聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

文字の大きさ
154 / 246
第七章

記憶の回路

しおりを挟む
「…トワ」

「うん…?」
「おお、ようやく起きたなトワ」

 目の前に小さな女の子の顔があった。

「あ…おはよう」
「おはよう。トワはお寝坊さんなのじゃ」

 朝、私は狩猟小屋でサラ・リアーヌ皇女に揺り起こされて目を覚ました。
 サラは元気に小屋の扉を開けた。
 明るい光が差し込んできて、私は思わず目を細めた。

 う~ん、何か夢を見ていた気がする…。
 あれ…?夕べ私どうしたんだっけ…?
 確か、夜に魔王と散歩に出かけて行って…。

 ふいに魔王のドアップの顔を思い出して、胸がドキドキし始めた。
 あ、あれ…?
 そっと自分の唇に触れてみた。
 キス…したよね?あれ?その後は…?
 それとも夕べのあれは夢?
 夢だとしたら随分と欲求不満が溜まってるんだわ、私…。

 私は起き上がろうとして、ネックレスがないことに気付いた。
 どこかに置き忘れたのかと思って、小屋の中を探してみたけど見つけられなかった。
 サラに訊いてみたけど、知らないという。もしかして魔王が持って行ったのかもしれない。
 小屋の外に出ると、既に男性陣は朝の支度を着々と整えていた。
 皇女の云う通り、私が一番寝坊してたみたい。
 皆がテキパキ働いてるのに1人だけ寝てたとか、女子力サイテーだわ…。
 ジュスターが瓶の中に水を貯めていて、そこから手桶を使って調理用の桶に水を移し替えているのを見て、私も手伝うと申し出た。

「トワ様、こんなことは我々に任せて、あちらでお休みなさっていてください」

 と、ジュスターに追い払われた。
 食事の支度をするユリウスとウルクにも手伝うことがないかと聞いたけど、やっぱり「座っててください」と云われた。

 暗に役立たずって云われているみたいで地味に凹む。
 ノーマンは薪を小屋から出していて、サラはその小屋の扉を押さえてあげている。
 あんな小さな子ですらちゃんとお手伝いしてるっていうのに…。
 私って、やっぱ役立たずだな。
 せめて邪魔にならないようにしよう。
 手持無沙汰でうろうろしていた私は、魔王の姿が見えないことに気付いた。
 昨夜のことも気になったし、彼を探して林の中を歩いて行くと、散歩をしている黒衣の人物の姿を見つけた。
 彼はすぐに私に気付いて、声を掛けてきた。

「起きたのか」
「あ、うん。おはよう」
「…よく眠れたようだな」
「え?ああ、うん」

 なぜか魔王にじっと見つめられている。なんだか恥ずかしいな…。

「昨夜のことは、覚えているか?」
「えっ?」

 夕べのことが、フラッシュバックする。

「あ!あれは…ゆ、夢じゃなかった…?」

 途端に顔から火が出そうになった。

「夢ではない」

 魔王はぶすっとして呟いた。

「大事なところで眠ってしまいおって」
「え?!ええーっ?!私、寝ちゃったの…?」
「やはり覚えておらぬか」

 うわ、最悪なパターン。
 キスの途中で寝ちゃうとか、ないわ~!
 魔王が溜息をつくのも無理はないわよね…。

「ごめんなさい…」

 魔王はフッと笑って、私の頭にポンと手を乗せた。

「まあいい。次は寝るなよ」

 もう~、サイアクだわ。
 …ん?次って…?
 魔王がニヤリと笑うのを見て、私は顔が熱くなるのを感じた。

「ここで何してたの?」
「魔力の流れを見ていた。やはり人間の国では流れが悪い。こちら側にも魔族の国を作る必要がある」
「魔族の国を作るの?」
「我の魔力の源は魔族たちの魔力だ。魔族の国では土地ごと魔力が供給されるのだが、ここではそうはいかん。国境を越えると魔力の流れが阻害されるようだ。この国で我が魔力を思い存分行使するためには、もっと多くの魔族の魔力が必要なのだ」
「皆の力をオラに分けてくれー!ってこと?」
「オラ?」
「あー、ううん、何でもない。でもなんか、魔王っていう存在がわかった気がするわ」
「そうか」

 魔王はちょっと嬉しそうに笑った。

「ねえ、ゼルくん」

 私は何気なくそう呼び掛けた。

「ゼルくん…?」

 すると魔王は顔を近づけてきて、私をじっと見た。
 …だから、近いって。
 心臓に悪いのよ。

「な、何よ…?」
「おまえ、記憶が戻ったのか?」
「えっ?」
「記憶を失う前、おまえは我をそう呼んでいた」
「あ…あれ?」

 魔王は私の腰を持って抱き上げた。
 足がつかない程に体を持ち上げられた私は、彼の顔を見下ろす形になって戸惑っていた。

「ちょ、ちょっと、何?」
「我と初めて会ったのは、どこだったか覚えているか?」
「どこって…前線基地でしょ?」
「そうだ。そこで風呂に入ったことは?」
「あの屋上のプールのこと?」

 魔王は私を抱きかかえたまま、彼にしては珍しく、声を出して笑った。

「思い出したのだな!」
「あ…!」

 魔王に云われるまで、気が付かなかった。

「魔王城でのことは覚えているか?」
「…うん。扇子、くれたわよね」

 私はスッと手の平に扇子を出した。そうだ、こうやって出してた。そして引っ込め方も思い出した。
 …記憶って、そのものに触れると思い出すんだわ。
 今だって、魔王の顔を見てフッと思い出したんだもの。

「<運命操作>を使ったのか?」
「えっ?…確かに<運命操作>で記憶が戻らないかな~、とは思ったけど…でも、使った覚えはないんだよね…。あのスキルって、思うだけで叶ったりするものなの?」
「さてな。我は持ったことがないからわからぬが、スキルの中には受動的パッシブに発動するものもあるから一概に否定はできん」
「…そういえば、目覚める前、何か夢を見ていた気もするんだけど…思い出せない…」
「目が覚めたら記憶が戻っていたというのか?」
「うん。でもね、自覚がないわけよ。いつの間にか記憶が戻ってて…。あまりにも自然すぎて、今言われるまで気が付いてなかったもの」
「ふむ。なるほど、記憶の回路が繋がったのだな」
「回路?」
「記憶の通り道のことだ」
「…?」

 魔王はしばらく黙ったまま、私を見つめていた。
 彼は、私の記憶は無くなったわけじゃなくて、それを引き出すことができなくなっていただけなのだろうと云った。つまり封印されていたってことらしい。
 なんとなく理屈はわかったけど、私ときたら、記憶が戻ったことに、一向に自覚が持てないのよね。

「うーん、なんか納得できない…」
「何がだ?」
「だってさ、記憶を取り戻すって、何かもっとこう劇的な感じでさ、『すべて思い出したわ!』って感動するかと思ってたのに…。なんかグダグダじゃん…」

 魔王はククッと笑いながら、私を地面に下ろした。

「そもそも記憶というものは、その都度頭の中から引き出すものなのだ。一度にすべて思い出すことなどできん」
「そういうものなの?」
「ああ。おそらくは、これから色々なことを少しずつ思い出していくことになる」
 
 確かに、ちょっと昔のこととかでも、普通に忘れてたりするもんね。それと同じようにその都度思い出していくのかな。

「2年の間、おまえは眠っていたと言っていたな。それはおまえの時間が止まっていたということになる。記憶とは時間の認識だ。おまえは自分自身の時間を止めることによって、その間の記憶をなかったことにしたのだ」
「…それ、どういうこと?まるで私自身がわざと記憶を失くしたみたいじゃない」
「その通りだ。おまえは自分で記憶の回路を遮断して、思い出せないように封印していたのだ」
「そんなわけないでしょ!私があなたやみんなのこと忘れたいなんて思うはずが…」

 そこまで云って、私は言葉に詰まった。
 よく考えてみると、魔王と出会ったあたりからスッポリ記憶が抜け落ちていたことに気付いた。
 まるで、を忘れたかったみたいに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~

千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...