聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

文字の大きさ
65 / 246
第三章

解き明かされる謎

しおりを挟む
 その後、私はイドラに地下室に連れ戻され、怪我を負っていたイドラの部下の魔族を治療させられた。
 その間も、イドラは鏡で自分の顔を何度も確認していた。

 私の能力に満足すると、イドラは同じ地下にある自分の部屋に私を連れて行った。
 そこはとても広くて地下とは思えないほど暖かくて快適な空間だった。
 私はその部屋のリビングの上等なソファに座らせてもらった。
 イドラはお茶を淹れてくれて、寛いでくれと云った。

「おまえは、本当にすごい。なぜ、いつ、そんな力を身に着けた?」
「わからないわ。気づいたらこうなってたの」
「おまえは研究施設リユニオンにいた魔族たちをその力で回復させて逃がしたのだな?そのどさくさに紛れて逃げたのか」
「う…」
「別に隠す必要はない。大司教に言うつもりはないから安心して良い」
「どうして?あなたは大司教の部下なんでしょう?」
「便宜上そうなっているだけだ」

 火傷の痕がすっかり消えて美しい顔になったイドラは、もうフードを被らなくなった。
 イドラは私が今までどこでどうしていたのか、詳しくは聞かなかったけど、逃亡の末グリンブルにたどり着いたのだと思っているようだ。
 イドラは私にお茶を飲むように勧め、傷を治してくれた礼に、聞きたいことがあればなんでも教えてやる、と云ってくれた。

「ねえ、どうしてこの国に魔族がいるの?絶対ダメなんじゃなかったの?私そのせいで奴隷部屋送りになった気がするんだけど」
「表向きはな。地下に潜れば多くの魔族がいる。そもそもこの大聖堂を再建したのは大戦を生き残った魔族たちなのだ。だがアトルヘイム帝国の目を逃れるためには、ここには魔族はいないと証明する必要があった」
「それで魔族排斥を大々的に公言していたの…?」
「そのために、多少下級魔族たちに『生贄』になってもらわねばならなかったがな」

 脳裏に浮かんだのは、旧市街地で私たちが討伐した下級魔族たちのことだった。
 彼らもこの国が魔族を排斥する国だと証明するための『生贄』だったのだ。

「おまえは、被験体だったのだ」
「被験体?」

 被験体、という謎の言葉の後に、イドラは衝撃的なことを云った。

「おまえのその体は、100年前に死んだ勇者の亡骸だ」

 え?
 亡骸?

「え?え?ええ―――っ?!」
「まあ、驚くのも無理はないな」イドラは苦笑した。

 待って待って、意味が不明。
 この体、死体だったの?
 しかも勇者って!!
 パニックでしかないって!

 そんな私の様子をイドラは笑って見ていた。

「先ほど大きな水槽を見ただろう?」
「あ、うん…」
「あの水槽の他に、空の水槽があっただろう?あの中に勇者の亡骸が入っていた」
「…え…!100年間も?」
「魔法で冷凍保存し、水槽の中で厳重に管理してきたのだ」
「なんでそんなこと…」
「本来、勇者とは依り代に宿るものなのだ」
「依り代って?」
「器になる体のことだ」
「死んでる人に乗り移るってこと…?」
「そういうことだ」

 イドラは頷いた。
 死んだ体に、魂を宿らせる…それってちょっと蘇生魔法に似ている、と思った。
 あと、水槽って3つあったわよね。残りの水槽には何が入ってたのかな…。

「勇者とは純粋な聖属性を持つ者のことだ。でなければ魔王を封じられないからだ。だからおまえが魔属性を持った時点で、それは失敗に終わったとみなされた。その原因を突き止めるために、研究施設リユニオンに送られたというわけだ」

 ああ、だから聖属性しか持たない落ちこぼれの私でも、みんな辛抱強く付き合ってくれてたんだ。なるほど、謎が解けた…。本当に特別扱いだったんだな。
 それに大司教のあの言葉…。似てるのは顔だけとかなんとか云ってたのは、勇者の顔のことだったのか…!
 そしてイドラは、研究施設リユニオンで私が死んだらその体を再び回収して水槽に戻すつもりだったと云った。最初から殺すつもりだったんだ…。ってか、使い回すんかい!

「大司教にお前が生きていることがバレたら、殺されてその体を奪われるだろう。おまえは私の恩人だ。そんなことにはさせない」
「あ、ありがとう…。でもいいの?」
「おまえは200年も続いた苦しみから私を解き放ってくれた。この気持ちを、どう表現していいかわからないほどに、感謝しているのだ」

イドラの私を見る目に熱を感じた。
これはマジな目だ。
あまりにも真剣なので、私は愛想笑いをイドラに返すことしかできなかった。
それよりも、気になるのはその依り代って言葉だ。
勇者候補の中で、自分の体じゃなかったのは私だけだった。

「じゃあ、エリアナたちは…?」
「あれは失敗作だ。単なる召喚者であって勇者ではない」
「失敗って…。じゃあ彼女たちはどうなるの?」
「あの者たちはいずれ殺されてスキルを奪われる運命にある。見どころのある者はより強いスキルを会得させるために育てられるのだ。そうでない者は早い段階で放逐される」
「嘘でしょ…!」私はゾッとした。

 それはまるで悪い魔法使いが、美味しく食べるために子供を太らせているっていう童話みたいな話だ。
 殺してスキルを奪う。それはエウリノームの仕業だ。
 そう指摘すると、イドラは私がエウリノームのことを知っていたことに驚いた。けれど説明の手間が省けたのでちょうど良かったとも云った。

「エウリノームの目的は強力なスキルを集めることだ。何に使うわけでもなく、単なる蒐集家コレクターだと云ってもいい。奴にとってはスキルが一番で、人の命などどうでも良いのだ。そうして得たスキルを宝玉化して惜しげもなく部下に渡したりしている。かくいう私も連絡用の宝玉を渡されているがな」

 それが本当なら、このことをエリアナたちに話して、この国から逃げてもらわないと命が危ない。
 そうイドラに伝えると、「そんな話、誰が信じると思う?」とあっさり云った。

「この国に魔族はいないはずだからな。ましてやおまえは追われる身だ。彼らに話したところでおまえ自身が疑われ殺されるだけだ」
「で、でも…じゃあ、どうしたらいいの?彼らを助ける方法はないの?」
「諦めろ。最初から決まっていたことだ」
「…もしかして、今まで召喚された勇者候補たちも…?」
「エウリノームは異世界人特有の様々なスキルを手に入れているよ」

 どおりで過去の勇者候補の話を聞かないわけだ。
 まさか殺されていたなんて。
 才能なしって追放された人は、逆にラッキーだったんだ…。

「だけど、大司教は自分が育てた勇者候補をそんな簡単に殺されてしまって平気なの?」

 そう云ってから、ふと思い至った。

「…もしかして、大司教がエウリノームなの?」

 私は核心をついたつもりだった。そう考えたら辻褄が合う。
 ところがイドラは首を振った。

「そうではない。大司教はエウリノームに協力しているに過ぎない。私もエウリノームがどこにいるのかは知らないのだ」
「じゃあ、大司教の正体って…」
「魔族だ。名を言ってもおまえは知らんだろうがな」
「魔族排斥って言ってる大司教が魔族って…それ、何の冗談?」
「悪い冗談だと私も思うよ」

 イドラは笑わずに云った。
 いや、シャレにならないって。この国で暮らす人間たちは全員騙されているってことになる。
 そこでふと矛盾に気付いた。

「待って!じゃあ魔族がどうして魔王を倒す勇者を召喚するのよ?」
「魔族だからといって皆が魔王に膝を折るわけではない」
「…え?」
「この200年、私は魔王を倒すことだけを考えて生きてきた」
「あなたは、魔王を憎んでいるの?」
「もちろんだ。私の顔にあんな傷を負わせたのは奴なのだから」
「…嘘よ…」
「私は魔王への憎しみだけで、あの醜い顔で200年も生きながらえてきたのだ!」

 イドラは自分の顔を両手で抑えた。
 その手は怒りで震えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...