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しおりを挟む私はある春の日に生まれた。
「可愛い」
そう言って私を見つめる貴方。
優しく私を撫でる指。指先から伝わる温もり。
優しい眼差しで私を見つめる貴方に、私は恋をした。
「坊っちゃん、あまり撫でてはいけません」
「悪いな、可愛くて仕方ないんだ」
私を撫でるその温もりが離れ、私は寂しく思った。
ずっと私を撫でてくれていいのに…。
「爺、この子をよろしく頼むな」
そう言うと貴方は去って行った。
私は爺と呼ばれていた人に抱えられ、暖かい部屋に入った。
「良かったな、坊っちゃんがすくすく育ってほしいと願いを込めて、お前さんの為に建てた家だ」
毎日私に会いに来てくれる貴方。
毎日私を見つめる優しい眼差し。
毎日私を優しく撫でる手。
「本当に可愛いよ、元気に育てよ」
いつも貴方は私に声をかけてくれる。
「爺、どんどんこの子が愛おしく思えるのは何故だろうな」
「それは坊っちゃんの愛情がこの子にも伝わっているからでしょう」
私は貴方に恋をして、すくすく育った。
そんなある日、
「ん?どうした?今日は元気がないな」
私は『元気よ』と明るく振る舞う。本当は最近少し調子が悪い。
「爺!爺!」
慌てた貴方を見るのは初めてかもしれない。
お爺さんの話を聞いている貴方の顔がどんどん険しくなる。そして貴方は私を抱きしめた。
「大丈夫だ、俺が付いてる。だからまた元気になってくれ…。病気なんかすぐに治してやるからな、心配するな」
貴方は優しく私を撫でた。私は貴方に身を預けた。さっきまで苦しかったのに、貴方の温もりで少し和らいだように思えた。
それから貴方は何度も私のもとに通ってくれたわ。私をずっと見つめ、ずっと側に居てくれた。『心配だから』って私の側から離れなかった。
日が沈み、月夜が私達を照らし、そして日が昇る。
私の家で貴方と二人で過ごす時間はかけがえのないものになった。
そして成長するにつれて、淡い恋はいつしか愛に変わり、私は貴方を愛してしまったの…。
貴方はいつも『可愛い』そう言ってくれる。
「爺見てくれ」
「本当に可愛いらしいですね」
「ああ」
貴方は愛おしそうに私を見つめ、私は薄く色づいた。
「爺、俺はこの子が本当に大切なんだ」
「本当に大切にしている事は見ていて分かります」
「この子の成長が楽しみで仕方ない。だがな、少し寂しく思う時がある」
「ずっと側で見守っていましたからね」
「ああ、悪い虫がつかないように囲ってまでな。人の目に触れさせないように、俺だけが愛でれるように、こんな家まで建ててな」
「爺はそのお手伝いができて幸せです」
「ありがとう爺」
「これで坊っちゃんの長年の思いが伝わるとよろしいですね」
「どうだろうな、そればかりは分からないよ」
貴方はいつも私を愛おしそうに見つめる。でも、最近の貴方の瞳はどこか寂しげで、自信がないような…。
私はこんなに貴方を愛しているわ。貴方も私を愛してくれているんでしょ?
どうしてそんな悲しい顔をするの?
どうしてそんな寂しそうに笑うの?
私は貴方の側にずっと居るわ。そうよ、この家で今までみたいに二人で過ごしましょ?貴方の話を聞くのが私の楽しみなの。貴方は何でも私に聞かせたわ。それに私の前では素直になれるって言ってたじゃない。
一度だけ瞳から雫を溢していたじゃない。
『どうしてあいつなんだ。あんな屑より俺の方が、俺なら泣かせないのに。俺なら忘れないのに、俺なら笑わせてやるのに。どうして俺じゃないんだ…』
私は貴方の色々な顔を毎日見てきたの。
頬に傷をつくってきた日は、貴方の隣で寄り添うように一緒に月夜を眺めたわ。
俯く貴方の側にずっと寄り添った日もあった。
貴方は私の全てだもの。
「綺麗だ…」
成長した私の姿を見て貴方が溢した言葉。
「綺麗だ、本当に綺麗だ」
貴方は私に可愛い洋服とリボンを贈ってくれた。私は貴方から贈られた洋服とリボンを付け、生まれて初めて外に出た。
そして今、貴方に後ろから抱きしめられて貴方の膝の上に座っている。『綺麗だ』と何度も言われ、貴方は私を優しく抱きしめる。
私に触れる貴方の柔らかい唇。
貴方に愛されて育った私は誰よりも綺麗。
「ローラ誕生日おめでとう」
「ありがとうエリック」
「誕生日の贈り物、俺の気持ちだ。良かったら受け取ってほしい」
「でも…」
「今はローラも婚約者はいない。俺からの贈り物を受け取っても誰にも咎められないだろ?」
「ええ、そうね、ありがとう。覚えていてくれたのね」
「当たり前だ。幼い頃からの夢だろ?」
「え?」
「俺が育てた」
「そう、なの?」
「ローラ、俺の婚約者になってほしい。俺の気持ち、受け取って、くれるか?」
「ええ、ありがとう、ありがとうエリック」
貴方はあっさりと私を手放した。
あんなに私を愛していたのに、こんなに貴方を愛しているのに、
貴方はあっさりと私を手放すのね…。
貴方は私から去った。
「綺麗ね」
当たり前でしょ。私は誰よりも綺麗なのよ。
「本当に綺麗だわ」
そう言って本を片手に私を愛でるように優しく私を撫でた貴女。
「ふふ、あなたを見つめるって。鉢植えに一本だから、あなたは私の運命の人、一目惚れって意味もあるのね。私もエリックに一目惚れだったのよ?
ねぇ、あなた、聞いてくれる?」
仕方がないから聞いてあげるわ。
「まだ私もエリックも幼い頃にね、お母様にお父様との馴れ初めを聞いた事があるの。お母様をずっと好きだったお父様は婚約者になってほしいって花束を贈ったの。その花束はお父様が育てた花だったのよ?お母様に贈る花を種蒔きから花を咲かせるまで、一人で天塩にかけて育てたの。
私はね、誰かの為だけに、誰かの喜ぶ姿だけを思って毎日お世話をして愛情をかけて育てて、そしてそんな花束を貰う女性はとても幸せだと思ったの。
女性でも土いじりは嫌悪されるわ。花は愛でるものであって育てるものじゃないって。それでも息抜きで花を育てる女性はいるわ。でも貴族の男性は絶対にしないわ。庭師は男性なのにおかしな話よね。
でも仕方がないわ、貴族の殿方には花は育てるものではなくて摘むものだもの。邸の庭に行けば一年中綺麗な花が咲いていて、庭師に『数本見繕って花束にしてくれ』って言うだけだもの。
だからお父様とお母様の婚約の話は幼い私の夢だったの。私も婚約者になる人に、その人が育てた花を贈られたいって。宝石やドレスよりも心が込められていると思わない?でもね、花束は可哀想だから鉢植えが良いって言ったの。ふふ、エリックはあんな幼い頃の話を忘れず覚えていてくれたのね」
そう言って貴女は私を愛しそうに見つめている。
「私ね、婚約者がいたのよ?花一輪も贈ってくれない人。機嫌が悪いと打たれる時もあったわ。女癖も悪くていつも他の女性と居たの。ほら、私達貴族は好きな人と婚約出来ないから…」
辛そうに微笑んだ貴女。
「でもね、元婚約者とは婚約を白紙に戻したわ。女性に子が宿ったんですって」
貴女はそれから毎日私を愛でたわ。
だから私も儚く散るまで貴女の側に居てあげる。
そして儚く散る時に貴女の幸せを願ってあげるわ。
あの人はとても優しい人。
私が愛した愛しい人。
あの人なら貴女を幸せにしてくれるわ。私を大切に育てたように、愛情をかけてくれたように。
貴女が私に触れる優しい温もりはあの人と同じだもの。
貴女が私を見つめる眼差しはあの人と同じだもの。
だから私の愛した愛しい人を貴女も幸せにしてほしいの。
「まるで泣いているようね…」
貴女は落ちた花びらを優しく包んだ。
「あなたで栞を作るわ。だからどうかもう少し私の側にいてね」
貴女の柔らかい唇が私に触れた。
私は貴方と貴女を繋げた。
私の愛しい人達。
幸せになって…
完結
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失礼致します。切ないお話でした。
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naimed様
コメントありがとうございます。
主人公には切なさの残る話です。それでも儚い生涯を愛でられ大切にされました。二人の行末を見届ける事は出来なくても、二人の心にはいつまでも残り続けると思います。
二人を繋いだ大切な宝物として…。
短い物語にお付き合い頂け幸いです。今後もnaimed様の目に止まる事を願っています。