聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

文字の大きさ
74 / 246
第三章

罪と罰

しおりを挟む
 魔王がポータル・マシンに現れた時、その正面には驚いた表情のカラヴィアの姿があった。

「魔、魔王様!?」
「カラヴィアか…。おまえ1人か?トワはどうした?」
「あ…」

 カラヴィアの頭の中は混乱していた。
 マシンからトワが消えて、てっきり魔王の元へ戻ったのだと思って、魔王への言い訳を必死で考えていた時に、同じ台座から魔王が現れたからだ。
 だがここに魔王が現れて、トワを探しているということは、魔王はまだトワに会っていないということだ。つまり、カラヴィアが彼女を襲ったこともバレていない。
 カラヴィアにとって、トワがどこへ行ったのかということよりも、その方が大事だった。

「魔王様!たった今、トワさんをこのマシンで転送したところだったんです!」
「…マシンは我が修理していた。誰も転送などされておらん」
「え~?それじゃあ行き違いになったんですわ」
「…それもありえん。このマシンは双方同時に稼働することはない。転送先の台座に人が乗っていると稼働しない仕組みになっているのだ」
「じゃあ…」
「本当にトワはここにいないのか?」
「本当ですよ!疑うなんてヒドイです!せっかくあの娘を見つけてマシンに乗せたのに!」
「おまえが?」
「そ、そうです…」

 カラヴィアはおそるおそる返事をした。
 魔王は自分が転送されてきたマシンを調べてみた。

「特に問題はないように見受けられるが…」
「あ、あの娘が焦ってボタンを何度も押していたから、誤作動したんじゃないでしょうか?」
「焦って?なぜ焦っていたのだ?」
「さ、さあ…?早く帰りたかったんじゃないですか?この上からパパッっていなくなりましたから」

 カラヴィアはそう勝手な解釈を魔王に語った。
 魔王はその様子を訝しんだ。

「…このマシンにはおまえがトワを乗せたのだろう?」
「あ…そ、そうでした」
「まさかおまえ、トワに何かしたのではあるまいな?」
「いいえ!そんな、滅相もないです!トワさんを殺そうだなんてそんなこと!」

 魔王はカラヴィアをじろりと睨んだ。
 カラヴィアは「あ」と短く叫んで自分の口を押えた。

「…ほう?トワを殺そうとしたのか」
「あわわわ…い、いいえ!そ、そんなことして、してません!」
「我の前で嘘をつくとどうなるか、わかっているだろうな?」
「ち、違います!嘘だなんて、ワタシはただ…」

 カラヴィアは明らかに狼狽している。

「カイザードラゴン、我の姿で出てカラヴィアを捕らえろ!」

 魔王が叫ぶと、ネックレスからカイザーが魔王と同じ姿でカラヴィアの隣に出現した。
 さすがのカラヴィアもこれには驚いた。

「魔王様!?…が2人?」
「これは我が召喚したカイザードラゴンの擬態スキルだ」
「カ、カイザードラゴン…!?こ、こんな力があったんですの…?」
『変身はおまえの特許ではないぞ』

 そう云って、魔王の姿のカイザーはカラヴィアの腕を掴んだ。

「フン、無駄よ。ワタシのスキル<素粒子化>はすべてのものをすり抜けることができるのよ?」
『やってみるがいい』
「ハッ!自信過剰なドラゴンね」

 カラヴィアがその姿を<素粒子化>させると、カイザーに掴まれている腕が一瞬消えたように見えた。
 通常ならそれでカイザーの腕をすり抜けることができるはずだった。
 だがその腕は、カイザーに掴まれたままだった。

「な!なぜ?どうして?」
『私は目に見えぬものをも掴むことができるのだ。<素粒子化>したおまえの体なぞ容易く捕らえられるわ』

 カイザーはそう云って、掴んだ手を引き寄せ、魔王の前に引っ立てた。

「痛たたッ痛い!やめてよ!」
「我はおまえを信用して送り出した。我が大切に思っているトワをよもや傷つけるような真似はすまいと思っていたが…どうやら甘かったようだな」
「魔王様、誤解です!ほんのちょっと、その、出来心っていうか…。だって、あの娘、生意気なんですよ!?魔王様のこと気安く呼んだりして!」

 その時、魔王の口元が少し緩んだ。
 彼女が自分をゼルくん、と呼んだ時のことを思い出していたのだ。

「…確かに気安いな」
「でしょ?だからワタシ、魔王様にナイショでガツンとかましてやろうと思ったんですよぉ!」
「つまりおまえは我を裏切ったと」
「え?え?裏切ってなんかいませんてば!あの娘は魔王様に相応しくないって思っただけです!」

 カラヴィアは自分自身でボロを出していることに気付いていなかった。

『魔王よ、おまえにはがっかりだ。こんないい加減な者を信用しているとは』

 カイザーは魔王と同じ顔で、彼を責めるように云った。

「…確かに我に対する忠誠心に関しては信用していた部分はあった」
「そ、そうですとも!ワタシは何があっても魔王様を裏切ったりしませんわ!」
「…おまえはその軽口で我をイラつかせることが多かったが、退屈から救ってくれたこともあった。それゆえお前の行動には目をこぼしてやっていたことも多々あった」
「魔王様…!ああ、やっぱりワタシの心をわかってくださっているのですね!嬉しい!」
「おまえはそれをいいことに増長したのだな」
「そ、そんなことはありませんわ!魔王様はやっぱりワタシを愛してくださっているってことがわかっていただけです!」
「おまえの自己中心的な妄想にはうんざりだ」
「え…?」

 カイザーはカラヴィアを無視して、魔王に語り掛けた。

『魔王よ。トワがどこへ行ってしまったかわかるか?』

 カイザーの言葉を受けて、魔王はポータル・マシンの近くへ行き、転送パネルを操作した。

「マシンの誤作動なのかどうか原因は不明だが、どこか別のポータル・マシンに転送されている可能性が高い」
「どうしてわかるんですの?」
「マシンの台座の上から消えたということは、空間魔法が発動しているということだ。そして見たところこのマシンは正常に動いている。このマシンは複数の転送先を登録できるもののようだ。ここに登録されている別の転送先を調べればトワの行方を追えるかもしれん」

「…どうして?」

 カラヴィアはカイザーに腕を掴まれたまま悲し気に魔王を見た。

「どうしてあの娘のことばっかり心配するんです?ワタシじゃダメなの?どうしてあんな人間なんかに!?ワタシの方がずっと魔王様を愛してるのに!あの娘が来たからワタシを捨てるなんてヒドイです!」
「おまえは他人の気持ちを一度でも考えたことがあるのか」
「そんなの…、ワタシはただ一途に魔王様を…」
「自分の気持ちを押し付けるだけの愛は、相手を傷つけるということにそろそろ気付くべきだ」
「ま、魔王様…?」

 魔王は、カラヴィアの顔の前に掌をかざした。

「我が、おまえの裏切りによってどれだけ落胆させられたか、その身を持って知れ」
「ひっ…お、お許しを…」

 すると魔王の掌から強烈な炎が噴き出して、カラヴィアの顔面を焼いた。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 魔王の指に次第に力が入り、カラヴィアの顔前で爪を立てる仕草をした。
 美しかったカラヴィアの顔面はみるみるうちに焼けただれ、見えない手でえぐられるように両頬に鋭い爪跡が無残に付いていく。それは魔王の怒りそのものを具現化していた。

「あああああああーーーーー!!痛ぁい!熱いぃ!」

 カラヴィアはあまりの苦痛に悲鳴を上げながら、両手で自分の顔を覆いながらのたうち回った。
 床を転げまわるカラヴィアを魔王とカイザーは冷たく見下ろしていた。

「カイザードラゴン、そこの鏡を取って見せてやれ」

 カイザーは棚の上に置かれていた鏡を取って、床に横たわるカラヴィアの前にトン、と置いた。
 それはトワに傷を癒されたイドラが、自分の顔を眺めていた卓上鏡だった。

「カラヴィア、鏡を見ろ」

 床に転げまわっていたカラヴィアは、自分の目の前に置かれた鏡に気付き、顔からそっと手を放して見た。
 そこに映っていたのは、醜く焼けただれ、爪でねじるように傷つけられた、到底自分とは思えない顔だった。
 その爪の傷は3本の筋となって赤くただれていた。
 もしここにザグレムを知る者がいたら、捨てられた愛人だと思うに違いなかった。

「いやぁぁぁーーー!!」

 カラヴィアの絶望的な悲鳴が部屋中に響き渡った。

「うう…痛い、熱い…!魔王様ぁひどい…い…い…」
「言っておくが変身スキルを使用してもその火傷と傷は消えんぞ」

 魔王の残酷な行為に、カラヴィアは泣き続けている。

「我を裏切った罪を、その程度で許してやるのだ。感謝しろ」

 カラヴィアは両手で顔を押えながら泣きわめいていた。
 顔が痛い、熱いだの、こんな顔じゃもう誰も相手にしてくれない、だのと云いながら。
 それでもカラヴィアは魔王への恨みや憎しみを口にすることはなかった。

「泣いているヒマがあるならトワを探すんだな。その顔を治せるのはトワだけだ。探し出して、許しを請え。そうすればトワは治してくれるだろう」

 魔王は冷たく云った。
 するとカラヴィアは顔を押えたままその言葉に反応した。

「それ、本当…?魔王様。あの娘が、治せるって…?」

 カラヴィアは弱弱しい声で尋ねた。

「嘘は云わん。それがおまえに対するせめてもの情けだ。だが今度トワに危害を加えようとしたら、今度は全身を焼いてやる」
「ひぃぃ!これ以上はやめて!お願い!もうしませんから!お願いですぅ!」

 カラヴィアは両手で顔を覆いながら、魔王に泣いて懇願した。

「これをくれてやる」

 魔王は表情を変えず、カラヴィアの前に、仮面を投げた。
 それは以前、前線基地でトワに付けさせた白い仮面だった。

「うぅぅ…」

 呻きながらカラヴィアは白い仮面を拾ってふらふらと立ち上がった。
 壁にかかっていたグレーのローブを取って羽織ると、そのままポータル・マシンに向かって歩き出した。

「魔王様、待ってて…すぐ、奇麗なワタシに戻るから…」

 カラヴィアは、ブツブツ呟きながら勝手にマシンの台座に乗って転送されて行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...