聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第二章

魔族の仲間たち(2)

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 私たちは国境を通り抜け、無事魔族の版図へ入った。
 どうやら追手も来なさそうで、一安心していた。
 カイザーも、ネックレスに戻ってきた。みんなが気を遣ってくれたおかげで、今回私の体調は問題なく国境を越えられた。
 それなのに、ジュスターは心配そうに私を見つめている。

「トワ様、体は大丈夫なのですか?」
「ん?何が?」
「いえ、人間が魔族の領土に入ると、皆具合が悪くなると聞いていましたので」
「ああ、カブラの花粉ね。私なら平気よ」

 ジュスターはホッとした様子だ。
 そうか、私、普通の人間だと思われているんだ。というか異世界人だってことも云ってなかったんだっけか。この機会にちゃんと伝えておこう。


 国境砦を攻める前に、私は彼らと会話して戦闘スキルを付与していた。
 いわゆるカウンセリングってやつね。

 オレンジ色のソフトモヒカン的な髪型のカナンは、獣族という種類の魔族で、もともと獣っぽい顔つきをしていたのだけど、上級魔族へ進化した際に容姿はより人間ぽくなってワイルド系イケメンになった。
 彼の希望は、元々持っていたポテンシャルを強化したいということだった。獣族に誇りを持っていて、獣らしさを失いたくないのだそうだ。その結果、彼は本物の豹のような獣に変身する能力<獣化>を得た。それに伴って、体力、脚力、瞬発力、移動速度などが飛びぬけて高くなった。
 属性は地で、魔法よりも体を使う戦いが得意だという。体術もだが、実は剣の腕も相当なものだそうで、それらに関しては自身でスキルを磨きたいと云って、スキル付与を辞退した。彼は努力家なのだ。スキル上昇値も上がっているから、その努力はきっと彼を裏切らない。
 うーん、はやく良い武器を与えてあげたいな。

 エメラルドグリーンの髪と瞳を持つアイドル系イケメンのネーヴェは、魔法に特化した進化をしていた。風属性を持つ彼は、魔法の速度を上げたいと願った。元々魔法に優れていたが、特に魔法を連続して早撃ちするスピードは尋常じゃない速さを得た。
 先ほどの砦での戦いでは、広範囲魔法の威力もさることながら、魔法の範囲を的確に絞ることができ、それを瞬時に行っていた。兵士が横並びに10人程迫ってきた際、彼は2、3秒の間に端から1人ずつ順番に、まるで射的の的を倒すかのようになぎ倒していた。しかも威力をコントロールして、全員を気絶させただけにとどめた。前回の黒色重騎兵隊シュワルツランザーとの戦いに比べればかなり余裕があったといえる。

 赤い巻き毛のウルクは黒い翼を持つ有翼人族だ。彼ら有翼人は空を飛ぶため、その体はかなり華奢である。私を抱っこして飛んだのはかなり重かったんじゃないんだろうかと心配になるほどだ。
 料理人でもある彼には、炎の魔法を進化させてあげた。元々、武術より魔法攻撃が得意だ。でも本人は戦闘より生活スキルの方が有用のようだ。背中から生えている大きな鳥のような翼は、しまうことができなかったのだけど、上級魔族に進化して翼を体内に自由に出し入れできるようになった。料理の際に、厨房では翼が邪魔だと嘆いていたので、この進化は彼にとって喜ばしいものだったようだ。

 メンバーの中で最も体の大きなシトリーは、燃えるような赤い髪をしている。狼系の獣人族で額の真ん中に大きな一本角があったのだけど、上級魔族に進化すると、随分人間寄りの顔立ちになって、角も髪に隠れて目立たなくなった。
 彼の属性は地と金で、体術が得意だ。肉体を強化したいと防御と肉弾戦に特化した進化をした。
 ラグビー選手だったなら世界代表間違いなしだ。
 もともと肉体を<鋼鉄化>するというスキルを持っていたのだけど、それが更に<超硬化>へと強化された。黒色重騎兵隊シュワルツランザーの防御壁に歯が立たなかったことが悔しかったらしく、それをも打砕く力を得たようだ。土の魔法も使えるので、<超硬化>した拳で地面を割ったりすると広範囲に<地震>が起こせるらしい。

 薄い茶色の髪の有翼人族のテスカはウルクと同族で、外見的には彼と似た進化を遂げている。
 テスカは属性強化を願った。彼は木属性で、毒攻撃が得意だった。<毒手>という手に触れたものに毒を流し込むことができるスキルを得て、彼の持つ武器はすべて毒効果が追加されるようになるそうだ。
 砦での戦闘では多くの兵士らを毒状態にしたようだ。
 同時に、生活スキルの<薬師>スキルも得た。<毒手>を得たことで、これまで不可能だった解毒薬も精製できるようになった。魔族が回復系アイテムを作れるようになるなんて、とすごく驚いていた。間違って仲間を毒状態にしちゃった時、毒消しがないとシャレになんないもんね。
 薬に関しては適性が合ったみたいで、派生スキルとして、薬を<調合>するスキルも同時に取得した。熟練度が上がって材料さえあれば魔族専用ポーションも作れそうだと喜んでいた。薬師としても食べていけそうだ。

 クシテフォンは同じ有翼人族でも、その翼は蝙蝠に似ている。
 不規則に飛ぶことができ、スピードと共にかなりの機動力がある。彼の翼はもともと収納できるタイプだが、体つきはウルクのように華奢ではない。彼もカイザーと同様、翼から発する重力魔法で飛翔しているらしい。進化したことでその機動力にさらに磨きがかかった。
 金属性の彼は、金髪に黒メッシュの入った、ビジュアル系バンドの人みたいな外見をしているけど、体力が高く防御にすぐれ、魔力も高い。攻撃魔法では石つぶてや爆裂魔法を使う。
 彼は遠慮して特に望むこともない、と云ったのだけど、なんかそういう人にはいろいろあげたくなっちゃうのが人情ってものよね。とりあえず何がいいのかわからなくて、「属性を増やすってのはどう?」と云うと、彼はレア属性と云われる雷属性を得ることになった。
 特筆すべきなのは、彼が元々取得していた魔法を吸収する能力だ。それが上級魔族に進化して、吸収した魔法を一旦溜めて、再び相手に放出するという<魔法吸収・放出>スキルを得た。自分が持っていない属性魔法でも聖属性以外はこのスキルで吸収して放つことが可能になった。

 ユリウスは火属性で、ウルクと同じように火の魔法を進化させている。
 料理人にとって、火を制御するのは必須スキルなのかもしれない。
 上級魔族に進化して、優し気な美形だった彼はさらにイケメンぶりに磨きがかかった。
 ユリウスは意外にも武術が得意で、特に剣術はカナンと渡り合えるほどの腕前だとかで、剣術スキルをいくつか取得した。
 先に私が与えた<高速行動>を強化すると、更に進化した<光速行動>を覚え、その速度を利用して分身を作ることができるようになった。彼が分身を作り出すと逆ハーレム状態を味わうことができるという嬉しいスキルだ。

 今回、私と馬車に残ってくれたアスタリスは遠くを見る<遠目>スキルを<遠見>スキルに進化させた。それにより、これまで難しかった近距離と遠距離の調整ができるようになり、さらに見える範囲が拡大した。これまでせいぜい数百メートル程度だった遠見の範囲が10~20キロメートル四方にまで広がった。範囲を絞ればもっと遠くまで見渡せたり、障害物の透視も可能になったという。
 それで、今まで深緑色の前髪で両目を隠していたのだけど、思い切って前髪を上げて髪型を変えたのだ。初めて見た彼の素顔は、少女漫画か!とビックリするほどの奇麗な目をしていた。
 属性は水。主に生活魔法として使用していた彼の水系魔法は、攻撃には適性がなかった。攻撃魔法が使えない分、体術などの武術を磨いているというので、体術系スキルをいくつか取得した。

 最後にジュスター。
 彼はもともと上級魔族でもかなり高位の魔族だったらしく、契約後も身体的な進化は特になかったように思える。しいていえば、背中からクシテフォンの翼に似たものが出てきて宙を飛べるようになったくらい。ただし長くは飛べないみたいで、跳躍の補助として使用する程度らしい。
 今回、戦闘スキルを与えるにあたって彼が要求したのは指揮官としての能力だった。距離的な制限はあるものの、部下たち全員との遠隔通話テレパシーができるようになった。それは一方通行ではなく、メンバー間でも通じるようになって、今回はそれで全員に命令を出していたようだ。
 氷属性の彼の魔法の威力も全体的に進化したようだけど、元が強いからどれほど強くなったのかはよくわからない。

 そしてカイザーを含む全員に付与したのは<物理・魔法攻撃無効>スキル。
 これは文字通り、敵からの物理攻撃や魔法攻撃を無効化するものだ。
 武器を持たず、素手で戦っているのだから、これくらいあってもバチはあたらないだろう。
 カイザーは<絶対防御>スキルを持っているから、なくても良かったんだろうけど。
 このスキルを与えることになったのは、私が全員に「絶対に怪我をしないこと」と云ったことが原因だった。

 正直、このスキルがなくても彼らは余裕で砦を突破できたんじゃないかと思う。
 あの人数で数百の兵士と戦ってなお余裕だったように思えたし。


 馬車の御者席には手綱を持つアスタリスと、その隣にカナンが並んで座っている。体術についてなにやら話し込んでいるみたい。
 スピードもゆっくりで、馬車はカタカタとリズミカルな音を立てて走っている。
 ジュスターとシトリーは、馬車の後について馬を走らせている。
 それ以外のメンバーが私と共に馬車の荷台に乗っている。たまにテスカやウルクが空を飛んでは荷馬車の幌のてっぺんに座って景色を眺めたりしている。

 陽が暮れてきたので、アスタリスが野営に良い場所へと馬車を走らせてくれた。
 ちょうど草原地帯のオアシスみたいな場所を見つけてくれた。そこには水場があり、木々も生い茂っていた。草原の動物たちも水を飲みに来ていたようで、野生の鹿みたいな動物や小動物なんかが水辺にいるのを見かけた。
 シトリーが馬車に薪をたくさん積んでくれていたので、それを使って焚火を起こした。
 ウルクとユリウスは保存食を解凍して夕食を作ってくれた。

 食事をしながら、皆で今後のことを話し合った。
 彼らはあくまでも私の意思に付き従うという。
 スキルを与えたことで、より一層私への忠誠心が芽生えたようだ。
 これが契約の効果なのかもしれない。

 私は、皆に前線基地で魔王に会った時のことを話した。

「魔王様は本当に復活なされたのですね」

 ジュスターがしみじみと云った。

「そうみたい。転生したばかりだって言ってたわ」
「前の戦いは100年くらい前だったよね。なぜ今転生したんだろう?」

 無邪気な感じでネーヴェが問いかけた。

「さあ…それは聞いていないわ。でもまだ封印が完全に解けていないって言ってたから、解けるのに時間がかかったんじゃないの?ねえ、カイザーは何か知ってる?」

 私の問いかけに、カイザーはミニドラゴンの姿で私の目の前に現れた。

『私も魔王と共に封じられていたので、よくはわからんが、ある時、突然魔王が目覚めたのだ』
「私が見た魔王は、少年の姿だったわよ」

 ジュスターたち全員に魔王の姿について説明したけど、彼らは誰も魔王に直接会ったことがなかった。

「僕ら下級魔族にとっては魔王様なんて、雲の上の上の上のずーっと上の存在ですよ」

 アスタリスの言葉に皆が頷いた。

「基地に行けばお会いできるのかな?」
「どうしよう、今から緊張してきた…」
「ねえねえ、ジュスター様、魔王様の前に出るのってどんな服がいいんですか?」

 ウルクとテスカがそんなことを話している。
 なんだか急に彼らが田舎者に見えてきた。

「じゃあ皆、初めて会うのね?」
「もちろんですよ。魔王様のお姿を拝見できる機会なんて、それこそ100年前の大戦の出陣式の時に、遠くからチラ見する程度でしたから」

 カナンが答えた。

『私は常に共にいたがな』
「カイザー様のお姿も遠くからですが拝見しました。とても強そうでご立派なお姿でしたよ」
『ハッハッハ、そうかそうか』

 カイザーは上機嫌になった。
 自分が有名だったとわかり、自尊心をくすぐられたようだ。
 その後は大戦時の自慢話が始まった。
 すぐ調子に乗るんだから、まったく…。
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