聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第一章

叱責と暗然と

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 部屋の掃除に来たメイドのコレットに、勇者候補としてどんな能力を手に入れたのかと聞かれ、回復魔法だけだと云うと「貧乏くじひいちゃいましたね」と苦笑いされた。

「貧乏くじってどういうこと?」
「回復魔法だけなら、S級やSS級の方々がいらっしゃるので、出番がありませんよね?」

 と、ハッキリ云った。
 もうちょっとこう、オブラートに包むみたいな云い方できないものかな。

 でもまあ、私は貧乏くじだなんて思っていないから気にしてないんだけど。
 だって魔法で人を癒せるなんてすごいことじゃない?
 看護師だった私は、これまで人が死ぬのをたくさん見てきて、自分の無力さに何度も落ち込んだ。
 患者を治すのは医師で、私はその補助しかできなくて、励ますことくらいしかできなかった。
 私の励ましの言葉に感謝してくれる人は多かったけれど、言葉だけでは人を癒すことはできないんだって身をもって知っている。
 その自分が直接人を癒すことができるなんて、すごいことなんじゃないかって思う。
 たとえそれが最低の『下級』でも。

 昔、家で亡くなった祖母の世話をしていたとき、云われた言葉がある。

「トワちゃんと話しているととっても元気になってくるよ。言葉には人を元気にする力があるんだっていうけど、ホントだねえ。ありがとうね」

 それから私は人の命を救う仕事をしたいと考えるようになって、看護師になった。
 私が回復魔法しか使えないのは、私自身がそう選んでいるからなんだと思う。だからこれを貧乏くじだなんて思わない。ただ、もうちょっと能力が高くてもいいのにな~って思うだけだ。
 だいたい勇者だなんてガラじゃないもん。そんなのゲームだけで十分だ。

 私を除く勇者候補3人はすでに勇者らしい能力の片鱗を見せ始めていた。
 私だけが、相変わらず下級のまままったく進歩していないので、デボラ先生も頭を悩ませていた。
 素質はあるのに、なぜか能力を発揮できずにいる、というのが彼女の云い分だ。
 つまり、「私の教え方が悪いのではない」ということを云いたいのだろう。
 でもこればっかりはどうにもできないんだもん、仕方ないじゃない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・


 大聖堂カテドラルは、私たちが住む本館と、別館に分かれていて、大きな中庭を囲んで放射状にぐるりと建っている。
 その中庭も、ドーム球場2、3個分くらいはゆうにありそうな広さだ。
 その一角に、魔法結界に囲まれた場所があった。
 魔法結界とは、強力な魔法やスキル使用によって建物や人に被害が出ないようにするバリアのようなものである。
 魔法結界は、魔法具という魔法が込められた機械によって発生させている。こういった機械なんかもこの世界にはあるんだと知って感心した。

 勇者候補たちの突出した能力は、魔法結界がないと、もはや被害が出てしまうレベルに達していた。
 私はレナルドに連れられて、彼らの訓練の様子を見学に行った。

 結界内では3人が交代で模擬戦を行っていた。
 もはや聖騎士ですら彼らの相手が務まらなくなっていたからだ。

 私の姿を見たエリアナが、訓練中に怪我をしたから回復してくれと声をかけてきた。
 結界内には他に回復士がいるのになあ…。
 私は彼女の腕の怪我を診た。

「さっき将の奴が放った炎の魔剣がかすったのよ。ひりひりして痛いったら」

 火傷と深い切り傷だった。
 こういう場合は麻酔をしてまず傷口を縫合してから火傷の治療をするのだけど…。
 いやいや、今は回復魔法を使わなくちゃ。
 だけど、私の魔法では傷口をふさぐのがやっと。止血はできたけど、火傷の痛みは取れないみたいだった。

「ねえ、マジなのあんた。使えないわね!」

 彼女は顔を歪めて思いっきり文句を云った。

「来たばっかのときと少しも変わんないじゃない!才能がないんじゃないの?もう勇者は諦めて他の事した方がいいんじゃない?」

 とボロクソに云う。
 その通りなんだけど、云い方ってもんがあるっしょ。直球はキツイよ。

「ごめんなさい」

 と謝ったけど、彼女の怒りは収まらない。
 レナルドが、近くにいた回復士を呼んできて、エリアナの治療に当たらせた。
 すると一発で奇麗に治った。

「もう、ほんと、アンタいらないんじゃない?」

 彼女はトゲのある言葉を投げつけて来た。
 何か云い返すと倍になって返ってきそうだから、私は黙って苦笑いだけしていた。

「気にしないでいいよ」

 優星がフォローしてくれたけど、将も彼も、内心はエリアナと同じ気持ちなんだろう。
 来るんじゃなかった。

「はぁ…」

 こんな落ちこぼれでも、なぜか大司教や魔法士の先生たちは諦めずに付き合ってくれている。
 それどころか、他の勇者候補よりも教師の数を増やしたりしてくれていた。
 他の3人にしてみれば、面白くないわけだ。
 エリアナは「落第生の特別扱い」と揶揄した。
 私だって好きでやってんじゃないんだけどな…。

 そしてこの日、レナルドは私たちにある命令が下ったことを話した。

「明日、皆さんには北の国境砦へ行き、魔族退治に参加してもらうことになりました」

 私以外の3人は、声を上げた。
 それはもちろん、歓喜の声だ。

「こないだみたいな手ごたえのない相手じゃないわよね?」
「先日のような下級魔族ばかりではありません。司令官クラスの上級魔族もいます」
「そうこなくちゃ」

 エリアナはわくわくしたように云った。

 大司教公国は、アトルヘイム帝国という大国の自治領のひとつで、北の国境砦に駐留するアトルヘイム帝国軍に魔法士を派遣している。
 今回はその国境砦からの依頼なのだそうだ。

「国境付近には、魔族の前線基地があるのです。先日国境近くに下級魔族が侵入してきたことから先端が開かれたようです。近く、大規模な魔族の軍団が砦にやってくるかもしれないという連絡がありました。皆さんには魔族を撃退していただきます」

 私はレナルドと目が合った。

「え?私も行くの?」
「もちろんです」

 それに対し、エリアナはきっぱり云った。

「今のトワは足手まといよ。連れて行かない方がいいんじゃない?」
「そうだよ。回復士なら他にもいるだろ」

 将も同調した。

「もちろん、他の回復士も同行します。彼らの訓練にもなりますので。トワ様も実戦の中でなにか得られるかもしれませんから」
「ふぅん?訓練じゃ目が出ないから実戦でやろうって?過保護が裏目にでなきゃいいけど。でもあたしたち、トワを守っている余裕はないわよ?」
「もちろん、あなた方は自分の仕事をしてくだされば結構です」

 レナルドはそう笑顔で云ったけど、エリアナは私をジロッと見て、

「落第生がいい御身分ね」

 と嫌味を云った。
 結構傷つくけど、本当のことだから云い返せない。
 でもどうしよう。私なんかが行って、役に立つんだろうか。
 本格的な戦争なんて、体験したことないし、自信ないよぉ…。
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