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犯罪者の城
犯罪者の城
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レオンのやつ、完全に頭がおかしくなっているな。それに耳を貸した僕、チャック・マーティンも大概に変なのだが。彼とはずっと前から親友としてやってきて、様々な陰謀論を聞いてきたが、虐殺だなんて言い出したのは初めてだ。
しかも、今までになく必死な様子だった。こりゃあ精神科医にみてもらった方がいいぞ。まったく、昔はこちらが彼にケアされる側だったのだが……
僕たちは、共に両親を失った身だ。レオンはつい最近まで、意地の悪い叔父の家に居候していたが、バイトの収入が上がったことで一人暮らしを始めた。僕は兄と弟と一緒に事故物件のアパートに住んでいる。僕があんなしけた喫茶店で働くのも、弟に不自由させないためだ。境遇を比べると弟を養わなければいけない分、僕の方が明らかにひどかったが、傍から見ればレオンも幼くしてかなりの不幸に苛まれている。なのに彼は、僕を支えることに徹してくれていた。
本当は、こんな話をしている場合ではない。現在の僕は、過去のことなどどうでもよくなるくらい、おかしな状況に立たされていた。
僕とレオンは、左右を林に挟まれ、かろうじて舗装された道路を歩いている。話に聞いた作戦を警戒し、恐る恐る一歩ずつ踏み出す。
靴の裏に何か柔らかい感触を感じた。排泄物かと思いうめいたが、その柔らかいものが不気味な音を立てうごめいたので、思わず悲鳴を上げ、後ずさった。足があった所には寸胴な蛇が横たわっていた。
レオンは大丈夫か、と心配してきた。どうせ嫌味だ──イライラしてきた僕はそう思い込み、はねのけてやった。早足で力任せに坂道を登っていく。なにが虐殺だ、バカげた妄想は終わりにしてもらうぞ。
「おい、もうちょっと慎重に動けよ」
「うんざりなんだよ、まったく。君の陰謀論に終止符を打つんだ。そもそも、その説が正しいと本気で思うなら、なぜ来たんだ? 巻き添えを食って死んじまうかもしれないのに」
少し言い過ぎたかと思ったが、仕方がない。こういうタイプの人間は、自身の問題点をズバリ指摘しないと自覚すらしないのだから。
それから十分程度僕はやみくもに進み、レオンをかなり突き放していた。無意識に耳をすましていたが、彼は一言も発しない。最後に振り返ったときは、涙目というと大げさだが、明らかに傷ついた様子だった。当てのない嫌悪感に襲われた僕は空をにらんだ。
城はちゃんと存在していた。二つの太い塔が四角い建物を挟む、といった形だ。全体的にはタイルが所々はがれている程度の破損で、崩れている個所はなかった。だが壁も屋根も、指より太い無数のツタに覆われており、とても手入れされているようには見えない。
かつて庭だったであろう荒地で僕たちは身をかがめている。だんだんレオンの説が、現実味を増したような気がしてきた。城のあちこちから、大きめの物音がする。極めつけは目を凝らすと見えた、LED電球の白い灯り──
「お前さんたち、ここで何をしとるんだね?」
声は背後から聞こえた。僕は振り向くと同時に腕を構え、万が一に備えた。
だが、そこにいたのはボロボロの布を羽織った老婦人だった。不気味な装いではないが、息を切らした僕は警戒を解かなかった。
僕もレオンもまともな言葉を発せず、目線で責を押し付けあった。老婦人は真顔で微動だにしない。何回か動作を繰り返すうち、レオンの方が口を開いた。
「えっと、ただの好奇心で入ってみただけですよ。先客がいなければ、秘密の集合場所にでもしようかなって……」
「先客ねぇ」
老婦人は腕を組み、せわしなく歩き始めた。どうしたものか、と呟いている。
「ついてきな]
少し戸惑ったものの、僕たちは従った。建物の方へ誘導される。お茶でもふるまってくれるのかと思い、少し気を緩めた。これが致命的だった。
夫人は正面の建物の錆びたドアを引いて開き、さあ、と促して僕たちを招き入れた。だが中に入った瞬間──
〈ガタ、バタン!〉
と派手に音を立てて、ドアを閉められた。
「どういう意図だか知らないけど、これで閉じ込めたつもりか?」
レオンはわざとらしく笑ってみせた。
ここはいわゆる玄関ホールらしい。ドアから色あせたレッドカーペットが伸びていて、奥にある巨大な階段へと繋がっている。階段の奥には横に伸びた通路があり、階段と合わせるとT字状に見える。
辺りは思いのほか明るく、他の部屋から電球の光が漏れていた。
待てよ? 電気がついているということは──
「ここには、あの老婆の他に人間がいるかもしれない!」
僕はレオンの耳元で叫んだ。彼は同調し、二人で震えあがった。
「それに、閉じ込められたってことは、そいつらは──」
レオンはゴクリと音を立て、つばを飲み込んだ。
「かなり危険な連中で、俺たちは襲われるかもってこと、だよな」
「そう思われるのも仕方がない」
前触れもなく、通路からスーツ姿で細眼鏡の華奢な男が現れ、声を上げた。かん高くて通った声だ。かなり威圧感がある。
無論、僕とレオンは瞬時に構えを取り、自然とドアノブに手を掛けた。が、鍵をかけられているらしく、動かない。
細眼鏡の男は、僕らの動作など気にも留めない。
「実際我々はお前たちを拘束しなければならない。もしかすると、ここに来たのは偶然なのかもしれないが……どのみちもう遅い」
眼鏡を光らせ、男は凄惨な笑みを浮かべた。背後から、複数の大柄な漢が五人ほど現れた。
あとがき
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しかも、今までになく必死な様子だった。こりゃあ精神科医にみてもらった方がいいぞ。まったく、昔はこちらが彼にケアされる側だったのだが……
僕たちは、共に両親を失った身だ。レオンはつい最近まで、意地の悪い叔父の家に居候していたが、バイトの収入が上がったことで一人暮らしを始めた。僕は兄と弟と一緒に事故物件のアパートに住んでいる。僕があんなしけた喫茶店で働くのも、弟に不自由させないためだ。境遇を比べると弟を養わなければいけない分、僕の方が明らかにひどかったが、傍から見ればレオンも幼くしてかなりの不幸に苛まれている。なのに彼は、僕を支えることに徹してくれていた。
本当は、こんな話をしている場合ではない。現在の僕は、過去のことなどどうでもよくなるくらい、おかしな状況に立たされていた。
僕とレオンは、左右を林に挟まれ、かろうじて舗装された道路を歩いている。話に聞いた作戦を警戒し、恐る恐る一歩ずつ踏み出す。
靴の裏に何か柔らかい感触を感じた。排泄物かと思いうめいたが、その柔らかいものが不気味な音を立てうごめいたので、思わず悲鳴を上げ、後ずさった。足があった所には寸胴な蛇が横たわっていた。
レオンは大丈夫か、と心配してきた。どうせ嫌味だ──イライラしてきた僕はそう思い込み、はねのけてやった。早足で力任せに坂道を登っていく。なにが虐殺だ、バカげた妄想は終わりにしてもらうぞ。
「おい、もうちょっと慎重に動けよ」
「うんざりなんだよ、まったく。君の陰謀論に終止符を打つんだ。そもそも、その説が正しいと本気で思うなら、なぜ来たんだ? 巻き添えを食って死んじまうかもしれないのに」
少し言い過ぎたかと思ったが、仕方がない。こういうタイプの人間は、自身の問題点をズバリ指摘しないと自覚すらしないのだから。
それから十分程度僕はやみくもに進み、レオンをかなり突き放していた。無意識に耳をすましていたが、彼は一言も発しない。最後に振り返ったときは、涙目というと大げさだが、明らかに傷ついた様子だった。当てのない嫌悪感に襲われた僕は空をにらんだ。
城はちゃんと存在していた。二つの太い塔が四角い建物を挟む、といった形だ。全体的にはタイルが所々はがれている程度の破損で、崩れている個所はなかった。だが壁も屋根も、指より太い無数のツタに覆われており、とても手入れされているようには見えない。
かつて庭だったであろう荒地で僕たちは身をかがめている。だんだんレオンの説が、現実味を増したような気がしてきた。城のあちこちから、大きめの物音がする。極めつけは目を凝らすと見えた、LED電球の白い灯り──
「お前さんたち、ここで何をしとるんだね?」
声は背後から聞こえた。僕は振り向くと同時に腕を構え、万が一に備えた。
だが、そこにいたのはボロボロの布を羽織った老婦人だった。不気味な装いではないが、息を切らした僕は警戒を解かなかった。
僕もレオンもまともな言葉を発せず、目線で責を押し付けあった。老婦人は真顔で微動だにしない。何回か動作を繰り返すうち、レオンの方が口を開いた。
「えっと、ただの好奇心で入ってみただけですよ。先客がいなければ、秘密の集合場所にでもしようかなって……」
「先客ねぇ」
老婦人は腕を組み、せわしなく歩き始めた。どうしたものか、と呟いている。
「ついてきな]
少し戸惑ったものの、僕たちは従った。建物の方へ誘導される。お茶でもふるまってくれるのかと思い、少し気を緩めた。これが致命的だった。
夫人は正面の建物の錆びたドアを引いて開き、さあ、と促して僕たちを招き入れた。だが中に入った瞬間──
〈ガタ、バタン!〉
と派手に音を立てて、ドアを閉められた。
「どういう意図だか知らないけど、これで閉じ込めたつもりか?」
レオンはわざとらしく笑ってみせた。
ここはいわゆる玄関ホールらしい。ドアから色あせたレッドカーペットが伸びていて、奥にある巨大な階段へと繋がっている。階段の奥には横に伸びた通路があり、階段と合わせるとT字状に見える。
辺りは思いのほか明るく、他の部屋から電球の光が漏れていた。
待てよ? 電気がついているということは──
「ここには、あの老婆の他に人間がいるかもしれない!」
僕はレオンの耳元で叫んだ。彼は同調し、二人で震えあがった。
「それに、閉じ込められたってことは、そいつらは──」
レオンはゴクリと音を立て、つばを飲み込んだ。
「かなり危険な連中で、俺たちは襲われるかもってこと、だよな」
「そう思われるのも仕方がない」
前触れもなく、通路からスーツ姿で細眼鏡の華奢な男が現れ、声を上げた。かん高くて通った声だ。かなり威圧感がある。
無論、僕とレオンは瞬時に構えを取り、自然とドアノブに手を掛けた。が、鍵をかけられているらしく、動かない。
細眼鏡の男は、僕らの動作など気にも留めない。
「実際我々はお前たちを拘束しなければならない。もしかすると、ここに来たのは偶然なのかもしれないが……どのみちもう遅い」
眼鏡を光らせ、男は凄惨な笑みを浮かべた。背後から、複数の大柄な漢が五人ほど現れた。
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