聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

文字の大きさ
6 / 246
第一章

回復士の授業

しおりを挟む
 先日の魔族討伐での一件で、騎士団からクレームがあったのか、次の日のデボラ先生の授業は、基本的なことから始まった。

 そもそもこの世界には、元の世界とは違うことわりがたくさんある。
 この世界の生き物すべての周りには『マギ』と呼ばれる粒子が取り巻いていて、人間や魔族はそのマギを使って魔法を使うことができるという。

 マギには色があって、その属性によって色が違うみたい。火の属性なら赤、って感じで。
 魔属性は魔族だけが持つ属性で、色は黒。人間が持っていない唯一の属性だ。
 逆に聖属性は、人間だけが持てる属性で、色は白か白銀。魔族は持つことができない。
 レナルドが云っていた、私のような黒い髪は魔属性を持つ者の特徴だという。だから人間には黒い髪の者はほとんどいない。
 メイドさんが私を見るとき、ちょっと嫌な顔をするのはそのせいだ。

 魔力の強い者は、このマギをたくさん身に纏うことができるということだ。
 人間に比べて魔族はこのマギをたくさん纏うことができるといい、たいていの魔族は魔法が使える。
 逆に人間は魔法を使えない者の方が多い。
 そんな人間の中でも魔法を使える者は貴重で、どこかの騎士団に属するか、大司教公国へ来て魔法士になるケースが多いという。

 デボラは、回復魔法がいかに重要かを説明してくれた。
 自身が回復士であることへの自負からなのだろうけど、話を聞くとあながちそれだけでもないことがわかった。

「体力も魔力も魔族に劣る人間が、唯一魔族に優位にあるものが、回復魔法です」

 デボラは得意気に言った。

「傷を治したり、体力や魔力を回復させたり、死者を蘇生したりできるのは聖属性魔法だけです。聖属性と対極にある魔属性を持つ魔族は、そもそも聖属性魔法を持つことはできません。また聖属性魔法である回復魔法を受け入れることもできません。つまり、魔族には回復魔法というものが存在しないのです」
「じゃあ魔族たちはどうやって怪我を治してるの?」
「各個人の持つ回復系スキルに頼るか、魔族専用の回復ポーションで回復するしかありません。しかも魔族専用ポーションは高価な上、連続使用ができないという粗悪品です。つまり事実上、魔族を癒す手段はほとんどない、ということになります」

 たしかに、ゲームとかでも敵が回復魔法使うことってあんまりない気がする。
 使うのはたいていボスキャラよね。

「なので、こちらが死なない限り、力の弱い者でもダメージを与え続ければ魔族を倒すことができるのです」

 これはこの世界の常識のようだ。
 すべての魔族は生まれながらに魔属性を持っているため、回復魔法が効かない。
 だからどれだけ強い魔族でも長期戦になれば回復魔法を持つ人間が有利なのだ。
 強い魔族と人間がこれまで対等に戦ってこれたのはひとえに回復魔法のおかげである。
 この国の回復士は優秀な者が多いため、ほかの国からもスカウトが頻繁にくると、デボラは自慢していた。

 魔族は人間に比べてかなり長命らしく、1000年以上生きる者も珍しくないそうだ。
 魔力の強い者は総じて長命の傾向があるという。
 彼らは若い肉体を保ったまま長い年月を重ね、魔力が尽きると死ぬと云われている。
 魔王に至っては寿命はなく不老不死なのだが、それは例外中の例外で、長命な魔族といえども、不死身ではない。
 どれだけ戦闘力の高い魔族でも、致命傷を受ければ死ぬ。そしてそれが回復できないとなれば勝機はこちらにあるのだ。

 ちなみに最高位の聖属性魔法は、蘇生魔法で、死んだ人を生き返らせるっていう究極の魔法だ。
 これが使える人はさすがに希少で、現在は1人もおらず、大司教ですらも使えないのだという。
 だれも使えない魔法だけど、教本にちゃんと載っているのは、50年くらい前までは使える人がいたからだという。
 その成功率は40%未満ということだったが、蘇生に成功した者の半分は不死者ゾンビイとなってしまったという。それでも100人に1人くらいは成功したらしいけど、かなりの低確率だ。
 100年前の勇者はそれが100%の確率で使えたそうだ。その力で死んだ仲間を蘇生させたとも云われている。勇者候補の私が期待されているのは、実はこの蘇生魔法を使えるようになることだった。
 てか、勇者ってすごいんだな。
 魔王を倒すほど強い上に、死んだ人を生き返らせることもできたなんて、完璧じゃん。

 高位の回復魔法は一度の詠唱で対象者を全回復させられる。
 さらに高位になると回復対象がもっと広範囲になる。
 これが使用できるSS級回復士は、戦場で多くの兵士たちを癒すことができるので、神のように敬われているらしい。
 SS級以上の回復士は現在この国に3人しかいないというが、その者たちは、常に戦場に同行している。
 もっと狭い範囲回復のできるS級術者はもう少し多いが、一般的な治癒なら人数の多い上級回復士で十分だ。

 で、今の私のレベルはというと、やっぱり下級のままで、1人に対してせいぜい2~3割回復させられればいい方だ。
 止血と、かすり傷くらいしか治せない今の私は、回復ポーションよりも劣る存在なのだ。

 唯一、デボラが褒めてくれたのは、私が無詠唱で魔法を使いこなせることだった。
 さすがにこの世界の魔法士は無詠唱で魔法を発動させることはできないそうだ。
 上級魔法になればなるほど、その詠唱時間が長くなるので、詠唱中に敵に狙われないよう細心の注意を払わねばならない。

 無詠唱もなにも、呪文なんて知らないもんね。
 ただ、「治れ~!」って念じているだけだし。
 まあ、一応看護師だから、怪我の程度とかはわかるけどね。
 エリアナたちも無詠唱だそうだから、これはやっぱり異世界人特有なのかもしれない。
 でもエリアナたちはカッコいいからと、必殺技みたいにスキル名を叫ぶことにしたらしい。その方が集中できるんだって。
 かなり恥ずかしいと思うんだけど、こちらの世界の人々の魔法は、詠唱の最後にそのスキル名を云う必要があるので誰も変だとか恥ずかしいとかいうことはないみたい。
 だけど、やっているうちに「回復」と言葉に出した方が、効果が上がるってことに気付いた。

 魔法士の濃ゆい授業でヘトヘトになった私は、試しに自分で自分を回復してみた。
 体力的なことは回復できるみたいだけど、さすがに精神的ダメージは、魔法じゃ癒せないようだ。
 他の勇者候補と比べられる毎日に、私は徐々に追い詰められていくことになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...