少年刑事レオンの冒険──犯罪者を出し抜け!

作家志望の怠惰な学生

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犯罪者の城

本物の犯罪者

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 僕は早口でレオンに問いかけた。

「どうする?」
「逃げるんだ」
「できるのか?」

 レオンは小声で怒鳴った。

「そうするしかないだろ!」

 それを機に僕たちは、左の塔へ二人並んで駆けだした。が、塔に入ってみると、通路が狭く、互いの体が邪魔になるということに気づいた。通路は入ってすぐ右に曲がっており、石のタイルが敷かれている。そこからは一直線であり、敵が銃を持っていたらやられてしまう。

「捕まえろ!」

 その命令が壁から響いて伝わり、僕はやけになって通路を疾走した。レオンも一足遅れて続く。

 しめたというべきか、道は最奥で二つに枝分かれしており、僕は右の方に飛び込んだ。振り返ると、レオンが一瞬とまどった表情を見せていたが、すぐに僕と逆の道に進んでいった。

 言葉にできない疑念に憑りつかれ、うつむいていると、急に目の前に漢が飛び出してきた。どうやったのか知らないが、先回りされたのだ! 危うく腕を掴まれそうになるも、ひょいとかわし、腹に思い切り拳を食らわせてやった。素早く距離を取り、ひるんで腹を抑えている漢の頭を、無理やり蹴りつけた。

 そいつの図体を押しのけ、息荒く走り出す。思わぬ自身の強さに少し畏怖した──これが火事場の馬鹿力ってやつか──

 途中、城の中心部に向かっているかもしれないと気づいたが、引き返す勇気はない。だが通路は進んでいくほど狭くなっていて、行き止まりに当たるのではないかと不安になる。進んできた道中には下り階段がいくつかあった──つまり、僕はすでに地下へ入っている。

 いつしか、床はやすりにかけた岩をそのまま並べたような、大雑把なつくりに変わっていた。どこの壁にも等間隔で弱弱しい明かりがついている。が、それは松明などではなく、極めて平凡なLED電球だ。

 通路が少し広まった──多数の分かれ道が入り乱れている。その一つから、またしても怪しい男が現れた。先ほどの奴とは打って変わった、細身で肌色の薄い、目が緑の男──そいつに渾身の体当たりをかましたが、すんでのところで闘牛使いのごとくかわされた。彼の黒衣がまさしく赤い布のようだ。

 よろけて倒れそうになったものの、構わず走り続けようとする。しかし、男の腕が地面を蹴りつけた僕の脚にするりと伸びてきた。ふくらはぎを凄い力で掴まれたあげく、あろうことか、そこを起点として全身をぶん投げられ、壁に激突した。

 痛い! 骨が、筋肉が、悲鳴を上げている。いっそ気絶したい──奇怪なことに、その願いはすぐに叶うこととなった。男がハンカチを取り出し、僕の顔に押さえつけた。湿っていて、酒臭い。これはたぶん、クロロホルムだ────




 どこだ、ここは? 強烈なスパイスの臭いが充満している。俺は先ほど、喫茶店で見たジェームズとかいう男に出くわし、そして──

「気絶して閉じ込められた、のか」

 俺はやや過呼吸になり、じたばたした。空間は狭く、謎のクッションでいっぱいになっていて、思うように身動きが取れない。

「安心しろ、君は助かる。友達もだ」

 冷たい声がささやいた。すぐさま、俺の意識を奪った骸骨男のジェームズだと分かった。恐れを上回る怒りが沸いてきて、俺は闇雲に怒鳴りつけた。

「何なんだあんたは! チャックはどこにいるんだ!」
「静かにしろ!」

 その一言で、威圧感に満ちた彼の顔が脳裏に浮かび、俺は怯んで黙り込んだ。

「いいかい、他の連中に聞かれたら、文字通り吊るし上げられるぞ」

 口調からして、男はいたって真剣にものを言っている。俺は慎重につばを飲み込み、無言で続きを待つ。

「君は密輸用木箱の中だ。チャックという少年も別のそれに入っている。彼は見かけによらず冷静で、ちゃんと話を聞いてくれたぞ」
「あんた、何者だ?」

 小声で恐る恐る聞いてみた。

「僕はジェームズ・トンプソン、私立探偵だ。実際はフリーの刑事みたいなものだがな」

 ため息をつき、皮肉めいた抑揚で続ける。

「本来、ここまで情報を晒すのは愚をこえて悪なんだが、君たちに敵だと思われてギャアギャア騒いで抵抗されたら、たまったものじゃないからな」
「ようするに、潜入捜査をしていた? なら、他の漢たちは本当の犯罪者?」
「犯罪者に、真も偽もあるものか。あるのは『程度』だけだ」

 ジェームズ・トンプソンはタメを作り、つまらんセリフを言ってしまったな、と咳ばらいをした。

「それはさておき、君たちを脱出させるにはこの方法──木箱に詰めて運び出させる、というものが一番安全だ。君を捕らえたのは地下三階だから、誰にも見つからずに地上まで連れ添って送るというのは無謀すぎる。木箱は、僕ではない数人の手でトラックに乗せられ、アメリカ中をかけ回ることになる。君はタイミングを見計らって箱を蹴破り、脱出するんだ」
「蹴破る? そんな怪力はもってない!」

 トンプソンはイライラしてきたのか舌打ちし、早口で説明する。

「箱の上部は蓋だ。いくつかの輪ゴムで止めてある。手やら足やらで思い切り押せば、隙間が空く。そこから輪ゴムをずらして外し、蓋を開けるんだ」
「丁寧な説明どうも」

 また悪態をつかれるかと思ったが、トンプソンはさらに口のスピードを上げ、まくし立てるように言う。

「僕はこれ以上君たちに構えない。今言った段取りは、一人でこなしてもらうしかない。チャックも同じトラックに乗るだろうが、わざわざ合わせて脱出する必要はない。それと、この一件は誰にも話すんじゃないぞ。警察にもな。公に知れ渡ったら、黒幕は瞬く間に尻尾を隠すだろう。さて、こんな機密情報を知られてしまった以上、君たちを野放しにはできない。だが、それは後でのことだ。近いうちコンタクトをとるから、備えておいてくれ。脱出に成功できたら、だがな」

 その長文を境に声は聞こえなくなった。コツコツという無機質な足音が響き、次第に遠ざかっていった。箱の中は静まり返り、五感の情報過少で再び取り乱しそうになる。ああ、何でこんなことになっちゃったのかな──

 自身の周囲を覆っているこのクッションはなんだろう?──頭ほどの大きさの袋が、数十に群れている。その一つを鷲掴みにしてみると、中の物質を湿った砂のように一塊に圧縮でき、放すと崩れる。

〈まさか、麻薬か⁉〉

 ためしに袋を少し破いて中身の粉を指につけてみた。大半はすり落ちたようだが、ミリグラム単位の取るに足らない量が残っているはずだ。ペロッ──

 普段ならこんなバカなことはしないのだが、今の俺は五感の遮断でいささか狂っている。

〈なんだよ、ごく普通のコンソメ風スパイスじゃないか──けっこううまいな〉

 終わりのない味見に夢中になりかけていたとき、周囲が揺れ、思わず声を上げた。

「なんだ?」

 背後で太い声が言った。トンプソンの説明通り、俺、というか、箱をトラックに運ぼうとしているのだろう。幸い、太い声の人物は気のせいだと決めつけたのか、再び箱を思い切り持ち上げた。一秒おきに大きな揺れが来て、それとは別の振動が小刻みに伝わってくる。

 これは、かなり酔うぞ──短時間ならまだマシだが、いくら待っても日光やトラックらしきものを認識できない。運んでいる漢の負担を減らしたい一心で、体の重心を動かさないように気を付けて、手遊びや「可憐な少女」の妄想をしてみようとした。極限環境にもかかわらず、思いのほか集中できた。一時間ほど経ち、さんざん焦らしたあげく少女に触れようとしたとき、ようやく隙間から自然の光が差し込んできた。

 運び手がうめき声を上げ、俺を急激に持ち上げた。そして鉄板を叩いたような「ボン」という音を立て、叩きつけるように落とされた。察するにトラックの荷台に乗せられたのだ。

 ふと、運び手のものを含め、沢山の声が聞こえてきた。

「なぁリアムさん。どうするんだ、あのガキどもは? さすがに始末は出来ないよな? まだ子供だぜ」
「いや、あいつらはかなりのやり手だ。部下三人が気絶させられていた──やるしかないだろう。まだ手の届く範囲にいる。この城から出ていれば、誰かが気づくはずだ」

 今のかん高い声の主──リアムと呼ばれた人物は、あの細眼鏡の男だろう。初見からなんとなく思ってはいたが、こいつはここで一番偉くて、一番邪悪だ。

「あの、ホントに殺してしまうんですか? 私はただ、ちっぽけな犯罪でちょっとした一儲けをしようと思っただけで……」

 知らない声だ。かなりか細くて、高い。

「誰もオメェにそうさせるなんて言ってないだろうが」

 最初に発言した運び手が野太い声でうなるように言った。

「それに隠れ家の中とはいえ、「殺す」なんて言葉はやたらと使うものじゃないぞ! 陰語を使え。ブラッドは、お前のような新入りにも意見を言う権利を与えてくださるが、その物言いは明らかに無礼だ」

 細眼鏡の男も、か細い声の人物を責め立てる。

「す、すいませんです!」

 俺はこの弱い立場の人物が哀れになってきた。だがそれよりも、リアムという男の厳格さがより恐ろしく、首筋から汗が噴き出す。

 心臓の音が嫌というほど耳に入ってくる。全身の血管がはじけそうだ。

 三十分ほど経っただろうか、辺りが再び振動し、体のあちこちをぶつけた。トラックが動き出したのだとすぐに分かったが、すさまじい乗り物酔い具合のせいで、飛行機の羽の上にでも置かれているのではないかと本気で不安になった。

 実際〈ゴウゴウ〉という風を切る音が常に聞こえており、実際振り落とされる危険性は大いにあると思えた。

 しばらくの間、胃を圧迫しないよう気を付けていた。こんな狭い空間で吐いたり過呼吸になったりすれば、酸素不足に陥るかもしれない。今となっては忌々しい、スパイスの臭いが吐き気を催す。

 はたして、今ここで脱出して大丈夫なのだろうか? というのも、近くで走行の揺れとは別の大きな振動を感じたのだ。その直後、トラックの荷台から〈ボン〉という音もした。もしかすると、チャックが箱から出て、立ち上がったのかもしれない。

「ああ、もうどうにでもなれ!」

 覚悟を決め、トンプソンが説明した手順を必死に思い出そうとする。まず、上部を蹴って押す──彼が言っていた通り、隙間が空いた。そこへ手を伸ばして入れこみ、ゴムの束を外した。

〈思っていたより、簡単だったな──よし、脱出するぞ!〉
 



 あとがき
 
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