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第二章
勇者候補:魔物退治
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「これじゃあ、私たちって勇者っていうよりモンスターハンターじゃない」
馬車の中で、エリアナは苦々しく云った。
大司教公国の領地内に魔物が現れたということで、勇者候補の3人は、魔物退治に駆りだされることになったのだ。
彼らはこれから馬車で2日の距離にあるアレサという小さな集落に向かうところだった。
「魔物退治でも腕試しにはなるからな。俺は構わないぜ」
馬車の中で腕組みしながら将は云った。
「たしかグリフォンって魔物だっけ。上が鷲で下半身がライオンなんだってさ」
「そんな魔物どっから沸いたってーのよ」
「さあ?」
「なんだか最近、多くない?」
「この前はたしかサラマンダーだったよね。将が一撃で真っ二つにしたのはすごかったよねえ」
「まあな。今回はもう少し手ごたえがあるといいな」
優星の、将を持ち上げる発言がこのところ目立つのをエリアナはあえてスルーしている。
それで将の機嫌がよくなって場の空気がよくなるのならいいことだ。
彼ら3人には、盾となる重装兵ゾーイ・シュトラッサーとホリーの代わりの女性回復士アマンダ・ライトナーの2人がパーティに加わっていた。
2人共S級の有能な戦士である。
ゾーイは26歳で、魔法騎士団に所属するS級重装騎士だ。盾に防御魔法を付与できる魔法盾というスキルを持っている。
魔法盾は、魔力を使って盾に物理と魔法を防御するバリアを張ることができる強力なスキルである。
場所が固定される防御壁と違い、盾を自由に動かせるのが便利なスキルだ。
回復士のアマンダは20歳という若さで、回復魔法はもちろん、魔力を他人に融通することができる<魔力供給>スキルを持っており、魔法士との相性は抜群だ。
この2人を加えたことで、勇者候補パーティは安定して戦うことができるようになった。
彼らの中で最も年長のゾーイが馬車を操り、残りの4人は馬車の中にいた。
勇者候補たちには、ここ最近立て続けに、各地で魔物討伐依頼があった。
トワがいなくなった後、エリアナたちも動揺していたのだが、ちょうどその頃に最初の討伐依頼があった。
彼らにはトワが送られた研究施設がドラゴンに襲撃された事実だけが伝えられたが、彼女がその後どうなったのかという情報は一切与えられていなかった。
魔物討伐と訓練で、彼らは手一杯になり、トワの行方については考える余裕すらなかった。
それでもエリアナは時々、トワがどうなったのか、思いを馳せることがある。
優星が侍女から聞いたところ、トワが送られた研究施設という所は、魔族を使った人体実験を行っていて、人間の奴隷も実験に使われることがあったのだそうだ。そして施設に送られた者は1人として戻って来なかったいう。おそらくはトワも実験の犠牲になったのだろう。
エリアナはそれを聞くと、眉をひそめて「サイッテーの国ね」と吐き捨てるように云った。
集落のはずれに、その魔物はいた。
草原にただ1匹、その巨大な魔物は眠っていた。
優星の云った通り、上半身は鷲で、大きな翼と嘴を持ち、下半身はライオンのような四つ足で、鋭い爪と尻尾を持っていた。
アレサの集落の被害は、人的被害は出ていなかったが、村の家畜が襲われ、農作物や家などが壊されていた。
グリフォンは村の馬などの家畜を食べて、満腹になって寝ているようだった。
勇者候補パーティは、この隙に奇襲をかけようと、作戦を練った。
グリフォンは翼を持っていて、飛ばれると厄介なので、まずは優星の弓で翼を撃ち、飛べなくする。
グリフォンの武器は鋭い爪と嘴の攻撃らしいので、それをゾーイの盾で防いでもらい、将の魔法剣とエリアナの魔法でとどめを刺す。
その作戦通りに、勇者候補たちは行動を開始した。
眠っているグリフォンの翼に向けて、優星は弓スキルを複数回放った。
それを合図に、エリアナが炎の魔法を繰り出す。
グリフォンがひるんだ隙に将は風の魔法を剣に付与し、剣を振るって風の刃で鋭い爪を持つ右前足を切りつけた。
すると怒り狂ったグリフォンは口から毒液を吐いた。
強力な酸のようで、毒液がかかった地面からは煙が立ち上り、草はみるみるうちにドス黒く変色した。
「皆さん下がってください!」
盾を構えたゾーイが前に出る。
グリフォンはあたりかまわず毒液を吐き続けた。
ゾーイがそれを魔法盾で防ぐ。
「ヤバイ、集落の方へ移動し始めた!優星、止められるか?」
「やってみる!」
優星が矢を二本同時に射て、グリフォンの両目を潰した。
グリフォンのけたたましい声が上がる。
視力を失ったグリフォンはその場でぐるぐる回転し始めた。
翼をバサバサと羽ばたかせて、旋風を起こした。
その瞬間つむじ風がその場に吹き荒れる。
「きゃあ!」
「エリアナ!」
エリアナが飛ばされそうになった。
その彼女の腕を将が咄嗟に掴んで引き寄せる。
「風には風で対抗する。いけるか?」
「もちろん!誰に言ってるの」
優星の弓がグリフォンの翼を立て続けに射抜く。
グリフォンの動きが一瞬止まった隙をついて、エリアナは風の魔法<風斬切>で右の翼を、将は魔法剣に風の斬撃を付与し、左の翼を切断した。
「ギャアアア!」
グリフォンは頭を空に向けて悲鳴を上げた。
「今よ!」
エリアナの<風斬切>と将の風の斬撃が同時にグリフォンの頭を切断した。
グリフォンの巨体は地響きを立ててその場に倒れた。
「ふぅ…」
「これだけデカイと上級魔法以下は通じないわね」
「今回もお見事でした」
トドメを刺した2人の元へゾーイが駆け付ける。
「あの程度、聖騎士団でも倒せるんじゃない?」
エリアナの言葉に、ゾーイは首を振った。
「倒せるかもしれませんが、皆さんほどスムーズには行かないでしょう。おそらくあの毒液で怪我人も出たでしょうし。討伐に時間がかかれば、集落にもっと被害が出たかもしれません」
「そうですよ、エリアナ様以上の魔法の使い手なんて他にはいませんし、将様と優星様の武技スキルも素晴らしかったです」
後ろで<魔力供給>を行っていた回復士のアマンダがやや興奮気味に云った。
褒められて悪い気はしない。
彼らもまんざらでもなさそうで、否定はしなかった。
ものの数分でグリフォンを倒した勇者候補たちは、戦いを遠くから見ていた集落の人々から感謝された。
どうしてもお礼がしたいという彼らの好意を受け入れて、一晩泊ることにした。
いつもなら倒してすぐに撤収するのだが、この日はもう夕暮れ時ということもあって、集落の代表の申し出を受けたのだった。
食事を御馳走になり、空き家を提供された勇者候補パーティは、おのおの寛いでいた。1階を男性3人が、2階を女性2人が使うことになった。
3つ並んだベッドのある部屋で、3人の男性たちはそれぞれ寛いでいた。
ゾーイが鎧を脱ぐために部屋の隅へと移動し、将と優星はベッドに腰かけたまま話していた。
「ねえ、将。僕たち、いつまで勇者候補なんだろうね」
「大司教次第だよな」
優星はさりげなく将の隣に座り、肩に腕を回した。
「もし将が勇者になっても、僕をパーティから外さないでよ?」
「なんだよそれ。お前が勇者になることだってあんだろ」
「僕はたぶん無理だよ。わかるんだ」
「勝手に決めてんじゃねーよ」
将は、優星の腕を振り払ってベッドから立ち上がった。
「それじゃあおまえは何がしたいんだよ?」
「僕は君の力になりたいと思ってる」
「な…」
優星は将を見つめて、真顔で云った。
「なんだよ、気持ちわりぃこと言うんじゃねーよ」
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」
ちょうどその時、鎧を片付けて、上下アンダージャージ姿になったゾーイが2人を振り返った。
その彼に視線を移した優星は、すかさずツッコんだ。
「なにそれ、鎧の下ってそんな感じなんだ?」
「鎧自体が重いので、下はなるべく軽いものにしています。花粉対策用に、これ頭巾もついてるんですよ」
そう云って、ゾーイは首の後ろについていたフードを頭に被った。それはピッタリと体にフィットしていた。
その姿に将は思わず吹き出して指を指した。
「わははは!それじゃ全身タイツじゃねーか!」
優星がそのたとえにツボったようで笑い転げている。
「そんなにおかしいですか?」
ゾーイにしてみれば、これは騎士団の支給品なので、何がおかしいのかわからない。
「いやそれ、わざとやってるでしょ!そのクソ真面目そうな顔とのギャップがマジウケるんだけど!」
優星と将の笑い声が聞こえたので、2階にいたエリアナたちも聞き耳を立てていた。
「楽しそうですね。将様と優星様があんなに笑うなんて珍しいです」
「…そうね。なんかいいことでもあったんじゃないの?」
「ゾーイさんもなんだか楽しそう…」
「それは確かに珍しいわね」
「いいなあ…」
「ん?」
「あっ、なんでもないです!さ、寝ましょう!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、エリアナたちが出発しようとしていた時、倒したはずのグリフォンの死体がなくなっていることに気付いた。集落の人々にも確認したが、誰も知らないという。
「どういうこと?昨日、確かに倒したわよね?魔物って倒すと消えるの?」
エリアナが云うと、アマンダが「いえ、そんなことはないはずです」と答えた。
グリフォンが横たわっていた場所には、毒液で変色した後があるだけだった。
「毎回、倒した後の死体をどうしたのか確認していなかったけど、誰かが片付けてるんだって思ってたわ。誰が持って行ったのかしら?」
「あれだけの大きさの物を、一晩で我々に気付かれずに運ぶなんてことが可能でしょうか?」
ゾーイの云うことは尤もだ。
ではなぜ消えたのか?
エリアナがいつもの調子で「きっと草原狼が食べたのよ」という推理を披露したが、骨すらも残っていないのは不自然だという将の指摘で却下された。
結局、誰もその答えを持っていなかった。
農作物や畑をグリフォンに荒らされてしまい、また魔物が出たらどうしよう、と怯える人々にアマンダは首都シリウスラントへの移住を持ちかけた。
首都郊外にはまだ農園を開ける土地がたくさん残っている。魔物の被害を受けた者たちが移住すれば、収穫が安定するまで税を免除することが約束されているのだった。
これまでもそういう提案をして、首都へ移住を決めた村々もあった。
しかし、今回彼らはそれを断り、この地でなんとか頑張っていくと伝えた。
「ねえ、毎回ああやって村人を勧誘してるわよね」
「あ、はい」
「大司教公国も人が多くなって大変なんじゃないの?」
「そんなことはありません。大司教様はどんな人間でも受け入れるようにとおっしゃっておられます。本当にお心の広い、お優しい方です」
「ふぅん?あんな実験施設を作ってるってのにねえ…」
ゾーイが「出発しますよ」と呼びに来て、彼らは集落を出発した。
大司教公国へ戻る途中に立ち寄った町で、アマンダは総合連絡所に足を運んだ。
大司教公国は主な都市の連絡所に専用ポストを設けており、外に派遣された魔法士などはそれを通じて報告したり連絡を受けたりするのだ。
すると、連絡所の係員が、ポストに彼らあての連絡が届いていると教えてくれた。
ポストに届いていた伝言は、大司教からの「今すぐ国境砦に向かって欲しい」との指令だった。
研究施設から逃げ出した魔族が、国境砦方面へ向かっているというので、至急追って欲しいというものだった。
ポストの欠点は、タイムラグが出ることであるが、連絡する方も受け取る方もそれはある程度計算済みなのである。
「またあそこかよ」と将はうんざりしたように云った。
「施設から逃げたっていうけど、もう結構時間経ってない?」
「そういやドラゴンが出たって聞いたけど、その後見たって話も聞かねーな」
「大陸を歩いて移動してるのかもよ?」
「ドラゴンもか?」
「きっとその逃げた魔族はドラゴンとは別なんじゃないかな」
それを聞いて、エリアナが突飛なことを云い出した。
「ねえ、そいつら、もしかしたらトワを人質に取ってる可能性もあるんじゃない?」
「は?」
「トワも行方不明だっていうじゃない?きっとそうよ!」
「なんでそうなるんだよ」
エリアナの発言は実はあながち間違いではなかったのだが、将も優星も本気にはしていなかった。魔族が人間を人質に取ってもメリットはないことを知っていたからだ。この国では人の命より魔族を殺す方が優先されるのだから。
「エリアナはトワが生きていると思いたいんだね」
優星がそう呟いた。
「今から行って間に合うのかよ?」
「とにかく、命令通りこのまま国境へ向かいましょう」
優星の言葉をさえぎって、ゾーイが皆を促した。
彼らはそこで再び魔族たちと戦うことになるのだった。
馬車の中で、エリアナは苦々しく云った。
大司教公国の領地内に魔物が現れたということで、勇者候補の3人は、魔物退治に駆りだされることになったのだ。
彼らはこれから馬車で2日の距離にあるアレサという小さな集落に向かうところだった。
「魔物退治でも腕試しにはなるからな。俺は構わないぜ」
馬車の中で腕組みしながら将は云った。
「たしかグリフォンって魔物だっけ。上が鷲で下半身がライオンなんだってさ」
「そんな魔物どっから沸いたってーのよ」
「さあ?」
「なんだか最近、多くない?」
「この前はたしかサラマンダーだったよね。将が一撃で真っ二つにしたのはすごかったよねえ」
「まあな。今回はもう少し手ごたえがあるといいな」
優星の、将を持ち上げる発言がこのところ目立つのをエリアナはあえてスルーしている。
それで将の機嫌がよくなって場の空気がよくなるのならいいことだ。
彼ら3人には、盾となる重装兵ゾーイ・シュトラッサーとホリーの代わりの女性回復士アマンダ・ライトナーの2人がパーティに加わっていた。
2人共S級の有能な戦士である。
ゾーイは26歳で、魔法騎士団に所属するS級重装騎士だ。盾に防御魔法を付与できる魔法盾というスキルを持っている。
魔法盾は、魔力を使って盾に物理と魔法を防御するバリアを張ることができる強力なスキルである。
場所が固定される防御壁と違い、盾を自由に動かせるのが便利なスキルだ。
回復士のアマンダは20歳という若さで、回復魔法はもちろん、魔力を他人に融通することができる<魔力供給>スキルを持っており、魔法士との相性は抜群だ。
この2人を加えたことで、勇者候補パーティは安定して戦うことができるようになった。
彼らの中で最も年長のゾーイが馬車を操り、残りの4人は馬車の中にいた。
勇者候補たちには、ここ最近立て続けに、各地で魔物討伐依頼があった。
トワがいなくなった後、エリアナたちも動揺していたのだが、ちょうどその頃に最初の討伐依頼があった。
彼らにはトワが送られた研究施設がドラゴンに襲撃された事実だけが伝えられたが、彼女がその後どうなったのかという情報は一切与えられていなかった。
魔物討伐と訓練で、彼らは手一杯になり、トワの行方については考える余裕すらなかった。
それでもエリアナは時々、トワがどうなったのか、思いを馳せることがある。
優星が侍女から聞いたところ、トワが送られた研究施設という所は、魔族を使った人体実験を行っていて、人間の奴隷も実験に使われることがあったのだそうだ。そして施設に送られた者は1人として戻って来なかったいう。おそらくはトワも実験の犠牲になったのだろう。
エリアナはそれを聞くと、眉をひそめて「サイッテーの国ね」と吐き捨てるように云った。
集落のはずれに、その魔物はいた。
草原にただ1匹、その巨大な魔物は眠っていた。
優星の云った通り、上半身は鷲で、大きな翼と嘴を持ち、下半身はライオンのような四つ足で、鋭い爪と尻尾を持っていた。
アレサの集落の被害は、人的被害は出ていなかったが、村の家畜が襲われ、農作物や家などが壊されていた。
グリフォンは村の馬などの家畜を食べて、満腹になって寝ているようだった。
勇者候補パーティは、この隙に奇襲をかけようと、作戦を練った。
グリフォンは翼を持っていて、飛ばれると厄介なので、まずは優星の弓で翼を撃ち、飛べなくする。
グリフォンの武器は鋭い爪と嘴の攻撃らしいので、それをゾーイの盾で防いでもらい、将の魔法剣とエリアナの魔法でとどめを刺す。
その作戦通りに、勇者候補たちは行動を開始した。
眠っているグリフォンの翼に向けて、優星は弓スキルを複数回放った。
それを合図に、エリアナが炎の魔法を繰り出す。
グリフォンがひるんだ隙に将は風の魔法を剣に付与し、剣を振るって風の刃で鋭い爪を持つ右前足を切りつけた。
すると怒り狂ったグリフォンは口から毒液を吐いた。
強力な酸のようで、毒液がかかった地面からは煙が立ち上り、草はみるみるうちにドス黒く変色した。
「皆さん下がってください!」
盾を構えたゾーイが前に出る。
グリフォンはあたりかまわず毒液を吐き続けた。
ゾーイがそれを魔法盾で防ぐ。
「ヤバイ、集落の方へ移動し始めた!優星、止められるか?」
「やってみる!」
優星が矢を二本同時に射て、グリフォンの両目を潰した。
グリフォンのけたたましい声が上がる。
視力を失ったグリフォンはその場でぐるぐる回転し始めた。
翼をバサバサと羽ばたかせて、旋風を起こした。
その瞬間つむじ風がその場に吹き荒れる。
「きゃあ!」
「エリアナ!」
エリアナが飛ばされそうになった。
その彼女の腕を将が咄嗟に掴んで引き寄せる。
「風には風で対抗する。いけるか?」
「もちろん!誰に言ってるの」
優星の弓がグリフォンの翼を立て続けに射抜く。
グリフォンの動きが一瞬止まった隙をついて、エリアナは風の魔法<風斬切>で右の翼を、将は魔法剣に風の斬撃を付与し、左の翼を切断した。
「ギャアアア!」
グリフォンは頭を空に向けて悲鳴を上げた。
「今よ!」
エリアナの<風斬切>と将の風の斬撃が同時にグリフォンの頭を切断した。
グリフォンの巨体は地響きを立ててその場に倒れた。
「ふぅ…」
「これだけデカイと上級魔法以下は通じないわね」
「今回もお見事でした」
トドメを刺した2人の元へゾーイが駆け付ける。
「あの程度、聖騎士団でも倒せるんじゃない?」
エリアナの言葉に、ゾーイは首を振った。
「倒せるかもしれませんが、皆さんほどスムーズには行かないでしょう。おそらくあの毒液で怪我人も出たでしょうし。討伐に時間がかかれば、集落にもっと被害が出たかもしれません」
「そうですよ、エリアナ様以上の魔法の使い手なんて他にはいませんし、将様と優星様の武技スキルも素晴らしかったです」
後ろで<魔力供給>を行っていた回復士のアマンダがやや興奮気味に云った。
褒められて悪い気はしない。
彼らもまんざらでもなさそうで、否定はしなかった。
ものの数分でグリフォンを倒した勇者候補たちは、戦いを遠くから見ていた集落の人々から感謝された。
どうしてもお礼がしたいという彼らの好意を受け入れて、一晩泊ることにした。
いつもなら倒してすぐに撤収するのだが、この日はもう夕暮れ時ということもあって、集落の代表の申し出を受けたのだった。
食事を御馳走になり、空き家を提供された勇者候補パーティは、おのおの寛いでいた。1階を男性3人が、2階を女性2人が使うことになった。
3つ並んだベッドのある部屋で、3人の男性たちはそれぞれ寛いでいた。
ゾーイが鎧を脱ぐために部屋の隅へと移動し、将と優星はベッドに腰かけたまま話していた。
「ねえ、将。僕たち、いつまで勇者候補なんだろうね」
「大司教次第だよな」
優星はさりげなく将の隣に座り、肩に腕を回した。
「もし将が勇者になっても、僕をパーティから外さないでよ?」
「なんだよそれ。お前が勇者になることだってあんだろ」
「僕はたぶん無理だよ。わかるんだ」
「勝手に決めてんじゃねーよ」
将は、優星の腕を振り払ってベッドから立ち上がった。
「それじゃあおまえは何がしたいんだよ?」
「僕は君の力になりたいと思ってる」
「な…」
優星は将を見つめて、真顔で云った。
「なんだよ、気持ちわりぃこと言うんじゃねーよ」
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ」
ちょうどその時、鎧を片付けて、上下アンダージャージ姿になったゾーイが2人を振り返った。
その彼に視線を移した優星は、すかさずツッコんだ。
「なにそれ、鎧の下ってそんな感じなんだ?」
「鎧自体が重いので、下はなるべく軽いものにしています。花粉対策用に、これ頭巾もついてるんですよ」
そう云って、ゾーイは首の後ろについていたフードを頭に被った。それはピッタリと体にフィットしていた。
その姿に将は思わず吹き出して指を指した。
「わははは!それじゃ全身タイツじゃねーか!」
優星がそのたとえにツボったようで笑い転げている。
「そんなにおかしいですか?」
ゾーイにしてみれば、これは騎士団の支給品なので、何がおかしいのかわからない。
「いやそれ、わざとやってるでしょ!そのクソ真面目そうな顔とのギャップがマジウケるんだけど!」
優星と将の笑い声が聞こえたので、2階にいたエリアナたちも聞き耳を立てていた。
「楽しそうですね。将様と優星様があんなに笑うなんて珍しいです」
「…そうね。なんかいいことでもあったんじゃないの?」
「ゾーイさんもなんだか楽しそう…」
「それは確かに珍しいわね」
「いいなあ…」
「ん?」
「あっ、なんでもないです!さ、寝ましょう!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日、エリアナたちが出発しようとしていた時、倒したはずのグリフォンの死体がなくなっていることに気付いた。集落の人々にも確認したが、誰も知らないという。
「どういうこと?昨日、確かに倒したわよね?魔物って倒すと消えるの?」
エリアナが云うと、アマンダが「いえ、そんなことはないはずです」と答えた。
グリフォンが横たわっていた場所には、毒液で変色した後があるだけだった。
「毎回、倒した後の死体をどうしたのか確認していなかったけど、誰かが片付けてるんだって思ってたわ。誰が持って行ったのかしら?」
「あれだけの大きさの物を、一晩で我々に気付かれずに運ぶなんてことが可能でしょうか?」
ゾーイの云うことは尤もだ。
ではなぜ消えたのか?
エリアナがいつもの調子で「きっと草原狼が食べたのよ」という推理を披露したが、骨すらも残っていないのは不自然だという将の指摘で却下された。
結局、誰もその答えを持っていなかった。
農作物や畑をグリフォンに荒らされてしまい、また魔物が出たらどうしよう、と怯える人々にアマンダは首都シリウスラントへの移住を持ちかけた。
首都郊外にはまだ農園を開ける土地がたくさん残っている。魔物の被害を受けた者たちが移住すれば、収穫が安定するまで税を免除することが約束されているのだった。
これまでもそういう提案をして、首都へ移住を決めた村々もあった。
しかし、今回彼らはそれを断り、この地でなんとか頑張っていくと伝えた。
「ねえ、毎回ああやって村人を勧誘してるわよね」
「あ、はい」
「大司教公国も人が多くなって大変なんじゃないの?」
「そんなことはありません。大司教様はどんな人間でも受け入れるようにとおっしゃっておられます。本当にお心の広い、お優しい方です」
「ふぅん?あんな実験施設を作ってるってのにねえ…」
ゾーイが「出発しますよ」と呼びに来て、彼らは集落を出発した。
大司教公国へ戻る途中に立ち寄った町で、アマンダは総合連絡所に足を運んだ。
大司教公国は主な都市の連絡所に専用ポストを設けており、外に派遣された魔法士などはそれを通じて報告したり連絡を受けたりするのだ。
すると、連絡所の係員が、ポストに彼らあての連絡が届いていると教えてくれた。
ポストに届いていた伝言は、大司教からの「今すぐ国境砦に向かって欲しい」との指令だった。
研究施設から逃げ出した魔族が、国境砦方面へ向かっているというので、至急追って欲しいというものだった。
ポストの欠点は、タイムラグが出ることであるが、連絡する方も受け取る方もそれはある程度計算済みなのである。
「またあそこかよ」と将はうんざりしたように云った。
「施設から逃げたっていうけど、もう結構時間経ってない?」
「そういやドラゴンが出たって聞いたけど、その後見たって話も聞かねーな」
「大陸を歩いて移動してるのかもよ?」
「ドラゴンもか?」
「きっとその逃げた魔族はドラゴンとは別なんじゃないかな」
それを聞いて、エリアナが突飛なことを云い出した。
「ねえ、そいつら、もしかしたらトワを人質に取ってる可能性もあるんじゃない?」
「は?」
「トワも行方不明だっていうじゃない?きっとそうよ!」
「なんでそうなるんだよ」
エリアナの発言は実はあながち間違いではなかったのだが、将も優星も本気にはしていなかった。魔族が人間を人質に取ってもメリットはないことを知っていたからだ。この国では人の命より魔族を殺す方が優先されるのだから。
「エリアナはトワが生きていると思いたいんだね」
優星がそう呟いた。
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"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
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