聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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第九章

見知らぬ他人

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 梨香子が私をからかっているんだと思ってた。
 私には婚約者どころか、付き合ってる人すらいないのは知ってるはずなのに、何云ってんだ?

 ブツブツと文句を云いつつ、私は部屋に戻った。
 ベッドに上がろうとした時、ドアにノックの音があった。誰だろ?

「はーい?」

 返事をしたと同時に、ドアがスライドして開いた。
 入口の目隠しに置いてある衝立を避けて入って来たのは、芸能人も顔負けの、ものすごいイケメンだった。

 え?
 が、がいこくじん…!?
 …誰?
 こんな2.5次元的イケメンに知り合いなんていないはずよ。
 しかも全然知らない人だし。

 黒髪に、整った顔立ち。ハーフなのか金色に光る瞳。
 黒っぽいコートにレザーパンツ、靴まで全身真っ黒なコーデ。
 色白で背も高くてスタイルも抜群に良い。
 まるで雑誌からそのまま抜け出たモデルみたいだ。

 その男性は、ずかずかと入って来て、私の前に立った。

「あ、あの…?何ですか…?っていうか、誰?」
「トワ、か?」
「え…ええ、そうですけど」
「…そうか、それがこちらの世界でのおまえの依り代か」
「…は?」

 彼は私の全身を舐めるように見た。
 …私を知っているみたいだけど、私には全然見覚えがない。
 こんな美形、一回見たら絶対忘れないはずなんだけどなあ。
 っていうか、なんで呼び捨て!?
 もしかして、梨香子が云ってた婚約者ってこの人?

「ふむ、地味だが悪くはない。少し背が小さくなったか」

 おい、地味って云ったよ。
 イケメンかもしれないけど、失礼なヤツだ。 
 勝手に入って来て、人を値踏みするみたいに…。
 案外性格が悪いのか?見た目には騙されないぞ。

「私、あなたのこと知らないんだけど。あなた、誰なんですか?何の用でここにきたんです?」

 私が彼を睨みつけて云うと、彼はずい、と私の前にその整った顔を突き出してきた。

「…覚えていないのか?」

 うわお!
 目の前に超絶イケメンの顔が!
 ち、近い、近い…!

「お、覚えてないも何も、今初めて会ったでしょ?」
「ふむ」
「あの、人違いじゃないんですか?」
「トワ。我はおまえに会いに来たのだ」

 名前を呼ばれて、ドキッとした。

「あの、もしかして、どこかで会ってます…?」
「無理に思い出す必要はない。おまえの神のスキルはここでは使えぬからな」

 神?
 スキル?
 何云っちゃってんの?
 しかも自分のこと我とか云っちゃってるし。
 あ!
 もしかして昔やってたネトゲの知り合いかな?
 でも、リアルのことはゲーム仲間には一切教えてないから、こんなとこまで来れるはずない。
 この人、一体誰なの?ってか、急に来て婚約者とか云うなんて、ストーカーっぽくて怖いんだけど。

「あの、あなたの名前は?」
「ゼルニウス」
「ゼル…ニウス…?」

 聞いたことのある名前のような気もする。
 つか、外国人のくせに日本語うまいな、この人。
 ハーフかと思ったけど、ガチの外国人か。
 それにしても、何かゲームのキャラっぽい名前だな…。
 やっぱ昔やってたネトゲの知り合いで、ハンドルネームだったり?

「えーと、何かのゲームで一緒でしたっけ?」
「ゲーム?」
「あれ?違う?じゃあ、一体どこで会ったのかな…」

 彼は私の質問には答えず、私の足に巻かれた包帯を見た。

「怪我をしているようだが、もう良いのか?」
「あ、はい。包帯は湿布してるから巻いてるだけなので。捻挫も腫れが引いてきたし、もう全然平気ですよ」
「そうか」

 彼は少し微笑んだ。
 やだ、普通に話せんじゃん。
 こうしてみると、やっぱカッコイイ人だな…。

「あのー…、本当に人違いじゃない?」
「間違ってはいない」
「で、でも…私、本当にあなたのこと知らないんだけど…」
「記憶が無くても構わぬ。我はおまえと共にいるためにここへやって来たのだ」

 彼は私の前に跪いて、私の右手を取ってその甲にキスした。
 ひゃー!
 姫に王子がするヤツじゃん!!
 昔の映画とかアニメとかで見るヤツ!!
 現実にこんなことする人、いるんだ…?

 もしかして梨香子の仕掛けたドッキリだったりして。
 扉の向こうで皆が笑って見てるなんてオチじゃない?
 困ったぞ…。
 どこまで本気なんだ?

 そんな私の葛藤をよそに、彼はずっと手を握ったまま、私を見上げている。
 …まさか、結婚詐欺とか…?
 外国人に結婚しようって騙されてお金取られるとか、テレビでみたことあるぞ…。

「あの、ゼルニウスさん?あなた、一体誰なんです?」
「おまえのパートナーだ」
「パートナーって、どういうことですか?」
「この世界の言葉でわかりやすく言えば、婚約者だ」
「こっ…!こんやくしゃ…?」

 予期せぬワードが飛び出した。
 さっき梨香子が云っていたことと一致する。
 私は驚き過ぎてあんぐりと口を開いた。
 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

「ホントに…?」

 彼はにこやかに笑って頷いた。

「我は魔王。そしておまえはその魔王の婚約者だ」
「は?」

 ほえ?
 自分で魔王って名乗ったわよ…。
 案外変な人だった?
 その顔を見ている限り、そんなヤバそうな人には見えないんだけどな…。
 彼は私の手を握ったまま、離してくれない。

「あの、手を…離してくれませんか?」

 私がそう云うと、彼はそっと手を離した。
 それでも、私から目を逸らそうとはしなかった。
 彼の眼差しを受け止めていると、現実感を失いそうだ。だってイケメンすぎて無理…!

 それにしてもわからないのは、この人がどうやって私を訪ねてここへ来たかってこと。この人がもしゲームで知り合った人だとしても、私の勤務先まで知ることはできないはずだ。
 それらのことを彼に問い詰めると、

「おまえのことならなんでもわかる」

 と、ゼルニウスさんは笑うだけだった。
 そうしてると、後輩看護師が部屋の外から声を掛けた。
 それを合図に彼は立ち上がった。

「では、また来る」

 そう云って彼は部屋から出て行った。
 彼と入れ替わるように、梨香子と後輩ナースたちがなだれ込んできた。

「はーっ!緊張したぁ~!一体何なのよ…!」
「ちょっとちょっと!誰よ、今のイケメン!婚約者ってマジ?」
「あの人モデルなんですか?」
「メチャメチャかっこよくないですかー?」
「え~!いいなあ~!先輩羨ましい!」

 何処で知り合ったかとか、何歳なんだとか、いろいろ聞いてくるけど、そんなの私だって知りたいわよ。
 まさか魔王だなんて云うわけにもいかず、急に頭が痛くなった、とかなんとか云って出て行ってもらった。

 やっと一人になって、一息ついた。さすがに少し疲れちゃったみたい。主に気疲れ…かも。
 少しボーっとしてスマホをいじっていたら、いつの間にか夕食の時間になっていた。
 夕食も、特別室のせいか、いつもよりも豪華な気がするんだよね。
 ほんとにこれ、病院食って?デザートにティラミスはやりすぎじゃない?

 食事を終えてから、少し整理してみようと思った。
 ドッキリじゃないってことは…あのイケメンは本当に私の婚約者?
 でも…信じられない。
 彼氏飛び越して婚約者って…。夢かよ!
 婚約ってことは、結婚するってことでしょ?お付き合い期間はどこいった?

 ハッ…!!
 今更ながら、大変なことに、気付いてしまった。

 私、すっぴんじゃん!!
 やだやだ、超ブスい素顔見られた!!
 せめてマスクとかしとけば良かった!
 髪もボサボサだし!
 もう死にたい!最悪~~~!!
 夢だろうが変な人だろうが、あんなイケメンにすっぴん晒しちゃったってことの方が大問題だよ!!
 う~~!でも病室でばっちりメイクしてたら違和感ハンパないしなあ…。
 仕方ないか…素材で勝負できない自分が嘆かわしい。

 そういえばあの人、ゼルニウス、って云ってたな。
 私はその名前をスマホで検索してみた。
 うーん、出てこないな。ゲームキャラの名でもないみたい。
 ってことは本名なの…?

「ゼルニウス…」

 私がそう口走った瞬間、見ていたスマホの画面に黒い影が走った。

「んっ?」

 私はふと、気配を感じて部屋の中に視線を移した。
 部屋の中央に、黒い影がゆらりと現れた。

「わぁっ!!」

 私は思わず声を上げた。
 いつの間にか、黒いマント姿の人物がそこに立っていたからだ。

「だ、誰…?」

 漆黒の影、といった感じの人がこちらを向いた。
 黒いマントの人は頭からフードを被っていて顔がわからない。

「やっと見つけた…」

 その黒いマントの人はゆっくりと私の座っているベッドの方に近寄ってくる。

「ひっ…!こ、来ないで!」

 私はぎゅっと目を瞑った。
 怖い!

 ポン。

 え?

 ポンポン。

 え?え?
 なんか、頭を手でポンポンされてる?
 私はそーっと目を開けた。
 その黒い人影は私の目の前にいて、私の頭をポンポンしている。

「ここでは実体化しているのか」
「…え」

 どういうわけか黒いノイズがかかってその人の顔が見えない。
 何、これ…。
 まるでそこだけフィルターがかかってるみたいに、ボヤけてわからない。
 声も、雑音が多くてあんまりクリアに聞こえない。

「あなた、誰…?」
「チッ、これ以上は気付かれるか…」

 でも触ったということは、ユーレイじゃないわけで。
 ってことは今度こそ変質者?
 その顔の見えない人は、私の耳元で囁いた。

「おまえの本当の望みは何か、思い出せ」

 その黒い人影は、私の目の前でフッと消えた。

「え?え?」

 消えた!?
 手品…じゃないわよね?
 私は急に怖くなってベッドに潜った。
 何だったんだろ…?
 私の、本当の望み…?
 何を云ってるの?
 婚約者だの、変なマントの人だのと、次から次へと…。
 布団の中でいろいろ考えていたらなんだか眠くなってきた。

 ま、いいや。
 もろもろのことは明日考えよう。
 もしかしたら全部夢だったっていうオチかもしれないし…。
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