旧式戦艦はつせ

古井論理

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作戦開始

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 クリスマスが終わったときには、「はつせ」はマカスネシア連邦の離島「トカ島」の排他的経済水域に入ってから抜けていた。サンタ・ベルナージまであと一日となった二十六日未明、「はつせ」を含む第五護衛艦隊は「くにさき」と合流し第三任務部隊が完全に揃った。そして作戦は実行段階に移り、発動命令が下りた。

 「うんりゅう」 午前八時

「シアム海軍『ラタナコーシン』接近中。あと十分ほどで合流します」
 と、ソナー室から待ちに待った報告が飛んできた。
「『バリアスコス』発見!まだこちらには気づいていないようです!」
「水測長、何か気になることは」
「『バリアスコス』のノイズの向こうに、反乱軍リーダーのテラメル元帥の声が聞こえます。現在放送されている情報とは違う内容です」
「よろしい、『バリアスコス』は反乱軍側についたと判定する。一番及び二番発射管、自動追尾水雷ホーミング魚雷、用意!目標セット、『バリアスコス』!弾頭はダミーウェイトを搭載せよ!速度セット、五十ノット!二番のみ距離三千以内は直進にセットせよ!三番にはデコイ囮魚雷を用意せよ!」
「了解」
 一番、二番発射管に魚雷が装填される。「うんりゅう」は静かに魚雷発射管に注水すると、発射管の扉を開いた。
「一番発射」
 魚雷のスクリュー音が「バリアスコス」のソナーに伝わった。「バリアスコス」の艦長は機関停止を命じる。
「『バリアスコス』、機関止りました」
「こちらの位置は悟られたとみて良いだろう。魚雷が来るぞ、デコイ発射用意!」
「『バリアスコス』が何か発射しました!数は一、二……六!魚雷のようです」
「三番発射!」
 「バリアスコス」が魚雷を発射したのと同時に、「うんりゅう」はデコイを発射した。デコイはけたたましいエンジン音を立てながら、「バリアスコス」が発射した魚雷の前を突っ切る。
「魚雷、距離二千五百で全弾爆発!」
「よし、二番発射!」
 二番発射管から魚雷が発射され、まっすぐ進んでいく。そして三千メートル進んだ点で、魚雷は「バリアスコス」の音を探知した。
「命中まで五、四、三、二……命中!」
 静かな打撃音とともに、「バリアスコス」のキュルキュルというスクリュー音が止まったのを確認したという報告が艦橋に響いた。
「『バリアスコス』に告ぐ、降伏して浮上せよ」
 「バリアスコス」は浮上し、付近を航行していたシアム海軍のドック型揚陸艦「ラタナコーシン」に拿捕された。

 作戦は今、名実ともに始まったのであった。

 「わらび」艦橋 二十七日午前一時 
「サンタ・ベルナージ周辺、依然としてレーダー使用不能」
「『はつせ』の突入にはぴったりだな」
「この強さですとミサイルの命中率は十分の一以下でしょうね」
「そうだな。接射でもしない限り『はつせ』は無事だ。発光信号で『はつせ』に報告せよ」
 「はつせ」に発光信号を送ると、返信はすぐに送られてきた。
「『はつせ』より発光信号!」
「読み上げろ」
「我はこれよりサンタ・ベルナージ港へ突入す。『うんりゅう』との連絡はすでに完了せり。援護開始時刻は四時三十分とする」
「返信、『ご武運を祈る』」
「了解」
 「はつせ」は速度を上げて、暗闇の中に滑り出していった。
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