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第127話 迫りくる勇者
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「ホリー先生、避難してください」
「え?」
今日も暇を持て余して訓練場でニール兄さんたちを見守っていると、トラヴィスさんがやってきて突然こんなことを言ってきた。
トラヴィスさんはショーズィさんの呪いを解いたときに私たちの警護をしてくれていた部隊の隊長さんだ。
「何かあったんですか?」
「新たな黒髪の戦士が現れたらしく、エイブラム将軍が討たれて軍が総崩れになったようです」
「えっ!?」
「新たな黒髪の戦士?」
「はい。エイブラム将軍ですら、一瞬で敗れたそうです。この砦にエイブラム将軍を上回る戦士はいませんし、ボーダーブルクでもオリアナ町長しかいません」
「待ってください! それは本当ですか?」
いつの間にか訓練をしていたニール兄さんたちも集まっており、ショーズィさんが血相を変えてトラヴィスさんに詰め寄った。
「本当です。このままいけばコーデリア峠が抜かれるのも時間の問題でしょう。それにあなたたちの証言によれば連中の目的は魔族を滅ぼすこと、そしてホリー先生、貴女の身柄の確保だそうですね」
「……そうですね」
ショーズィさんは悔しそうに唇を噛んだ。
「ですから、狙われているホリー先生には今すぐ、ボーダーブルクまで下がっていただきます」
「はい。わかりました」
「あの!」
「なんですか? まだ何か?」
食い下がるショーズィさんにトラヴィスさんは迷惑そうな視線を向ける。
「俺に、やっぱり俺に戦わせてください! あいつらは俺を騙して、呪いをかけてまで罪を犯させたんです。それに黒髪の戦士ってことは、もしかしたら俺と同じ被害者なのかもしれない。たとえ裏切り者と言われようとも!」
「……ホリー先生。薬師として、彼は戦わせても大丈夫ですか?」
「え? あ、はい。最近は落ち着いていますし、訓練をしていてもフラッシュバックなどはないようですから大丈夫だと思います。ただ、戦場に出て実際に血を見たときにどうなるかは……」
「……そうですか。ではオリアナ町長より預かっておりますこちらの剣をショーズィさんに差し上げます」
そう言ってトラヴィスさんは一振りの剣を差し出した。
「これは?」
「魔道具研究所のニコラ博士が提携する鍛冶工房と共同制作した試作品の魔剣だそうです。ショーズィさんが使っておられたあの剣を解析し、対抗するために作られたものです。ただし、魔力の消費が激しいため、使いどころには注意するように、とのことです」
剣を受け取ったショーズィさんは鞘からすらりと抜いた。漆黒の剣身の中心部には一筋の赤い部分があり、金色のシンプルな鍔の中央には大きな赤い宝玉がはめ込まれている。
「これは……」
ショーズィさんが剣を握り、魔力を込めると剣身がぼんやりと赤い光を帯びる。
「なるほど。使い方は分かりました。ありがとうございます。これでホリーさんが逃げる時間を稼げばいいんですね?」
「そうです」
「え? 一緒に逃げるんじゃないんですか?」
「彼はこれでも捕虜という身分です。ここで戦い、人族を撃退して初めて信頼が得られるというものでしょう」
「……」
「ホリーさん。俺、ちゃんとホリーさんが逃げる時間を稼ぎます。それにもしその黒髪の戦士が俺と同じなら、俺が止めてやりたいんです。呪いでおかしくさせられてたら縄で縛ってでも連れてくるんで、そのときはお願いします」
ショーズィさんは真剣な表情でそう言ってきた。
「……わかりました。ですが、死ぬのはダメですからね。きちんと生き残ってください」
「もちろんです」
「ホリー先生、さあ早く」
「はい」
こうして私たちは大慌てで荷物をまとめ、大慌てで魔動車に乗り込んだ。
そしてショーズィさんを残し、ボーダーブルクへと向かおうと魔動車が動き出したそのときだった。
突然すさまじい爆発が発生し、私たちの乗る魔動車も衝撃音と共に横転してしまう。
「あいたたた」
「ホリー、大丈夫か?」
「姫様……」
「あ! ごめんなさい」
気が付けば私はいつの間にかニール兄さんとマクシミリアンさんの上に乗っかっていた。
横転したときのはずみで二人を下敷きにしてしまっていたようだが、そのおかげか体のあちこちをぶつけてしまったものの怪我はしていない。
私がなんとか魔動車からはい出ると、ニール兄さんとマクシミリアンさんも続いて出てきた。運転席からはトラヴィスさんも出てくる。
「ひ、姫様! 山が……」
「え? あ……何? あれ……?」
言われてコーデリア峠のほうを見てみると、なんと巨大なキノコ雲がそこにはあった。
しかもここから見えていたはずのコーデリア峠の砦のあたりが跡形もなく吹き飛んでいる。
「まさか……」
「ホリーさん! 無事ですか!」
ショーズィさんが私たちのところに駆けつけてきた。
「はい。なんとか」
すると、魔動車を調べていたトラヴィスさんが深刻そうな表情で私たちを見てきた。
「ホリー先生、残念ながらこの魔動車は動きそうにありません。別の魔動車を手配して参りますので、北門にてお待ちください」
「わかりました」
トラヴィスさんがどこかへと向かって走っていった。私たちも北門に向かおうとすると、何やらコーデリア峠の砦だった場所にオレンジ色の巨大な球があるのが目に入る。
「ね、ねぇ、ニール兄さん。あれ、何?」
「あれは……魔法、なのか?」
私たちが呆気に取られているとそのオレンジ色の球はどんどん大きくなっていき、やがてこちらに向かって飛んできた。
オレンジ色の球はみるみる大きくなっていき、私たちの視界はどんどんとオレンジ色に染まっていく。。
「え?」
「ホリーさん! 危ない!」
ショーズィさんが先ほどの剣を抜き、私たちの前に立った。そして剣身に赤い光を纏わせると、一閃した。
赤い斬撃が飛んでいき、オレンジ色の球に命中した。すると球は真っ二つに割れ、どちらもその場で大爆発する。
「ひゃっ」
爆風と閃光に私は思わずしゃがみこみ、ニール兄さんが私の前に立って爆風から守ってくれる。
「あ、ありがとう。ニール兄さん」
「ああ。だが悔しいがショーズィがいなければ無理だった。はっきり言って相手が悪すぎる。俺たちはすぐに逃げるぞ」
「う、うん」
「ホリーさん! 早く行ってください。これを撃った相手はきっとすぐに来ます」
「は、はい」
「姫様、さあこちらですぞ」
こうして私たちは北門に向けて駆け出すのだった。
「え?」
今日も暇を持て余して訓練場でニール兄さんたちを見守っていると、トラヴィスさんがやってきて突然こんなことを言ってきた。
トラヴィスさんはショーズィさんの呪いを解いたときに私たちの警護をしてくれていた部隊の隊長さんだ。
「何かあったんですか?」
「新たな黒髪の戦士が現れたらしく、エイブラム将軍が討たれて軍が総崩れになったようです」
「えっ!?」
「新たな黒髪の戦士?」
「はい。エイブラム将軍ですら、一瞬で敗れたそうです。この砦にエイブラム将軍を上回る戦士はいませんし、ボーダーブルクでもオリアナ町長しかいません」
「待ってください! それは本当ですか?」
いつの間にか訓練をしていたニール兄さんたちも集まっており、ショーズィさんが血相を変えてトラヴィスさんに詰め寄った。
「本当です。このままいけばコーデリア峠が抜かれるのも時間の問題でしょう。それにあなたたちの証言によれば連中の目的は魔族を滅ぼすこと、そしてホリー先生、貴女の身柄の確保だそうですね」
「……そうですね」
ショーズィさんは悔しそうに唇を噛んだ。
「ですから、狙われているホリー先生には今すぐ、ボーダーブルクまで下がっていただきます」
「はい。わかりました」
「あの!」
「なんですか? まだ何か?」
食い下がるショーズィさんにトラヴィスさんは迷惑そうな視線を向ける。
「俺に、やっぱり俺に戦わせてください! あいつらは俺を騙して、呪いをかけてまで罪を犯させたんです。それに黒髪の戦士ってことは、もしかしたら俺と同じ被害者なのかもしれない。たとえ裏切り者と言われようとも!」
「……ホリー先生。薬師として、彼は戦わせても大丈夫ですか?」
「え? あ、はい。最近は落ち着いていますし、訓練をしていてもフラッシュバックなどはないようですから大丈夫だと思います。ただ、戦場に出て実際に血を見たときにどうなるかは……」
「……そうですか。ではオリアナ町長より預かっておりますこちらの剣をショーズィさんに差し上げます」
そう言ってトラヴィスさんは一振りの剣を差し出した。
「これは?」
「魔道具研究所のニコラ博士が提携する鍛冶工房と共同制作した試作品の魔剣だそうです。ショーズィさんが使っておられたあの剣を解析し、対抗するために作られたものです。ただし、魔力の消費が激しいため、使いどころには注意するように、とのことです」
剣を受け取ったショーズィさんは鞘からすらりと抜いた。漆黒の剣身の中心部には一筋の赤い部分があり、金色のシンプルな鍔の中央には大きな赤い宝玉がはめ込まれている。
「これは……」
ショーズィさんが剣を握り、魔力を込めると剣身がぼんやりと赤い光を帯びる。
「なるほど。使い方は分かりました。ありがとうございます。これでホリーさんが逃げる時間を稼げばいいんですね?」
「そうです」
「え? 一緒に逃げるんじゃないんですか?」
「彼はこれでも捕虜という身分です。ここで戦い、人族を撃退して初めて信頼が得られるというものでしょう」
「……」
「ホリーさん。俺、ちゃんとホリーさんが逃げる時間を稼ぎます。それにもしその黒髪の戦士が俺と同じなら、俺が止めてやりたいんです。呪いでおかしくさせられてたら縄で縛ってでも連れてくるんで、そのときはお願いします」
ショーズィさんは真剣な表情でそう言ってきた。
「……わかりました。ですが、死ぬのはダメですからね。きちんと生き残ってください」
「もちろんです」
「ホリー先生、さあ早く」
「はい」
こうして私たちは大慌てで荷物をまとめ、大慌てで魔動車に乗り込んだ。
そしてショーズィさんを残し、ボーダーブルクへと向かおうと魔動車が動き出したそのときだった。
突然すさまじい爆発が発生し、私たちの乗る魔動車も衝撃音と共に横転してしまう。
「あいたたた」
「ホリー、大丈夫か?」
「姫様……」
「あ! ごめんなさい」
気が付けば私はいつの間にかニール兄さんとマクシミリアンさんの上に乗っかっていた。
横転したときのはずみで二人を下敷きにしてしまっていたようだが、そのおかげか体のあちこちをぶつけてしまったものの怪我はしていない。
私がなんとか魔動車からはい出ると、ニール兄さんとマクシミリアンさんも続いて出てきた。運転席からはトラヴィスさんも出てくる。
「ひ、姫様! 山が……」
「え? あ……何? あれ……?」
言われてコーデリア峠のほうを見てみると、なんと巨大なキノコ雲がそこにはあった。
しかもここから見えていたはずのコーデリア峠の砦のあたりが跡形もなく吹き飛んでいる。
「まさか……」
「ホリーさん! 無事ですか!」
ショーズィさんが私たちのところに駆けつけてきた。
「はい。なんとか」
すると、魔動車を調べていたトラヴィスさんが深刻そうな表情で私たちを見てきた。
「ホリー先生、残念ながらこの魔動車は動きそうにありません。別の魔動車を手配して参りますので、北門にてお待ちください」
「わかりました」
トラヴィスさんがどこかへと向かって走っていった。私たちも北門に向かおうとすると、何やらコーデリア峠の砦だった場所にオレンジ色の巨大な球があるのが目に入る。
「ね、ねぇ、ニール兄さん。あれ、何?」
「あれは……魔法、なのか?」
私たちが呆気に取られているとそのオレンジ色の球はどんどん大きくなっていき、やがてこちらに向かって飛んできた。
オレンジ色の球はみるみる大きくなっていき、私たちの視界はどんどんとオレンジ色に染まっていく。。
「え?」
「ホリーさん! 危ない!」
ショーズィさんが先ほどの剣を抜き、私たちの前に立った。そして剣身に赤い光を纏わせると、一閃した。
赤い斬撃が飛んでいき、オレンジ色の球に命中した。すると球は真っ二つに割れ、どちらもその場で大爆発する。
「ひゃっ」
爆風と閃光に私は思わずしゃがみこみ、ニール兄さんが私の前に立って爆風から守ってくれる。
「あ、ありがとう。ニール兄さん」
「ああ。だが悔しいがショーズィがいなければ無理だった。はっきり言って相手が悪すぎる。俺たちはすぐに逃げるぞ」
「う、うん」
「ホリーさん! 早く行ってください。これを撃った相手はきっとすぐに来ます」
「は、はい」
「姫様、さあこちらですぞ」
こうして私たちは北門に向けて駆け出すのだった。
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