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科学施設の陰謀
ハリス・プライス
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不審な笑顔の見知らぬ人物が遠くから歩いてくる。彼は結構な低身長で、道化師のような感じのいいちょび髭を持っていた。
「どーもどうも、トンプソンさん。ワタクシはハリス・プライス。技師をやっておりますです。カーン教授は急用が入りまして、しばらくの間、皆さんの案内をワタクシが務めさせていただくことになったのです」
〈クッ、ちくしょう、フェリシア……なぜだッ!〉
俺は思い切り歯を食いしばった。車内の雰囲気がいっそう悪くなったので、ドアを押して急いで外に出た。だが、外はお世辞にもいい空気とは言えなかった。排気ガス、そして油のような強烈なにおいが鼻を刺した。とたんに、ここが思い描いていた近未来的な場所ではないと確信した。
「よし、行くぞ」
ジェームズは何の問題もないようにふるまっている。チャックはというと、相変わらずしかめ面を崩してはいないが、ジェームズに従って歩いていた。
平凡な自動ドアを通り、無機質な廊下を進んでいく。愛想のない研究員が行き交う中、プライスは高く響いた声で、施設の概要を説明してくれる。とてもフレンドリーで好感な人物だが、ガラスの壁に写った彼の笑みは、どうにも信用できる類のものではなかった。
まずプライスが案内したのは、複雑な基盤の設置してある、陰湿な小部屋だった。壁の一部はガラスで、その奥に別の広い部屋がある。
「ここで宇宙服のテストをします。翌日から始めるので、ご準備くださいネ」
そう言うと、彼はすぐ部屋から立ち去った。
「あの、よければ教えてくれませんか、カーン教授の用について」
俺はくぐもった声でプライスに聞いてみた。ジェームズがすかさず小突いてきたが、俺は気に留めなかった。
「それが、ワタクシも存じ上げないのですよ。なんでも、所長に緊急で呼ばれたとかで……トンプソンさんには、後ほど所長にご挨拶に行っていただきますです。その間君たちは、別室で教授を待っていてもらいます」
ジェームズと俺の扱いに思った以上の差があることが分かった。少々憤りを感じたが、せめてもの救いがある──フェリシアは、センター内にいるらしい。用事も長引かないだろうし、すぐに来てくれるさ!
そこからいくらか歩いて、施設の中心にある簡易庭園に来た。そこに足を踏み入れるのに自動ドアを通る必要があるということ以外、なんら違和感のないバラ園だ。地面には芝生が敷かれており、手を伸ばすと土がついた。綺麗さを保ちつつ、自然を見事に再現している。
「ここを通る時は、毎回消毒してくださいネ」
言われた通りにした後、また真っ白な廊下に突入した。壁沿いの、何の変哲もないドアをくぐると、宿泊部屋と思われる空間に着いた。
「皆さんには、ここで寝泊まりしてもらいますです」
ホテルなどに比べれば、かなり狭い部類の部屋だ。あるのは三人分のベッドと机や椅子、素朴なソファーにテレビ──トイレとバスルームもついていて清潔だが、窓がなかったのでなんとなく閉鎖的に見えた。
「──所長のスケジュールが開いたようです。トンプソンさん、早速我がセンターの所長に会ってもらいますネ」
「承知しました」
ジェームズは、その鋼の心にどれだけ残っているかもわからない愛想を込めて言った。
「助手の方々には、ここでしばらく待っていてもらいますです。教授もじき来るでしょう! 前日から実に楽しげでいらしゃった!」
意見する間もなく、俺とチャックを取り残したままドアを閉められた。少し唖然とした後、ベッドに身を投げ出し、ため息をついてぼそりと呟いた。
「まいったな。娯楽といえばテレビしかない」
「ジェームズと一緒じゃないだけ、マシってものじゃないか」
チャックは口をゆがませ、吐き捨てるように言った。いい加減、二人の喧嘩にはイライラしてくる。だがしばらくは彼と二人きりなんだ──わざわざ進んで空気を悪くすることはない。
あとがき
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「どーもどうも、トンプソンさん。ワタクシはハリス・プライス。技師をやっておりますです。カーン教授は急用が入りまして、しばらくの間、皆さんの案内をワタクシが務めさせていただくことになったのです」
〈クッ、ちくしょう、フェリシア……なぜだッ!〉
俺は思い切り歯を食いしばった。車内の雰囲気がいっそう悪くなったので、ドアを押して急いで外に出た。だが、外はお世辞にもいい空気とは言えなかった。排気ガス、そして油のような強烈なにおいが鼻を刺した。とたんに、ここが思い描いていた近未来的な場所ではないと確信した。
「よし、行くぞ」
ジェームズは何の問題もないようにふるまっている。チャックはというと、相変わらずしかめ面を崩してはいないが、ジェームズに従って歩いていた。
平凡な自動ドアを通り、無機質な廊下を進んでいく。愛想のない研究員が行き交う中、プライスは高く響いた声で、施設の概要を説明してくれる。とてもフレンドリーで好感な人物だが、ガラスの壁に写った彼の笑みは、どうにも信用できる類のものではなかった。
まずプライスが案内したのは、複雑な基盤の設置してある、陰湿な小部屋だった。壁の一部はガラスで、その奥に別の広い部屋がある。
「ここで宇宙服のテストをします。翌日から始めるので、ご準備くださいネ」
そう言うと、彼はすぐ部屋から立ち去った。
「あの、よければ教えてくれませんか、カーン教授の用について」
俺はくぐもった声でプライスに聞いてみた。ジェームズがすかさず小突いてきたが、俺は気に留めなかった。
「それが、ワタクシも存じ上げないのですよ。なんでも、所長に緊急で呼ばれたとかで……トンプソンさんには、後ほど所長にご挨拶に行っていただきますです。その間君たちは、別室で教授を待っていてもらいます」
ジェームズと俺の扱いに思った以上の差があることが分かった。少々憤りを感じたが、せめてもの救いがある──フェリシアは、センター内にいるらしい。用事も長引かないだろうし、すぐに来てくれるさ!
そこからいくらか歩いて、施設の中心にある簡易庭園に来た。そこに足を踏み入れるのに自動ドアを通る必要があるということ以外、なんら違和感のないバラ園だ。地面には芝生が敷かれており、手を伸ばすと土がついた。綺麗さを保ちつつ、自然を見事に再現している。
「ここを通る時は、毎回消毒してくださいネ」
言われた通りにした後、また真っ白な廊下に突入した。壁沿いの、何の変哲もないドアをくぐると、宿泊部屋と思われる空間に着いた。
「皆さんには、ここで寝泊まりしてもらいますです」
ホテルなどに比べれば、かなり狭い部類の部屋だ。あるのは三人分のベッドと机や椅子、素朴なソファーにテレビ──トイレとバスルームもついていて清潔だが、窓がなかったのでなんとなく閉鎖的に見えた。
「──所長のスケジュールが開いたようです。トンプソンさん、早速我がセンターの所長に会ってもらいますネ」
「承知しました」
ジェームズは、その鋼の心にどれだけ残っているかもわからない愛想を込めて言った。
「助手の方々には、ここでしばらく待っていてもらいますです。教授もじき来るでしょう! 前日から実に楽しげでいらしゃった!」
意見する間もなく、俺とチャックを取り残したままドアを閉められた。少し唖然とした後、ベッドに身を投げ出し、ため息をついてぼそりと呟いた。
「まいったな。娯楽といえばテレビしかない」
「ジェームズと一緒じゃないだけ、マシってものじゃないか」
チャックは口をゆがませ、吐き捨てるように言った。いい加減、二人の喧嘩にはイライラしてくる。だがしばらくは彼と二人きりなんだ──わざわざ進んで空気を悪くすることはない。
あとがき
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