宵闇の夏色

古井論理

文字の大きさ
上 下
31 / 33
黎明の空色

似姿の心配論

しおりを挟む
チヒロ「なんか……寂しいな」
コウ「チヒロさん……バグってませんか?」
チヒロ「バグってないよ。ただ……ちょっと寂しいだけ」
コウ「これでよかったんですよ。僕たちは仲間を失うために、あそこにいたんですから。それに、チヒロさんはアヤナさんと最後まで一緒にいられたじゃないですか。しかも……何回でしたっけ」
チヒロ「もう覚えてないよ。アヤナは何度でも私のことを忘れるし…」
コウ「もうそんなこともないでしょう」
チヒロ「そうだけどさ……」
コウ「反省会、しますか?」
チヒロ「そういえばコウくん、ミスったよね」
コウ「何のことですか?」
チヒロ「アヤナがバグったおかげでハッピーエンドにつながらなかったし」
 ハッピーエンドを作れなかったから、コウくんはあの早朝のシーンを作ってゲームを終わらせたのだ。それはチヒロにだってわかる。
コウ「ええと……」
 小声でコウくんが言ったのを、チヒロは聞き逃さなかった。
コウ「それはアヤナさんが居続けたかったから……」
コウ「いや、そこは突っ込まないでください」
 そのコウくんの言葉に、チヒロは広い心で成功を祝ってあげることにした。しかし、成功を祝うより前にコウくんに聞いておかなければ。チヒロはそう思った。
チヒロ「まあやっと無事出られたからいっか。ところでさ、心配じゃない?」
コウ「何がですか?」
 コウくんが聞く。チヒロはコウくんに少し心配そうな顔をして言った。
チヒロ「アヤナはちゃんとやっていけるかな……って。ずっと戻らなかったのに……それに、外ではかなり経ってるんでしょ?」
コウ「まあそうですが、意識があるということは大丈夫ということです。それに……」
 そこでチヒロが被せるようにして言う。
チヒロ「心は?心は大丈夫なの?」
コウ「大丈夫ですよ。選択を終えたアヤナさんのことですから、きっと朝日が待つ現実に帰っていけるでしょう。明日が待っている現実で、頑張っていけると思いますよ」
 コウくんの説明に、チヒロは納得したようだった。
チヒロ「そうだね。コウくん、ありがとう」
 チヒロは講評用紙を拾う。コウくんとチヒロは上手……ではなく西の方角へと去っていく。あとには星明かりに照らされ、コバルトブルーの中に沈む草原と玉虫だけが輝いていた。
しおりを挟む

処理中です...