短編集

三日月

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人探し

2話

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「父は死んだ」



医師はそういっていた。
私の中では怒り、喜び、悲しさ、嬉しさなどの様々な感情が渦巻いていた。医師はこう言葉を溢した。
「彼は癌だった」と。
それを聞いた私は驚きを隠せなかった。その後医師は席を外すと、ある手紙を持ってきた。父が最後に書いたものだと言ってわたしてくれた。医師は「『来る確率はとてつもなく低いが、もしもここに私の娘が来たらわたしてくれ。』彼はこう言って、私に手紙を渡したんだ。」と言った。
私はその手紙を開け、中身を読んだ。
【よっ、元気にしてたか?ちなみに俺は今、全身が痛くて苦しいしでもう全然元気じゃないぜ。軽口はこれくらいにして本題に入るぞ。まずは虐待まがいなことをして本当にすまない。虐待まがいなことをしてしまった理由はだな、好きな人が居なくなるのはとても辛いが、嫌いな人がいなくなるのは嬉しいだろ?だから俺はお前の嫌いな人になろうとしたんだ。俺は不器用だからお前の悲しさを少なくする方法がこれしか思い付かなかった、許してくれ。俺は今でもお前のことが大好きだよ。伝えたかったのはこれだけだ。読んでいるのかも知らんが、またな。幸せに生きろよ。】
読み終えた私は涙を流していた。
お父さんは不器用だけどいい人だったのだ。そんな人に恨みを持っていた自分に腹をたて、同時にお父さんに申し訳なく思った。そうして届くはずもないがお父さんに向かって震える声で嗚咽を交えながらこう言葉をこぼす。
「私も…大好きだよ…!」
その声は院内を大きく木霊するのであった。
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