聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第二章

カマソ村の奇跡

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 カマソ村の村長は黒いひげをたくわえた貫禄のある人物だった。
 もう2000年近く生きているという村の長老だった。
 魔族は長命だと聞いていたけど、見かけは30代くらいにしかみえないのにそんなに生きているなんて、やっぱりすごいなあ。
 この人も上級魔族だけど、どこか暗い表情をしている。

 カイザーが村人たちに威厳を見せるため、ドラゴンの姿に戻って彼らを威嚇した。
 そして少年の姿のゼルニウスを魔王だ紹介すると、村長をはじめとする村人たちは彼の前に平伏し、村で一番上等な椅子を持ち出して捧げたのだった。

 その後、村長が自分の家に私たちを招き入れてくれた。
 村長たちは家の中で一番上等な椅子に魔王を座らせたり、大きな葉っぱの扇であおいだり、飲み物を用意したりと、気の遣いようがハンパない。こうしてみるとやっぱり魔王って偉いんだな。

 広場の隅で荷馬車を制作しているシトリーを除く団員たちは、村の調理場を借りて、獲ってきた食糧で食事の用意を始めた。
 いくらなんでも食材が多すぎるからと、村人たちにも料理を振る舞おうということになったのだ。

 森の木を伐採して切り開いたカマソ村には150人ほどの魔族が住んでいる。そのうちの半数がロアの連れてきた部下だ。
 村は侵入者を防ぐための柵で囲まれており、村の中には村人全員が集まって集会を開くための広場があり、その周囲には村人たちの住居である丸太で作ったログハウスやテントが立ち並んでいる。
 食事は、広場に長テーブルを並べて、全員が一緒に食べることになっている。
 なので、調理場は広場の一角にあるものだけだった。

 この村の人々は、『魔の森』の実りと動物や魔物を狩って生活している。そうした食糧や魔物の皮などを、近くの町へ売りに行って金銭を稼ぎ、衣服や生活用品などを購入しているという。
 生活自体はそれほど豊かとは思えないが、どこの国にも所属していない分、税もなく押し付けられた決まりもなく、自分たちのルールの中で自由にのびのびと暮らしている様は幸福そうに見えた。
 そんな彼らを指導している村長は、カリスマがあるのだろう。

「あの、トワ様」

 ロアがおそるおそる私に話しかけてきた。

「先ほど、魔王様に伺いました。トワ様には魔族を癒すお力があると…」
「本当だ。何なら試してみるか?」

 私の返事もきかずに魔王が答えた。

「もし、その話が本当なら…お願いしたいことがあるのです」

 ロアが一緒に来て欲しい、というので私は彼女の案内する場所へついていった。
 当然、魔王とジュスターも付いてきた。
 カイザーは村人たちに威厳を見せようと、なぜかサレオスの姿になって同行してきた。
 さすがに青年魔王の姿になるのは本人に怒られると思ったのだろう。

 ロアに連れて行かれたのは、村の奥に張られた大きな革張りのテントだった。
 その中に入っていくと、藁で作った粗末な敷物の上に寝かされている魔族が数人いて、彼らの世話をしている者が1人いた。
 寝かされている魔族たちは皆、怪我が深く、息が荒い。かなり苦しそうにしている。
 手前に3人、離れた奥に1人が寝かされている。
 私は手前の3人の様子をしゃがんで見た。

「これは…刃物で切られた傷ね」
「先日来たネビュロスの手の者に、見せしめとしてやられた者たちです」
「むこうの人は?」
「…つい先ほど亡くなった者です。あれはこの村の村長の子です。私のために、関係のない者まで巻き込んでしまいました」

 村長の表情が暗かったのはそのせいだったのか。

「…ひどい傷…」

 1人は顔から腹まで斬られていた。
 裂傷や火傷の痕がある者もいる。おそらくこれは魔法攻撃を受けたのだろう。

「この者は背中を切られているな」

 魔王がうつ伏せで寝かされている者を見た。
 ロアは悔しそうな顔をした。

「ネビュロスの部下は、話し合うだけだと言っていたのに去り際に背後から斬り付けてきたのです」
「卑怯な。武人の風上にもおけん」

 ジュスターが憤って云った。

「大丈夫、治してみせるわ」

 私はロアに声をかけて怪我人の傍についた。
 おそらくまだ彼女は半信半疑なのだろう。私が怪我人に振れると、思わず身を乗り出そうとしてジュスターに止められていた。
 1人1人の怪我がかなり深いから、個別に治した方が確実だ。

「回復」

 私はそう云って、1人目の怪我人の傷を癒した。
 深かった刀傷は跡形もなく奇麗に消え去った。
 やがて、横たわって苦しんでいたその魔族が目を覚ました。

「なんだ、俺はどうなった…?」

 そして体を起こして自分の体を確かめた。

「傷が消えてる!痛くない!」

 私はそれに構わず、続けて他の2人も癒した。
 彼らの世話をしていた魔族もびっくりした顔をして、こちらを見ていた。
 ロアも信じられないものを見たという表情をしていた。
 そうして3人共が元気に起き上がってきて、お互い抱き合って喜んでいた。
 ロアも感情を爆発させて、涙ながらに喜んでいた。
 魔王とジュスターは感心したようにそれを見ていたけど、カイザーは当然だ、という表情をしていた。

 良かった、成功したみたい。
 さて、残るは…。

 私は先程死んだという魔族の方を見た。
 蘇生魔法は一度失敗してるのよね。
 見事に不死者ゾンビイになっちゃって、ネーヴェに首を落としてもらったんだった。
 今度そんなことになったら、村長さん、二度も息子を失うことになるのよね…。う~ん。やめた方がいいのかな。
 そもそも蘇生魔法って何だろう?
 どうして不死者ゾンビイになっちゃうんだろう?
「あ゛~~」とかいって言葉も通じないし、人としての意識がないっぽい感じ?

 意識…。
 そうか、要は自我があるかないか、なんだ。
 たぶん、不死者ゾンビイになっちゃうのは、本人の自我がない状態で体だけが動かせるようになってしまってるからなんじゃないかな。
 あるいは本人以外の何か別の自我が入り込んでしまったかのどちらか…。

 意識=自我=魂って考えると、体を治した上で、その人の魂を戻してあげないといけないってことだ。
 だけど、この人の魂がまだここにあるのかどうかもわからない。
 それに、もし他の自我が入り込もうとしていたら、それを排除しないといけない。そんなこと、私にできるのかな?
 そもそも、私には人の魂なんて見えないし…。
 そんなの見える人っているのかな?
 …人じゃなければ見えたりするのかな?
 私は何となくサレオスの姿をしたカイザーを見た。

「あ!」

 いいこと思いついた。

「ねえ、カイザー、あんたって人の魂が見えたりする?」
『魂?マギを見ることはできるが…』

 と云いかけたとき、カイザーの体が光った。

『おお…!見える。大いなる自然の力が見えるぞ』

 不可視のものを可視化する能力<霊力可視化>スキルが増えた、とカイザーは大騒ぎした。
 云ってみるもんだ。

「良かった。じゃあこの人の魂が近くにいるかどうか視て」
『…その者の頭上にまだたゆたっているぞ。悲しそうに自分の体を見下ろしている』
「その魂、留めて置ける?」

 再びカイザーの体が光った。

『スキルが<霊力可視化・干渉>に進化した。可能だ』
「じゃあお願い、つかまえておいて」
『たやすいことだ』

 サレオスの姿のカイザーは、一見何もない空間で、なにかを掴んでいるように見えた。
 そう、そこにいるのね。

「何をする気だ?」と魔王が訊いた。
「まあ、黙って見てて。何事もチャレンジよ」

 私はまず、死亡した魔族の傷を癒した。その上で、魂を戻すことに集中した。
 カイザーが捕まえててくれるから、私は落ち着いてゆっくり蘇生魔法を使うことができる。

「あなたはまだ生きられる。魂よ、この体に戻って」

 私は彼の前で両手を組んで祈りをささげるように、それを言葉にした。

『この者の魂が、体に吸い込まれて行ったぞ』

 すると、横たわっていた死人の体が一瞬まばゆく輝いた。やがて、その魔族は目を開け、ゆっくりと体を起こした。
 私はそれを固唾をのんで見守った。
 ジュスターは、彼が不死者ゾンビイになって襲い掛かってくるかもしれないと、構えていた。
 どうか成功していますように…。

 その魔族の青年は、辺りをきょろきょろと見回した。

「あれ?俺は死んだんじゃなかったのか?」

 死んだはずの青年魔族がしゃべったのを聞いて、先に治癒された魔族たちとロアは心底驚いていた。
 彼らはさすがに死者が蘇るとは思っていなかったようで、彼が起き上がってきた時には、びっくりして逃げ出そうとしていた。きっと不死者ゾンビイだと思ったんだろうな。
 だけど彼が元気に手をあげてロアたちに声を掛けると、テントの中は大騒ぎになった。

「…成功したかな?」
『そのようだな。よくやった』
「はぁ~良かった~~!」

 気が抜けたせいか、私は思わずよろけてジュスターに抱き留められた。
 彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?」
「あ、うん」

その後ろで魔王が目を剥いて驚いていた。

「おまえ、死者を蘇らせたのか」
「蘇生魔法を使ってみたのよ」
「…すごいな」
「一回失敗してるからね。成功して良かったわ。でも、コツがわかった気がする」
「トワ様…あなたはなんと素晴らしいお方だ…」

 ジュスターは私の体を支えながら感動して、私の手の甲に口づけをした。
 それを見ていた魔王は、「どさくさに紛れて何をしている!」とジュスターに厳しく注意した。

「奇跡だ…!」
「奇跡が起きた!」

 テントの中の人々が口々に叫んだ。

 騒ぎを聞きつけた村の魔族たちは、怪我人のみならず死者まで蘇ったと知り、驚きと興奮に包まれた。
 そしてその後、私の前に全員が膝を折って平伏した。
 特に仲間を癒してもらったロアと、息子を救ってもらった村長は、何度も何度も感謝の言葉を述べた。
 今回は魂が傍にあったから運が良かったんだ、と説明したけど、皆興奮しててちゃんと伝わったかどうか怪しいものだ。

「救世主だ!」
「魔族の聖女だ!」
「トワ様、万歳!!奇跡の女神様、万歳!!」

 彼らはそう口走っていた。
 魔族の聖女、とかややこしい称号だよなあ。

 いまだかつて、魔族を魔法で回復させた者も、蘇生させた者もいないのだそうだ。
 私のしたことがどれほど大変なことなのか、魔王は語った。

 その時、私のお腹が盛大にグゥーッと鳴った。

 その場にいた魔王も村長も、ロアでさえも大笑いした。
 こんな大勢の前で、超恥ずかしいーー!!
 私のお腹、空気読んでくれよぉ~!
 でも実際、魔力を使ったせいか、お腹が減って倒れそうだったのよね。
 私は恥ずかしさのあまり自分の顔が真っ赤になったのを感じた。
 なぜか傍に立っていたジュスターだけは笑っていなかった。

「もうやだ…恥ずかしくて死にたい」
「トワ様、そんなことで死んではいけません」

 私が云ったことを真に受けたジュスターが真顔で私を見つめた。
 いや、本気にされても困るんだけど…。
 もしかして彼、冗談が通じない人?

「そろそろ食事ができる頃だ。広場へ行こう」

 魔王の後について、私たちはぞろぞろと広場へ移動した。
 その間も、ジュスターは心配そうに私の肩を抱いたまま「腹の虫が鳴るのは健康な証拠です」だの「鳴らない方がおかしい」だのを切々と語るのだった。
 普段無口なくせに、こういう時は口が回るのよね。
 いや、マジで死なないから。っていうか、そんなん理由知ってるから!

「胃がからっぽだと収縮して音が鳴るのよ」

 と正解を教えてあげたらビックリして「虫がいるからじゃないんですか」とか真顔で云うから、ずっこけるかと思ったわ。

「虫がいるのになんでそれが健康な証拠になるのよ?」
「お腹がすいてますよ、と教えてくれる体に良い虫が住みついているのかと思っていました」

 うはっ!何その超可愛い発想!
 イケメンなだけにとんだギャップ萌えなんだけどーー!
 でも本質は間違っていないから否定もしづらい。
 私は笑いをこらえながらジュスターの顔を見上げた。

「ジュスター、あんたって面白いわ」

 ヤバイ、この子天然だわ。
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