聖魔の乙女は運命を転がす~落ちこぼれ回復士の私が救世主になって魔王に愛される理由~

つかさ

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エピローグ

ハッピーエンドは続く

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 魔王の転移により、広場の噴水の真ん中のステージ上に私たちが現れると、広場の柱に取り付けられた鐘が一斉に鳴り響いた。
 それを合図に、ステージ脇で魔王府楽団の演奏が始まった。
 楽団の指揮を執るのはクシテフォンだ。
 一緒に転移してきたサラとノーマンはユリウスの案内でステージ後方に設けられた来賓席に向かうと、そこにいた他の来賓たちは一斉に立ち上がって拍手で私たちを迎えてくれた。
 私と魔王の背後には、クシテフォンを除く聖魔騎士団員が集まって来ていた。
 魔王は重力魔法で私たちが立っているステージを浮かせ、広場の奥の方にいる人々に見える高さにまで上昇させた。

 すると広場は大歓声に包まれた。
 私は圧倒されてしまった。
 ステージが高く浮き上がったことにも驚いたけど、目の前に広がる人の多さに。
 広場の奥の方まで、人で埋まっている。
 足がすくんでいる私の背に、さりげなく魔王が腕を回して支えてくれた。
 遠くの人々にまで一通り手を振り、愛想を振りまくと、ステージは元の位置に戻された。

 ステージの脇にはマルティスとロアの姿があった。
 彼らはこのイベントの進行を任されていたのだ。
 ロアは私たちを見て、感嘆の声を上げた。

「わあ…!トワ様、とても綺麗ですね!」
「ああ、そうだな。別人みたいだ」

 マルティスにしては珍しく素直に褒めた。彼はステージ上の魔王の声を増幅して広場中に響かせる役目も負っていたのだが、この大観衆を目にして緊張していると云っていた。

「それにしても、エンゲージ式なんて素敵なアイデアですね。これは、今後流行りそうですよ」
「ああ、魔族にはそんな概念すら存在しなかったからな。これは良い商売の匂いがするぜ」
「またそんなことを…。今日くらい商売抜きでお祝いしましょうよ」
「俺なりに緊張をほぐそうとしてんだよ。さて、行くか」

 少し緊張気味なマルティスがステージの前に出て来て、観衆の前で叫んだ。

「これより、魔王様と聖魔様のエンゲージ式を執り行う!」

 楽団のファンファーレが鳴り、観衆から大声援が巻き起こった。
 魔王ははじめにゴラクドールの自治の成果を報告した後、私とエンゲージし、パートナーとなったことを百万の大観衆の前で宣言した。
 こういう時はさすがは魔王だなあと尊敬する。
 こんな大勢の前でもすごく堂々としてるんだもの。

「トワ、手を振ってやれ」
「う、うん」

 魔王に云われて私が観衆に手を振ると、ひときわ大きな歓声が上がった。
 そしてその声は「聖魔様、バンザイ!」との合唱へと変わっていった。
 観衆の中には、かつてゴラクドールで暴動が起こった時、負傷して私に回復してもらった者も多くいて、彼らはそれを周囲の者たちに自慢気に語っていたという。

 そこへユリウスとウルクが高さ10メートル以上はあろうかという超特大ウェディングケーキをステージ上に運び込んできた。
 圧倒的な存在感のウェディングケーキを目の前にして、さすがに私も驚いた。
 私に内緒で最高位料理人ゴッドキュイジーヌの2人が徹夜で作ってくれたという。よくここまで運んでこれたなあ、と感心した。
 ユリウスとウルクは、私たちのために心を込めて作りましたと、眩しいほどの笑顔を見せた。
 しかも、このウェディングケーキ、なんと私の大好物のショートケーキで作られている。ソレリーがふんだんに使われているのは、ロアがナラチフから取り寄せたものだった。
 ケーキは式典の後、来賓客らに切り分けられて配られるらしい。私の分も取っておいてくれるというので後で食べるのが楽しみだ。

 感動のため息をつきながらケーキを見上げていた私を、魔王がそっと抱き寄せた。
 彼の手には大きなケーキナイフが握られていた。
 こ、これは、お約束のケーキカット…!

「これはパートナーになって、初めて2人で1つのことを共にする、という意味なのだそうだな」
「うん、式のメインイベントだね」

 こんな細かいところまでアルシエルが教えていたんだな。
 そのアルシエルはステージの下で警備をしながらこっちに手を振っている。
 後でお礼を云っておかなくちゃね。

 2人でケーキにナイフを入れると、再びファンファーレが鳴って、万来の拍手が沸き起こった。

 本当に夢みたい…。
 これ、私の結婚式なんだ。

 白い衣装を身に着けたロキとバルデルが大きな籠を片手に、ステージに駆け上がってきた。

「魔王様、トワ様、おめでとうございます!」

 2人はそう云いながら、籠から私と魔王の頭上に白い花びらをまき散らした。
 フラワーシャワーっていう結婚式でよく見るやつだ。
 その花びらは、ネーヴェが起こした風で舞い上がり、観客たちの頭上にまで降り注いだ。

 来賓の席にいた客たちも立ち上がって「おめでとうございます」と口々に祝福の言葉を口にした。
 優星たちも、アリーやイドラも拍手でもって祝福してくれている。
 サラも降り注ぐ花吹雪に見入ってはしゃいでいた。
 エリアナが近づいて来て、魔王に会釈をして、私に話しかけてきた。

「トワ、すっごく綺麗よ!あたし、感動しちゃった。こっちでこんな素敵な結婚式が見れるなんて思わなかったわ」
「ありがとう。次はあなたの番ね、エリアナ」

 私は持っていた花束ブーケをエリアナに渡した。
 彼女とはいろいろあったけど、今も良い友人でいる。
 急に花束を渡されて驚いていたけど、エリアナは嬉しそうにそれを受け取って、そっと将の方を見た。
 将は頭を掻きながら「俺だってちゃんと考えてるよ」と照れながら云った。
 彼も少しは大人になったみたい。昔はあんなにトゲトゲしてたのにね。
 そう遠くない未来に、エリアナのウェディングドレス姿が見られそうだ。

 私自身も、こんなに素敵な結婚式ができるなんて思ってもみなかった。
 皆の祝福に、感極まって思わず涙ぐんだ。

「どうした?」

 魔王が心配して私の顔を覗き込んだ。

「ううん、嬉しくって、泣けてきた…」

 彼は胸ポケットに入っていた白いハンカチを差し出しながら、優しく微笑んだ。
 今更ながら、この超絶美形と結婚式してるんだと実感がわいてきて、じわじわと嬉しさがこみあげてきた。
 ヤバイよ…こんなの嬉しすぎる。
 私はハンカチを受け取って涙を拭うと、彼を見上げた。

「ゼルくん、ありがとう…。私、すごく幸せだよ」
「フッ、これからもっと幸せにしてやる。だが、おまえのそんな顔を見られるのなら、何度でもやってやろうか?」
「それじゃありがたみがなくなっちゃうよ」

 そうやって彼と微笑みあっていると、私の後ろに控えていたジュスターがこそっと伝えてきた。

「トワ様、カイザー様が『我慢の限界だ』と申しております」

 今日は魔王も私も純白の衣装だから、黒いネックレスは似合わないと、ジュスターに預けておいたのだ。
 それでカイザーはちょっと拗ねていたみたいだった。

「カイザー、出てきていいわよ。あんたもお祝いしてくれるんでしょ?」
『もちろんだ、トワ』

 カイザーはジュスターのネックレスから飛び出して、ステージ上空に巨大なドラゴンの姿を現した。
 それを見た来賓客や広場の観衆からは、悲鳴に近い歓声が上がった。
 カイザーは私たちの頭上に留まりながら咆哮した。

『我はこの地を守護するカイザードラゴン。我が魔王と聖魔トワを称えよ!者ども、祝え!祝え!祝え!』

 カイザーの声に大観衆は熱狂した。
 それは自分たちを守護してくれるドラゴンへの畏怖と憧憬、そしてそれを使役する魔王と私を祝着する声だった。
 その大声援に、私は気が遠くなりそうなほどの幸福感に包まれた。

 その高揚感の中、私はふと思い出した。
 久しぶりに私の夢にあの女の人が現れた時のことを。
 それは、魔王と私のエンゲージ式が決まった日の夜のことだった。

 私によく似た銀色の髪をしたあの人は、私に『ありがとう』と云った。
 なぜかわからないけど、私にはわかった。
 あの人がこの世界を去るのだということが。
 そして、

『さようなら、私の半身あなた…』

 そう云って、消えた。

 翌日、魔王府の最上階の祭壇に置かれていたあの聖櫃アークが忽然と消えていた。
 魔王府中が大騒ぎになって、総出で探したけど見つからなかった。
 あの人は聖櫃を箱舟にして、愛する人とこの世界から旅立ったのかもしれないと思った。

 それ以来、夢の中にあの女の人が現れることは二度となくなった。
 私にこの不老不死の体を託して、あの人は最後にこう囁いた。

 ―あなたは、あなたの運命を生きて。
 どうか、幸せに。

 目を閉じて、その言葉を噛み締めた。

 今、私の耳に届くのは、祝福の声と拍手。そして、魔王の優しく甘い囁き。
 それらに包まれて私は、幸せを噛みしめていた。
 これが夢なら、どうか醒めないで…。

「トワ」

 名を呼ばれて目を開けると、私の好きな人が目の前にいた。
 これは夢じゃない。

「ずっと聞こうと思っていたのだが」
「何?」
「おまえの、トワという名には、何か意味があるのか?」
「名前の意味?…えっとね、ずっと続くっていう意味よ。永久とか永遠とかいうでしょ?時も、未来も超えて、ずーっと幸せが続いていって欲しいっていう願いが込められてるんだって。おばあちゃんがつけてくれたんだ」
「なるほど…、そういうことか」
「急に何?」
「いや、我のパートナーにふさわしい良い名だ」
「フフッ。自分でも結構気に入ってるんだ。でも、名前だけじゃなくて、あなたにふさわしい人になれるよう、頑張らなきゃね」
「おまえはそのままで良い。今のまま、我とずっと共にいてくれ」
「うん、もちろん…」

 大勢の人が見ているにも関わらず、彼は顔を寄せてきて、私の唇にキスした。
 その甘い感触に夢中になって、やがてエリアナや将の冷やかす声も、人々の歓声も聞こえなくなった。
 私の耳には、彼の声だけが聞こえていた。
 
「おまえだけに永遠の愛を誓おう」

 私も、誓うわ。
 ずっと…あなたと一緒にいる。
 何があっても、永遠に。
 
 きっと、これからもいろいろなことが起こるだろう。
 ハッピーエンドを迎えても、私の物語はこれからも続いていく。
 魔王という伴侶パートナーと共に。


(完)
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