旧式戦艦はつせ

古井論理

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早朝の攻城

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 日本国陸上自衛軍第三水陸機動団 午前三時三十八分
「上陸開始!警戒、警戒」
 歩兵と戦車が銃撃の中エアクッション艇で上陸した直後、歩兵が前進してライフルを撃ちまくり、戦車による榴弾の制圧射撃が反乱軍の機関銃陣地を沈黙させる。
「よし、戦車を先頭に前進!軽戦車隊の襲撃に注意しろ」
 指揮官として戦車に乗る鎌谷中佐は見事なまでの手並みで反乱軍を攻撃する。かなわぬとみた反乱軍は巧みに要塞陣地へ逃げ込んだが、自衛軍は周辺を戦車のセンサーで警戒しつつジャングルを抜け、要塞の建造物に攻撃をかける前段で停止した。
「『はつせ』からの発光信号は」
「ちょうど今確認しました。攻撃を開始せよ、です」
「よし、各分隊は攻撃開始!地下トンネルからの攻撃に注意せよ」
「了解」
「六時の方向、敵部隊」
「歩兵第三分隊、迎撃せよ」
 歩兵分隊は突っ込んでくる反乱軍兵士を見事に制圧し、戦車第一小隊は要塞施設への砲撃を開始する。
「『はつせ』の援護射撃、弾着まで二秒」
 ズウンという音とともに、要塞の敷地内に爆発が巻き起こる。
「『はつせ』に発光信号だ。『砲撃誤差プラスマイナス二メートル、精度良好』」
「了解」
 「はつせ」に発光信号を送ると、再び「はつせ」の砲弾が要塞内に着弾する。要塞の発電設備が壊れたらしく、要塞内の電気が消えた。
「反乱軍地下施設の出入口一つを確保」
 歩兵第三分隊からの通信が入る。鎌谷中佐は歩兵第一中隊に命じた。
「要塞内へ突入せよ」
 出入口に投げ込まれた手榴弾は、迎え撃とうとした反乱軍兵士の列をなぎ倒す。そして内部を確認した日本の歩兵六個分隊が要塞内に突っ込んでいく。トンネル陣地を抜けていく日本の歩兵達は、次々に反乱軍兵士を撃破・投降に追い込んでいった。そして「はつせ」の支援射撃が始まって十分、三十回目の着弾とともに妨害電波がストップする。
「こちら歩兵第一中隊、応答願います」
 作戦開始以来、初めて機能した指揮戦車の通信機から、歩兵第一中隊の角井通信士の声が響く。
「こちら鎌谷」
「こちら第一中隊、要塞内部に侵入。『はつせ』の支援砲撃を停止してください」
「わかった」
 鎌谷中佐は「はつせ」に通信を繋ぐ。
「こちら上陸隊の鎌谷、砲撃支援を停止されたし」
「了解」
 「はつせ」からの射撃音が聞こえなくなる。一分としないうちに、「はつせ」の方角で轟音が響いた。
「なんだ」
「わかりません」
 と、第一中隊から待ちに待った報告が届く。
「こちら第一中隊、ゲートを開けます」
 鎌谷中佐は全部隊に要塞内への突入を命じた。戦車が前進し、要塞内を制圧する。警戒していた軽戦車は、支援砲撃二発の命中で車庫ごと破壊されていた。
「司令塔には誰もいません」
「よし、地下の発令所だ」
 発令所に歩兵大隊が向かう。二十分ほどでテラメル元帥を捕らえたという報告が通信機を駆けた。
「よし、作戦完了だな。撤収開始」
 鎌谷中佐はそう命じて、上陸地点への撤収を開始した。拘束したテラメル元帥をエアクッション艇から「くにさき」の独房へ移したとき、鎌谷中佐は「はつせ」にいるはずの山口提督を見た。
「山口提督……?」
「ご苦労だったな。任務は完了だ」
「……『はつせ』は?」
「ああ、被弾して沈んだよ」
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