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第160話 母との再会
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私たちは祭壇へと向かう階段をゆっくりと降りているのだが、その先からはなにやら恐ろしい気配が漂ってきている。
「姫様、もうすぐです。お疲れでしょうが、もうひと踏ん張りです」
「はい」
私の様子を察して、マクシミリアンさんは気を遣ってくれているのだろう。
ニール兄さんたちも私のことを心配そうに見ているが、ニコラさんだけはマイペースだ。
「んー、このあたりは別に魔道具でもないんやなぁ」
「ニコラ殿、そのようなことは……」
「なんや? ええやん。減るもんでもないんやし」
マクシミリアンさんの苦言にもどこ吹く風だ。だがそんな普段どおりのニコラさんを見てなんだか少しだけ気分が軽くなった。
「ニコラさん、ありがとうございます」
「ん? なんの話や? まあええ。ようわからんけど見返り、期待しとるで」
「あはは」
本当にニコラさんは気持ちいいくらいいつもどおりだ。
どうせリリヤマール王国の不思議な魔道具が見たくてこんな場所まで来たのだろうが、こうしていつもどおりの人がいてくれるだけで本当に助かっている。
私たちはこうして一歩一歩階段を降りていくのだった。
◆◇◆
私たちが祭壇の間にやってくると、そこには先客がいた。
まるであの空を覆っている雲と同じように禍々しい雰囲気の女性だ。
赤黒いウェーブがかった膝まである長い髪と同じ色の瞳、そして青い肌。さらに胸元にはあの赤い宝玉が埋め込まれており、赤黒い霧を身に纏っている。
どう見ても人族でないことは明らかだが……。
どうしてあんなにも顔の造りが私と似ているのだろうか?
「……ソフィア……へい、か……?」
その声にマクシミリアンさんのほうを見ると、まるで飛び出るのではないかというくらいに目を見開いて驚いている。
するとその女性は私を見てニッコリと微笑んだ。
「お母さんに会いに来てくれたのね? 嬉しいわ」
母を名乗ったその女性の表情からは恐怖と嫌悪しか感じない。
「陛下はたしかにここで亡くなられた! お前は何者じゃ!」
マクシミリアンさんはそう叫んで剣を抜いた。
「あらあら、親子の対面を邪魔するなんて無粋ね。あなた以外に用はないわ」
そう言うと突然ぐにゃりと景色がねじれた。ふわふわとした妙な感覚に私は思わずしゃがんでしまう。
「さあ、これでいいわね」
女性の言葉にあたりを見回すと、なんとニール兄さんたちがいつの間にか私の後ろに立っており、しかも私との間に赤黒い半透明の壁のようなものがあった。
ニール兄さんたちはなんとかその壁を破ろうとしているが、上手くいっていないようだ。必死に何かを叫んでいるようだが、声も聞こえない。
「さあ、いらっしゃい。抱きしめてあげるわ」
そう言って女性は両手を広げた。だが、とてもその胸に飛び込んでいく気にはなれない。
特に、あの胸元に埋まっている赤い宝玉だ。あれを見ていると得も知れない不安と恐怖に襲われるのだ。
……え? もしかして?
「お前は! 私のお母さんなんかなじゃい!」
きっとあの赤い宝玉もお母さんの血から作り出したものだ。きっとゾンビを生み出す魔道具にされていたときと同じでよくない呪いが込められているに違いない。
そしてあの姿はきっとお母さんの姿なのだろうが、それはこの女が!
「お母さんの姿を勝手に使わないで!」
私の叫びを聞いたこの女は再び微笑みを浮かべた。たしかに微笑んでいるのだが、その表情はニタリと邪悪に笑ったようにしか見えない。
私の背筋を悪寒が駆け抜ける。
「そう。よく見破ったわね。じゃあ、本物のお母さんに会わせてあげるわ。特別よ」
すると女の体から赤黒い霧が噴き出した。それは徐々に人の形を取っていき……やがて私を少し大人にしたような女性の姿になった。
だがその体は透けており、赤黒い霧が体中に纏わりついている。
「ほら、あなたのお母さんよ?」
「ど、どうして……? お母さんは十六年前に……」
「そうよ。十六年前にここで死んで、誰にも送ってもらえなかったの。悲しいわね」
「……」
「ほら、話しかけてあげなさい。親子の初対面でしょう? 私は静かにしていてあげるわ」
「……」
話しかけていいのだろうか?
髪も、瞳も、顔の造りも、何もかもが私とそっくりで、あと五年もすれば私もきっとこの女性のようになるだろう。
だが、もしこれが本当にお母さんだったとしても……これはゴーストというやつに違いない。
しかも明らかに妖しいあの女の生み出した……。
でも! 本当のお母さんだったら……!
私はしばらく悩んだが、お母さんと話せるかもしれないという誘惑に負けて声をかけてしまった。
「お、お母さん?」
「……ホリー、なのよね?」
「え?」
「ああ! ホリー! こんなに大きくなって!」
「本当にお、お母さん、なの?」
「ホリー!」
お母さんは私の頭をそっと抱きしめようとしてくれたが、実体がないからか上手くできない。
「お、お母さん!」
「ごめんね。ホリー、これまで放っておいて。でも、これからはずっと一緒よ」
「え?」
次の瞬間、目の前が真っ暗になったのだった。
「姫様、もうすぐです。お疲れでしょうが、もうひと踏ん張りです」
「はい」
私の様子を察して、マクシミリアンさんは気を遣ってくれているのだろう。
ニール兄さんたちも私のことを心配そうに見ているが、ニコラさんだけはマイペースだ。
「んー、このあたりは別に魔道具でもないんやなぁ」
「ニコラ殿、そのようなことは……」
「なんや? ええやん。減るもんでもないんやし」
マクシミリアンさんの苦言にもどこ吹く風だ。だがそんな普段どおりのニコラさんを見てなんだか少しだけ気分が軽くなった。
「ニコラさん、ありがとうございます」
「ん? なんの話や? まあええ。ようわからんけど見返り、期待しとるで」
「あはは」
本当にニコラさんは気持ちいいくらいいつもどおりだ。
どうせリリヤマール王国の不思議な魔道具が見たくてこんな場所まで来たのだろうが、こうしていつもどおりの人がいてくれるだけで本当に助かっている。
私たちはこうして一歩一歩階段を降りていくのだった。
◆◇◆
私たちが祭壇の間にやってくると、そこには先客がいた。
まるであの空を覆っている雲と同じように禍々しい雰囲気の女性だ。
赤黒いウェーブがかった膝まである長い髪と同じ色の瞳、そして青い肌。さらに胸元にはあの赤い宝玉が埋め込まれており、赤黒い霧を身に纏っている。
どう見ても人族でないことは明らかだが……。
どうしてあんなにも顔の造りが私と似ているのだろうか?
「……ソフィア……へい、か……?」
その声にマクシミリアンさんのほうを見ると、まるで飛び出るのではないかというくらいに目を見開いて驚いている。
するとその女性は私を見てニッコリと微笑んだ。
「お母さんに会いに来てくれたのね? 嬉しいわ」
母を名乗ったその女性の表情からは恐怖と嫌悪しか感じない。
「陛下はたしかにここで亡くなられた! お前は何者じゃ!」
マクシミリアンさんはそう叫んで剣を抜いた。
「あらあら、親子の対面を邪魔するなんて無粋ね。あなた以外に用はないわ」
そう言うと突然ぐにゃりと景色がねじれた。ふわふわとした妙な感覚に私は思わずしゃがんでしまう。
「さあ、これでいいわね」
女性の言葉にあたりを見回すと、なんとニール兄さんたちがいつの間にか私の後ろに立っており、しかも私との間に赤黒い半透明の壁のようなものがあった。
ニール兄さんたちはなんとかその壁を破ろうとしているが、上手くいっていないようだ。必死に何かを叫んでいるようだが、声も聞こえない。
「さあ、いらっしゃい。抱きしめてあげるわ」
そう言って女性は両手を広げた。だが、とてもその胸に飛び込んでいく気にはなれない。
特に、あの胸元に埋まっている赤い宝玉だ。あれを見ていると得も知れない不安と恐怖に襲われるのだ。
……え? もしかして?
「お前は! 私のお母さんなんかなじゃい!」
きっとあの赤い宝玉もお母さんの血から作り出したものだ。きっとゾンビを生み出す魔道具にされていたときと同じでよくない呪いが込められているに違いない。
そしてあの姿はきっとお母さんの姿なのだろうが、それはこの女が!
「お母さんの姿を勝手に使わないで!」
私の叫びを聞いたこの女は再び微笑みを浮かべた。たしかに微笑んでいるのだが、その表情はニタリと邪悪に笑ったようにしか見えない。
私の背筋を悪寒が駆け抜ける。
「そう。よく見破ったわね。じゃあ、本物のお母さんに会わせてあげるわ。特別よ」
すると女の体から赤黒い霧が噴き出した。それは徐々に人の形を取っていき……やがて私を少し大人にしたような女性の姿になった。
だがその体は透けており、赤黒い霧が体中に纏わりついている。
「ほら、あなたのお母さんよ?」
「ど、どうして……? お母さんは十六年前に……」
「そうよ。十六年前にここで死んで、誰にも送ってもらえなかったの。悲しいわね」
「……」
「ほら、話しかけてあげなさい。親子の初対面でしょう? 私は静かにしていてあげるわ」
「……」
話しかけていいのだろうか?
髪も、瞳も、顔の造りも、何もかもが私とそっくりで、あと五年もすれば私もきっとこの女性のようになるだろう。
だが、もしこれが本当にお母さんだったとしても……これはゴーストというやつに違いない。
しかも明らかに妖しいあの女の生み出した……。
でも! 本当のお母さんだったら……!
私はしばらく悩んだが、お母さんと話せるかもしれないという誘惑に負けて声をかけてしまった。
「お、お母さん?」
「……ホリー、なのよね?」
「え?」
「ああ! ホリー! こんなに大きくなって!」
「本当にお、お母さん、なの?」
「ホリー!」
お母さんは私の頭をそっと抱きしめようとしてくれたが、実体がないからか上手くできない。
「お、お母さん!」
「ごめんね。ホリー、これまで放っておいて。でも、これからはずっと一緒よ」
「え?」
次の瞬間、目の前が真っ暗になったのだった。
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