聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第五章

マサラからの知らせ

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 人間の国には、魔族の入国を制限している有名都市が3つある。
 1つは大司教公国の首都シリウスラント。
 2つめはグリンブル王国の高級温泉別荘地ラエイラ。
 そして3つ目が、ペルケレ共和国の歓楽都市ゴラクドールである。

 ペルケレの首都セウレキアから50キロほど離れたこの都市は、ギャンブルの街である。
 ただし、他の2つの都市と違って、人間に限定されるのは客として入国する場合のみであり、働いているスタッフや治安維持を担うボディガード役には魔族も混じっている。
 人間に限って入国を認めるのは、ギャンブルを行う上での安全上の理由からである。
 ほとんどの人間は魔力を持たず、また不正を行えるようなスキルを所持していないことが多いため、客は人間に限定されているのだ。
 スタッフに魔族がいるのは万が一、客がスキルを使って不正を行った場合の対処のためでもある。
 この都市にもラエイラ同様、アザドーが運営に協力している。

 と云いつつも、実はスタッフに魔族がいるのは、イカサマスキルを使って客に勝たせ過ぎないように調整するのが目的なのだ。
 ゴラクドールにはカジノを併設したホテルが多く建っており、ギャンブル目当てにやってきた客相手に様々なショーが開催されていたり、多くの飲食店や女性が接客するいかがわしい店なども多く営業している。一大歓楽街なのだ。
 世界中から観光客が集まる、ラエイラと人気を二分する都市であるが、そのイメージは真逆だ。
 ラエイラを表とするなら、こちらは完全に裏である。
 賭けに負けてくだをまく者同士の喧嘩や暴力沙汰などは日常茶飯事で、女性を巡っての決闘だの借金のカタに子供を売る親だの、奴隷の売買だのと、人間のあらゆる欲望が渦巻いている場所なのだ。
 ゴラクドールには、毎日巨額の金が落とされるため、裏ではその莫大な利益をめぐって、様々な人間たちが暗躍しているのである。

 その街の中心にある巨大なカジノ・ホテル『ラッキー・クイーン』のカジノテーブルで、華麗な手さばきでカードを切るディーラーがいた。
 彼の前に座る女性客たちは、その手元など見ておらず、ひたすらディーラーの美しすぎる顔に見とれていた。
 女性たちは大量のチップを賭ける。
 もはや勝っただの負けただの、大騒ぎはしていない。
 彼女らはここの常連客で、ただ賭けることを楽しむ富裕層なのだ。
 勝負が終わると、彼女らはディーラーの男性にアプローチをかけてくる。
 だが、彼は魔族なので、その誘いを丁寧に断っていた。
 彼の胸ポケットにはチップで貰った金貨だの宝石だのがいくつも入っている。
 休憩のために台から離れた彼を呼び止める者がいた。

「やあ、ユリウス。相変わらずいい腕だね」

 そのディーラーはユリウスであった。
 彼は情報収集のためにアザドー経由でここに潜入していたのだが、<光速行動>スキルのおかげで、あらゆるイカサマが可能な腕を見込まれて、カジノでディーラーを任されることになったのだ。

「マサラ…。休暇ですか?」

 ユリウスを呼び止めたのは、グリンブル王都の治安維持機構本部の責任者マサラだった。

「生憎と私は商売人であって、ギャンブルはやらないんだ。少し、話をしたいのだが、時間を貰えないか?」
「向こうのバーカウンターにクシテフォンがいます。そこで伺いましょう」

 ユリウスと同じくこのホテルに潜入していたクシテフォンは、バーテンダー兼歌い手としてホテルを転々としていた。
 彼は観光客が多いストリートでもその歌声を披露していて、一部の熱狂的なファンを獲得していた。

 ユリウスが歩くたびに常連客や女性客らから声がかかる。
 それらをうまくあしらいながら、ホテルの中にあるバーにやってきた。
 まだ昼間ということもあって、店内には人がほとんどいない。

 ユリウスが声を掛けると、クシテフォンはカウンターの席に2人を案内した。
 彼が「何か飲むか?」と聞くと、ユリウスは勤務中だからお酒はいらない、と答えた。

「大変な人気だね」
「イカサマと忖度の賜物ですよ」

 ユリウスは素っ気なく答える。

「君たち騎士団は各都市へ情報収集のために潜入しているんだったね」
「ええ。皆、主要な都市へ散っています」
「魔王様はカイザー様とアスタリスを伴って空から探し続けており、前線基地からもサレオス様が招聘されたと聞いている」

 クシテフォンはそう云いながら、2人に氷の入った果実のソーダ水を提供した。

 その時、店の入口を覗き込むスーツ姿の魔族の姿があった。
 クシテフォンがその魔族に合図をすると、魔族は出て行った。

「この国もずいぶんセキュリティが厳しくなったね」
「過去に奴隷の反乱があったそうです。その奴隷の中に魔族が混じっていて、街を半壊させて逃亡したと聞きました。それ以来、警備には魔族が用いられるようになったそうですよ」
「魔族には魔族を、ってことか。ここでは魔族の奴隷は扱っていないんだろ?」
「アザドーが許しませんよ」
「だろうね」

 マサラはソーダ水の入った器を手にしたまま、隣に座るユリウスにしばし見とれていた。

「で、話とは?」

 ユリウスの声で我に帰ったマサラは、ようやく本題を語り出した。

「つい先日商売がらみでセウレキアに行ってきたんだが、君たちはあそこの闘技場に行ったことがあるかい?」
「いえ。情報収集には人と情報の集まるこちらの方が良いだろうとのことでしたので。セウレキアには行ったことがありません」

 クシテフォンもそれに同意した。

「大きな闘技場があるのでしたね。こちらでもその賭けについては話題になっていますよ。来月あたり、人気の闘士がこの都市へ来て模擬戦を行うらしく、そのチケットの争奪戦が今大変なことになっているとか」
「そう。人気の闘士にはパトロンがついて、大変な商売になると聞いたよ。私もそのプロモーターになろうかと考えたこともあるくらいだ」
「その闘技場がどうかしたんですか?」
「商談相手に、今一番人気の闘士チームが出場するという試合に連れて行ってもらったんだ。噂通りすごく強くてね。見ごたえもあったよ。だけど、私は別のことが気になってね」
「闘士…ですか」
「そのチームにいた女の子がね、遠目にだけど知っている人に見えたんだ」
「…それは、まさか…」
「そう、トワ様に、とてもよく似ていたんだ。ただ、髪色が違うんで最初は全く気付かなかったんだけど」

 そこへクシテフォンが口を挟んだ。

「今、チームと言ったな?」
「ああ、チーム・ゼフォンといって、先月デビューしたばかりなんだが、飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち進んで、ついに上級トーナメントの決勝にまで進んだっていう魔族のチームだ」
「そういえば、客から聞いたことがある。魔族のチームが決勝まで進むのは非常に稀だそうだな」

 クシテフォンが云う。

「稀と言うか、調べてみたけど今まで上級トーナメントを勝ち上がった魔族のチームはいないよ。人間のチームと違って回復できないからね」
「…なるほど。それであなたはそれがトワ様だと確信したわけですね」
「回復できない魔族が人間のチーム相手に勝利するなんて、あの方の存在なしでは考えられないだろう?まあ、あなた方のような強い魔族には回復なんか必要ないだろうけど」
「確かめてみる必要があるな」

 クシテフォンの言葉にユリウスは同意した。

「君たちがここにいることを聞いて、寄ってみたわけだけど、お役に立てたかな?」
「ええ、わざわざ良い情報をありがとうございます。さっそく団長に伝えます」
「何なら私のスレイプニールを貸してあげてもいいよ。ひとつ貸しということで、次の繁殖期にでも返してもらえると嬉しいね」
「おい、マサラ。図々しいにも程があるぞ」

 クシテフォンがひと睨みして、マサラを脅すように云った。

「冗談だよ、冗談」と慌ててマサラは訂正した。

 だがユリウスは「考えておきますよ」と云い、席を立って行ってしまった。

「今の聞いたか?」

 マサラは喜びながらクシテフォンを振り返った。

「…あんた、勇気があるな…」

 クシテフォンは驚きを持ってマサラを見た。
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