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「必ず成果をあげて帰ってくる」

「無理はしないで」

「愛してるリリー」

「私も愛してるわ」


俺はリリーの唇に口付けし、馬に跨り笑顔で手を振って邸を出た。

リリーは心配そうな顔をして手を振り、ロイスは笑顔で手を振っている。

俺は幸せだ



王宮の騎士隊へ着くとせわしなく動き回る騎士達。隊長は数人の騎士達を率いて先陣隊として明け方出発した。俺達は野営の準備や食料を準備し出発する。


「副隊長確認を」


俺は呼ばれて荷の確認をする。


「荷は準備出来たな。なら各自自分の準備をしたら出発するぞ。剣は念入りに確認しろ。いざ剣を使う時に使えないようだと命を失うぞ」


「はい」と言う元気な声が響く。


「ルイさん」

「おうニックか」

「俺、今回の盗賊退治が終わったらエミーにプロポーズしようと思っているんです」

「それは良いが張り切るなよ?冷静さを失えば回りが見えなくなる」

「そりゃあ張り切りますよ。プロポーズもですがルイさんと一緒に仕事が出来るのも今回で最後なんですよ」

「そうだな。お前が見習いの時からの付き合いだからな」

「はい。ルイさんは俺の教育係でしたから」

「手がかかった」

「ひどいな~」

「俺も初めて教えたのがお前だったからな。今まで何人か教えたがお前が一番目に掛けた」

「ルイさん厳しかったもんな」

「まああの時は色々あって俺も余裕がなかったのは認める」

「あぁ、そうでしたね。例の人と別れた後でしたもんね」

「実際は見切りをつけられたんだがな」

「それでも今は可愛い奥さんと可愛い子供達に囲まれて幸せそうですよ。ロリーナちゃんが産まれたばかりだから本当は今回行きたくなかったりして」

「まあそこは仕事だからな、割り切ってるさ。だけど確かに産まれたばかりだから今は側にいたいと思うよ。リリーを労ってやりたいし、ロイスもまだまだ甘えたい年齢だからな、俺が常に一緒にいてやりたい。それに女の子は良いぞ、とにかく可愛い。

ただ俺が3人の側から離れたくないだけだ」

「俺、今のルイさん好きですよ。あの時は全ての人を拒絶してましたから。奥さんと出会ってルイさんは変わりました」

「ああそうだな。リリーと出会って俺は変わった」

「俺、ルイさん達のような夫婦になりたいんです。俺の憧れる夫婦で俺はこれからエミーと目指すつもりです」

「フッ、俺は騎士として俺に憧れてほしかったがな」

「やだな~、そこは前提に決まっているじゃないですか」

「さあ行くぞ」

「はい」


馬に跨り王宮を出発する。先頭を行くニック、食料を乗せた荷馬車、俺は騎士達皆の背中を後ろから護る。俺の背中は己で護れる。その力はつけた。騎士を志した理由は本当にくだらない理由だったが、今は騎士に誇りを持ち騎士になって良かったと心からそう思う。

そう思わせてくれたのはリリーだ。

『好きな事をしたら良いと私は思います。騎士だろうと旅人だろうと、私はどんなルイ様でも付いていきますから。ルイ様が逃げたいと思った時は一緒に逃避行しましょうね。それも楽しそうです』

婚約中、本当は騎士ではなく旅人になりたかったと、騎士が嫌で逃げ出したい時があると言った時、リリーが言った言葉。

上辺だけの言葉かと思ったが、楽しそうに話すリリーを見て俺は心が救われた。どんな俺でも良いと、どんな俺でも側に居てくれると。

それがどれだけ心が軽くなり心強かったか、リリーは知らないだろ。

ようやく肩の力が抜け一息つけた、そんな気分だった。


それからも『逃避行先にここはどうですか?』『いつ行きます?』『色々な国を周ると色々な発見がありそうですね』と楽しそうに話し、『いつかこの地に住みたいと思った所で最期を迎える。私かルイ様かどちらが先かは分かりませんが、その時は手を握り幸せの中で旅立ちたい、そう思います』そう言ったリリーの顔がとても綺麗だと思った。そして俺はリリーを離せないと思った。

どんな地にいようが、どんな職業をしていようが、それは些細な事。何が大事で何が大切か、俺にとって無くてはならないもの、それを俺は見つけた。



エマに捨てられた時、何の為に騎士になったのか分からなかった。もう結婚はしないと、女性は信じられないと、俺は荒れた。

『ルイ、当主と分家では大差があるの。侯爵当主、侯爵の価値は当主だから得られるものなの。分家になると言う貴方の価値は何もないの。侯爵と言う名だけに何の価値もないのよ。私は当主夫人になりたいの。ルイが当主になるなら結婚してあげても良いわ。それでももし価値のない方を選ぶなら悪いけど貴方とは結婚出来ない。騎士の貴方に付いていくなんてお断りだわ』

俺はエマと別れを選んだ。


エマと別れた俺に擦り寄ってくる女性はいた。俺の名だけの爵位、騎士としての肩書き、そんな女性達に心底うんざりした。女性は結局そこしか見ていないと。

そんな時父上から婚約の話をされ、もうどうでもいいと投げやりに婚約話を受け入れた。

初顔合わせで俺は言った。

「今まで好き勝手にやらせてもらった。騎士になりたい、ただそれだけで家の事は何一つしてこなかった。これからも騎士として生きていくと決めている。伯爵令嬢のリリー嬢には悪いが俺と結婚したら平民と変わらない生活になる。それでも良いか?」

リリーは俺をじっと見つめ、

「ルイ様、親に決められた婚約で相手に求めるものは何だと思います?爵位や肩書きなんて些細な事です。相手の性格も分からない中で求めるものは顔です。自分の好みの顔か、好みじゃないか、それだけです。だってこれから一生一緒に暮らすなら好みの顔の方が良いと思いません?」

「ハハハッ、確かにな。それで俺は好みの顔か?」

「はい」


笑顔で答えるリリーが可愛いと思った。

それから会える時は会いに行き、庭を散歩しお互いの事を知っていった。情けない顔を見せればリリーは『そういう時もあります』と優しく俺を抱きしめてくれた。

支え護り、支えられ護られる。恋心が愛に変わった時、エマを愛していた気持ちは愛ではなかったと実感した。格好良くありたい、弱みを見せるのは格好悪いと俺は無理をしていた。エマに捨てられた時、俺はどこかほっとした。これで俺のしたい事を出来ると。だから別れも受け入れた。

身に付いた騎士が嫌な訳ではない。侯爵という名に恥じないように生きてきた。

それでも俺も人だ。辛い時も弱る時もある。リリーは俺の格好悪い姿も含め愛してくれる。

『人は誰だって弱い自分がいます。それでも、どんな姿でもルイ様はルイ様です。私はどんなルイ様でも愛しいと思います。それに少し弱ってるルイ様は可愛いですよ?』

俺は愛しいと俺を見つめ話すリリーを俺の腕の中で囲いたい。誰にも見せず二人しかいない世界、その世界の中で俺だけを見つめ、愛し、俺の腕の中で眠りにつく。


もし今リリーに捨てられたら、俺はリリーに『俺を捨てないでくれ』と泣いて縋るだろう。

フッ、それも悪くない。



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