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第二章
勇者候補:決闘
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勇者候補たちが国境砦についたのはその2日後だった。
砦の守備隊はもうじき来る交代要員を待つ状態で、砦内はなんとなくゆるい雰囲気だった。
守備隊長に話を聞くと、5日ほど前に10人前後の魔族が砦を通過していったという。その魔族たちは恐ろしく強い連中だったという。
おまけにドラゴンも現れたというが、ドラゴンと彼らの関連性はわかっていない。その連中は、前線基地の方に向かって行ったという。
エリアナが、彼らが人間の女の子を人質に取っていなかったかと聞くと、確認はしていないが荷馬車が1台通って行ったと答えた。
「怪しいわね。その荷馬車…さては…」
「どっちみち、今頃基地に着いてるよ。もう無理だね」
エリアナが探偵みたいなセリフを云ったが、優星がそれを遮った。
「そういや魔王がいるって話はどうなった?」
「ああ、ホリーがドラゴンに乗ってたのが魔王だって言ってたわね」
「この前の二の舞はごめんだからな」
「砦のドラゴンは、あの基地から飛んできたやつでしょ?」
「いや、研究施設を襲ったドラゴンじゃないのか?」
「え!?ドラゴンって2匹いるの?」
「…」
あの凶悪なドラゴンが2体もいる可能性があるなどという恐ろしい可能性を口にして、彼らは凍りついたように押し黙った。
「あのドラゴン、弓が効かなかったんだよね」
「防御系のスキルを持っているのかもしれないな」
「どう対応したらいいんだろう」
優星と将がそんな話をしていると、砦の警備兵が、少人数の魔族の偵察隊が現れたと報告してきた。
「このまま手ぶらで帰るのも何だし、少し手合わせしていくか」
将が云った。
彼らが出撃しようとすると、守備隊長が慌てて止めた。
「偵察部隊を奇襲して、魔族を刺激するのはやめてください。せっかく司令官を失っておとなしくしてくれてるのに、魔族が怒って大勢で攻めてきたら対応できませんよ。こちらは待機中で、交代も来ていませんし、まだ怪我が治りきってない者も多いんです」
「あれから一度も攻めてきてないんだろ?偵察隊だってそんな少人数なんだ、向こうだってやる気ないって」
「大丈夫、ちょっと様子を見てくるだけだよ」
「そうよ。あんたたちは昼寝してていいわよ」
「怪我人なら後で私が治しますから」
回復士のアマンダがフォローしたので、守備隊長は彼らの出撃を黙認した。何かあったら責任取ってくださいね、と云って。
ゾーイとアマンダは防粉マスクを着用して馬車を出発させた。
着衣や鎧の表面には、花粉がついてもすぐに滑り落ちていくコーティングがされている。
エリアナはその衣装を見て、「どうしてカブラの木をなんとかしようとしないわけ?」と聞いた。
これに答えたのはアマンダだった。
「かつて人間の軍隊が、魔の森ごとカブラの木を燃やしてしまおうと火矢を一斉に射かけたことがあったそうです。しかし、魔の森自体が魔力をもっているかのごとく、火矢は森の中に届く前にすべて鎮火してしまったといいます。
火がダメなら木を切り倒そうということで、カブラの木を斧で打ち倒そうとすると、斧は不思議な力で弾かれてしまい、まったく歯が立たなかったということです。
こうした者たちは皆、その場でカブラの猛毒の樹液を雨のように浴びて死んだそうです。それはもうひどい苦しみ方だったとか」
「怖っ…」
エリアナは思わず声を上げた。
「まるで生きてるみたいだな、その木」
「魔界の木ってかんじだね」
「ええ、ですからカブラの木には直接手を出してはいけないのです」
アマンダがまるで先生みたいに説教した。
「魔の森って、魔族は住んでいないのかな?」
「未確認です。なにしろ人間は入れませんから」
「魔法も効かないの?」
「カブラの木には物理だけでなく魔法も効かないようです。しかも悪意を持って攻撃した者には毒液のしっぺ返しがありますから」
「マジか…。物理もダメ、魔法もダメってカブラの木ってもしかして最強じゃねーの?」
「そうかもしれません。この世界の神の創りしものだと言われていますから」
やがて馬車を操るゾーイが魔族の一団を見つけた。
馬車を止め、エリアナたちは降車して魔族の一団と対峙した。
「あんたたち、人間の女の子を攫ったんじゃない?」
開口一番、エリアナが声を張った。
しかし、魔族らは無言だった。
「口がきけないってわけ?」
「ここから先に行っちゃ困るんだよ。戻んな」
魔族の一団は8人。全員が馬に乗っていた。
全員が同じような黒い制服を着ているところを見ると、同じ部隊の者のようだ。
将の忠告も聞かず、魔族たちは彼らを避けて馬を走らせようとした。
「待ちなさいよ!このまま行かせると思う?」
エリアナはその騎馬の集団に向かって火炎弾を撃ち込んだ。
すると、彼らは騎馬ごとすばやく避け、そのうちの1人は馬上から翼を広げて空に舞い上がった。
すかさず優星が弓を射かける。
しかし、なにかに弾かれるように矢は届かず地上に落ちていった。
「くっ、防御スキル持ちかよ!」
優星が弓をつがえようとした瞬間、その翼の持ち主が目の前にいて、弓を掴んでニコッと笑った。
「うわぁ!」
驚いた優星は腰を抜かした。
「バカ、なにやってんだ!」
「だ、だってあの魔族、動きが異常に速いんだよ!」
将がすかさず優星の前にフォローに入った。
翼の魔族が空から翼を羽ばたかせ、羽根の矢を撃ってきた。
「下がってください!」
2人の前に盾を構えたゾーイが立ち、雨のように降り注ぐ羽根を盾で受けた。
いつの間にか彼らは全員馬から降りて、勇者候補たちを半包囲していた。
エメラルドグリーンの髪の魔族が風の魔法を、ワインレッドの髪の魔族が炎の魔法弾を立て続けに彼らに放った。
ゾーイの盾はその魔法をすべて防いだ。
「ありがとよ!よし、こっちも反撃に移るぜ」
「了解よ!」
盾の後ろにいたエリアナは、魔族全体の動きを見ていた。
そして、魔族たちの最後尾に、銀髪の魔族が手を上げて合図を送っているのに気付いた。
「指揮を取っているのは後ろにいるあの銀髪の魔族よ。あいつを狙って!」
「よし!」
将は剣に風魔法を付与し、銀髪の魔族のいる方に向けて振るった。優星も同時に弓を射かける。
魔族たちはすばやくそれを避けて散開した。
優星の矢は途中で弾かれ、将の放った魔法の刃は、銀髪の魔族の前にすばやく現れた別の魔族の手によって握りつぶされた。
「何っ!?攻撃を受け止めた!?」
「将、優星、こっちへ合流して!」
魔法を避けた魔族たちの方向へ、エリアナが炎の魔法を撃った。
その攻撃は魔族たちに命中し、爆発の煙が上がった。
「やったか?」
将が確認する前に、魔族たちは爆煙を抜けて無傷で現れた。
「魔法攻撃が効かない!?耐性持ちか!」
「くっ…ならば!」
将は、一歩前に出た。
「俺と1対1で勝負しろ!」
彼は、基地の指揮官を倒した自分の腕に絶対の自信があった。
慌てたのはゾーイだった。
「将様!?何を…!」
「大丈夫です、私にお任せください!」
回復士のアマンダが将の後ろに控えた。
「そっか、回復さえあれば余裕なんだっけ」
エリアナは呟いた。
彼らは、この前倒れた魔族が起き上がってきたのは、ドラゴンに乗った魔王がなにかしたのだと考えていて、相変わらず回復魔法は人間の専売特許だと思っていた。
将の前に出てきたのは、オレンジのタテガミの精悍な感じの魔族だった。その体格は将と同じくらいだったが、彼は手ぶらだった。
「おいおい、素手で俺とやろうっての?」
将が呆れて笑うと、オレンジ色の髪の魔族の後ろから、別の魔族が声をかけて、彼に鞘ごと剣を投げた。
「ん…?」
将は剣を投げたその魔族に見覚えがあった。
「バカな…!あいつはたしかに俺が倒したはず…!」
それは将が前の戦いで倒したはずの前線基地の指揮官だという魔族だった。黒っぽい青い髪、堂々とした体躯、口の端から見える大きな犬歯。間違いない。
彼らに気付かれることなく、いつの間にかその魔族は近くに来ていたのだった。
「…生きていたのか」
将は舌打ちした。
「まあいい、もう一回殺せばいいだけだ」
彼は剣をスラリ、と抜いて前に出た。
オレンジの髪の魔族は、渡された剣を右手に持ち、無言のまま将の前に立った。
「よう。今から俺に倒されるんだ、無駄話はいらねえな?」
将の挑発にも動じず、その魔族は黙って剣を鞘から抜き放った。
捨てた鞘が地面に落ちた音を合図に、2人は撃ち合いを始めた。
その2人を他の魔族たちは手を出さずに見守っていた。
「これ、決闘てやつだよね。手出ししちゃいけないやつだよ」
優星が隣のエリアナに云った。
「わかってるわよ。むこうも手出ししないんだし」
「でもこっちは回復魔法は使っていいんだよね?」
「…それが人間側のアドバンテージってやつだからね。ハンデはきっちりもらうわよ」
「体格的には互角だけど、体力的には魔族が勝ってるみたいだね」
何十合と撃ち合っているが、どちらも決定的な決め手に欠ける状態だった。
しかしさすがに将の息が上がってきて、腕や頬に小さな切り傷を受け始めた。
アマンダがすかさず回復魔法をかけた。
「あの魔族、やるね。さっきから息ひとつ乱れていない」
「相当な使い手ってことね」
「でも時間が長引けば回復魔法のあるこちらが有利だ。大丈夫、将が勝つよ」
優星は自信たっぷりに云った。
その時、後ろにいた銀髪の魔族が何かの合図をオレンジの髪の魔族に送った。
すると、オレンジの髪の魔族は剣を反対側の手に持ち替えた。
「何っ?」
その途端、将は劣勢に追いやられていった。
「…利き腕じゃない方の腕で戦ってたんだ…」
「なによそれ。完全に舐められているじゃないの」
「ハンデだろうね。見てみなよ。もう勝負はついてる。回復云々の問題じゃない」
優星がそういった直後、将の剣が宙を舞った。
「ねえ、決闘に負けたらどうなるの?」
「…将は殺させない」
優星はオレンジ色の髪の魔族に向けて弓を構えた。それを見た将は、手で優星を制した。
「優星、よせ。俺の負けだ。これ以上恥をかかせないでくれ」
将は優星に声を掛けて、潔く負けを認めると、優星も弓を下した。
「いいぜ、俺の負けだ。さっさとトドメを刺せよ」
将はその場に膝をつき、目を瞑った。
しかし、何も起こらなかった。
目を開けると、オレンジ髪の魔族は仲間の元へ引き上げていくところだった。
「な…!情けをかけるつもりかよ!」
将は立ち上がって魔族を追おうとした。
それをゾーイが制止した。
「将様、彼らは我々を見逃してくれようとしているんですよ!」
ゾーイの言う通り、彼らはもう攻撃してはこなかった。
「くそっ、またかよ」
将は再び魔族に情けをかけられたことに腹を立てていた。
「僕たちの腕を確かめたのかもしれないね」
優星の言葉に、エリアナは自虐的に答えた。
「で?彼らの方が余裕で強かったって?だから見逃してくれたっての?」
ところがそうではなかった。
魔族たちは全員馬に乗り、勇者候補の前を素通りして、砦の方向へと走り去って行った。
勇者候補たちはそれをただボーゼンと見ていた。
やがて、砦の方角から爆発音が聞こえた。
「え…!?まさか、砦が攻撃されてるの?」
「やられた…!奴らの狙いは砦だったんだ…!」
「まさか、あんな少人数で?」
「あんな少人数だったから接近を許したんだ」
「じゃあ、最初っからあたしたちなんか眼中になかったってこと!?」
「そういうことだ、急いで戻るぞ!」
ゾーイが馬車を駆って、勇者候補たちは慌てて砦に戻って行った。
砦の守備隊はもうじき来る交代要員を待つ状態で、砦内はなんとなくゆるい雰囲気だった。
守備隊長に話を聞くと、5日ほど前に10人前後の魔族が砦を通過していったという。その魔族たちは恐ろしく強い連中だったという。
おまけにドラゴンも現れたというが、ドラゴンと彼らの関連性はわかっていない。その連中は、前線基地の方に向かって行ったという。
エリアナが、彼らが人間の女の子を人質に取っていなかったかと聞くと、確認はしていないが荷馬車が1台通って行ったと答えた。
「怪しいわね。その荷馬車…さては…」
「どっちみち、今頃基地に着いてるよ。もう無理だね」
エリアナが探偵みたいなセリフを云ったが、優星がそれを遮った。
「そういや魔王がいるって話はどうなった?」
「ああ、ホリーがドラゴンに乗ってたのが魔王だって言ってたわね」
「この前の二の舞はごめんだからな」
「砦のドラゴンは、あの基地から飛んできたやつでしょ?」
「いや、研究施設を襲ったドラゴンじゃないのか?」
「え!?ドラゴンって2匹いるの?」
「…」
あの凶悪なドラゴンが2体もいる可能性があるなどという恐ろしい可能性を口にして、彼らは凍りついたように押し黙った。
「あのドラゴン、弓が効かなかったんだよね」
「防御系のスキルを持っているのかもしれないな」
「どう対応したらいいんだろう」
優星と将がそんな話をしていると、砦の警備兵が、少人数の魔族の偵察隊が現れたと報告してきた。
「このまま手ぶらで帰るのも何だし、少し手合わせしていくか」
将が云った。
彼らが出撃しようとすると、守備隊長が慌てて止めた。
「偵察部隊を奇襲して、魔族を刺激するのはやめてください。せっかく司令官を失っておとなしくしてくれてるのに、魔族が怒って大勢で攻めてきたら対応できませんよ。こちらは待機中で、交代も来ていませんし、まだ怪我が治りきってない者も多いんです」
「あれから一度も攻めてきてないんだろ?偵察隊だってそんな少人数なんだ、向こうだってやる気ないって」
「大丈夫、ちょっと様子を見てくるだけだよ」
「そうよ。あんたたちは昼寝してていいわよ」
「怪我人なら後で私が治しますから」
回復士のアマンダがフォローしたので、守備隊長は彼らの出撃を黙認した。何かあったら責任取ってくださいね、と云って。
ゾーイとアマンダは防粉マスクを着用して馬車を出発させた。
着衣や鎧の表面には、花粉がついてもすぐに滑り落ちていくコーティングがされている。
エリアナはその衣装を見て、「どうしてカブラの木をなんとかしようとしないわけ?」と聞いた。
これに答えたのはアマンダだった。
「かつて人間の軍隊が、魔の森ごとカブラの木を燃やしてしまおうと火矢を一斉に射かけたことがあったそうです。しかし、魔の森自体が魔力をもっているかのごとく、火矢は森の中に届く前にすべて鎮火してしまったといいます。
火がダメなら木を切り倒そうということで、カブラの木を斧で打ち倒そうとすると、斧は不思議な力で弾かれてしまい、まったく歯が立たなかったということです。
こうした者たちは皆、その場でカブラの猛毒の樹液を雨のように浴びて死んだそうです。それはもうひどい苦しみ方だったとか」
「怖っ…」
エリアナは思わず声を上げた。
「まるで生きてるみたいだな、その木」
「魔界の木ってかんじだね」
「ええ、ですからカブラの木には直接手を出してはいけないのです」
アマンダがまるで先生みたいに説教した。
「魔の森って、魔族は住んでいないのかな?」
「未確認です。なにしろ人間は入れませんから」
「魔法も効かないの?」
「カブラの木には物理だけでなく魔法も効かないようです。しかも悪意を持って攻撃した者には毒液のしっぺ返しがありますから」
「マジか…。物理もダメ、魔法もダメってカブラの木ってもしかして最強じゃねーの?」
「そうかもしれません。この世界の神の創りしものだと言われていますから」
やがて馬車を操るゾーイが魔族の一団を見つけた。
馬車を止め、エリアナたちは降車して魔族の一団と対峙した。
「あんたたち、人間の女の子を攫ったんじゃない?」
開口一番、エリアナが声を張った。
しかし、魔族らは無言だった。
「口がきけないってわけ?」
「ここから先に行っちゃ困るんだよ。戻んな」
魔族の一団は8人。全員が馬に乗っていた。
全員が同じような黒い制服を着ているところを見ると、同じ部隊の者のようだ。
将の忠告も聞かず、魔族たちは彼らを避けて馬を走らせようとした。
「待ちなさいよ!このまま行かせると思う?」
エリアナはその騎馬の集団に向かって火炎弾を撃ち込んだ。
すると、彼らは騎馬ごとすばやく避け、そのうちの1人は馬上から翼を広げて空に舞い上がった。
すかさず優星が弓を射かける。
しかし、なにかに弾かれるように矢は届かず地上に落ちていった。
「くっ、防御スキル持ちかよ!」
優星が弓をつがえようとした瞬間、その翼の持ち主が目の前にいて、弓を掴んでニコッと笑った。
「うわぁ!」
驚いた優星は腰を抜かした。
「バカ、なにやってんだ!」
「だ、だってあの魔族、動きが異常に速いんだよ!」
将がすかさず優星の前にフォローに入った。
翼の魔族が空から翼を羽ばたかせ、羽根の矢を撃ってきた。
「下がってください!」
2人の前に盾を構えたゾーイが立ち、雨のように降り注ぐ羽根を盾で受けた。
いつの間にか彼らは全員馬から降りて、勇者候補たちを半包囲していた。
エメラルドグリーンの髪の魔族が風の魔法を、ワインレッドの髪の魔族が炎の魔法弾を立て続けに彼らに放った。
ゾーイの盾はその魔法をすべて防いだ。
「ありがとよ!よし、こっちも反撃に移るぜ」
「了解よ!」
盾の後ろにいたエリアナは、魔族全体の動きを見ていた。
そして、魔族たちの最後尾に、銀髪の魔族が手を上げて合図を送っているのに気付いた。
「指揮を取っているのは後ろにいるあの銀髪の魔族よ。あいつを狙って!」
「よし!」
将は剣に風魔法を付与し、銀髪の魔族のいる方に向けて振るった。優星も同時に弓を射かける。
魔族たちはすばやくそれを避けて散開した。
優星の矢は途中で弾かれ、将の放った魔法の刃は、銀髪の魔族の前にすばやく現れた別の魔族の手によって握りつぶされた。
「何っ!?攻撃を受け止めた!?」
「将、優星、こっちへ合流して!」
魔法を避けた魔族たちの方向へ、エリアナが炎の魔法を撃った。
その攻撃は魔族たちに命中し、爆発の煙が上がった。
「やったか?」
将が確認する前に、魔族たちは爆煙を抜けて無傷で現れた。
「魔法攻撃が効かない!?耐性持ちか!」
「くっ…ならば!」
将は、一歩前に出た。
「俺と1対1で勝負しろ!」
彼は、基地の指揮官を倒した自分の腕に絶対の自信があった。
慌てたのはゾーイだった。
「将様!?何を…!」
「大丈夫です、私にお任せください!」
回復士のアマンダが将の後ろに控えた。
「そっか、回復さえあれば余裕なんだっけ」
エリアナは呟いた。
彼らは、この前倒れた魔族が起き上がってきたのは、ドラゴンに乗った魔王がなにかしたのだと考えていて、相変わらず回復魔法は人間の専売特許だと思っていた。
将の前に出てきたのは、オレンジのタテガミの精悍な感じの魔族だった。その体格は将と同じくらいだったが、彼は手ぶらだった。
「おいおい、素手で俺とやろうっての?」
将が呆れて笑うと、オレンジ色の髪の魔族の後ろから、別の魔族が声をかけて、彼に鞘ごと剣を投げた。
「ん…?」
将は剣を投げたその魔族に見覚えがあった。
「バカな…!あいつはたしかに俺が倒したはず…!」
それは将が前の戦いで倒したはずの前線基地の指揮官だという魔族だった。黒っぽい青い髪、堂々とした体躯、口の端から見える大きな犬歯。間違いない。
彼らに気付かれることなく、いつの間にかその魔族は近くに来ていたのだった。
「…生きていたのか」
将は舌打ちした。
「まあいい、もう一回殺せばいいだけだ」
彼は剣をスラリ、と抜いて前に出た。
オレンジの髪の魔族は、渡された剣を右手に持ち、無言のまま将の前に立った。
「よう。今から俺に倒されるんだ、無駄話はいらねえな?」
将の挑発にも動じず、その魔族は黙って剣を鞘から抜き放った。
捨てた鞘が地面に落ちた音を合図に、2人は撃ち合いを始めた。
その2人を他の魔族たちは手を出さずに見守っていた。
「これ、決闘てやつだよね。手出ししちゃいけないやつだよ」
優星が隣のエリアナに云った。
「わかってるわよ。むこうも手出ししないんだし」
「でもこっちは回復魔法は使っていいんだよね?」
「…それが人間側のアドバンテージってやつだからね。ハンデはきっちりもらうわよ」
「体格的には互角だけど、体力的には魔族が勝ってるみたいだね」
何十合と撃ち合っているが、どちらも決定的な決め手に欠ける状態だった。
しかしさすがに将の息が上がってきて、腕や頬に小さな切り傷を受け始めた。
アマンダがすかさず回復魔法をかけた。
「あの魔族、やるね。さっきから息ひとつ乱れていない」
「相当な使い手ってことね」
「でも時間が長引けば回復魔法のあるこちらが有利だ。大丈夫、将が勝つよ」
優星は自信たっぷりに云った。
その時、後ろにいた銀髪の魔族が何かの合図をオレンジの髪の魔族に送った。
すると、オレンジの髪の魔族は剣を反対側の手に持ち替えた。
「何っ?」
その途端、将は劣勢に追いやられていった。
「…利き腕じゃない方の腕で戦ってたんだ…」
「なによそれ。完全に舐められているじゃないの」
「ハンデだろうね。見てみなよ。もう勝負はついてる。回復云々の問題じゃない」
優星がそういった直後、将の剣が宙を舞った。
「ねえ、決闘に負けたらどうなるの?」
「…将は殺させない」
優星はオレンジ色の髪の魔族に向けて弓を構えた。それを見た将は、手で優星を制した。
「優星、よせ。俺の負けだ。これ以上恥をかかせないでくれ」
将は優星に声を掛けて、潔く負けを認めると、優星も弓を下した。
「いいぜ、俺の負けだ。さっさとトドメを刺せよ」
将はその場に膝をつき、目を瞑った。
しかし、何も起こらなかった。
目を開けると、オレンジ髪の魔族は仲間の元へ引き上げていくところだった。
「な…!情けをかけるつもりかよ!」
将は立ち上がって魔族を追おうとした。
それをゾーイが制止した。
「将様、彼らは我々を見逃してくれようとしているんですよ!」
ゾーイの言う通り、彼らはもう攻撃してはこなかった。
「くそっ、またかよ」
将は再び魔族に情けをかけられたことに腹を立てていた。
「僕たちの腕を確かめたのかもしれないね」
優星の言葉に、エリアナは自虐的に答えた。
「で?彼らの方が余裕で強かったって?だから見逃してくれたっての?」
ところがそうではなかった。
魔族たちは全員馬に乗り、勇者候補の前を素通りして、砦の方向へと走り去って行った。
勇者候補たちはそれをただボーゼンと見ていた。
やがて、砦の方角から爆発音が聞こえた。
「え…!?まさか、砦が攻撃されてるの?」
「やられた…!奴らの狙いは砦だったんだ…!」
「まさか、あんな少人数で?」
「あんな少人数だったから接近を許したんだ」
「じゃあ、最初っからあたしたちなんか眼中になかったってこと!?」
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