消臭スプレー軍曹

古井論理

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空中ポーカーフェイス

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 南洋に浮かぶとある孤島の飛行場に今しがた到着した軽オートジャイロ「カ式長距離連絡機」から降り立った女性の特任士官は、運貨車に乗って6式特大型輸送機「まなづる」に積荷を載せている男に声をかけた。
「おおい、刑部おしかべか?」
 刑部は振り向き、少佐の階級章をつけた右腕を上げて大きく手を振った。
「おお神納かのう!貴様生きとったかぁ」
「当たり前だ!戦果も上げてきたぞ。敵、それも共産党紅軍の自走砲を2両やった。おかげで今は少佐相当官だ」
「そうかぁ、やっと追いついたな」
「そうだな」
 神納少佐相当官と刑部少佐は、陸軍学校の同期であった。陸軍学校が特任士官として女性を育成するようになった、その最初の一人が神納である。
「それでだ、私はここで特任兵たちに講義をしたあと輸送機に便乗して内地へ帰るらしい」
 神納が刑部にそう言うと、刑部は無垢な笑顔で告げた。
「俺もだ。俺もその輸送機に乗って内地へ帰る予定なんだ。やっと出張が終わったようなものだな」
 神納は「そうか」とだけ言って去ろうとしたが、その直後刑部を顧みて言った。
「内地へ行くときにはトランプを持ってきてほしい。生憎持ってなくてな。手品を見せてやろう」
 神納は再び刑部に背を向け、講義が行われる講堂へと歩いていった。

 翌日、神納と刑部は内地に向かう6式特大型輸送機に便乗した。機内のキャビンには木箱を改造した椅子と、据付型の机、そしてマニュアルがある。長袖をしっかり着込んだ刑部と、袖をまくった神納は好対照をなしていた。
「さて、トランプはあるか?」
「ああ。荷物と一緒に持ってきたよ」
 刑部はそう言って、神納にトランプを渡した。神納は受け取ったトランプを扇子のように広げ、言った。
「さて、手品を始めよう。かなり上達したはずだぞ」
 神納は刑部にカードを一枚取らせると、それをカードの山の上に置かせ、それをよくシャッフルした。刑部が引いたのはダイヤの3である。
「さて、1から52までの数字を1つ言ってくれ。その枚数だけ取ったあとに、さっき選んだカードを出そう」
「34」
 刑部はそう言った。
「よし、34だな?」
「そうだ」
 神納は「1、2、3、4……」と数えながらカードを山の上から配っていく。
「あ、24枚目にできるか?尺が長い気がする」
 10枚目を出したところで刑部が言った。神納は涼しい顔でうなずく。
「わかった。11、12、13、14……」
 刑部は度肝を抜かれた。タネが、全くわからない。
「24」
 神納が出したカードは、ダイヤの3であった。
「凄いな」
「そうだろうそうだろう」
「種明かしとかないのか?なんで変えたのに出せたんだ?」
「簡単だ、カードはずっと一番上にあるんだ」
「それをどうやって24枚目に出すんだよ」
「セカンドディールという技を使ってる。二枚目のカードをさも一枚目に出したように出す技だ」
「……なるほど。カードを返してくれ、俺も少しやってみる」
「できるのか?」
「少しは練習したよ」
 刑部はカードを切ると、一枚のカードをおもむろに取り出した。ダイヤの3である。
「このカードをよく覚えておいてほしい」
「ああ、わかった。その前に、一つ賭けをしないか?」
「どんな賭けだ」
「私が見破れたら、内地でレモネードを奢ってくれ」
「ああ、わかったよ」
 刑部はカードを山の中に入れる。
「さて、カードを広げてみてくれ。おそらく見せたカードはないはずだ」
 神納はそっとカードを検めた。たしかにダイヤの3はどこにもない。
「さて、どこにあるかわからないところで……」
 刑部が得意げに話していると、神納は少しニヤリと笑った。刑部は焦ったような顔ひとつ見せず、ボーカーフェイスを貫いている。
「机の上のマニュアルを見てくれ」
 刑部がそう言った。神納はマニュアルを振る。ダイヤの3が出てきた。
「なるほどね……ところで刑部、なんで長袖をそんなにしっかり着込んでいるんだい?」
「……」
「ほら、その長袖の中はどうなってる?二枚目のカードがあるんじゃないのか?」
「……残念だ、負けだよ」
「最初に取ったダイヤの3を自分のターンでも出してきたときにおかしいと思ったんだよ。あれは最初から仕組んでたんだね?」
「そうだ」
「じゃあレモネードを奢ってもらうまで、あと最低2時間。機内食でも食べようか」
「ああ、そうだな」
 刑部と神納は握り飯とお茶を乗組員から受け取ると、握り飯を口に運んだ。鮭の味が口の中に広がる。

 内地についたあと刑部がレモネードを買ったのは言うまでもない。
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