリーさんが緊張してしまうではありませんか。ホリーさん、たしかに私の父は魔王です。だからといって、私自身が偉いわけではありません。どうか普通に接していただけると助かります」
「は、はい。エルドレッド様……」
そんなことを言われても、知ってしまったのだから失礼な態度を取るなんて私にはできない。
「……仕方ありませんね。ホリーさん、よろしくお願いいたします」
エルドレッド様はそう言って私の手を取り、私の手の甲に軽くキスをする真似をした。その流れがあまりにも自然すぎて、エルドレッド様が本当に王子様なのだと実感させられる。
しかも顔があまりに美しすぎるため、恥ずかしくて顔を直視できない。
それを隠すため、私は本題を切り出す。
「あ、えっと、はい。それで、どうして私が呼ばれたんでしょうか?」
するとエルドレッド様はまた穏やかな笑みを浮かべる。
「そうでしたね。まずはこちらにおかけください」
そういってエルドレッド様は紳士的にソファーを勧めてくれる。
「ありがとうございます」
私はお礼を言ってからソファーに座り、エルドレッド様たちも着席する。
「アリスター殿からの報せをお聞きし、すぐさま私たちも過去の文献を調査しました。するとどうやら、人族の国で似たような事例が発生したという記録が発見されました」
「人族の国で、ですか?」
「はい。一番最近ですと、リリヤマールというちょうど中央山脈を挟んで南側の国で十五年前に発生したようです」
十五年前ということは、私の生まれた年だ。
「彼らはどうにかゾンビを撃退することには成功したのですが、そのときの混乱が原因で結局国は滅びてしまったようです」
「そうだったんですか……」
「ですが、似たような事例が発生しているにも関わらず町や国が崩壊しなかった事例もありました」
「ということは、解決方法が見つかったんですか?」
「いえ、ですがゾンビによって滅びなかった場合ですと、必ず聖女が関わっていました」
「聖女、ですか?」
「はい。ホリーさんはホワイトホルンに住む唯一の人族で、奇跡を使うことができるのですよね?」
「それはそうですけど、私は……」
「もちろんホリーさんは人族の町で聖女としての訓練を受けたわけではありません。ご不安な気持ちはよくわかります。ですが、今回の事件の解決のカギは聖女と同じ奇跡の力を使えるホリーさんであると私は確信しております。ホリーさん、どうかゾンビを生み出す宝玉の無力化をするのに協力していただけませんか?」
エルドレッド様は穏やかながらも強い意志を持った瞳でそう私に訴えかけてきた。
ここは私の故郷なのに、エルドレッド様はまるで自分の故郷であるかのように真剣に考えてくれているようだ。
「わかりました。ぜひ、私に協力させてください」
「ああ、良かった。ホリーさんに断られたらどうしようかと、実は少し不安だったんですよ」
エルドレッド様はそう言うと、本当にホッとしたような表情を浮かべる。
「ホリーさん、これから短い間ですがよろしくお願いします」
「はい! よろしくお願いします!」
私がそう答えると、エルドレッド様は嬉しそうに優しく微笑んだのだった。
◆◇◆
私たちは早速あの赤い宝玉が見つかったゾンビ発生地帯にやってきた。
今日は小雪がちらついており、しっかりと毛皮のコートを着込んでいるというのに体の芯から凍りついてしまいそうなくらい冷え込んでいる。
そんなあいにくの天気の中、私たちはゾンビ発生地帯をぐるりと取り囲むようにして建てられた壁の上に登ってきた。
壁の中には前には十匹ほどのゾンビが唸り声を上げてこちらを見上げている。
いつの間に壁を建設したのかと疑問に思うかもしれないが、魔王様に手紙を送ってすぐにザックスさんたち町の大工さんが大急ぎで建築してくれたものだ。
というのも、町長はこんなにすぐにエルドレッド様が来てくれると思っていなかったのだそうだ。
そのためゾンビが発生地帯から逃げ出さないようにし、雪に閉ざされる冬の間も定期的にゾンビ退治をしに来るつもりでこの壁を建設したのだ。
ちなみに私がヘクターさんに依頼されたお仕事というのは、この工事中のゾンビ退治への協力だ。
「なるほど、これほどの範囲にゾンビが……」
エルドレッド様はその壁の中を見回すと、ぼそりとそう呟いた。
「はい。少々余裕を見て建設してありますので、実際はもう十メートルくらいは狭いはずです」
エルドレッド様の呟きにヘクターさんがそう返事をする。
「わかりました。それではヘクターさん、ゾンビを生み出すという宝玉のところまで案内してください」
「かしこまりました」
こうして私たちはゾンビ発生地帯へと足を踏み入れるのだった。
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