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第166話 ニコラと邪神
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ひとしきりホリーの体を包む赤黒い膜を調べたニコラはバッグの中から白銀色のメスを取り出した。
そして赤黒い膜にメスを入れ、ホリーの頭から上を露出させる。
「おーい。ホリーちゃん? 聞こえとるかー? はよ目ぇさましいや」
ニコラはホリーの頬をぱしぱしと叩く。
「う、あ……」
ホリーは眉間にしわを寄せ、苦しそうなうめき声を上げた。
「んー、とりあえずこの膜を全部切除したほうが良さそうやな」
そう呟き、膜の残りの部分にもメスを入れようとしたときだった。空間がぐにゃりとゆがみ、邪神がその姿を現した。
「あら? ちょうどいいころだと思って戻ってきたのに、あなた何してるの? どうしてそれが切れてるわけ」
「それ? それっちゅうんはこの膜のことか? 青女」
「青女?」
邪神はピクリと眉を動かした。
「私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほーん。で、何が聞きたいんや? 青女」
「……私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほいで?」
「……」
邪神は不愉快そうに眉をひそめた。
「ま、ええ。そいでホリーちゃんたちはどないしたんや? この膜は青女、自分がやったんか?」
邪神は眉をぴくぴくと動かす。
「私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほいで? はよ質問に答えや?」
「……私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「なんや。自分、アホちゃうか? もうええで」
ニコラはホリーを覆う膜にメスを当て、切除を始めた。すると邪神はそれを止めようとニコラの腕を引っ張る。
「やめなさい!」
「うわっ! なにしよんねん! ホリーちゃんが怪我したらどないするんや!」
「勝手なことは許さないわ」
「何が勝手なことや、この青女!」
「……神であるこの私になんという――」
「ハア? 神? 自分が? 頭おかしいんとちゃうか?」
言葉を遮り、ニコラは邪神に罵声を浴びせる。
「大体、思うとおりにならへんいうて怒るとか、ガキのやることやで? 神様いうて拝まれたいならちゃんとせなあかんで?」
「……いいわ。あなたの魂には永遠の苦しみを与えてあげましょう」
そういって邪神はニコラを睨んだが、ニコラは平然としている。
「ん? なんかやったんか?」
「どうなってるの? 私の力が効かない? あなたも異世界から来たというの?」
「なんのこっちゃ?」
ニコラはそう言うと肩をすくめ、やれやれといった表情を浮かべた。するとそれを見た邪神が表情を強張らせる。
「なんや? 人を呪って操るような連中がおるのになんの対策もせぇへんと思っとったんか? アタシは研究者やで?」
ニコラはそう言って不敵に笑うのだった。
◆◇◆
世界の狭間に取り残された将司は仰向けに倒れていた。邪神によって貫かれた傷からは大量の血が流れ出ている。
「あ、ほりー、さん……」
将司の脳裏にはこちらの世界に召喚されてからのことがまるで走馬灯のように駆け巡る。
教皇たちに騙され、人族の勇者として魔族と戦ったときのこと。
初めてホリーと会った日の衝撃と芽生えた恋心を。
呪いで正気を失い、罪を侵してしまったことを。
近くでホリーを守ることを許されたことを。
「お、おれは……まだ……ほりー、さん、を……」
悔しそうにそう呟いた将司だったが、もはや立ち上がる力さえ残されていなかった。
「しぬ……のか?」
将司は少しずつ遠くなる意識の中、強く願った――それでもホリーを助けたいと。
「ほりー……さん……」
うわごとのようにホリーの名を読んだ将司の視界に金色のキラキラした何かが映った。
「あ……きせ……き……」
その光をホリーが使った奇跡によるものだと勘違いした将司は、少しでもそれを近くで感じようと最後の力を振り絞って手を伸ばした。
その光を掴むと、将司の体全体がキラキラした金色の輝きに包まれる。
それと同時に将司の体にすさまじいエネルギーが流れ込んできた。
「あああああああああああああああ」
全身がバラバラに引き裂かれるような激痛に将司は絶叫した。
そして数分後、将司の体を包んでいた金色の光が消え去った。それと同時に将司の絶叫も止む。
「う……はぁはぁはぁ……え?」
大きく肩で息をしていた将司だったが、突如邪神に貫かれた腹部を触り始めた。
「あれ? 怪我が……治ってる? それに力が……」
将司は勢いよく立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回した。
するとあちこちに様々な大きさのキラキラした金色の何かが漂っている。
「これは、もしかして……」
将司はわざと金色の何かに触れ、絶叫する。
「やっぱり! 俺が召喚されて強い魔力を手に入れたのはこれが原因だ!」
確信したようにそう叫んだ将司は次々に金色の何かに触れていき、その度に激痛のあまり絶叫する。
マゾとしか思えないような行為を繰り返していると、将司は周囲にある金色の何かをすべて触り終えた。
「あとは……」
将司は足元の暗闇に手を突っ込んだ。それから少しの間ごそごそと何かを探すような仕草をしていたが、すぐに手を暗闇の中から抜いた。
するとなんとその手には将司の剣が握られている。
「やっぱりそうか。ここの空間はあってないようなものなんだ。だから邪神は斬っても死ななかったし、俺にトドメを刺せなかった」
それから将司は剣を上から下に一閃すると、闇に一筋の線が入ったのだった。
そして赤黒い膜にメスを入れ、ホリーの頭から上を露出させる。
「おーい。ホリーちゃん? 聞こえとるかー? はよ目ぇさましいや」
ニコラはホリーの頬をぱしぱしと叩く。
「う、あ……」
ホリーは眉間にしわを寄せ、苦しそうなうめき声を上げた。
「んー、とりあえずこの膜を全部切除したほうが良さそうやな」
そう呟き、膜の残りの部分にもメスを入れようとしたときだった。空間がぐにゃりとゆがみ、邪神がその姿を現した。
「あら? ちょうどいいころだと思って戻ってきたのに、あなた何してるの? どうしてそれが切れてるわけ」
「それ? それっちゅうんはこの膜のことか? 青女」
「青女?」
邪神はピクリと眉を動かした。
「私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほーん。で、何が聞きたいんや? 青女」
「……私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほいで?」
「……」
邪神は不愉快そうに眉をひそめた。
「ま、ええ。そいでホリーちゃんたちはどないしたんや? この膜は青女、自分がやったんか?」
邪神は眉をぴくぴくと動かす。
「私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「ほいで? はよ質問に答えや?」
「……私は冥界の神。邪神と呼ぶ者もいるわね」
「なんや。自分、アホちゃうか? もうええで」
ニコラはホリーを覆う膜にメスを当て、切除を始めた。すると邪神はそれを止めようとニコラの腕を引っ張る。
「やめなさい!」
「うわっ! なにしよんねん! ホリーちゃんが怪我したらどないするんや!」
「勝手なことは許さないわ」
「何が勝手なことや、この青女!」
「……神であるこの私になんという――」
「ハア? 神? 自分が? 頭おかしいんとちゃうか?」
言葉を遮り、ニコラは邪神に罵声を浴びせる。
「大体、思うとおりにならへんいうて怒るとか、ガキのやることやで? 神様いうて拝まれたいならちゃんとせなあかんで?」
「……いいわ。あなたの魂には永遠の苦しみを与えてあげましょう」
そういって邪神はニコラを睨んだが、ニコラは平然としている。
「ん? なんかやったんか?」
「どうなってるの? 私の力が効かない? あなたも異世界から来たというの?」
「なんのこっちゃ?」
ニコラはそう言うと肩をすくめ、やれやれといった表情を浮かべた。するとそれを見た邪神が表情を強張らせる。
「なんや? 人を呪って操るような連中がおるのになんの対策もせぇへんと思っとったんか? アタシは研究者やで?」
ニコラはそう言って不敵に笑うのだった。
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世界の狭間に取り残された将司は仰向けに倒れていた。邪神によって貫かれた傷からは大量の血が流れ出ている。
「あ、ほりー、さん……」
将司の脳裏にはこちらの世界に召喚されてからのことがまるで走馬灯のように駆け巡る。
教皇たちに騙され、人族の勇者として魔族と戦ったときのこと。
初めてホリーと会った日の衝撃と芽生えた恋心を。
呪いで正気を失い、罪を侵してしまったことを。
近くでホリーを守ることを許されたことを。
「お、おれは……まだ……ほりー、さん、を……」
悔しそうにそう呟いた将司だったが、もはや立ち上がる力さえ残されていなかった。
「しぬ……のか?」
将司は少しずつ遠くなる意識の中、強く願った――それでもホリーを助けたいと。
「ほりー……さん……」
うわごとのようにホリーの名を読んだ将司の視界に金色のキラキラした何かが映った。
「あ……きせ……き……」
その光をホリーが使った奇跡によるものだと勘違いした将司は、少しでもそれを近くで感じようと最後の力を振り絞って手を伸ばした。
その光を掴むと、将司の体全体がキラキラした金色の輝きに包まれる。
それと同時に将司の体にすさまじいエネルギーが流れ込んできた。
「あああああああああああああああ」
全身がバラバラに引き裂かれるような激痛に将司は絶叫した。
そして数分後、将司の体を包んでいた金色の光が消え去った。それと同時に将司の絶叫も止む。
「う……はぁはぁはぁ……え?」
大きく肩で息をしていた将司だったが、突如邪神に貫かれた腹部を触り始めた。
「あれ? 怪我が……治ってる? それに力が……」
将司は勢いよく立ち上がり、周囲をキョロキョロと見回した。
するとあちこちに様々な大きさのキラキラした金色の何かが漂っている。
「これは、もしかして……」
将司はわざと金色の何かに触れ、絶叫する。
「やっぱり! 俺が召喚されて強い魔力を手に入れたのはこれが原因だ!」
確信したようにそう叫んだ将司は次々に金色の何かに触れていき、その度に激痛のあまり絶叫する。
マゾとしか思えないような行為を繰り返していると、将司は周囲にある金色の何かをすべて触り終えた。
「あとは……」
将司は足元の暗闇に手を突っ込んだ。それから少しの間ごそごそと何かを探すような仕草をしていたが、すぐに手を暗闇の中から抜いた。
するとなんとその手には将司の剣が握られている。
「やっぱりそうか。ここの空間はあってないようなものなんだ。だから邪神は斬っても死ななかったし、俺にトドメを刺せなかった」
それから将司は剣を上から下に一閃すると、闇に一筋の線が入ったのだった。
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