少年刑事レオンの冒険──犯罪者を出し抜け!

作家志望の怠惰な学生

文字の大きさ
31 / 35
正義の衝突

島と要塞

しおりを挟む
 
 長いこと、床に布を敷いて寝そべっていた。つまらない考えが頭を埋め尽くしていており、寝付くことはとうてい難しいと思えた。

 レオンは、今頃なにをしているだろう──フェリシアと同棲でもしてるんじゃないだろうか? ジェームズもオースティンも知らないことだが、レオンはとうに叔父の家を出て、彼の『冒険』の邪魔になる枷を外しきっていた。

 かくいう僕も、『自由』に憧れている節はあった。家族に振り回されることなく、自分の人生をまっとうしたい──そう考えると、いつかジェームズにされた説教も、案外的を射ていると思えてくる。

 いや、そんなことはない。少なくとも弟が今の僕くらいの年になるまでは、僕が責任を取らなくては。

 それより、レオンのことを考えよう。彼との日常はいつも心の支えになってくれる。認めたくないものだが、これはいわゆるブロマンスというやつかもしれない──しかし、今の言葉を見つめなおしてみると、ひどく吐き気がした。

 一度目を開き、現実に戻った。前方には相変わらずヘルクレスの背中があり、空はよりいっそう暗さを増していた。黒ずんだ雲から閃光が出てくるのが見えたが、遠い場所の話だ──僕は眠りたい。

 もはやヘルクレスの運転に対する不安は消えていた。自然とまぶたが重くなり、再び視界が暗くなっていく。事態の良し悪しはさておき、僕の脳は雑念を忘れ、からっぽになった。

「おい、そろそろ起きろ。奴らの本拠地に、だいぶ近づいているぜ」

 数時間が経過していた。目を開けると、ヘルクレスのいかつい顔がこちらを覗いていた。もはや、この程度のことでは驚かない。体を起こし、ふらつく中景色を凝視した。辺りはすっかり晴れており、前方には──無人島だ。

 いや、実際のところ人間は大勢いるだろう。なにしろ、上手く隠されているとはいえ、巨大な人工物が見えたのだ。それは目視一キロくらしかない孤島の、中央にそびえている崖──その側面に、ところどころ石造りの建造物が生えている。

「見えるんだな? あの要塞が」

「ああ。幻覚かと疑っていたけど、あんたも認識してるんだな」

 僕は目を細め、島を隅々まで見回した。崖の要塞を除けば、なんら一般的な外観の島だ。

「今のままじゃ、船が丸見えじゃないか? 見つかったらまずい」

「そこはスパイの女が、運搬用だのなんだのって取り繕ってくれてるだろうぜ」

 隣の大男は顔色一つ変えず、答えた。それより、彼のスパイって女性だったのか──どうでもいいことだが、自身の先入観に虫唾が走った。

 緊張で、腹が締め付けられる。ついに対決の時だ──敵に出くわさずに弟を救出できるのなら、それが一番だが。

「ブラッドは島の反対側に泊めてある貨物船にいる。そしてお前の弟は要塞に監禁されているはずだ。だが俺は、要塞には行けない」

「え?」

 困惑で思考が停止したと同時に急な波しぶきを食らい、よろめいた。ヘルクレスが手を伸ばし、笑いを漏らしながら僕を支えた。

「俺はブラッドを倒しに行く。奴の腐った魂を破滅させてやる。お前には一人で行ってもらうしかねぇな。それか、俺と一緒にブラッドを倒してから向かうかだ」

 僕は自分の力量を信じきれてはいない。無論、平均的な十六歳と比べたら遥かに戦闘ができる。だがとても一人で立ち向かうなんて──

「ともかく、上陸するぞ。ここには簡易的な船場があってな、そこの貨物に紛れてブラッドの船に乗り込むってのが作戦だ」

「……分かった。とりあえず、今はあんたに付いて行く」

「そうか。そんじゃ、このオンボロを島に泊めるぞ」

 ヘルクレスは床をミシミシいわせながら、室内に戻った。船が再び動きだし、僕はまたぐらついた──今回は、自分でバランスをとった。

 島が迫って来る。崖の要塞は林に囲まれており、その手前、白い砂浜にちらほらと人影が見えた。その辺りに目を凝らすと、ところどころ木材やコンクリートで舗装されていのが分かる。

 一つの人影がこちらに手を振っている──僕は反射的に、船の縁に隠れようとした。だがすぐに向こうの不信感を煽ることになると気づき、ゆっくり上体を縁から出していった。「何かを拾うために屈んだ」ように見せかけたつもりだ。

「ヘルクレス! 誰かが、こっちに手を振ってるぞ」

「問題ない」

 僕の意見など眼中にないとばかりに、ヘルクレスは豪快に舵を切った。だが操縦風景とは裏腹に、徐々にスピードが落ちてきていて、砂浜がすぐそこまで近づいていた。

「船が停まったらすぐに身を隠せ! お前も俺も、顔が知れてるかもしれないからな」

 返事をする間もなく、船が半ば跳躍しながら浜に乗り上げた。衝撃はかなりのもので、僕はまた性懲りもなく横転した。

「立て! じきに誰かがくる。スパイの野郎のおかげで、いまのところ敵意を抱いている輩はいないだろうが──」

「こんな目立つ泊め方でよかったのか? 持ち主の分からない謎の船なんて警戒されるに決まってるんじゃ……」

 頭をさすりながらよろよろと起き上がり、ヘルクレスに聞いた。

「さっさと足を動かせ! 林に飛び込むぞ!」

 有無を言わさず怒鳴り散らされたので、僕は焦って縁から飛び降りた。自分の背丈の倍近くある段差なうえかなり斜面だったが、うまく受け身を取ることができた。少々打撲したかもしれないが、問題になるほどではない。

 間もなくヘルクレスも浜に降り、辺りを確認する。さっき手を振っていた人物から離れた場所に着いたのか、それとも向こうが移動したのか──どっちにしろそいつの姿はもう見えなかった。

 僕たちは「だるまさんがころんだ」で一抜けしようとする少年のごとく、緊迫の中全力で手足を回転させ、浜を横切っていった。

 ──強くて暑苦しい風が皮膚に当たる。自然のサウナだ。色々な考えが重なって、僕は一刻もはやく緑の中に身を置きたかった。それが強い衝動となって、一歩先を行くヘルクレスをにらみ、追い越し、けだもののように無茶苦茶に腕を振り回し、やっと薄暗い木々の間に転がり込んだ。

 すぐに反動が来た。荒ぶった鼓動に胃が圧迫されて、とにかく吐きそうで仕方がない。

 遅れてきたヘルクレスは息を切らし、僕の肩を掴んで振り向かせた。

「焦る気持ちは分かるがな、こういう状況で冷静さを欠いたら驚くほど早く負傷するぞ」

「分かってるさ」

 生返事だった。

 情動は落ち着いてきたが、なぜそんな状態に陥ったのか言葉で表せない。そもそも自分の精神について、しばらく考えたくなかった。

「それより、船場ってどこなんだよ? そこの貨物に紛れ込むんだろ」

「そうだが、ここからは単なる気合いじゃ突破できない。船場には、大勢の監視役がいる。真っ向から戦うのはもちろん、不意をついて気絶させるのもだめだ。こっちの存在を明かすのは最後の最後……ブラッドの側まで行き、暗殺するときだ」

 彼は羽織っているボロボロのコートから小さな銃を取り出してみせ、いきなり僕に放った。驚くほど適当な扱いに、思わず息をのんだ。

「弾は十発。使うのはブラッドやリアムを仕留められそうなとき、あとは、このままだと確実に死ぬと思ったときだけだ。その辺の下っ端には基本使うな」

 ヘルクレスは真剣な眼差しになった。そのとき初めて感じ取った──彼は、本気で死を覚悟している。生き残ったらどうするかなんて眼中にない。僕はいまさらながら、この男が空恐ろしくなった。

「状況を見極めろ」

 いま、彼の言葉は入ってこない。僕の思考は目の前の漢に対する疑念でいっぱいだった。だが、彼が恐ろしいと同時に、彼は僕を信頼してくれていることも分かっていた。そして、結局僕も彼を信じており、共にいたいと思っている。

「分かったよ。さっさと終わらせよう」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...